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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
少年期編
24/79

22.初採集

 さっき通った物見櫓も小さくなり、結構移動したのだと気付かされる頃に、ジャントラは足を止めてこちらに振り返る。


「さて、お遊びはこの辺にして、そろそろ本来の目的であるルクスの教育といこうか」

「そういえば組合の依頼を使うようだけど、どんな物を持ってきたの?」

「この時期の採取依頼といえば、……バエロッテの根っこ集めだ!」

「ああ、私もやったなー、懐かしいー」

「ルクスは知ってるか? バエロッテの事」

「薬の材料として使う、麻痺の毒草ですよね」


 所持している調合の本にも、昨日見た組合の本にも載っていた。

 両方とも葉っぱの事だけだったが、この時期じゃ葉は散っているだろうし……だから根っこなのかな?


「へえ、ちゃんと知識は入れてるんだな」

「本で読んだ記憶はあるけど実際に見た事は無いし、載っていたのは葉の事ばかりで根っこの事は分かりませんけどね」

「それでも、まったく準備していないよりは上等だ」

「そうね、知識の有無の差は大きいわよ。例えば、バエロッテはどんな場所に生えているかしら?」

「えっと、水辺の近く……この辺だと川沿いですね、湿度の高い空気を好むようなので」


 そう言って北東の、川のある方角に顔を向ける。



「正解、こんな感じで根の知識は無くても、他の知識から得るものも多いのよ」

「そういう事だから、まずは川辺に移動しようや」

「魚とかいるかなー、獲れたら昼ごはんに出来るねー」


 そんな雑談をしながらも、森へと続く道を外れて川を目指す。

 まったく整地されて無い手つかずの野を歩きながら、俺は『鑑定』で周囲の植物を記憶していく。

 時期的に殆どの植物は枯れているが、これまで本の中だけだった物を実際に見る事が出来るのだから、楽しくないわけが無い。



「そんなにきょろきょろして、何か面白い物でもあるのー?」

「皆さんは見慣れた光景でしょうけど、こんなに沢山の種類の植物を見るのは初めてなので」


 なんとなく上京した時を思い出すな……。

 狭かった世界がどんどん広がっていく感じだ。



「そんなもんかねー、食べられない物を見てもなー」

「食べ物……あそこにある蔓を辿れば、地中には芋があるはずですよ」

「本当に? ジャントラー、イナルー、寄り道―!」


 と、サジュアは蔓の許へ駆けていってしまう。

 そんな行動に慣れているのか、仕方ないといった表情で二人が続く。



「イナル、お願いー」


 みんなが追いついた所でサジュアが頭を下げると、イナルは片膝を付いて掌を地面につける。

 その状態のまま、聞き取れないほどの小声で何かを……彼女の魔力の動きから、恐らくは魔法の詠唱だろう。

 その推測は正しかった様で、詠唱を終えた瞬間には蔓の周囲の土は柔らかくなり、サジュアは簡単に蔓と共に地中にあった芋を引き抜いた。



「ほう、こりゃ大物だな」

「おおー、長芋(グーディリアッタ)じゃないかー」


 日本で言うところの長芋や自然薯に似た味と外観で、この世界でも滋養強壮などを期待して食べられている。いつか(サターブ)と共に醤油で食べたい物の一つだ。

 そんな思わぬ収穫があったものの、再度目的地に歩を進め、無事に川岸へとやってきた。

 


「さて、ルクスはバエロッテ探しだな。依頼書ではバエロッテの根を十個とあるが、見付け方は知ってるか?」

「いえ、……他の植物と同じ様に地上部分は枯れているんですよね?」

「そうだな。ただ茎の部分は少しだけ残っているから、それを目印に――」


 そう説明しながらジャントラは地面を見渡し、「ほら、これだ」と足で周りの枯れ草を払っていく。

 その中心には六角形の赤い茎が、数センチほど地面から顔を出していた。



「これが?」

「そうだ、この真下にバエロッテの根っこが埋まっているから、傷を付けないよう丁寧に……ああ、しまった。掘る道具を準備してこなかった……」

「ちょっと、どうするのー? まさかルクスに素手で掘れって? 私の手斧使う?」


 手斧で地面を掘るって……そんな事したらすぐに刃がダメになっちゃうよ。

 それに――。



「ああ、掘る物なら持ってますよ」


 と、鞄からシャベルを取り出す。

 この世界にも『悪魔の歯』と呼ばれるシャベルやスコップはあるが、全体的に作りは甘く、柄は木製で強度に不安があったので、日本で使っていた園芸用の『移植ごて』を参考に、総金属製の物を自作しておいた。

