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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
少年期編
25/79

23.川魚

 採集が早く終わりすぎて、暇を持て余していた所にサジュアから提案が。


「じゃあ、お昼ご飯の準備しようよー」

「ん? ……ふむ、芋はあるしな……。よし、サジュアは魚! イナルは火だ!」


 これも芋の時と同様に、いつもの事なのだろうな。

 魚と指示をされたサジュアは、装備を外して裾と袖をまくり川に入る準備をしている。

 見ているだけで寒そうだが、軽鎧を外したお陰で体のラインが…………。

 ごちそうさまです。


 火の担当となったイナルは、川辺にほど近い場所で火熾しの準備を始めている。

 石を円形に配置して、周囲の枯れ草をそこに入れて早速燃やし始めた……土だけじゃなく火の魔法も使えるんだな。


 そして余った俺とジャントラは薪拾い……とは言っても、ここは草原で木など生えておらず、河原にある流木を集めている。



「結構湿っているのが多いなー、……ルクスの方はどうだ?」

「同じ様な感じですね、量はあるけど乾燥している物は少ないです」

「そうか、なら焚き火で乾燥させながら燃やすしかないか」

「あ、風魔法で一気に乾燥させるので大丈夫ですよ」


 と、人間には使えないレベルの温風で急速乾燥させていく。

 急激な温度変化で、ぱきっと割れる木も多いが燃やす分には好都合だ。

 

「おいおい、風魔法ってこんな事も出来るのかよ……イナルのもそうだが、魔法って便利すぎるだろ」

「僕は攻撃よりもこういう使い方の方が好きなんで、色々と工夫はしてますけどね」


 そうやって乾燥させた流木を、火の準備をしているイナルの元へと持っていくと、円形に配された石の中には、周囲の枯れ草を燃やし終えた灰が溜まっていた。



「これは? ……なにかの実験?」

「違うわよ。この灰の中に採った芋を入れて、その上で焚き火をすると良い具合に火が通るのよ」


 なるほど、焼き芋とかと同じ原理か……アルミホイルとか無いけど大丈夫なのか?

 しかし、勇者時代は周囲を警戒しながら早く食べる事が優先だったけど、地球では自炊していたし、今後の事も考えてこういう知識を掘り起こしておくのもありだな。



「魚だよ、お待たせー」


 と、少し遅れたタイミングでサジュアも戻ってきた。


「大漁だよ、大漁ー」


 そういうサジュアの両手には、さきほど採った芋の蔓で数珠つなぎにされた川魚がぶら下がっていた。



「おいおい、獲り過ぎじゃねえか?」

「これでも随分と手加減したんだよー、獲ろうと思ったらもっと獲れた!」

「たぶん本流の……クラミドルゥ川の水量が増えたんじゃないかな。そういう時には、ここみたいな支流に魚が逃げ込んでくるって聞いた事がありますし」

「おお、それは運が良かったねー」


 それでも素手でそんなに獲れるのは異常だと思うけど。

 ともあれ、久々の獲れたての川魚だ、ちゃんと処理して美味しく食べたいよな。

 と、その前に濡れたままのサジュアに乾燥魔法を掛けてあげる。


「なにこれー、急に周りが暖かくなって……乾いてる!」

「……何に言ってるんだ? 腹が減りすぎておかしくなったか?」


 ちらっとこちらをジャントラが見たので軽く頷く。さっき木を乾燥させていたのを見ているし俺だと思ったのだろうけど、確証を得た後も黙っているなんて人が悪いな。



「いや、本当だってー。寒いと思ってたら急に暖かくなって。あ、もしかしたら新しい技能かも!」


 と、サジュアは色々なポーズを取って力んでいるので、それに合わせて魔法を使ってみる。

 

