21.赤い馬
ジャントラが仲間を連れて冒険者組合へ戻って来てからは、あれよあれよと言う間に話が進み、無事にジャントラ一行が俺の教育係となった。
しかし、連れてきたのが女性二人とは……この、ハーレム野郎めっ。
「私はイナルよ。等級は三で、これでも魔法使いなの。よろしくね」
時間が勿体無いと言うジャントラに急かされながらも組合を出て、緩衝地帯へと歩きながらの自己紹介となっている
イナルは青く長い髪を後ろで束ねていて、歳は二十代前半かな……ジャントラと同じ位だろう。
自己紹介の『これでも』と言うのは、恐らくジャントラと同じデザインの軽鎧を三人とも身に纏っているからだろうな。魔法使いのイメージではフード付きのマントやローブが定番だし。
「私はサジュアね。等級はイナルと同じ三だけどー、二人よりも若い二十一歳で独身の彼氏なし! よろしくねー」
サジュアは……名前は思い出せないが地球のウサギに似た動物の獣人だな。茶髪のボブだが、上に真っ直ぐ伸びた長い耳が可愛らしい。
自己紹介の大半はスルーするとしても、腰の後ろに見え隠れしている二丁の手斧から察するに、見掛けや言動によらずパワーファイターの様だ。
「俺もいちおう名乗っておくか。名はジャントラで等級は二、この二人とあと一人を合わせた四人組『赤い馬』の隊長だ」
あと一人いるんだ……女性だったらハーレム糞野郎にランクアップだよ?
隊名も『赤い種馬』に変わらない事を祈ろう。
ともあれ、最後になったが俺も続いて自己紹介を。
「ルクスです。昨日冒険者になったばかりの新米ですがよろしくお願いします」
「へえ、本当に成り立てなんだねー、大丈夫! お姉さんがちゃんと教えてあげるから」
と、サジュアが俺の首に腕を回してくるが、軽鎧の硬く冷たい胸当てが全てを台無しにする。
お約束というものが分かってないな……。
「やめなさい、サジュア。その子はまだ十歳よ?」
「分かってるってー、冗談だよ冗談ー」
あれ? 年齢を言ったっけ? と思ったが、どうやら組合から渡された俺の資料を見ている様だ。
個人情報が駄々漏れだな。
「あら、風魔法の使い手なんだ。魔法使い志望? ……でも武器は剣?」
「いえ、特に何とは決めていなくて。それに剣ではなくて、今は鉈ですし」
それをイナルに証明するように左腰から鉈を抜く。
さすがに村の中では抜けないが、村の入り口を過ぎて少し経つから大丈夫だろう。
すると、ジャントラが物珍しそうに覗き込んでくるので、鉈を手渡して見せてあげる。
「おいおい、これが鉈か? 随分と風変わりだが……へえ、出来は良いな」
ジャントラは軽く振り回しているが、十歳の俺にはまだまだ無理な芸当だ。
まあ、やろうと思えば数回は振れるかもしれない。
だけど、言ってしまえばそれまでの事で、その数回を使ったらもう振れない状態になる。
それでは『振れる』とは言えないだろうな。
「ほんとに良い鉈だねー」
ジャントラの次はサジュアの手に渡り、これまた軽く振り回している。
あんな短くて厚い刃なのに風切音が……凄いな。
「でも、何で鉈なのー? 普通の短剣とかならもっと扱い易いでしょー?」
「欲しい短剣が無かったんですよ。それに武器じゃなく道具としての刃物の方が、今の僕には必要かなって」
サジュアの疑問はもっともだけど、まだ狩猟や討伐クエストなんて受けられないし、いざとなったら魔法もあるからな。
「武器に関しては分かったけど、あとは門限? 時間が限られているのね」
「はい、自由行動の条件として、日没の前までには帰らないとダメで」
「随分としっかりとしたお家なのね。でも、未開拓地に隣接した土地なら当然か」
『冒険者なのに門限って』って馬鹿にされなくて良かった。
冷静なイナルに冷たい視線のまま言われたら、走って逃げ出したかもしれない……。
いや、逆にご褒美…………馬鹿か俺は。
「日没までか……ルクスの家はどの辺だ?」
「ああ、あれです」
と、ジャントラに聞かれ、ちょうど家が見えているので指をさして…………。
しまった。
「おいおい、ありゃ家というより屋敷だろ? 冗談きついぜ」
「ははは、ですよね。……家は村のはずれの方だから、少し余裕を持ってくれると助かります」
流れに乗って有耶無耶にしてみたが、誤魔化せたか?
