33.収穫祭
さて、今日は収穫祭!
なんだかんだで、収穫祭の日に村へと遊びに行くのは初めてだったりする。
このオロント領には現在、五つの村があるが、実際はそれ以外の場所にも無数に民家や集落があり、収穫祭にはそういう場所の人達も村に遊びに来る。
そんな中で、領主の息子がふらふらと出歩ける訳もなく今までずっと留守番だったが、十歳になったという事で祭りへ行っても良い事となった。
「早く行こうよ! ルクス君!」
と、先程から急かす姉も祭り初参加らしい。まあ、女児は男以上に色々あるからな。
それに、俺の様に普段から一人で村に行っているならともかく、姉の場合は村に行くのにも両親の許可がいるし、単独行動なんてもってのほかだ。
貴族の女児とはそう言う物らしいので、このテンションも理解は出来るが。
「分かったから、ちょっと落ち着こうよ」
「こんなにも、はしゃぐウルトは久々だな」
「女の子の場合は、普段から自由があまり無いから仕方ないわよ。私だって子供の頃はこうだったもの」
両親も、今までは俺や姉に付き合って留守番してくれていたから、祭りも久々だろうな。
ようやく最年少の俺に手が掛からなくなったので、みんなも色々と自由度が広がったようだ。
「そういえば、お父様やお母様のお仕事は良いの?」
「挨拶とか根回しとかの前準備は忙しいけど、収穫祭自体は領民の祭りだから当日は何もする事が無いんだよ」
「あとは、何かあった時の後始末くらいかしらね」
無礼講とは言え、飲み会に社長が来たら気を使ってしらけるもんな。
他所の祭りは知らないが、うちの領ではこういう風にしているらしいが正解だ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「それじゃ、キーシャ、後はよろしく頼むわね」
「はい、奥様。いってらっしゃいませ」
父の号令で出発する事になるが、今日は徒歩で村まで行く。
なにせ、御者をやってくれているハストをはじめ、使用人のみんなも休みだからな。
今はキーシャが留守番だけど、サリスやバーノンと交代制で半休と言った感じらしい。
本当は丸々休みをあげたいけれど、さすがに誰もいなくなると問題があるから仕方ない。と、父は申し訳無さそうだった。
「そう言えばルクスは昨日も村に行っていたみたいだが、何をしていたんだい?」
「作ったお皿を一緒に売ってくれる所を探してたんだよ」
「お皿? 焼き釜なんて無いのにどうやって……」
「石を材料に、土の魔法で作ってみた」
本当は土魔法ではなく『創造』で作ったんだけど、土魔法でも同じ様な事が出来るので、ばれても大丈夫な方で作った事にしている。
「それで? 売ってくれる所は見付かったの?」
「うん、雑貨屋さんのニリウさんの所と、金物屋さんのエルバさんの所に置いて貰ってるよ」
「しかし、河原の石が材料とは、簡単に割れたりとかしないのかい?」
「うーん、河原の石ころを簡単に割れる人が使えば、割れちゃうかもね」
「私は見たけど、普通のお皿だったよ」
作っている内に夢中になって、在庫の石が無くなるまで作ったからな……裏に、日本で生活していた時の名前、吉田大吉の『吉』の字の印章を押してみたり、なんだか楽しくなってしまった。
結果、三十枚ほどの量になってしまい、一箇所じゃ置けなかったので御両方に協力を頂いた。
もちろん、利益の一部を場所代として支払う事にしてある。
まあ、作りすぎた感はあるが、硬度や靭性も家にある陶磁器以上にはしたから、売れ残っても家で使えば良いかな。
「……それも登録したのかい?」
「特殊な作り方だけど、普通の石製の皿だしそんな事はしないし出来ないでしょ?」
「それもそうか、……良かった」
『ディドルアの塔』は丸投げにしてすみません……だけど、そう警戒しなくても大丈夫だよ。当分は新しい物を作る気は無いし、作ったとしても丸投げにはしないから。
と、そうこうしている内に村の入り口を過ぎ、ニリウの雑貨屋が見えてきた。
「ほら、これが僕の作ったお皿だよ」
「ほう、もっと粗野な物を想像していたが、これは中々……これでいくらなんだい?」
「さあ、いくらなんだろ。材料は無料だし、小銅貨二、三枚でもと思ったけど、ニリウさんやエルバさんに反対されたから値段は任せる事にしたんだよ」
「そうだね、適正価格で売らないと、お皿を扱っている他の人にも迷惑になるだろうし」
ああ、反対された理由は分からなかったが、そういう事だったのか。
闇雲に安価で売っても市場を荒らすだけになるのか……そこは失念していたな。
こういうのは禍根を残すから、価格設定は任せて正解だった様だ。
「……ねえねえ、早く行こうよー」
