03.加護と恩恵
書くのは初めてですので、不備がありましたらお願いします。
出立の準備をし終え馬車に乗り、他愛のない会話をしながら体感で二十分位経った頃には、村の中心にある神殿へと到着した。
さて、ついにこの世界に来て最初のビッグイベントが来た! しかし、加護と恩恵か。どんな神様でも良いけど、勇者として過ごした世界であるギアニカの女神ビセルや、あれと同じ様なのだけは遠慮したいよな。
ちなみに、長男のシーザーは、星と知恵の神イテス様の加護と、植物学という恩恵を。
次男のディルは、火と戦いの神エギム様の加護と、剣術と馬術の恩恵。
姉のウルトは、土と財貨の神テアル様の加護と、弓術の恩恵を貰っている。
加護は成長しやすいジャンルで、魔法適正があれば得意魔法のジャンルともなる。
恩恵はスキルの様な物で、頑張れば恩恵で授かった物以外にも色々な物を覚えられるし、頑張らなければ恩恵の効果は薄くなる。
とは言っても、結局は指針の様なもので、本人の努力次第でどうにでもなる。
……そんな説明をされたが、正直な所、良く判らない。
「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。どんな加護や恩恵でも、ルクスの好きな様に生きれば良いのだからね」
色々と考えていたのを、父は勘違いした様だ。ちょっと良い事を言っている雰囲気な分、余計に恥ずかしいが……ここは空気を読んで頷いておこう。
「うん、大丈夫。どんなのが貰えるか楽しみなだけだよ」
「ルクス君はねー、わたしと同じテアル様が良いと思う!」
姉の根拠の無い発言はスルーしつつも、神殿内に入り少し進むと広いホールに出る。造り等から恐らく礼拝堂的な場所だろう。
「これはディアレ様、お待ちしておりました。そちらがルクシアール様ですね。準備は済んでおりますのでいつでも大丈夫ですよ」
「ああ、宜しく頼む。ルクス、あの人の言う事に従っていれば、すぐに終わるから」
「はい、それじゃ、行ってきます」
真っ白な法衣を纏った青年に案内されて、こぢんまりとした一室に案内される。高い位置に作られた窓から光が差し込み、それが神聖さを演出しており、その光の下に布が一枚。
「あの布の上で両膝をつき、背筋は伸ばして両手は胸の前で組んで下さい。目を閉じて御自身の名前を言えば、加護がホマリットゥされます」
「ホ、ホマリットゥ?」
「神様から頂ける、授かると言う意味ですよ」
両親や祖父母、兄などから言葉を教えてもらっているが、知らない単語が出てくると脳内変換出来なくて困るな。ベッドやパン、トイレなんかもそうだけど、変換し辛い物も多いし、日本語で考えちゃうから、口に出す時は注意しないと。
しかし、ホマリットゥか……あとで父さんに聞いておこう。
俺が室内に入ると、部屋の扉は閉められ一人残された……少し心細くなるが、とりあえず、言われた通りの姿勢になって名前を呟く。
「ルクシアール・ディアレ――」
…………
「やあ、久しぶりじゃのぅ、吉田大吉君」
久々に投げ掛けられた名前にびっくりして目を開けると、いつぞやの神様が目の前に居り、場所も神殿ではなく神界に移動している様だ。
「御無沙汰しております、神様」
驚きはしたものの、祈っている様な姿勢を解き、そのまま土下座のようなポーズをもって挨拶をする。
「うん、元気そうで何よりじゃ。どうかの? 儂の世界は」
「はい、戸惑う事も多いですが、良い家族にも恵まれ、ここでの生活にも慣れてきました」
「それは結構。さて、今日は加護と恩恵じゃったな……何か希望はあるかい?」
「いえ、今でも十分に恵まれていますので、特に希望はありません」
…………。
……あれ? 神様が黙っちゃったけど、何か失礼な事でも言っちゃったのか?
