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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
少年期編
26/79

24.剣と魔法

「おっと、今のは中々だが、まだ当たってやる訳にはいかないな」


 魚と芋が焼きあがるまでの間、何故かジャントラと木の棒で打ち合っている。

 流木の中にそれっぽい物があったのは知っていたけど、俺が魚の処理をしている間に串だけじゃなく木剣も(こしら)えていた様だ。



「ほら、防御が疎かになってるぞ」


 ジャントラの剣捌きは鋭いが、俺に当たる瞬間に減速させて痛くない様にしてくれている……相当手加減されている証拠だな。

 俺の方も、勇者時代の記憶を基に剣を振るっているが、十歳の体じゃ思い通りに扱えていない。

 それでも昨年、貴族学校から帰ってきた兄のディルと打ち合った際は、そこそこ良い勝負が出来たのにな。

 


「おっ、今のは危なかったぞ」


 嘘吐け、全然余裕じゃないか! 

 体や装備のどこかにでも掠ったら俺の勝ちだけど、文字通り掠りもしない。

 しかし、ここまで差があるとは――。

 


「はい、おつかれさん」

「ありがとう……ございましたー」


 終了の言葉を聞くと同時に仰向けになった……さすがに今はもう動きたくない。

 酸欠のせいか疲労のせいかは分からないが、なんだか頭もぼんやりとしている。

 体感で二十分くらいか、延々と剣を振ったがまったく当たらなかったな。最後に一撃だけ入ったが、あれは完全にお情けだったし。


 はあ、水が飲みたいけど水筒なんて持ってきてないし、川の水は煮沸しないと危険だし……。

 ああ、魔法で煮沸すれば……いやいや、俺は馬鹿か…………どうせ魔法を使うなら水魔法を使えば良いじゃないか。


 ――ふう、染み渡る。

 氷魔法で水自体も冷たくしているから尚更だ。火照った体から熱が奪われていく感覚も心地良い……。

 しかし、こんなになるまで体を動かしたのはいつ以来だ? 軽く体を動かす事はしていたが、半ば強制的な運動は……魔物の大群に囲まれて二日間不眠不休で戦い続けた時以来か?

 ……あー、あの時はキツかった、上から下からと色々垂れ流しだったもんな。

 