「そうね、ここでこうしていても仕方の無い事だし、どこか移動しましょうか」
「そうだな……父さん……お爺ちゃんやお婆ちゃんの所に行ってみようか――」
まずは村の中心にある神殿に行く様だが、普段は馬車が行き交う道も今は歩行者天国の様になって居て、普段と違う景色に少し戸惑う。
その光景に、父は気を利かせて姉の手を取り、母が俺の手を引くが……まあ、良いか。
多少気恥ずかしさはあるものの、こういうのも今だけだからな。
それに、人とぶつかって……なんて事も、実はそんなに起きない。それは父と母の貴族然とした格好からくる物で、周囲の人たちは後難を恐れてか一定の距離をとっているからだ。
ジャントラ達みたいに不敬罪を過剰に恐れている節があるから、ぶつかっただけで一家諸共に手打ちにされるとでも思っているんだろうな。
ともあれ、無事に神殿へ到着すると、職員や施設の子等に混ざり、共に働く祖父母が見える。
まずは祖父母と一通りの挨拶を交わすが、両親はもう少し話しがある様なので、母に代わって姉が俺の手を引く。
「別に移動したりしないから手を離しても平気だよ?」
「ううん、お父様から手を離すなって言われてるから」
「そっか、まあいいや。それじゃ一緒に見て回ろっか」
まあ、二人一緒の方が安全だとは思うが。
しかし、どっちが勝手にふらふらしない様にする為の連帯行動なんですかね……。
「――あ、これ良いかも」
「ん? そんな布、何に使うの?」
「このあいだ貰った櫛を包むのに良いかもと思ってー」
まあ、元は端布だろうけど、ちゃんと端も縫ってあるし……。
小さいヤツで小銅貨二枚、中位ので小銅貨三枚なら妥当なところか。
「お姉ちゃんはそれだけで良いの? 僕はこっちのも買うけど」
「え? ずるい! 私も買う」
と、簡単に釣られたな。色々と手にとって欲しがっているのが丸判りだよ。
結局、二人で小銅貨二十一枚分の布と、それを入れる物も含めて布袋を数枚買った。
姉は財布を持っていないので、当然支払いは俺持ちだが……まあ、こう言う事の為に無駄遣いしなかったんだから、どんどん浪費してしまおう。
「おや、ルクスは何か買ったのかい?」
「布を少しね。もう、お爺ちゃん達との話は終わったの?」
「ああ、待たせてしまって悪かったね」
「大丈夫、ルクス君とお買い物してたから、すぐだったよ」
「あらあら、綺麗な布をたくさん買ったのね」
姉は、買った物を入れた袋から布を取り出して、母に見せている。
すると父が腰を落とし、顔を近づけて小声で話しかけてきた。
「支払いはルクスがしてくれたのかい? あとで纏めて払うからね」
「大丈夫だよ。僕はお小遣い貰ってるし、自分の物を買ったついでだから」
「……そうか? それなら変わりに父さんが何か買ってあげるから、欲しい物があったら言うんだよ?」
「うん、わかった」
その後は露店などを見ながらも、入ってきた村の入り口とは真逆の南東方向へと向い、 見慣れた商業組合や冒険者組合を越えると、エルバの金物屋が見えてきた。
「やあ、エルバさん、こちらも賑わっていますね」
「これは領主様、ご家族様もお揃いで、ようこそお越し下さいました」
そっか、ストーブの一件もあるし、そりゃ顔見知りだよな。
そして、両親と離れた姉はここに来るのが初めてな様で、先程と同様に俺の手を引いて一緒に店内を見て回っている。
残念ながら、ここには姉の興味を惹く物はあまり無いと思うけど……。
「そうだ、ルクシアール様」
「うん?」
話は終わったのか、両親を連れてエルバがこちらに来る。
「これ、委託されていたお皿の代金です、ご確認下さい」
「ああ、はい。もう売れたんですね……って…………えーっと、こんなに?」
エルバが持って来た木の板、トレーには小銀貨一枚と小銅貨二十枚が。
「ええ、行商の方が纏めてお求めに。適正価格で売るとこの位は普通ですよ?」
両親や姉もエルバの説明を聞いているが、小皿が小銅貨二十五枚、中皿が銅貨一枚、大皿が銅貨二枚……そんなに法外な価格設定では無いのだろうけど……。
皿は大中小あわせて十五枚で……場所代で二割引いて…………合ってるか。
通常なら、ここから材料費とか製作日数に応じた費用が引かれるから、妥当……なのかな?
「すごーい! ルクス君お金持ちだ!」
「やっぱりルクスは、冒険者よりも商業の方が合っているのではないかしら」
「ふむ、ルクスはこれだけでも生活していけそうだな」
姉の感想はともかく、両親は好き勝手言ってくれちゃって……。
成人したら世界を回るんだから、職業も食い扶持も冒険者で良いんだよ。
……行商人と言う手も…………うーん。