「ほら、腕の高さで温度が変わるよー」


 そう言って腕を上下させるサジュアを見て、「ぶふっ」とイナルが噴出した。



「もう、サジュア、それはルクス君の魔法よ。ルクス君もあまりサジュアで遊ばないの」

「ええー? 嘘だよ、だって私の意思で温度が変えられ……無い?」


 イナルがネタ晴らしをしたので、俺も温度変化をやめる。が、まだ体は冷えていると思うので、乾燥は弱めて空気だけ暖かくした状態のままを維持している。

 と、サジュアと目が合ったので「ごめんなさい」と謝っておく……。


「それでは私をからかった罰としてー、ルクスにはこの魚の処理をお願いしまーす」


 乾燥させて暖めた功績はどこに行ったのかは分からないが、最初からそのつもりだったので……。



「……謹んで拝命いたします」

「え? 冗談のつもりだったんだけどー……本当にやるの?」

「はい、ただで食べさせてもらうのも気が引けるし、こういう事も経験しておきたいと思って」


 こういう知識はあるし地球や勇者時代のギアニカでも経験はしているが、この世界ではやった事が無いからやってみたかったと言うのも嘘じゃない。



「こういう経験って、……家で手伝ったりしないのか?」

「うちは料理人がいますから」

「ああ、そういえばこいつ貴族だったな」

「……あなた達、不敬罪って言葉は知っている?」

「いやいや、ルクスは平気だろ。なあ?」

「…………」

「…………」

「それじゃあ、魚の処理に行ってきますね」

「おい、大丈夫だよなあ! ルクスよお」

「すいません、冗談が過ぎました。そんな事にはしないので気にしないで下さい」

「丁寧な言葉なのが、余計不安にさせるな」


 下級貴族に対しては、侮蔑的な暴言を吐いたり暴力を振るったり……刃傷沙汰にでもならない限りは、大丈夫だったはずだ。

 王や上級貴族に対してはもっと厳しいけど。

 イナルもそれを分かっているようで、二人の様子に笑いを堪えている。



「あー、私もルクスを手伝おうかなー」

「おい、汚いぞサジュア! 自分だけ取り入ろうって魂胆か!」

「本当にそんな事にはならないので大丈夫ですよ?」

「じゃあ、俺は…………そうだ、魚に刺す棒を作っておくぜ」

「はい、よろしくお願いします」


 これも一種の遊びだろうな。

 学生時代には友人達と、こういうノリの中で生きていた気がする。

 からかったり、からかわれたり……懐かしいな。


「本当に大丈夫ですよ?」

「ふふ、分かってるってー。それより、川に戻ってきたけど何かするの?」

「えーっと、今まではどんな風に食べていたんですか?」

「口に棒を刺して……焼いたら完成かなー」


 なんというか、期待通りの回答だ。


「それだと、土臭いというか泥臭くありません?」

「うーん、だって川魚ってそういう物でしょ?」

「それじゃ、ちょっと手を入れて、そういうのを改善しましょうか」


 内臓の苦味が良いって人もいるけど、店で出されている養殖物ならともかく、天然物は寄生虫とか雑菌が怖いし臭みの原因にもなるから、内臓はしっかりと取り除いた方が良い。

 という事で、肛門から喉元、下あごに切込みを入れ、丁寧にエラと内臓を取り出して水で綺麗に洗う。

 

 捌いている最中に二種類の魚が混ざっている事に気付き、『鑑定』で見てみると両方とも食べても大丈夫な物だった……真っ先に調べるべき事だったよな、これ。



「――で、お腹の中の血とかを綺麗に洗ってお終い」

「これだけ?」

「うん、これだけで何時もより食べやすくなると思うよ。火の通りも良くなるし」


 その後は、俺が捌いてサジュアが洗う作業を担当し、二十匹の魚をあっという間に処理した。

 エルバから貰った刃物が早速活躍してくれたな。

 

 ついでに、肩掛け鞄経由で『収納庫』より塩を取り出し、魚に軽く刷り込んでおく。



「塩なんていつも持ち歩いてるの?」

「冒険者の持ち物の中でも、けっこう重要な物だったかと」

「確かにそうだけどさー、それでもそんな量は持ち歩かないよー」

「……そうなんですか? 本には必ず持っておくようにって書いてあったので」

「そっかー、もっと少なくても大丈夫だよー」


 緩そうに見えて、意外に鋭いな……何とか誤魔化せたと思うけど。

 ともあれ、後はじっくりと焼くだけだな。

 


「おまたせしました」

「今日の魚はルクス式ですー」


 魚の処理も終わったので焚き火の元へ戻ってきたが、ルクス式って。



「内臓とかを取ってあるんだな。……後は焼くだけか?」

「はい、後は棒に刺して焼くだけです」

「普通に刺せば良いのか?」


 棒は真っ直ぐではなく、左右に縫うように刺してもらいたかったけど、棒の強度が不安だったのでジャントラ流に真っ直ぐ強引に突き刺す形で。

 そのあと強火で表面を焼き、あとは弱火でじっくりと焼きあがるのを待つだけとなった。でも、焚き火なんかでしっかり焼くと一時間位掛かるんだよな。



「あとは遠火で焼き上がりを待つだけですね」

「それじゃあ、火は私が見てるから、ルクス君はあっちで遊んできたら?」


 と、イナルは俺の後ろに視線をやる。

 後ろにはジャントラがいるんだよな……嫌な予感がするけど仕方ない。


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