表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
幼年期編
10/79

10.試作品

書くのは初めてですので、不備がありましたらお願いします。

 翌朝、目を覚ますと隣には姉が寝ていた。

 父さんの失言以来、何となく距離があった気がするが、元通りになりつつあるか。

 

 姉を起こさない様にベッドから抜け出し、身支度を整え部屋を出ると、二階にある階段前のホール、そこにある暖炉の前では父と母が(くつろ)いでいた。


「お父さん、お母さん、おはよう」

「おはよう、もう起きたのか?」

「おはよう、ルクス。ウルトはまだ寝ているの?」

「うん、起こさない様に出てきた」


 夫婦水入らずのひと時を邪魔するのも悪いので、早々にトイレへと移動する。

 用を足し、隣の水場で手と顔を洗い、そのままの濡れ手で少し癖のある髪を整える。ここに鏡は無いので手の感覚頼りになるが、寝癖くらいは確認しておきたいしね。


 水場を出て暖炉の前に移動すると、起きてきた姉さんと父さんの会話が聞こえてくる。



「お姉ちゃんおはよう」

「あ! ルクス君おはよう、なんでかってに起きてどっかいっちゃうの!?」

「お姉ちゃん気持ち良さそうに寝てたから、起こしたら可哀想だと思って」

「もう、今度からは……あ……」


 と、もじもじしながら何処かへ……ああ、トイレか。

 日本で言う所の『お花を摘んでくる』みたいなのは無いんだな。

 


「ああ、ルクス。ウルトが村に付いて行きたいと言っているんだけど……」

「僕は良いけど、楽しい事は(ほとん)どないよ? 用事があるのは鍛冶屋さんだけだし」

「そう説明したんだけどな」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんの所と、神殿には寄る予定だけど……遊びに行く訳じゃないしね」

「そうか……」


 どうやら父にはお手上げのようだ。

連れて行っても良いが、俺も構えないから「暇だ」「つまらない」と騒ぎ出すのは目に見えている。

そういえば母は……。


「お母さんはどう?」

「そうね……「わたしも行くー」……そうよ」


 またこれか。水場から出てきた姉が急いで走ってくる。


「ウルト、あなたはお留守番よ」

「えー! やだー、寂しいもん!」

「でも、そろそろ服の大きさも調整しないと、きついでしょ? もっと寒くなる前に色々とやっておきたいのよ。それに……」


 と、最後は何かを耳打ちし……「……わかった、お留守番する」と納得させた。

 まあ、また何かしら買ってきてフォローするか。


「それじゃ、ウルトは留守番と言う事で……ルクス」

「ん? なに?」

「キーシャやリトナにはもう伝えてあるから、今日は朝食を食べ終わったら好きな様にしなさい」

「うん、わかった」



 俺のタイミングで好きな時に出て良いって事か。

 二階には、暖炉の換気用に設けられた中庭を見渡せる窓があり、そこから洗濯場辺りを見てみると、まだ少し薄暗いと言うのにリトナが必死に洗濯をしている。

 恐らく、俺の朝食後には洗濯を終わらせる為だろうが……なんか、ごめん。


 

 朝食をとり終え、二階から中庭を見てみるとリトナの姿はなくなっていた。


「そろそろ行こうと思うんだけど、リトナさんがどこにいるか知ってる?」

「もう準備も終え、玄関前で待機させております」



 村に行く準備が整ったので、キーシャに尋ねてみたが……うちの使用人達は優秀だな。

 それなら、両親に出立の挨拶をして、早々に村へ向かうか。



「お父さん、お母さん。そろそろ行ってくるよ」

「そうか、必要な物はリトナに持たせてあるから、必要になったら使いなさい」


 必要な物が何かはわからないが、使えと言うなら使わせてもらおう。


「それと余裕があったらで良いが、またビスケットがあったら……その……な」

「うん、わかったよ。行ってきます」


 甘い物は美味しいから、仕方ないよね。

それに口に出しては言わないけど、母さんの消費量も多いのは知っているから。

 

 

◆◆◆



「今日は(ほろ)を張ってるんだね」

「天気が良くないですからねー、降らなければ良いんですけど……洗濯も頑張ったのに部屋干しになりそうです」

「実は、今作ろうとしている暖房、部屋干しの時にも役立つんだよ」

「本当ですか? 以前、二階の暖炉の前に干した事があったんですが、そんなに乾きませんでしたよ」


 未だに暖炉の延長に思われているのか。

 まあ、まずは出来上がってみない事には始まらないよな。出来れば今日中に案を煮詰めて図面を作り、鍛冶屋親子が試作品の製作に取り掛かれる段階にまでは持っていきたい。

 それを今冬(こんとう)で実際に使い、問題点を洗い出して来年に改良。夏には増産して、秋から流通……今、描いている構想としてはこんな所だ。

 それもこれも製作コスト次第だが。


「上手く行くと良いな……」

「暖房ですか?」

「そうだね。……そう言えば魔道具はどうだった?」

「あれ、凄く便利ですよ。昨夜と今朝に用意されていた蝋燭は、全部魔道具で点けた物なんですよ。それに二階のトイレと水場の水、あれも板の魔道具で運んだんです。空の籠を持っている様な軽さで、あれなら何回でも補充出来ちゃいますよ」