「なあ、ルクス。……それって水魔法か?」

「……へ?」

「いや、ほら、お前の上に浮いてる水の球なんだが」


 …………。


「う、うわあ、なんだこれ、気がついたら水のたまが目のまえにっ!」


 …………。


「いや、そりゃ無理があるって」


 空を見上げているからみんなの状態は分からないが、イナルとサジュアの笑い声だけは、はっきりと聞こえてくる。

 俺は何をやってるんだ、今日は何かおかしくないか? こんなうっかりキャラじゃなかったはずだ……。

 確かに冒険者になって浮かれていた部分もあったろうが……ここまでとは。



「えーっと、他の人には内緒でお願いできますか?」


 とりあえず、寝たままもアレなので、上体を起こしてお願いしてみる事にする。


「何で隠すんだ? 優秀な冒険者として引く手数多(あまた)だろうに」

「成人して独り立ちした後なら良いんですが、いま厄介事になると家族にも迷惑が……」

「ああ、それか……まあ、誰かに言触らす趣味は俺には無いけどよ」


 と、ジャントラは笑い転げている二人に視線をやる……。



「ふふ、私も黙っていて……ふっ……あげるわよ」

「私も別に気にしないよー……うわあー、なんだこれー」

「ちょっと、サジュア、やめ……ふふ、あはははは」


 いちおうは黙っていてくれる様だけど……。


「なんか済まないな……俺の仲間が申し訳ない」

「いえ、僕のせいでもありますし……」

「しかし、才能があるって言うのも面倒なもんだな。実際、どのくらいの魔法が使えるんだ?」

「持っている魔法の本に載っていた、五大要素って言うのは全部使えましたよ」

「火、水、風、土……あれ、後は?」

「たぶん雷でしょうね」



 笑い転げていたイナルが、平静を取り戻して会話に混ざって来た。

 しかしお腹を抱えてあんなになるなんて、ああいう一面もあるんだな。


「はい、その五要素は使えましたね」

「誰の魔法書かしらね……本の表題とか、載っていた詠唱とかが分かるなら、教えてくれる?」

「表題は『基本魔法大全』で、火球の詠唱は『火よ、渦巻き集いて球状となれ』かな」

「ああ、たぶんゴルドマンドーアね。それにしても、ずいぶんと古い本で学んだのね」

「それしかなかったので……それに古いからって安くして貰えましたし」

「そう、……ゴルドマンドーア…………確か付与や擬態って概念があったわよね?」

「はい、面白いので擬態は好きですよ」


 と、炎蛇を出してみる。

 あれからも暇な時は練習してたし、動きには結構自信がある。

 なんかこういうのを人に見せるのって、テンション上がるな! ……いや、またうっかりが発動するかもしれないし、少し落ち着いて実演しよう。



「うお、火の蛇? 凄ーな、本当に生きてるみたいだ」

「ここまでしっかりと作れる物なのね……ジャントラ、戦ってみてよ」

「はあ? 戦えったって…………ほら、剣が当たってる感触もないし、どうにも出来ないだろ。イナルの方はどうなんだよ」

「そうね、土魔法で押し潰して消すのはどうかしら…………あら、地面を掘って出てきたわね」


 土壁で押し潰したり、大量の水で消したりって言うのは対策済みですよ。



「この大きさしか無理なのか?」

「もっと大きいのも作れますが、魔物と間違われて騒動になると困るので……」

 

 炎のドラゴンとか出してみたいけど、ここでそんな物出したらえらい騒ぎになりそうだ。

 小さくだが物見櫓はここからも見えているし、数百メートル圏内には俺達が歩いてきた様に、森へと向う冒険者が多数いるだろう。

 なにより領主の父さんや、領軍の兄にも迷惑が掛かるだろうから、ここは下手は打てない。



「そろそろ良い感じだよー」


 いつの間にか居なくなっていたサジュアは火の番をしてくれていた様で、魚の焼け具合も確認してくれていた……どっちが本命かは分からないが。

 

「それじゃ、話はこの辺にして飯にしますか」

「そうね、ルクス式の川魚も楽しみだし」


 ふう、追及もやっと終わりか。

 まあ、創造神様関係以外の普通の魔法は、ばれても問題は無いと思うけど……それでも不安の種は無い方が良いからな。



 その後はみんなで焚き火を囲んで昼食を。

 生のまま摩り下ろした物や短冊切りにした物は食べた事はあったけど、焼いた長芋もホクホクとした食感で美味いものだ。

 特に味付けはされてないが、川魚の塩焼きとの相性は良く、どこと無く日本での食事を思い出させてくれた。

 この風味なら、バター炒めや出汁で煮るのも合うかもしれないな……と、そんな事を考えている内に川魚が無くなった。

 俺、一匹しか食べてないんですが……。



「川魚はどうでした?」

「いやー、内臓とか取っただけで、こんなに変わるとは思わなかったよー。お陰で八匹も食べちゃったー」

「はあ? 俺より一匹多いじゃねえか! 食いすぎだ!」


 俺は一匹、サジュアが八匹、ジャントラは七匹……澄ました顔をしているがイナルも四匹食べている事になる。職業柄なのか、みんな結構食べるんだな。


 使った石と余った流木は河原に、灰は土と混ぜて広く撒いて、魚の残骸は土を掘って埋める。元通りとは行かなくとも、環境に配慮した処理方法だろう。


「やる事も終えたし、飯も食ったし、そろそろ組合に戻るか」


 結局、採集よりも食事関係の方が時間掛けてたな。

 それでも非常に有意義な時間を過ごせたと思うのでよしとしよう。


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