25.依頼達成
採集を終えて食事も済ませ組合へと戻る道中に、イナルから魔法の話を聞く事にする。
「そういえば五大要素以外はどうなの?」
「光と闇に星と月ですよね? 使えたけど正直良く分かりませんでした……光は照明とかに使えるけど、闇って何でしょう?」
「うーん、闇の神様の名前は知ってる?」
「『闇と命の神ノーツ』様ですよね…………あ、もしかして」
「闇は光を遮断し、精神を狂わせ死に至らしめる魔法なんだけど、傷を癒したりも出来る系統なのよ。別名、『生と死の神ノーツ』なんて言われるくらいに」
「それはまた難しそうですね……でも、光魔法も治療系統がありますよね?」
「光魔法の治療は、その人の持っている治癒力を高める魔法で、闇魔法の治療は傷そのものを治す魔法ってとこかしらね」
光魔法の方は何となく理解出来る……。要は代謝や免疫力を上げるって事だろうが、闇の方は? 謎だな。
「そうね……例えば腕を魔物に喰われたとするでしょ?」
と、俺の表情から理解できていない事を察したのか、イナルは更に説明を続けてくれる。
しかし……嫌な例えだなあ。
「光魔法を使えば腕は無くなったままだけど、傷口は塞がり血も増えるのですぐに動ける。調合なんかで作られる回復薬もこれね」
「そうなんですね」
調合で出来るなら帰って調べてみるか……。
「で、闇魔法の場合は、腕が生えて来る」
「……えっ? はい?」
「本当にびっくりよね……千切れた箇所から、にょきにょきって。でも、血は増えないから気をつけないと、血が足りなくなって最悪死んじゃう」
「ええー、便利なのか微妙な感じです」
「だから大抵は光魔法と同時に使われるわ。神様自体も双子神だし、上手いこと出来ているわね」
光と闇が合わさって最強……違うか。
しかし、情報量が多すぎて混乱しそうだ。
古い本一冊分の知識しか無いから当然だけど……魔法関連の本も商業組合に頼んだら手に入るかな。
あ、……資金が心許ない。
「そういう本って冒険者組合にも置いてありますかね」
「大きな支部、ここら辺だと西都なんかでは置いてあるけど、トラル村では残念だけど置いてなかったわね」
「そっか……西都か。…………あと二年半は無理か」
「二年半?」
「僕も西都の貴族学校に通う予定なので、そうしたら空いた時間で読みに行けますよね?」
「そう言えば貴族学校があったわね」
片道一ヶ月掛かる西都……面倒臭いだけと思っていたが、少しは楽しみも出来たな。
そもそも馬車で行く必要があるか? 少し早めに出れば徒歩でも良いはずだ……両親が許してくれればだけど。
「おーい、そろそろ魔法関連の話は無しにしといた方が良いぞ、もうすぐ境界だ」
「はい、ありがとうございます」
ジャントラも秘密なのを理解してくれたので協力的だ。
「ルクシアール様、ご無事の帰還で何よりです」
「うん、ありがとう。採集依頼だけだし教育係もついてくれているから」
「二級や三級の冒険者なら頼もしいですな」
領兵と簡単な挨拶を交わして領内に入る……はあ、大した事はしてないが一気に気が緩むな。
自覚症状が無いだけで結構緊張もしていたのかもしれない。
「さて、組合まであと少しだ、がんばろー!」
そんなサジュアの言葉に、少し気が締まる。気が抜けていたのを見透かされたかな?
