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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
幼年期編
12/79

12.雑貨屋と

 ストーブの製作と登録も無事に終り、次は目的の一つでもある買出しだ。

 いつもの通りに小さな樽を両脇に抱えたリトナと、それを見送る店主……。


「そうだ、店主さん、魔道具ってありますか?」

「魔道具ですか? これまた懐かしい言葉が出てきましたねー」

「やっぱり無い?」

「ええ、ここ十数年はお目に掛かっておりません……組合でも話は聞きませんね」

「そうですか……」

(みやこ)の方には収集家も居るようですが、普通の流通経路ではまず見ない品ですよ」


 やっぱり廃れた技術になっている様だな。


「御入用でしたら、組合を通して探させますが……」

「ううん、大丈夫。ちょっと見てみたかっただけだから」


 荷を積みこんだ馬車はそのまま預け、昼食の為の露店巡りに繰り出す。

 

「今日はどんなのを食べますか?」

「うーん、寒くなってきたから汁物が良いかな。この間バーノンが作った麦粥みたいなのとか、具沢山で暖まるのが……そして何より珍しい物かな」

「それでは私は目で探しますので、ルクシアール様は鼻でお願いしますね」


 きょろきょろと辺りを見渡すリトナだが、俺と手を繋いでいるので逸れたりはしないだろう。それに逸れた瞬間、俺の方が迷子のレッテルを張られるので、決してこの手を離したりはしない。


「あ、あの屋台に人が集まってますね。きっと珍しい物ですよ」


確かに人だかりが出来ているが……。


「お粥だ……それも米の」


 この世界にも米があったんだな! 主食は麦ベースの物ばかりだったので、半ば諦めていたけど。


「これにしよう、これ、これが食べたい」


 お粥が注がれた木の椀をリトナから受け取り、さっそく木の匙で(すく)う……おお、久々の米だよ。炊いた物じゃないのが残念だけど、米があると分かっただけでも大収穫だ。

 湯気から漂う匂いから察するに、魚介と一緒に煮た物だろう……振り掛けられた刻みネギ、もとい刻みポラッタの香りも懐かしい。

 じっくりと香りを堪能した後に、匙を口へと運ぶ。


「…………はあ、美味い」


 米の質は悪いし粒もボロボロで、味付けも塩だけ。出汁のとり方も下手で香りも弱いが……それでもやはり『美味い』と感じてしまう。

ああ、刻み海苔と醤油を数滴垂らしたい。

 懐かしい風味に涙が出そうになるが、今はこれを味わう事に……と、周りがやけに騒々しいな。


「気付いていませんでしたけど、みんなルクシアール様が食べる所を見ていて……その反応をみて、屋台に殺到しているんですよ」


 まったく気付かなかった。屋台の店主には悪い事を……いや、商売繁盛で良い事をしたのかな?

 おかわりしたい所だけど、混雑しているので椀と匙を返して移動する。


「あの(サターブ)って言うの、どこで取れるんだろうね」

「看板に書いてありましたが、国内のずっと東の方で取れるようですよ。副都とかあっちの方です」

「そっか、ありがとう…………さて、次は何を食べる?」


 三歳という年齢じゃそこには行けないし、流通しているのを買う事も出来ない。

 口惜しいが、今は存在を確認出来ただけでも良しとしよう……早く大人になりたい。


「昼食もとり終えましたし、この後はどうします? 大旦那様の所へ?」

「うーん、そうだね、神殿に寄って、雑貨屋に行って帰ろうか……あ、どこか寄りたい所とかある?」

「今は思いつかないですねー、私は頻繁にここに来ますし」

「そうだった……それでお土産は何が良い? この間、お爺ちゃん達と話してたでしょ?」


 前に来た時はお茶っ葉をお土産にしたが、あそこまで子供が居るとは思わなかったからな……もっと実用的というか有用な物の方が良いだろう。


「小麦と大麦は沢山あるので、おかずや味付けに使えそうな物が良いそうです」

「神殿での振舞(ふるま)い用かな? なら干し肉とか?」

「そうですね、あとは塩とかでしょうか」


 お土産と言うには少し相応しく無いだろうが、貰った側が喜べばそれで良いよな。と、干し肉と塩にジャガイモ(チポリ)を購入し荷馬車に積み込む。

 ついでに揚げたチポリを屋台で買い、子供達のお土産にする。


「なんか、色々と気を使わせてしまって申し訳ないの」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんが元気で楽しいならそれで良いよ」

