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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
少年期編
29/79

27.口撃

 

 ベルナールの店をでて商業組合へと来てみたが、扉を空けた瞬間に空気が変わったのが分かる。

 ああ、これは何かを隠したい、誤魔化したいという時の空気だ……商社時代に部下が出していたから良く分かる。当人達は何時も通り振舞っているつもりなのだろうが……。

 


「これはルクシアール様、本日はどの様なご用件で?」

「ああ、ミラさん。今日は登録をお願いしたくて来ました」


 と、手に持った布袋を軽く持ち上げる。

 登録も三度目なので、慣れた手つきで書類に記入し無事に登録を済ませる。

 懸念材料だった品名も、魔法陣による神様判定で引っ掛からなかったので大丈夫なようだ。



「これは玩具なんですね……権利は五年ですか」

「ええ、リバーシは二人用でしたが、これは多人数でも遊べる物でして」

「……なるほど、これの製造と販売はどちらか決まっているのですか?」


 焦っているとは言え、リバーシって単語に少しでも反応しちゃダメだろうに。

 それに、その質問は悪手だな……まあ、俺が何も知らないと言うのが前提なら問題は無いんだろうけど、登録した『ディドルアの塔』の製作者がベルナールの時点でお察しだろうに。



「そうですね、決まってはいませんが信頼の出来る所にお願いしようかとは思っています」

「……ええ、それはそうでしょう」

「そうそう、これを作ってもらうのにベルナールさんの所に行ってきたんですが、相変わらず店内は雑然としていて……今日なんか木箱が詰みあがっていましたよ」

「……そうですか」

「せっかく可愛らしいお弟子さんも取ったのに、店内があれじゃあね……明日の昼過ぎにも寄る予定なので、その時は片付いていると……って、なんか僕ばかり話してしまってすみません」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「あ、僕はそろそろ。日没までに帰らないと怒られちゃうので」

「はい、本日は当組合をご利用頂きありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」


 ふう、かなりわざとらしかったが、これで組合も動くだろう……。

 荷が動けば、ジャントラ達も明日には出発する可能性が高くなる……良い人達だったので教育係じゃなくなるのは寂しい気もするが、仕方の無い事だよな。


 さて、これで色々とやるべき事はやったし、お土産も買った。

 あと思い付くのは雑貨屋のニリウへの挨拶だけど……今は所持金が心許ないので次の機会という事で。


 はあ、何か金策を考えないと……今日、登録した物は、管理を父さんに丸投げしたいから利益は領費に回るだろうし、冒険者としての報酬も微々たる物だしな。

 神像みたいに何かを作って露店とか? あと十日ほどで収穫祭だし案としては悪く無いか。問題は何を作るかだけど、さすがに神像は不味いよな…………。


 素材を買って調合は……そもそも素材を買うって時点で駄目か。採集出来る物だけを使うならありだけど季節的に難しいだろう。

 ただで手に入る素材で……魚でも焼くか? 『食料庫』なら焼き終えた物を暖かいまま保管できるし……いや、駄目だ。売りに出した所で「どこで焼いてるんだ?」何て聞かれたら答え様が無い。



「お帰りなさいませ、ルクシアール様」

「え? ああ、うん。ただいま、いつもご苦労様です」


 門番をしている領兵に声をかけられて我に返る。

 もう家か、結局考えはまとまらなかったな……。



 家に入り、両親への帰還の報告のあと自室で体を拭き、皆が集まっているであろう大広間へと向う。


「今日は境界の外に出たんだってね、どうだった?」

「うん、教育係の人達と一緒に、これを採りに行ってきた」


 父の問いにバエロッテの根をかばんから取り出してみせる。


「チポリ?」


 姉はあまりこういうのに詳しくないから、間違えるのも仕方ない。

 イナルの話では、実際にチポリと間違って食べるという事も少なからずあるらしいし。



「いや、これはバエロッテだね。麻痺の毒があるから、ウルトも間違って食べない様にね」

「麻痺……毒……気をつけます」

「確か、お薬の材料になるのだったかしら」

「そうだよ、お母さん。少量なら痛みを和らげてくれるんだって」


 まさに『毒薬変じて薬となる』だな。そこまで強い麻痺は起きないようだけど、扱いには気を付けないと。


「そうだ、あとこれ、お土産なんだけど、木工屋さんに寄った時に買ってきた」


 と、ジルーフの作った櫛を渡す。



「まあ、柄の所の細工が見事だわ」

「お母さま、これ、西都に持って行っても良い?」

「ふむ、これは確かに見事だな。ベルナールさんの所かい?」


 みんな気に入ってくれたようだな。

 