「そういえば、朝に言ってた家っての、嘘じゃなかったんだな」
「うん、あそこが本当に僕の家ですよ」
「話題のディアレ家なんだから、ジャントラも少しは覚えておきなさいよ?」
「なんだよ話題って」
「あなたの大好きな『りばーし』はこの領で作られたのよ? あと『すとーぶ』も」
「まじかよ、どうして黙ってたんだ?」
「先に言ったら仕事に支障が出ると思ったからね。そうよね発明家のルクシアール君?」
「え? どうして……」
「商業組合に行けば、誰でも登録書の写しを見る事が出来るのよ?」
まじかー、それは知らなかった。
って事は、そういう関連の人は俺の名前を知っているわけだ……これは気を付けないと。
「なんだ、それじゃ両方ともルクスが考えたのか?」
「ええ、まあ」
「そりゃ、たいしたもんだ。もしかすると俺らより金持ちなんじゃねえか?」
「いえ、ストーブに関しての利益は小銅貨二枚ですし、リバーシの方は殆どが領費になってるから」
「はあ? 小銅貨二枚? あれだけの物を作ってか?」
……あれだけの物を作ったのにです。
「権利の貸与費が十五年で小銅貨一枚。他に、一個売れたら小銅貨一枚の売買利益が出るけど、それを次に販売する物の価格に寄付する契約にしたので、権利が失効する直前に売れた物の売買利益、小銅貨一枚が八年後に支払われる予定です」
「はあ……勿体無い。どれだけ稼げると思ってるんだよ」
「もともと安く普及させるのが目的だったので、僕が儲ける訳には行きませんよ」
「なんだよ、聖人様かよ」
「そういう考え方が出来るルクス君のお陰で、国内の凍死者数も激減している様だし、良いじゃない」
父さんもそんな事を言っていたっけ。国策になったお陰で鉄や薪の価格も大きな変動は無い様だし……国庫にはダメージがあるかもしれないが、長い目で見れば死ななかった人からの納税分で回収できるだろう。
「あ、権利で思い出したけど、今日って何日ですっけ」
「星の……三十日かな? それがどうした?」
「もうすぐリバーシの権利が切れるんだけど、それで商業組合が売るのを渋っているのかもしれないなーって」
「ん? 何の話だ?」
「商隊の護衛でここに来て、組合と揉めてるって……それじゃないかな」
「いや、悪い。話が見えないんだが」
「つまりは、自分達の取り分を増やす為に権利切れを待っている。だからいま売るのを渋っているかもって事ね」
説明が下手な俺と理解できないジャントラの為に、イナルが要約してくれた。
「うん、確か三十五日に切れるから、在庫が無いとか言って、それまで伸ばすかもね」
「あー、とりあえずその辺はイナルに任せていいか?」
「はいはい、ひとまずそれは置いておいて、冒険者組合に行きましょうか」
リバーシ関連じゃなければ良いけどな。
そういえばサジュアは? ……真後ろに居た。
「あの、何してるんですか?」
「うーん、ルクスの観察?」
「……何も面白い事なんてありませんよ?」
商業組合のミラもだったけど、獣人にはこういう習性でもあるんだろうか。
程なくして冒険者組合についたので観察は終わったようだけど……。
「ルクス君、おかえりなさい。初の依頼はどうだった?」
「はい、皆さんに助けてもらったので、大丈夫だと思いますよ」
俺の担当であるカルエナが、カウンターから手を振って出迎えてくれた。十歳の子供だし、多少は心配を掛けていたのかもな。
ともあれ、手に持っていた布袋の中身をカウンターに出し、成果を証明する。
「これが依頼品のバエロッテの根っこです」
「はい、……あれ、十一個?」
「ああ、そうだった。一個は自分用に欲しいんですけど、ダメですか?」
「取りすぎは困るけど、一個位なら問題ないよ……でもこんな物、どうするの?」
「調合でもやってみようかなって」
「ルクス君、調合できるの? どの位の物が作れるの?」
えらい食いつき様だな。調合師不足か何かか?
「いえ、これからの話ですよ、手に入った素材もこのバエロッテの根っこだけですし」
「そっかー、調合師のお爺さんが引退して、回復薬とか傷薬とかが足りなくてさー。今は商業組合や他の支部から買ってるんだけど高くて……」
「後継者とかは?」
「居るには居るんだけど質の方がね。まだまだ上級薬は難しいみたい」
「僕が調合を出来たとしても、きっとそれ以下だし、育つのを待ってあげた方が」
「そうだよねー」
「…………えっと、それで依頼の方は」
完全に話の内容が変わってしまったので、多少強引だが元に戻す。
後ろで教育係である『赤い馬』の皆さんも待っているし……。
「ああ、ゴメンね。品質の方は問題ないし数も大丈夫……はい、これが報酬の銅貨三枚ねー」
「はあ? ……あ、ごめんなさい。びっくりしちゃって」
「それは少なくて? それとも多くて?」
「もちろん多くてですよ、教育係が銅貨一枚なのに」
「ああ、それは――」
説明によると、五、六等級向けの依頼には色をつけている様だ。
依頼者、組合、冒険者のカンパから成り立っているもので、早く装備を整えさせる為の物らしい。
俺の場合は必要無さそうだけど、初回という事で上乗せされた様だな。
神殿住まいの孤児達からも冒険者になる者もいるようで、本来はそういう事情の子の方へ優先的に配分されるようだ。
どの世界でも持ちつ持たれつなんだな……。
「ありがとうございます」
昼過ぎという時間なのでそこまで多くは無いが、組合内に居る冒険者達へと頭を下げて謝意を告げる。
顔を上げると、不自然に顔を背けて聞こえていない素振りをしていたり、急にストレッチを始めたりと違和感のある光景が目に映る。
いやはや、恥ずかしがり屋さんばかりだな。