「そうか、それならばもっと頑張って長生きないとな」


 例の如く、神殿でドキドキしながらもお祈りを済ませ、祖父母の許へと顔を出す。

日本での両祖父母は、遠隔地に住んでいたのでそこまで接点が無かったが、今はこういう環境にあるんだから多少は気を使いたいと思う。

 祖父母とも五十代で、俺の精神年齢から考えれば同年代だし、老化というのはいずれ俺も通る道だしな。


「さて、後は雑貨屋さんだね」

「またビスケットですね」

「うん、……お父さんに頼まれてるからね」

「旦那様も奥様も、お茶の時間といえばビスケットが当たり前になっていますからね」


 俺が発端とは言え、太らないかと心配だな。血糖値とか……。


 とはいえ、頼まれているのだからと雑貨屋に移動し、また二十枚入りのビスケットを十個購入しておく。


「あ、ニリウさん、ここに魔道具って置いてませんか?」


 必要な物はとりあえず確保したので、店内を物色ついでに魔道具のことを聞いてみた。

 そういえば、いつも必要な物を探して買うだけだったので、今日はゆっくりと店内を見てみるか。


「魔道具……魔道具…………ああ、あると思うよ、ちょっと待っててね」


 と、店内奥に入っていく……あるんだ。

 店頭に置いてないって事は、ここでも不用品……不良在庫扱いなのかな。


「はい、お待たせ。これがうちにある全部の魔道具ですよ」


 そう言って持ってきたのは、人一人が抱えられる大きさの木箱に一杯の魔道具だった。


「こんなにあるんですか?」

「そうだね……こんなにあるのに誰も買ってくれないんだよ」

「どうしてなんでしょうね、便利な物も多いのに」

「理由かい? そんなの簡単だよ。みんな魔力が無いからさ」


 ……ああ、なるほど。

 でも、それだと最初から売れない筈だし、一時とは言え流行らないだろう。


「でも、最初は売れたんですよね? お父さんやお母さんが流行ったって」

「最初に売り出された時は、少しだけ魔力が補充してあったからね。それが切れたら、有料だけど魔法組合の方で魔力補充しますよって」

「何の問題も無い様に思えますけど」

「みんなそう思って、当たり前の様に買い漁ったねー、君が言ったように便利だし。ただ、みんなが買ってみんなが使って……みんなが魔力補充の為に各地の魔法組合に押し寄せた」


 ああ、ここまで聞けば、そこからは容易に想像出来る。

 魔力補充をする人も足りなくなるだろうし、補充の価格を上げても不満が出る。通常の業務にも支障が出るだろうしな。

 要は需要と供給でミスって、愛想を付かされた訳だ。

 

「結局は組合員からも不満が出てね、『自分の研究に回す魔力まで補充したくない』って。色々とあったんだけど、最終的に組合がとった選択は、魔力補充の業務終了さ。

まあ、最初こそ魔力補充はされていたけど、終盤につれて補充されていない物も普通に売っていたし、結局は色々と無理があったんだろうね」


 それはなんとも……。


「それで、うちみたいな雑貨屋に売る人が多くなって、最後の方は小銅貨一枚でも良いから買い取ってくれーってね。その末路が、この箱の中身という訳だ」


 それで一過性の流行で終わったのか……こりゃ、魔法組合でもタブーになっているだろうな。 


「ちょっと難しかったかな?」

「うーん、……ちょっとだけ」

「そっか、それでこんな物どうするんだい?」

「僕は魔力があるから使おうと思って。何か面白いものが無いかなって」

「そうなのか? うーん、どうした物か……売り払いたいのは山々なんだが……しょ、小銀貨五、いや、三枚とかでどうだろう」


 一応財布を覗いて見ると、銅貨四枚と小銅貨数十枚しか入っていなかった。


「ごめんなさい、そんなにお金は持ってないので……」


 全部欲しいし、収納庫には大量の金もあるが、リトナの前でそれは使う事は出来ないんだよな。


「そうか、……なら、箱ごとじゃなく、一つで銅貨……いや、一つで小銅貨十枚とかならどうかな」

「うーん、手にとって選んでも良い?」

「ああ、もちろんだとも、好きなだけ手にとってみてくれ」


 ニリウさん、俺が引くぐらいに必死だな。

 まあ、いくらで買い取ったのかは知らないけど、長期の不良在庫じゃ早々に手放したいか。


「うーん、これはいいや…これも」


 と、手にとって『鑑定』も使いながら判別していく。


「ちなみに、何で要らないか聞いても良いかい?」

「これはうちにもあるし、どんな物かも知ってるから」


 ライター、じゃなくて火の魔道具はうちにも四個あるし、あえて欲しい物でもない。


「ああ、火の魔道具ですね、私も使っていますよ」

「え? リトナさんも使っているのかい?」

「ええ、お屋敷の使用人は大抵使っていますよ? 蝋燭に火をつけるのに便利です」


 あまりそういうのは公表しない方が良いと思うんだよね……。


「そうか、それは羨ましい。私も何度か試したけど具合が悪くなってね」

「うーん、便利な事は確かですけど……でも、あったら便利だなって程度ですよ? 無ければ無いで、何とかなる事ばかりですし、今まで無いのが普通だったんですから」

「……そういうものかい? まあ、流行が終わっても普通に生活しているのだからそうなんだろうね」


 こうやって割り切って考えられるリトナに感謝だな。

 

