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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
幼年期編
13/79

13.下準備


「おかえり、ルクス」

「うん、ただいま、お父さん」


 着いて早々、荷馬車を覗き込むのは父のドリアル。恐らくはストーブが見たくて待ちきれなかったのだろう。


「これが、ルクスの考えた暖房かい?」

「そうだよ、ストーブって言うんだ」

「すとーぶ……降ろしても良いだろうか」

「良いけど少し重いから、バーノンさんとかに頼んだ方が良いかも」


そんな制止を聞きもせず、「なに、大丈夫さ」と御領主様自らが荷馬車に乗り込み、ストーブを降ろす。



「これが……、思っていたよりも小さいんだな」

「今回のは、安く作るのと駄目な部分を探すのが目的だからね」


 父はエルバが梱包してくれた布を剥ぎ取り、上から横からとじっくり観察している。

 まるで新しい玩具を与えられた子供だな。



「これは何時頃になったら使えるのかな?」

「外で使うなら組み立ても簡単だし、今すぐにでも出来るよ」

「外でも使えるのか、それはなんとも」


 ひとまず、俺の私物とビスケット、それに煙突部品を降ろして、荷馬車を厩舎へと送る。

 早速、煙突の先端部、煙突パイプ、本体と三つの部品を順序良く組み立てていき、あっという間に屋外用薪ストーブの完成となった。



「ルクスの様な小さい子でも組み立てられるのか」


 それは、ドラッツ親子の作った部品の精度が高い証拠だな。

 ストーブが組み上がるとほぼ同時に、リトナが使用人達と共に薪を持ってきてくれた。

 ストーブ本体に細い薪を三本ほど入れ、その上に細かく割かれた木片と、着火剤代わりの油を染み込ませた木屑(きくず)を少し乗せる。これで準備完了だ。



「お父さんが火をつける?」


 俺の言葉に、キーシャから火の魔道具(ライター)を受け取り、恐る恐るストーブに火を入れる。

 着火剤に火がつき、木片が燃え、薪に火が移る頃には煙突からも煙が立ち昇り、その光景を誰もが固唾(かたず)を飲んで見守っていた。



「こんな感じかな、暖炉と同じでしょ?」

「これでもう良いのかい? 他に何かするんじゃないのかい?」

「うーん、薪の補充とか?」

「でもこれだけで暖かくなるのは……」


 と、ストーブに触ろうとするので注意する。



「もうこのストーブ自体が熱くなってるから、触っちゃ駄目だよ」

「え? ああ、本当だ……」


 その言葉を最後に、(てのひら)をストーブに向けたまま父は動かなくなり、皆もそれに習って手をストーブに向ける。


 なんだろう、この初めて文明に触れたかの様な反応は。



「どうかな、外だとあまり暖かく感じないと思うけど、家の中に置けばもっと暖かく感じると思うんだ」


…………無視?


「…………いや、これは……周囲の空気が暖められて……」


 入れた薪は細い物だし、空気穴も全開なのですぐに燃え尽きるだろうと、気の済むまで放置する事にした。

 早々に飽きた姉が纏わり付いて来るが、……今はこのままでいいか。





 翌日、ハストに窓枠に嵌め込む部材を作ってもらい、室内での試運転も滞りなく済ませ、今は近くにある暖炉の口を塞ぐ作業をしてもらっている。

 こういう事は出来る人に任せて、俺は父と今後の話を進める事にする。


「だから、次に村へ行く時はお父さんも来て欲しいんだけど」

「販売する商業組合に、設置する大工か……確かにルクスには難しい話かもしれないな」

「売ったりするのは来年だけどね」

「うん、……制作費は銅貨九枚だったけど、ルクスはどのくらいで売りたいんだい?」

「……小銀貨一枚」

「利益は銅貨一枚か……」

「やっぱり難しい?」

「いや、難しいとは思うけど、あれが普及すれば領民も……そうだな、少し考えさせて欲しい」

「うん、おねがいします」


 一応、俺の方でも色々と考えているが、まずは父に任せようと思っている。

 商社マンとしての経験や知識を活用すれば、流通に関わる事も出来るだろうけど、三歳児という事を考えると少々難しいと思うし、父の持つ肩書きも時として必要になる事もあるだろう。