「ベルさんの所だけど、作ったのはお弟子さんなんだって」

「これだけ出来ても、まだ修行の身か……奥が深い物なんだな」


 母と姉はさっそく毛先に櫛を通して、感覚を確かめているようだが、表情から察するに満足してもらえた様だ。

 すでに自分で使ってみたけど、まったく引っ掛かりの無い良質な櫛だったからな。



「あともう一個あるんだけど、これは食後の方が良いかな」


 半球体の台座を取り出したが、実演も兼ねて遊ぶなら食後の方が良いからな……と、姉は俺からそれを奪い、床で転がしたりと遊んでいる。


 程なくして運び込まれた夕食を食べ終え、お茶を飲みながら待ったりしていると、もう待て無いと言わんばかりに姉が騒ぎ始める。



「ねえ、ルクス君。もう食べ終わったし、さっきの使ってみてよー」

「うーん、そうだね。それじゃあ、あの台の上でやろうか」


 さすがに食卓の大きなテーブルの上ではやり辛いので、大広間の端に置いてあった円形のサイドテーブルの上で遊ぶ事にした。これなら皆で囲めるし、どの方向に倒れても問題ないからな。

 


「あ、お父さん、背中に埃が付いてるよ? 取ってあげるね」

「ちょっと……今は触らないでくれ……るかな」


 息子に『触るな』なんて、酷い父だな。


「お母さんは三ばかり出るね、もっと手を振る時にこうやって」

「お願いだから、……話し掛けないでちょうだい」


 こっちは『話し掛けるな』か……家庭崩壊の危機だね。


「お姉ちゃんは…………」

「な、何? ……あっ!」


 攻撃する必要も無いなと思っていたけど、その通りとなった。



「もう、ルクス君のせいで倒れちゃったじゃない!」

「僕は何もしてないよ?」

「ふう、いやはや、なんとも緊張するね」


 と、襟のタイを緩めながらも、どこかすっきりとした表情の父……ストレスが溜まってるんだね。



「こんな遊び道具なんだけど、どうだった?」


 五回ほど遊んで、ようやく皆が倒したので一息入れる事に。

 

「こうやって、皆で遊べるのはいいね。『りばーし』もだったけど、歳や性別に関係なく遊べるのは良い事だよ」

「そうね、良い緊張というのかしらね」

「でも、ルクス君が意地悪ばかりする!」


 まあ、直接手を出さない攻撃……いや、口撃も醍醐味の一つなので……笑って誤魔化そう。



「それで、これもお父さんに任せたいんだけど良いかな、領費とかに使ってよ」

「構わないが、ルクスも冒険者になったし、自分の利益にした方が良いんじゃないのか?」

「うーん、これから学校の事もあるし、何かあった時に対処できる人じゃないと駄目だと思うんだよね」

「そうか、分かった。商業組合との事も含めて、父さんが任されよう」

「うん、よろしくお願いします」

「……お話は終わった? はやくもう一回やろうよ」

「ははは、そうだな」


 もっと遊びたい姉に促されて、父とゲームに戻る。と、その前に……。


「キーシャさん、サリスさん。これ、もう一組あるから使用人さん達用にどうぞ」

「いつもお気遣い頂きありがとうございます」


 新人が五人も増えて色々と大変だろうが、父と同様に生き抜きも必要だからな。

 この後、キーシャとサリスも交えた六人で数回楽しんだ後に、ようやくお開きとなった。いきなり何回もやると飽きるから気を付けないと。


 さて、色々とやりたい事や考えたい事は多いけど……今日はもう良いかな。

 なんだか久々に家族で楽しく過ごせた気がするし、この楽しい気分のまま寝てしまおう。

 ――と、そんな俺を嘲る様に、その日の深夜、境界の方から響いた鐘の音で目を覚ます。


 


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