「これにする」


 と、会話が途切れたタイミングを計って、小銅貨十枚を差し出す。

 もうちょっと選別したかったが、微妙な空気を変えるためには仕方ない。


「はい、まいどあり。……ちなみにどんな魔道具なのか聞いても良いかい?」

「うーん、ちょっと待ってね……ほらくるくる回る」


 売買契約が成立したので、魔力を注いで実演をする。


「えーっと、棒の先端が回転している様にしか見えないんだけど」

「うん、そうだよ」


 風の魔法で内部に小型の竜巻を作り、それを動力に棒の先端を回転させる魔道具だ。

 先端の形状をドリル状に変えれば、切削(せっさく)工具に出来るかもしれない。


「回ってどうなるんだい?」

「回ったら面白いでしょ?」


 回転数やトルク、本体の強度がどの位かは分からないが、切削工具以外にもモーターとして利用出来るなら面白い事この上ない。

 プロペラを付ければ、携帯型の扇風機に。釣りに使う電動リールの様にも出来るだろうし……ただ、ペンサイズの小型の物しかないのが悔やまれるな。


「回ったら面白いか……そうだな」

「うん」

「そんなものですか……そういえば、他の方へのお土産は良いのですか?」


 それにしてもお土産か……うーん、悩ましい所だ。

 兄達は普通に村に来れるし、前回のお土産は初の外出という事で買ったが……。


「今日はいいよ、ストーブもあるしね」


 その後も店内を物色し、錬金や調合といった本を見つけたが、小銀貨数枚クラスの価格だったので諦めた。

 魔道具は売れないだろうし捨てもしないだろうから、もうちょっと落ち着いた頃にでもまた見せてもらおう。



「なんだか疲れたね」

「そうですか? それであの魔道具にはどんな秘密が?」


 村を出ての帰り道、何度か繰り返されたリトナの言葉に辟易する。


「何度も言ってるけど、本当に秘密なんてないよ。これから何に使えるか試すんだから」

「まあ良いですけどー。何か面白い使い方を思いついたら、私にもやらせて下さいね」

「思いついたらね」


 とりあえず今日はやる事があるので、これは放置だな。

 

「あ、しまった……」

「何か忘れ物ですか?」

「忘れたと言えばそうなんだけど、うちって大工仕事が出来る人って居る?」


 窓に()める部材は取り外しが出来る様にぴったりと作り、煙突を通す穴は外周を煉瓦で断熱しなければならない。

 各所に出来る隙間を、粘土で埋める作業位は素人でも出来るだろうが……。


「簡単な事ならバーノンさんが出来ますし、ハストさんは大工の技能を持ってまよ」

「ん? 大工の……技能? 恩恵とは違うの?」

「えーっと、表現の違いというか……。神様から賜った恩恵は、大工の技能だった。という感じですかね。恩恵は恩恵だけど、違う言い方といいますか」

「それじゃあ僕の場合は……、風と自由の神ベンク様から賜った恩恵は、風の魔法と回避という技能でした。って、言い方も出来るってこと?」

「そうです。例えばルクシアール様がお持ちの『回避』ですが、頑張れば私も覚えられる物ですけど、私が覚えても、どの神様からの恩恵では無いですよね? だから『技能』という呼び方があるのです」

「なるほどねー。……すごいや、リトナさんが賢く見える」

「これでも勉強してますからねーって、前もこんな事があった様な?」


 色々な表現方法があるもんだな。

 とりあえず『技能』ってのがある事は理解できた。が…………。


「それと、実は窓枠に嵌める木材と、床に敷いたりする煉瓦と粘土も忘れた……」

「そういうのも倉庫や厩舎に置いてあるので大丈夫だと思いますよ」

「本当に優秀な使用人達で良かったよ」

「それ程でもありますけどねー」


 まあ、材料が足りなければ設置を見送って、何処かの誰かが買出しに行くついでに買ってきてもらえば良いだけの話だしな。


「それにしても大工かー、色々作れて楽しそうだし、僕もそういう技能を覚えようかな」

「私の方が先に覚えるかもしれませんよ?」

「え? なんでさ、リトナさんには必要ないでしょ?」

「このお屋敷では、色々な技能を覚えるとお給料が上がるんですよ! 今は『洗濯』と『掃除』を覚える為に頑張っています」


 洗濯と掃除か……日本じゃ機械任せだったよ――と、急に馬車が止まった。


「どうしたの?」

「どうしたって、もうお屋敷に到着しましたよ」


 話に夢中になって気付かなかった……荷馬車に寝転がって幌の天井を見ながらだったと言うのもあるけど。

 


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