 面倒事を押し付けて申し訳ないとは思うが……とりあえず、俺は俺で助けになる様なプランでも考えておくか。





「どう? 洗濯物も乾くでしょ?」


 二台のストーブの内、一つは母屋の二階に設置され、その周辺はすでに家族団欒の場所となっている。

 もう一つは時期的な事も考えて洗濯場に設置した。雪が降ると室内干しとなり、衣類がちょっぴり(かび)臭くなったりもするのだが、今年からはそういう事も減るだろう。



「はい、どんどん乾くので、どんどん洗濯できますね」


 あまり洗濯し過ぎると生地が痛むと思うが、そこは『洗濯』技能が活躍するそうで、俺の『回避』と同様に何となく判かるのだとか。


 最初は物珍しさも相まって、使用に関しては敬遠気味だったが、一日二日と経った今ではすっかり馴染んでいる。

 特に母屋のストーブの上には湯を張った鍋が置かれ、その中には台座に置かれたポットが湯煎されており、いつでも温かいお茶が飲めるように工夫されている。



「もう少し大きい物がほしいわね」

「これは普通の家用だし、何よりも実験用だからね……来年にはお金持ち用の、少し大きい物が作られると思うよ」


 ストーブの横に居座っている母は、サイズ的に不満がある様だが、今年はこれで我慢して欲しい……子供達を差し置いて、一番近くで暖かい思いをしているのだから。



「これの上で肉とか焼けると思うんだよ」

「串焼きの屋台みたいだね」


 兄達も(くつろ)ぎながら改良点を考えてくれてはいる様だが、それをやると屋内が大変な事になるので止めて欲しい。



「ねえ、ルクス君、これ寝る場所には置かないの?」

「今あるのはここと洗濯場にある二つだけだからね」

「でも、明日もう二つ出来るって言ってた」

「その二つは、お爺ちゃんとお婆ちゃんの家と神殿用だから」


 祖父母の家は当然として、残りの一つは神殿にある孤児院(けん)保育所に設置すると父と相談して決めていた。


「今年中にあと何個作るかは分からないけど、うちの分はもう無いかな」

「そっか、じゃあ……くっつく!」


 ……俺は背中が温かくなるから良いんだけどさ。 

 

 その日の夜、今日も父は執務室で草案(そうあん)作りに掛かりきりになっている。朝起きると、父が寝起きした形跡があるので、一応は休眠を挟んでいる様だが……。

 そんな状況をいい事に、ここぞとばかりに俺と一緒に寝ると姉が言い出すが、さすがにそれはと丁重にお断りした。

 俺と姉が一緒に寝た場合、父と母が隣で一緒のベッドに入る訳で……兄弟が増える様な事態はなんとか回避したかったんだよ。

 姉が一人寝を出来る様になるか、俺の私室を用意するまでは両親にも我慢してもらいたい。


 翌朝、朝食をとり終えた我が家からは二台の馬車が出立する。

一台は父ドリアルと兄シーザーを乗せた箱馬車で、御者はハスト。良い機会だからと、父は兄にも色々と経験させたい様だ。……次期当主というのも大変だな。

 もう一台は俺を乗せた荷馬車で、御者は何時も通りのリトナ。金物屋から祖父母宅と神殿へストーブを運ぶ役割だ。


「まさか旦那様までいらっしゃるとは思いませんでしたよ」

「難しい話は僕じゃ無理だからねー。……そういうのは全部、お父さんやお兄ちゃんに任せるよ」

「うーん、ルクシアール様にも出来そうな気はするんですけど」

「僕は三歳だよ? 分からない事だらけだよ」

「そうですか……」


 とは言っても、権利者は俺だからやらなきゃいけない事は多いと思うけど。

 そうこうしている内に村へと着き、金物屋に寄ってドラッツ親子とストーブ等を回収し、祖父母宅へと向う。


「おお、ルゥクス、話は聞いているが面白い事をしている様だな」

「おはよう、お爺ちゃん。面白いかは分からないけど、今日は手伝ってくれてありがとう」


 俺達の到着から少し経った所で、父と兄、そして商業組合職員であるミラが同行人と共にやってきた。

 

