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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
少年期編
36/79

34.収穫祭2

 エルバの店を出て、今度は商業組合の裏に広がる職人街を歩いているが……。

 しかし、改めて見ると色々な店があるもんだな。


「ルクスはこっちに来るのは初めてなのかい?」

「何度も通ってるけど、こんなに色々なお店があったんだなって思ってさ」


 父がそう問いかける位には、きょろきょろと周囲を見ていたのだろう。

 普段は看板くらいしか目印が無いけど、今日は品物を店頭で売っているので、ひと目で何屋か判断できる。……いつもこうしてくれていたら良いのに。



「あ、あれ凄い!」

「本当ね、木であれだけの物が出来るなんて」


 母と姉が夢中になっているのは、羽を広げた鳥を(かたど)った木工作品だ。

 なんと言う鳥かは分からないが、確かに見事な作品だな。

 ああ言うのなら『創造』でも作れそうだから、機会があったら試してみよう。


 それにしても、鍛治や木工をはじめ、服飾、革、陶磁器等々、本当に様々な職人が居たんだな……。



「本当に色々なお店があるんだね」

「そうだね、それでもこれだけ増えたのはここ数年だよ」

「そうなの?」

「ああ、『すとーぶ』や『りばーし』の生産や販売で人が集まって、人が集まれば生活用品の需要も高くなって職人達も自然と集まってくるんだよ」

「なるほどね」


 この世界の流通は不便だから、職人が移動した方が手っ取り早いもんな。

 上手く行けば、村の需要を独占できるし……。



「あ、ほら、この間お土産に買った櫛だよ」

「このお店の、……確か、お弟子さんが作った物だったかしら」

「そうだよ、お母さん。神殿の施設の出だってさ」

「ほう、あそこの子だったのか」


 様々な店の様々な物を見ながら歩いている内に、職人街の端にあるベルナールの店まで来てしまった。

 しかし、こうして他の店と比べると、ベルナールの専門は家具などに施す装飾が専門の様だな……木工と一括(ひとくく)りにしていたが、これからは装飾職人と改めよう。


「あ、ルクシアール様……それに御領主様?」

「ああ、お父さんと一緒にいるのを見た記憶が……確か、ジルーフさんだったかな?」

「はい、テオドール様やエレーネ様にはお世話になってます」


 父さん凄いな、こんな子の名前まで覚えているのかよ。

 さすがは領主……は、関係ないが、凄い記憶力だな。



「それで、お母さんやお姉ちゃんは、櫛をそんなに持って……また買うの?」

「ここの櫛は使い勝手が良かったから、一通り揃えようかと思っていたのよ」

「お母さんだけずるいから、私も揃えるの」

「揃えるって……櫛は櫛じゃないの?」


 と、父の顔を見上げると、父は静かに首を振る。

 それは、櫛の説明が出来ないと言う事なのか、女性の買い物に口を出すなと言う事なのか……。

 仕方ないのでジルーフの方に顔を向け、説明を求めた。



「えっと、櫛には大雑把に三種類ありまして、根元から大まかに梳かす歯の少ない物、流れや毛先を整えたりする物、あとは艶を出したり汚れを取る為の細かい歯の物があるんですよ」

「じゃあ、僕がこの前買ったのは、整える用の物?」

「はい、そうです。普段使いに最も使われている櫛です」


 そんなに櫛の種類があるとはね……。

 まあ、貴族の女性の髪は長い方が優雅で美しいって文化だし、男と違って気を使う事も多いのだろう。



「あれ? そう言えば、ベルさんは?」

「最初は一緒にここに居たんですけど、少し経ったら人に酔ったって中に……」

「そっか、元気……とは言い難いかもしれないけど、無事なら良かった」


 確かに、普段とは比べ物にならないほどに人の往来が多いし、ベルナール自体も日常的に出歩く感じでは無いからな。

 ともあれ、他の客にも迷惑になるので、会計を済ませてベルナールの店を後にする。

 


「さて、次はどうする?」

「私は十分かしら、村の元気な姿も見る事が出来ましたし」

「僕は最後に雑貨屋さんに寄れれば良いかな……露店や屋台で食べ物を買って、家に持ち帰って食べるってのはどう?」

「うん、ルクス君に賛成!」


 この村では寛容だけど、この国の女性、特に貴族は屋外で飲み食いしないから、持って返るのがベストだろう。母も姉も色々な物を食べたいだろうし。

 それから屋台や露店を巡り、母と姉の主導で『何人前?』という量の食べ物を買い漁る……さっき買った布袋が早速役に立ったな。

 途中で弦楽器の音が聞こえたので、吟遊詩人が来ているのかも知れないが、花より団子の母娘を止める事は出来なかった様だ。


 しかし、両手に袋を提げる領主の図というのも中々に面白い物だな。



「――やあ、ルクス君。待っていたよ」

「こんにちは、ニリウさん。待っていたって、お皿の事ですか?」

「まあ、そうだね。とりあえず全て売れたという報告と、……これが君の分だ」


 と、雑貨屋について早々、こちらも木のトレーに硬貨を載せて運んできた。……これが作法なのかな?



「あれ? 多くないですか? エルバさんの所と値段を合わせたんじゃ?」

「まあ、そこはあれだ、行商人相手の交渉に、年甲斐もなく熱くなってしまってね」


 そう言うニリウは、少し恥ずかしそうな口調だ……目深に巻かれたターバンの様な物で表情が分かり辛いが、きっと顔を赤らめている事だろう。


「まあ、お祭りですし、楽しんでもらえたなら良かったですよ」

「そう言って貰えると助かるよ、気分を害するんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだ」

 

 しかし、適正価格といっていた物の一.五倍はあるんじゃ無いか?