 今日はソロプレイも視野に入れていたので、『収納庫』から鞄に出しておいたが役に立ちそうだな。



「……何だか準備がいいな」

「教育係が見付からなかったら一人で来る予定だったので……革の手袋とか布袋も持ってきました」

 

 革の手袋は親指だけが独立したミトン型で、この世界の作業用手袋としては一般的な形状だ。さすがにこれは作れないので、今朝方に厩舎で使っている物の予備を、ハストから借りてきていた。



「まあ、ほら、これで問題も解決だな」


 イナルとサジュアはジャントラを責める様に睨んでいるが、その辺にしといてあげて下さい。と、空気を変えるために話題を振る事に。



「えーっと、採集で何か気を付ける事ってありますか?」

「うーん、……そうね、一箇所から採りすぎない事かしらね」

「そうそう、採りすぎると来年育つ物も少なくなるからねー」

「なるほど、間引く感じで採っていけばいいんですね」


 今年だけじゃなく、来年以降の事も考えろって事だよな。

 自生しているとは言え採り尽したらもう生えてこないし、自然に元の分布に戻るとしても、それまでの時間も相当掛かるからな。

 

「あと、大きな根の周りに付いている小さな物は地面に埋めなおしてね。それがまた大きくなるから」

「分かりました」


 里芋の親芋と子芋みたいな物か? とりあえず言われた二点に関しては注意しよう。


 そう言う訳で、ひとまず採集はせずに赤い茎の場所を確認する事にした。

 すると、密集している部分が数箇所あったので、そこから間引けば簡単に採集も終わりそうだ。



「あの、自分用に一個採ったりしても平気ですかね……やっぱり怒られます?」

「一個位なら平気だと思うが、不安なら十一個持ち帰って、駄目なら組合に買い取って貰えばいいんだよ……ちょっと吹っ掛けてな。逆に二十個とか採っていったら、もの凄く怒られるから気をつけろよ」


 そういう事なら、合計十一個持ち帰って組合に聞いてみよう。

 

 さて、採るべき場所の選定も終わったので、今度は実際に掘ってみる事に。

 どれでも良いんだろうけど『鑑定』を使って質の悪いのから間引く事にするか。

 とは言っても、環境が良いのかどれも六以上、普通より良い物ばかりなので質は気にせずに、間隔に重点を置く事にする。


 まずは周囲の枯れ草を除けて地面を露出させる。

 イナルから聞いた話では大人の拳ほどの大きさらしいので、直径十センチ前後と仮定して周囲を掘っていく。

 地面は枯れ草が堆積した腐葉土で、子供の俺でも簡単に掘ることができ、まもなくしてバエロッテの根が(あら)わになった。



「……おお、採れた」


 赤い茎の部分を持って軽く揺らすと、簡単に持ち上げる事が出来た。

 外観は紫色のジャガイモといった感じで、言っていた通りに子芋が三個も付いている。



「ジャントラさん、この小さいのが三個付いているんですが、一個は元の場所に埋めなおすとして、残りの二つは少し離れた場所に埋めようと思うんですけど大丈夫ですかね」

「おう、それで問題ないぞ」


 近くにいたジャントラに子芋の対応について聞いてみたが、俺の予想した通りで問題ない様だ。

 その後も採集を続け、分からない事は近くの誰かに聞きながらも、根を十一個採り終わるまでには子芋が二十八個集まり、そのうち十一個は元の穴に戻して埋め、残りは過疎地を探してそこに埋めておいた。



「――バエロッテの採集、終わりました」

「おお、お疲れさん。どれどれ……十一個? ああ、さっき言ってた自分用か。しかしこんな物を何に使うんだ?」

「自分で調合するのに使えると思ったので」

「へえ、ルクス君は調合も出来るの?」

「いえ、本は読んでいますが実物を見るのも初めてでしたし」


 まあ、初採取の記念でもあるし、『食料庫』に入れておけば劣化もしないだろうし。

 ……ここも季節が季節なら素材で溢れているんだろうけどな。

 春が待ち遠しい。



「――よし、傷も無いしバエロッテの方は問題無いだろう……問題があるとすれば早く終わったくらいか」

「……まだ昼前ですね」


 空を見上げると、太陽は真上よりも少し早いくらいの位置にある。

 日没までの依頼なので、あまり早く終わると色々と言われるのかもしれないな。

 教育係として組合内の評判もあるだろうし、上位階級の冒険者として体裁を整えないといけない場面もあるのだろう。



「せっかく外に出たのに、すぐ帰るのもなあ……」


 ……ただ帰るのが億劫(おっくう)なだけみたいだ。


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