「ほっほっほ、そうではないよ。ウェタスに、日本生まれの大吉君ならこういう応答になるかもと聞いておってな、それとまったく同じだったので可笑しくなってしもた」
男神ウェタス様は地球を含めたあの世界の神様で、当然と日本人の気質も知っている。そこから、こういう応答になると予想されていたのだろう。
「そうでしたか、なんだか気恥ずかしいですね」
「よいよい、それも美徳じゃて。それで、こういう応答になった場合の加護や恩恵も、ウェタスの意見を参考に選ばせて貰っているのじゃが……それで良いか?」
「はい、もちろんです」
まさに掌の上で……ってヤツだな。
「うむ、それではそろそろ地上に戻すとするかの。また、何か困った事があったら此処に来ると良い。直接手助けは出来なくとも、話の中からでも得る事はあるのでな」
「ありがとうございます」と、今一度、深く礼をする。
――次の瞬間には空気が変わったので、恐る恐る目を開けると、神殿の一室に戻ってきていた。
ふうと一つ息を吐く……さすがに緊張した。
しかし、身体的に変化は無い様に感じるが、これで加護や恩恵は貰えているのか? 視界も何時も通りだし……。
ちゃんとホマリットゥされたのか?……ふふ、ホマリットゥ。ちょっと語感が楽しい言葉だ。
「ルクシアール様、いかがですか?」
おっと、下らない事で時間を使っていたみたいだな……部屋の外から心配する様な声がしたので、扉を開けて外に出る。
「はい、えーっと……加護や恩恵が貰えたかって、どうやれば分かるの?」
「ああ、聞いておられないのですね。大丈夫ですよ、まずはお父様の所に戻りましょう」
何が大丈夫なのかは分からないが、とりあえず職員の後に続いて父ドリアルの元に戻る事にした。
「お帰りルクス、どうだった?」
「ルクス君の帰りー、やっぱりテアル様だった?」
ほんとにテアル様が好きだな、ウルト姉さんは。
それはそれとして、加護や恩恵の見かたが分からないと言おうとしたら、「それについてですが――」と、俺に代わって職員さんが説明してくれた。
「ああ、教えていなかったか。私の責任だ、すまないな。ルクスも不安にさせた様で悪かったな」
「大丈夫だよ。それで、どうすれば良いの?」
「なに、簡単だよ。意識を集中して『加護』と言えば、自分だけに見える様に表示される。心の中で言っても大丈夫だよ。それと『加護、表示』と言えば、皆が見られる様に表示されるから注意する様にね」
と、父から説明を聞きながらも、早速『加護』と心の中で唱えてみる。
まぁ、想像通りというか何と言うか、『創造神・創造せし万物の神アトエラの加護』と眼前にウインドウで表示される。
やっぱりこれは先程会っていた神様……創造神様の事だよね。
この世界ではアトエラって名前なんだ……実は、他の神様と同様に調べてみたが、どの本にも名前は載っておらず『創造と万物の神』としか記載がなかった。
「どうだい?見えたかい?」
「うん、恩恵はまだ見てないけど、加護は貰えてたよ」
「あー、嫌だったら答えなくて良いけど、どの神様だったか聞いても良いかい?」
父ドリアルは興味津々の様だ。なので……。
「創造神様だよ。創造せし万物の神アトエラ様」と、言おうとしたが、瞬間、嫌な予感が駆け巡る。
本では『創造と万物の神』と載っていたが、表示には『創造せし万物の神』となっている。
一冊だけならまだ誤表記とか勘違いという事もあるだろうが、神の御名が載っている本の全てで間違っているなんて変だろう。
間違って伝わった? ……伝えなきゃいけない程に、稀な加護なのでは……。
「そ、その前に、加護をありがとうございますって神様にお礼したいな」
苦しい、これは我ながら苦しい誤魔化し方だ。さすがにこれじゃ……。
「ルクシアール様、それは大変素晴らしいお考えです。感謝の気持ちを忘れない姿勢を、神様も嬉しく思うでしょう」
「そうか、それもそうだな。ちょうど礼拝堂に居るし、皆でお祈りしようか」
神殿職員の後押しもあって、何とか誤魔化す事が出来た。
神像の前で、父ドリアル、姉ウルトとともに横一列に並び祈りの姿勢を……。
あとは――。
「……良かった。神界に来る事ができた」
「おや? 先程送ったと思ったが、忘れ物かの?」
「ああ、神様。急に押し掛けてしまい申し訳ありません。加護の事で御相談をさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか」
「……ふむ、なるほどのう――」
恐らく記憶や思考を読んでくれたのだろう。
「そういう事であれば――」
……………………。
……………………。
「ルークースーくーんー」
体を揺さぶられる振動で、意識が強引に戻された。
「大丈夫か? ルクス」
「お父さん、大丈夫だよ。ちょっと真剣にお祈りしていただけだから」
これも苦しい言訳だが、誤魔化す以外に道は無い。
「それで、加護だったよね。うん、大丈夫大丈夫。今から見せるから」
と、右手を前に出し、『二つ目の加護、表示』と心の中で唱える。
「なんだー、テアル様じゃなかったのかー」