「お久しぶりです、ルクシアール様。この度は当組合にお話を頂きありがとうございます」

「うん」


 柔らかそうな白い髪も相まって、非常に温和な雰囲気だし人当たりも良さそうなんだけどな。

 しかし、一度違和感を覚えると、この懐っこい笑顔や態度も全てが怪しく見えるから不思議だ。


「ああ、こちらは当組合員でドゴアと申します。腕の良い大工が御所望との事でしたので同行させました」

「はじめましてルクシアール様、大工のドゴアと申します。以後お見知り置きを」

「うん、よろしく」


 ストーブに関しては見せた方が早いと思ったので、祖父へ頼んで自宅を実地場所として提供してもらい、ドラッツ親子には前もって設置場所と煙突を通す窓の選定をお願いしていた。

 組合側にも煙突パイプを渡し、祖父宅の窓に嵌る部材の製作を依頼しておいた。

……まあ、手紙を出したのも依頼をしたのも父だけど。


 設置に関しては全てを大人に任せ、俺はぼーっとしてるだけだ。

 あ、設置が終わって火を……。

 家と違い、祖父宅は平屋の一軒家。これからストーブが置かれる普通の家と殆ど同じ構造で、こういう場所に設置するのは俺も初めてだけど……。


「こんなに暖かくなるとは」

「これは想像以上ですね」

 

 と、大人達の反応を見れば、期待以上の性能だったのは一目瞭然だろう。

 

 次は神殿の孤児院兼保育所へと場所を移し、再度ストーブを設置する。

 ここは子供達のみならず、有事の際の避難場所としても使われるので、父が設置場所にと推した場所だ。


「さきほどの家よりも広い部屋ですが、問題ない様ですね」

「ああ、上手くいった様だな」


 ドラッツ親子も自分達の作った品物に対し満足気だ。

 

「それでは今後の話は場所を移しまして――」

「ルクシアールはどうする?」

「うーん、……僕はいいよ。リトナさんと先に戻ってる」


 設置方法も性能も理解してもらえた様だし、今後の話は商業組合の一室で行われるみたいだ。俺の動向を気にした父に声を掛けられるが、難しい話みたいだし遠慮しておく。

 

「行かなくて良かったんですか?」

「僕は最後に署名するだけで良いよ」

「もの凄く変な内容になっているかもしれませんよ?」

「そうなったら署名しないだけだよ」


 ……あ、殺されるかもしれない危険はあるな。

 こういう利権絡みのにはお約束だし、三歳の子供なんて消すのは簡単だろう……戦闘技術の知識はあるけど三歳の体じゃ何も出来ないに等しい。

 

