20.報告
「そう言う訳で、冒険者になってみました」
日没までには無事に帰宅し、両親や姉との夕食後、組合証を見せながら今日の出来事を報告した。
「そう言う訳って……、話を聞いた限りじゃ、村に着いて真っ先になっているじゃないか」
「いいなー、わたしも冒険者になりたい!」
「いやいや、ウルトはダメだ。女の子なんだし、来年は学校じゃないか」
姉の『わたしも』に対し、父は反対の様だ……当たり前か。
女児云々ではなく、楽観的な姉には似合わないと思うし。
「……あらあら、ルクスさん、冒険者になるだなんてやんちゃが過ぎますよ? 仕方がないのでお姉さんがお目付け役をしてあげましょう。お父様も宜しくて?」
「だから、ダメだって言っているじゃないか。それにその変な喋り方はなんだい? 新しい遊びか何かかな……」
「…………お父さん嫌い」
母さんとキーシャが頑張って礼儀を教えた結果が、この『あらあら』モードなのだが……確かにこれは無いな。
まだ十二歳なんだから、いつもの姉のままでもいいと思うけど。
「私はてっきり商業組合かと思っていたのだけれど。『すとーぶ』や『りばーし』の時もルクスは楽しそうだったし」
「はい、奥様。私もそう思っておりました」
母と使用人のキーシャは同じ予想だったようだが、楽しかったのはドラッツやエルバ、それにベルとのやり取りが楽しかっただけだよ。
商業組合はダメ……商人ってのは怖い生き物なんだ。
あれやこれやと盛り上がっているが、いちおう明日の予定も伝えておくか。
「それで今日は、教育係をやってくれる人を探す依頼を組合の方で出してもらったので、また明日、村まで行ってきます」
「そうか、分かった。しかし、ルクスが冒険者とはね、てっきり頭を使う方に進むものだと思っていたよ」
「私もそう思って商業組合だとばかり」
まあ、今まで冒険者との接点は無かったから、両親がそう思うのも仕方の無い事だ。
それでも三男として産まれて、領地を継ぐ義務が無いと分かってからは、冒険者になって世界を見て回る……何となくそんな事を思っていたんだよな。
「それじゃ、ルクス君はもう柵の外に行けるんだね」
「そうだね、見張りの人にこれを見せれば通してくれると思うよ」
うちの領と接している未開拓地との間には柵や物見櫓があり、許可が無いと通る事は出来ない。
ただし、柵の目的は出て行くのを防ぐ為ではなく、外からの侵入を防ぐ為だが。
「冒険者に成り立てのルクスは六等級だから、入れるのは緩衝地帯の草原までだな」
「川は渡れないんだ」
「五等級にならないと川を渡る事は出来ないからね、それだけ危険な場所と言う事だよ」
柵の外には、およそ三キロにも及ぶ緩衝地帯の草原がある。
この位の距離が無いと、森から出てきて川を越えた動物や魔物に対応出来ないからだ。
足の速い獣が直進してくる場合を想定しても、数キロなんてあっという間だ。発見、報告、領兵の動員、対応準備……時間は幾らあっても足りないからな。
そして緩衝地帯と森の間には川があり、その川を渡って森に入るためには五等級が条件という事だ。そういえば等級があがる条件とか聞いてなかった……。
「僕も森に入るのはまだ早いと思うし、草原だけでも十分だよ」
「いいなー、あれだけ広かったらいっぱい走りまわれるよね」
姉の様に走り回ったりはしないけどね。
しかし、反対されたり怒られたりする可能性も考えていたが、意外にあっさりと受け入れられたな。
まあ、改めて考えてみると、俺は子供の頃から異常だったかもしれない……当時はぎりぎり違和感の無いレベルで、なんとか誤魔化せていたと思っていたけど。
そんな子供が冒険者になった所で、今更といった感じなのかもな。
翌朝、みんなで朝食を食べたあと、姉の視線に居心地の悪さを感じるも村に向けて出立する……何かお土産で気を逸らせれば良いんだけどな。
父が冒険者になるのはダメだと言ったので、姉も強行には及ばないだろうが。
◆
「あ、ルクス君おはよう」
「おはようございます、カルエナさん。依頼の方はどうですか?」
「まだ見付からないかなー、そんなに焦っても仕方ないって」
確かに……俺は何をそんなに焦っているんだか。
しかし、やる事が無いと手持ち無沙汰なんだよな。
「そうですね、……ちょっと組合内をうろうろして来ます」
「はーい、また頃合をみて来てね」
とは言っても、やる事無いよな……依頼の張り紙でも見てみるか?