 元が無料(ただ)なだけに、軽い罪悪感が……もっと図太くありたいものだ。

 とりあえず、精神衛生上よくないので、パーっと使ってしまおう。



「お姉ちゃんは何か欲しい物はある? 探してきても良いよ」

「ルクス君は?」

「僕もこれから見て回るけど」

「それなら一緒に見ようよ」


 そこまで広い店内では無いのに、俺の手を引く姉……両親は両親で色々と物色中だ。


「あなた、これは?」

「ふむ、面白そうだね、買っていこうか」


 ちっ、リア充かよ……まあ、だからこそ俺が産まれた訳だし、仲が悪いよりはよっぽど良いか。

 ……もう、あっちは放って置く事にしよう。

 


「ルクス君は何を見るの?」

「まずは本かな」

「また本かー」 


 今はそれ位しか欲しいのが思い付かない。

 これから本格的に手を出そうと思っている調合関係は、素材の件も含めて春にならないと動けないし、道具も本に載っていた物をすでに自作している。

 冒険者家業も調合と同様に、春になるまでは大した依頼は無いだろうし……。


 とにかく、これから雪が降って家から動けなくなると思うので、その間の時間潰し的な物しか浮かんでこないんだよな。



「あ、これが欲しいかもー」


 姉が目に留めたのは……『バハットの騎士』か。

 表紙に姫と騎士が描いてあるから、また何時(いつ)ぞやの様な物語だろう。

 さすがに絵本は卒業したみたいだが、姉は本当にこういうジャンルが好きだよな。


 しかし、俺が子供の頃に比べたら、本も少しは安くなっているし専門書ほど高くは無いが、それでも小銀貨一枚半か……。



「僕はどれにしようかな…………ニリウさん、これ、広げてみても良いですか?」

「ん? ああ、構わないよ」


 丸められて筒状になっている革を手に取り、縦横五十センチ程度のそれを近くの陳列棚の上で広げてみる。



「これ、なに?」

「この国の地図だよ。王都から見た北西域だけみたいだけど」


 それでも、王都をはじめ西都イルザーフや北の都、迷宮都市ギュストレールまで載っている。

 それに全部では無いだろうけど、各地の領名も記載されており、もちろんここオロントも載っていた。



「ほら、ここ……読める?」

「もうイラデオ文字なら余裕よ……おろんと……オロントってここ?」

「そうだよ、それでここが学校のある西都で、こっちが王都」


地図を指差しながら、姉に関係のありそうな場所を読み上げていく。



「凄く遠いってお父様やお兄様達は言っていたけど、意外と近いんだね」

「いや、地図では近く見えるけど……ほら、この長さが十ルーグで、この印までが一ルーグだってさ」


 『ルーグ』は、徒歩で旅をする時に一日で進める距離の目安なので、俺の中では三十キロ相当としている長さだ。

 この世界では『三』が長さの基準になっているっぽいしね。

 俺の身長は約五十カレグ……およそ百五十センチだし、足のサイズも七カレグ、二十一センチ相当と考えれば辻褄が合う。

 ともあれ、地図でこの距離なら、西都まで約一ヶ月というのも頷ける。



「ニリウさん、これって幾らですか?」

「それかい? それは今日仕入れた物だから……小銀貨一枚と銅貨三枚といったところかな」


 やっぱりその位はするか……。



「うーん、そういえば魔道具ってまだ残ってますか?」

「君くらいしか興味を示す人は居ないから、当然と残ってはいるが……もしかして買ってくれるのかい?」

「値段にもよりますが、全部で幾らくらいになります?」

「そうだな……お皿の事もあるし、小銀貨二枚と銅貨八枚でどうだろう」

「うーん、この本と地図も買いたいので…………」

「分かった分かった、そんなにじっと見つめないでくれ。本と地図と魔道具、合わせて……そうだな、小銀貨五枚でどうだい?」

「やった、それでお願いします」

「ルクス君はお得意様だからね、この位しても罰は当たらないさ……毎回だとご飯が食べられなくなるけどね」


 仕入れ値とかは分からないけど、言い値よりも銅貨六枚分を引いてくれた。

 大人だったらこの手は使えなかっただろうし……子供って凄いな。



「結構な重さになってしまうが、後で取りに来るかい?」

「いえ、持って帰るので大丈夫ですよ……ほら、魔法があるので」


 と、重力魔法を魔道具の入った箱だけに掛け、軽々と持ち上げてみせる。

 以前は全体に飛行魔法を掛けていたりもしたが、俺も魔法が上手くなったものだな。

 

 俺に次いで父も支払いを済ませ、ニリウの雑貨屋を後にする。

 一気に金はなくなったが、これから冬で使う機会も少なくなるだろうしね。



「――なあ、ルクス」

「なに? お父さん」

「それは私が持っても軽くなったままなのかな?」


 父は魔法で軽くした木箱が気になるようだ。

 持ってみたいんですね、わかります。


「持ってみる?」


 と、箱を一旦下ろして父の反応を見ると、両手に持った布袋を箱の上に載せて……あ、本当にやるんだ。



「どれ、…………なあ、ルクス」

「なに? お父さん」

「ぜんぜん軽くないんだが……」

「僕が魔法を使っているんだから、僕から離れたら魔法は効かないよ」


 嘘である。


「そうか、残念だな……」


 しかし、このままでは少し可愛そうなので、魔力を伸ばして箱の下から支えてやる。



「おお、軽くなった」

「さっきとは違う方法だけど、こうやって支える事も出来るよ」


 これは何系統の使い方かは判らないが、何となく出来るのだから仕方ない。

 移動しながらだと相対距離とかの微調整が面倒だけど、父が楽しそうに荷物を運んでくれているので、結果オーライかな。

 そんな事をして遊びながらも、ちょうど昼頃には家が見えてきた。

 


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