「……まいったね」

「何かありましたか?」

「いや、大丈夫だよ」

「はあ、それでこれからどうします? お昼にはまだ早いですし……」


 買出しじゃなくお昼と言うところがもう。

 しかしどうするか……確かに買出しにも昼食にも少し早い時間だ。



「何か遊ぶ場所とかある?」

「遊ぶ? ……遊ぶ…………無いですね」

「本が売っている場所とか」

「雑貨屋ですね」

「何か道具とか」

「金物屋ですね」

「……」


 そう言えば、村での店と言ったら雑貨屋に金物屋、後は食品関係に宿泊施設。

屋台は沢山出てるけど……。



「ねえ、家で暇な時って何してるの?」

「はい? そうですね、他の方と話したり服を繕ったり、最近は刺繍をしたりですかね」

「そうなんだ…………子供の頃は? 近所の子供たちと何して遊んでた?」

「うーん、森に入る事は禁じられていましたから、原っぱとか川に行ってましたねー。薬草を摘んだり、晩御飯の魚を獲ったり」

「…………そっかー……ちなみに裁縫道具は」

「雑貨屋ですね」


 困った、何の参考にもならなかったよ……いや、娯楽に欠しいという事が分かっただけでも良しとするか。

 そういえば土と財貨の神テアル様も『次は楽しいのが良い』って言っていたっけ。

 加護もあげるとか言っていたけど……リトナも居るし確認は後で良いか。



「そうだな、丸い……金貨みたいな形に加工した木って、どこかで手に入らないかな」

「ルクシアール様……貨幣の偽造は神罰が下りますよ……」

「いや、違うから。みんなが出来る遊び道具でも作ろうかと思ってさ」

「はあ、良く分かりませんが……木工職人の所に行けばあるかもしれません」

「場所は分かる?」


 場所はうろ覚えらしいがそんなに広い村でもないし、リトナに案内を頼む事にした。

 しかし、俺も異世界チート物の定番に乗っかる時が来たか……まあ、実は勇者召喚されたギアニカでも手を出したけど、商人に相手にされなくて失敗したんだよな。

 あれが成功していれば初期の資金不足も解消されていたのに……。


「確かこの辺りに……あ、ほらありましたよ」


 窓ガラスが無いのでただの小屋にしか見えないが、(のこぎり)(のみ)を象った小さな看板が下がっており、外壁には馬車の車輪が張り付けられていた。

 

「すいませーん、どなたか居ますかー」

「はいよー」


 と、出て来たのは、ぼさぼさの赤い髪を後ろで束ねた女性……何と言うか生活力の無さそうな人だな。

 気だるい様な表情とか凄く好みなんだけど……三歳児じゃなければなぁ。


「はいはい、どの様なご用件で?」

「えっと、木を、こう……丸い金貨みたいな形に出来ますか?」


 と、指で輪を作り説明する。


「あー、坊やは知らないだろうけど、お金の偽物を作ると神様が怒るんだ」

「……うん、別に偽造とかそういうのではないので」

「そうか、これは老婆心だったな。……それで?」


 大きさと厚さを伝えると、女店主は特殊な形状の道具を持ち、そこいらに転がっている適当な端材を簡単に刳り抜いた。


「これで良いかな?」

「そんな簡単に抜ける物なの?」

「なに、技能持ちなら簡単さ」

「それなら、表と裏で色の違うのって出来る? できれば白と黒みたいな」

「そうだね……、白と茶色でも大丈夫なら、薄い板を二枚張り合わせれば出来るかな」


 おお、抜いてもらった物の片側を黒く塗装しようと思っていたが、その手間すら無くなるかも。


「一枚作るのに、どれくらいのお金が掛かる?」

「一枚だけなら、そこら辺に転がってる板を使えば良いよ」

「六十四枚なら?」

「六十四? これまた一気に増えたね……ちょっと待ってねー……」


 と、端材に何かしらの計算を書き……。


「そんなに難しくないから銅貨一枚って所かな」

「お姉さんの作業費も入ってる?」

「もちろんだ、これでご飯を食べているんだからね」


 駒の製造費用が銅貨一枚、盤と諸経費や利益も含めてどの位になるかだな……。


「一緒にそれを並べる板も欲しいんだけど」

「ふむ、それなら合わせて銅貨一枚半になるね」


 端材と墨を借り、絵図を書いて説明すると、中々に色好(いろよ)い答えが返ってきた。


「どれ位の時間で出来る?」

「今は昼前だから……特に仕事も無いし、昼過ぎには出来るよ」


 おお、早いな! 早速「それじゃあ、お願いします」と銅貨二枚を差し出すと、一枚だけ受け取り、残りは作り終えた後に支払う物だと教えられる。


 製作依頼を済ませる頃には時間も進み、良い頃合なので買出しと昼食を済ませる事にした。また美味い物に巡り合えると良いな。 


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