「おお、風と自由の神ベンク様か。恩恵はどうだったんだい?」
次は恩恵か……続いて『ベンク様の恩恵、表示』と心の中で唱える。
「『風魔法』じゃないか、これは凄い。もう一つは『回避』か。両方とも有用な物で良かったな」
「ねえ、かいひって何?」
「避けるとかそういう意味だよ。攻撃に当たらなくなるんだ」
父ドリアルと姉のウルトは回避談義に花を咲かせているし、何とか誤魔化せた様だ。
はあ、一気に疲れた……何はともあれ、創造神のアトエラ様と、風と自由の神ベンク様に感謝だな。何かしらの御礼が出来ればいいんだけど……。
無事にとは言い難いが、何とか加護と恩恵は授かれたので、皆で馬車に乗り込み帰路につく。
「そうだ、お父さん。ホマリットゥって何? 神殿の人が言ってたんだけど、初めて聞いた言葉だった」
「ああ、なんて言えばいいんだろうな……偉い人から何かを貰ったりする事なんだけど、『貰う』とか『頂く』とかよりも、もっと丁寧な言い方かな」
「うーん、お父さんが王様から何か貰ったら『ホマリットゥ』?」
「うん、それはホマリットゥだな。物じゃなくても、お言葉とかでも使う言葉だよ」
「そっか、ありがと。まだまだ知らない言葉は多いね」
なるほどね、そうなると『下賜』とか『賜る』といった言葉を当てておくか。
「終わった? ねえねえ、ルクス君、風魔法つかってよー」
空気を自然と読んで黙っていた姉が、今だとばかりに擦り寄ってくる。
魔法か……さっき神界で魔力の使い方は分かったし、ギアニカでは勇者として普通に魔法を使っていたから大丈夫だとは思うけど。
と、俺の右隣に座っている姉にも分かり易い様に、右手を前に出し掌を上に向け、そこに風のイメージで魔力を放出する。
「わあ、きれい」
余剰魔力特有の燐光が緑色の光を放ち、風と共に掌の上で渦を巻き球状をなす。
その幻想的な光景に、姉のウルトが手を伸ばし、人差し指で触れようとしている。
「指が弾け飛ばなきゃ良いけどね……」
そう呟くと、バッと姉の体が跳ね、俺から距離をとる……父さんもか。
「ごめん、うそうそ。触っても大丈夫だよ、ほら」
言葉だけでは信じてもらえないだろうと、自分の左手を風の球の中に突っ込み、手を握ったり開いたりと数度繰り返した後、風の球から手を引き抜く。
「ほらね、大丈夫でしょ?」
当然、引き抜いた手には傷一つ付いていない。が、それを確認すると同時に、躊躇する事も無くウルトは風の球に手を突き入れる。
「あはははは、ほんとだー変なのー」
「なんとも不思議な物だね」
姉のウルトはもうちょっと疑った方が良いとも思うが、五歳だとこんな物なのか?
父さんは視覚化された風を手で掬う様に扱い、その感触を楽しんでいる様だ。
とは言ってもそろそろ飽きてきたし、家も近くなってきたので終わりにするか。と、火の魔力を混ぜ、風の温度を少し上げる。
「あれ、なんだか暖かくなってきたよ」
「本当だね……これもルクスがやっているのかな……」
その温度を保持したまま、風の勢いを少し弱め、範囲を馬車内一杯に広げる。
「うわ、馬車の中が暖かくなったー、すごーい」
「これは……こんな事も出来るのか……」
「はい、魔法はこれでおしまい。お姉ちゃん、どうだった? 楽しかった?」
「うん、楽しかったよー。またやってねー」
楽しんでもらえた様で何より。まぁ、今の所は大衆の面前であまり使いたくは無いし、この程度の魔法しか見せる事は出来ないけどね。
その後、家族揃っての夕食の際に、加護と恩恵のお披露目をし、何とか今日一日を無事に過ごす事が出来た。
「……ルクス」
「うん? なに?」
一日の最後、もうすでに灯りも落ち、暗く静まり返っている中、同じベッドで寝ている父に話しかけられる。
「今日の魔法だけどな、あれはあまり多用しない方が良いと思うんだ……特に家の外とかでは、あまり使って欲しくないんだけど、どうかな」
「うん、大丈夫だよ。歳不相応な力だって言うのは理解しているし……まあ、最終的には『僕、まだ三歳だから良く分からない……』って誤魔化す予定だけど」
「ふふふ、そうか。そう誤魔化すと言う思考も大概だけど、理解してくれているなら良いさ」
「あ、でも非常事態になったら遠慮なく使うからね。隠す為に誰かが犠牲になるのは嫌だし……それと」
と、馬車でやった様に、寝室の空気を一気に暖める。
「こういう使い方もたまには良いでしょ? 兄さん達や使用人さん達には悪いけど、一緒に寝ている特権という事で」
「ふふふ、まあ縛り付けるのもあれだしな、そういう匙加減は任せるよ。……部屋も暖かくなったし、そろそろ寝ようか」
「うん、お父さん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
色々な事があり、今日は本当に疲れた。
まだまだ試したい事もあるが、今は眠る事が最優先だ。明日の事は明日の僕に任せよう――。
感想はもちろんの事、誤字や脱字、誤用などがありましたらお願いします。
これで書き溜め分は終了です。明日からは夜(22時前後)に一話の更新とさせて頂きます。