六等級でも受けられそうな物といったら採取系だけど、今は晩秋や初冬といった季節だから草は枯れているだろうし、他に何かあるのかな。
「うわー……」
依頼書が張ってある掲示板の前は人で溢れていて、思わず声が出てしまった。
さすがにこれに混ざる気にはなれないので、少し離れた場所で落ち着くのを待つ事にする。
俺の身長だと、顔の位置に大人の肘や腕が当たるので、ああ言うのに混ざるのは正直怖いんだよね。ただでさえ危ないのに、革や金属製の籠手を装備している人も居るから余計にそう思う。
「凄いよなー、もうすぐ冬だから今のうちに稼ぎたいのも分かるけどよ」
「そっか、季節柄と言うのもあるんですね」
掲示板の近くにある椅子に腰掛けて待っていると、横にいたおっさんが話しかけてきたので軽く返す。
視線をやると赤い短髪のナイスガイだった……金属製の軽鎧だが綺麗に手入れをされていて、装備している人共々に質の良さが窺える。
「随分と若い様だけど、少年は冒険者になってどれくらいだ?」
「昨日なったばかりなんですよ。なので朝のこういう光景を見るのは初めてです」
「昨日って、そりゃまた成り立てのほやほやだな」
「はい、まだまだ分からない事だらけです」
少し会話をすると、少し離れた場所にあった椅子を引き寄せて、ナイスガイは俺の近くに座る。
「それじゃ、依頼も何もまだやってないのか?」
「ええ、昨日登録して、そのまま教育係の募集をしたんですが決まらなくて、それで時間潰しにどんな依頼があるのか見に来たんですが……」
「これに少年が入ったら無駄な怪我しちまうもんな……と、同じ冒険者なんだから、いつまでも少年じゃ悪いよな。俺の名前はジャントラだ、よろしくな」
「ルクスです。こちらこそ、ジャントラさん」
ジャントラは自己紹介と同時に拳を出したので、俺も真似て出すとコツンと拳を打ち合わせた。
おお、冒険者っぽい! けど、実際にやるとなると恥ずかしいものだ。
「――そう言う訳で、俺の方は商隊の護衛でここまで来たんだが、なんか揉めててな……後続が来るまでここで足止めだ」
「色々な所に行けて良いなって思ってましたが、そういう事もあるんですね」
ジャントラは、この村に来た経緯や他の土地の話をしてくれたが、護衛任務は基本的に対人戦闘だし、気苦労が多そうだな。
まだまだ俺には早いだろうけど。
「そう言えば教育係だっけか……依頼主に聞かなきゃ分からんが、時間が合えば俺がやっても良いぞ」
「本当ですか? でも、一日銅貨一枚ですよ?」
ジャントラの襟に付いている階級章は白が四個、二等級の冒険者だ。
階級上位者にとっては銅貨一枚なんて、はした金だろう。
「まあ、金に困ってる訳じゃないし気にすんな。それじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
と、ジャントラは揚々と冒険者組合を出て行く。
数軒隣の商業組合に行ったのか、それとも他の場所か……ともあれ、教育係候補が見付かった。
このまま上手く事が進んでくれれば良いんだけどな。