前を歩いているサジュアは聞いていない素振りだが……あの耳で聞こえていない事は無いよな。
後ろのイナルは、何故か苦虫を噛み潰したような顔で……何だかよく分からない。
が、まあ大丈夫だろう。嘘は言っていないし……。
「あ、ほら見えてきたよー」
「昨日の今日じゃ、外に出るのも初めてか?」
「はい、なんだか緊張しますね」
領と緩衝地帯を隔てる境界が見えてきた。
左右を物見櫓に挟まれた門で、さながら木造の砦といった様相をしている。
そしてその門を通過する冒険者達が列をなし、数名の領兵が通行許可証の確認をしていた。
俺達も周りに習って列へと並び、領兵に組合証を見せる。
「これはルクシアール様、今日はどうしました?」
「いえ、あの……僕は冒険者なので」
「ほう、組合に登録されたんですね。と言う事は早速依頼で?」
「まあ、そんな所です」
「そうでしたか……はい、確認させていただきました。それでは存分にお気を付けて」
見知った領兵がいる可能性を考慮していなかった。
家の門番とか敷地周辺の巡回とかをローテーションでやってくれているんだから、当然と顔も知っているよな……家の件に続いて失敗二つ目だな。
「…………いやー、無事に通れましたね」
「いやいや、それじゃ誤魔化せないだろ」
「ですよね……」
ジャントラのつっ込みは当然の物だ。
『はい、次!』としか言わなかった領兵が、俺の時だけ急に愛想良く対応したもんな。
「えっと、ここオロント領の領主、グラウ・ドリアル・ディアレ・オロントの三男で、ルクシアール・ディアレです。改めて、よろしくお願いします」
「「…………はあ?」」
「まあ、私は知っていたけどね」
ジャントラとサジュアは驚いているが、どうやらイナルは知っていたようだ。
「おい、イナル。何でお前だけ知ってるんだよ! ってか教えろよ」
「自分達が滞在する場所はどんな所か、どんな情勢下なのか。そう言う事を知っておくのは当然よ? もちろん領主周辺の事もね。冒険者嫌いの村や街、領主もいるから情報を得て考える癖をつけなさい。分かった? ルクス君」
「はい、凄く参考になります」
人の良し悪しは何となく察せるが、その土地柄の事もか……。
今はまだ必要ない事かもしれないが、こういう現役の人の助言は参考になるな。
「いやいや、人の話を聞けって。黙っていた事、内緒にしていた事についてをさあ」
「まあまあ、良いじゃないか。言いたくない事は誰にでもあるものさー」
ジャントラを宥めるのはサジュアに任せよう。付き合いが長い方が扱いにも慣れているだろうし。
「それにしても、ルクス君も隠している様だったのに、自分で指差して家を教えるのだもの。あの時は笑いを堪えるのに必死だったのよ?」
「さすがにあれは自分でも『やっちゃった』と思いました」
「ふう……まあ、黙っていた事については、許してやるか」
と、俺とイナルとの会話にジャントラが割って入り、機嫌をなおしたのか俺の頭を乱暴に撫でる。
次いでサジュアも「しょうがないから私も許してやるかー」と、髪をわしゃわしゃと揉みくちゃにする。
まあ、険悪なままも嫌だし、俺の頭皮へのダメージ位は大目に見るか。