「それはなにより。まあ、魔道具に頼りすぎて、お父さんに禁止にされないように注意だけすれば良いと思うよ」


 板の魔道具ではなく、重力魔法の魔道具だけどね。



「そうですね、それで今日はどうしますか? まっすぐ鍛冶屋に向いますか?」

「買出しの方は? エルバさんのお店に行ったら、移動し辛くなるかもしれないよ」

「お昼には、また屋台巡りをするのでは? 買出しはその時でも大丈夫ですよ」

「なるほどね、じゃあエルバさんのお店にお願い」

「はい、かしこまりました」

「あ、そうだ。お父さんにビスケットを頼まれたんだけど、あれを作ってるパン屋さんが、どこにあるか知ってる?」

「いえ、どこにあるかは聞きませんでしたね。それなら最初にニリウさんに聞きに行きますか?」

「ニリウ?」

「雑貨屋の主人ですよ、名乗っていたと思いますが」


 そう言えば聞いたような……。お土産選びに気をとられて、聞き流していたか。

 女性なのは確かだが、ターバンみたいなのを目深に巻いているから、何となく暗い印象なんだよな。

 でも、ああいう不自然な装備をしているキャラは、たいてい角を隠しているとか、どこかの王族で身分を隠しているとか……命を狙われる亡国の姫って線も捨てがたいな。



「ルクシアール様? なんだか顔が緩んでいますよ」

「…………まあ、色々あるんだよ。それよりも、ちゃんと前を向いてないと危ないよ」

「急に黙り込むから、馬車から落ちたのかと思いましたよ」

「ごめんごめん、それじゃ最初は雑貨屋でお願い」

「かしこまりましたー」

 

 そんなやり取りをしながらも、そう時間は掛からずに雑貨屋へ着いた。

 結局、パン屋の場所は教えてもらえなかったが、こういうのは相手の意思を尊重するべき物なので素直に諦めるか。

 当然として土産用に二十枚入りの物を十箱、銅貨四枚分を購入……帰りに寄って無かったら悲しいからね。


 しかし、これだけ量産できるんだから、製造ラインもそこそこ整っているとは思うが……いや、無理な詮索は止めておこう。と、本来の目的である鍛冶屋へ移動する。

 

 


「おう、ようやく来たか」


 そう出迎えてくれたのはエルバさんの父親ドラッツ。……しかし店内のこの空気は。


「もしかして、……もう作ったの?」

「へえ、さすがに分かるんだな」


 店内の空気は戸外(とがい)に比べて暖かく、そして少し乾燥していた。まさかストーブを作って試運転まで始めているとは。

 案内されたカウンターの奥、少し広めに造られた部屋にそれはあった。


「まあ、見て判るだろうが、作ったと言っても在り合わせの部材を組んだだけなんだ」

「そうなの? 形にはなってると思うけど……使ってみてどうだった?」

「形にはな……。それに、組上げて火を入れたのはついさっきなんだ。が、この店の空気で分かるだろ? 大したもんだよ、こいつは」

「それは良かった、そういえばエルバさんは?」

「ああ、まだ寝てるよ……と言うか、さっき寝たばかりだ」

「もしかして、ずっと寝てなかったり……」


 その言葉にドラッツはやや目を逸らす。


「いや、さすがにそれは無いが、交代でな……作り始めたら楽しくなっちまって」


 俺達が帰った後も安価量産型の設計を進めていたが、形状のイメージを掴むのに手持ちの部材で仮組みしたら止まらなくなった様だ。

 

「それで、新しいのはどのくらい進んでるの?」

「ああ、材料はこの試作品と同じ物を使おうと思ってる。鉄としてはクソみたいな物だが、薪の火でどうにかなる様な物じゃないし、何より安価だ。坊主が最初に考えたやつでも、普通の材料で作ったら小銀貨三枚程度の材料費が掛かるが、これなら小銀貨一枚程度で済む」


 おお、三分の一になるのか。ただ、トータルで考えるとまだ高い。


「さらに形や厚さも変えて、材料費自体は半分位になる計算なんだが、俺はそういう数字の方は苦手で……エルバに任せてるんだよな」

「そっか……」


 話を進めたいが、寝ているのを起こすのもな……。



「それでは、他の用事を済ませてから、またこちらに……と言うのはどうでしょう」

「そうだね、そうしようか」


 無闇に待っていても時間の無駄なので、リトナの案を採用する。

 今日、寄ろうと思っていた場所は祖父母の家と神殿だけど、この時間帯、祖父母は神殿の一角で読み書きを教えているので、露天で手土産を買って神殿へ向う事に。


 まずは神様にお祈りをして祖父母の居る施設に案内をお願いする。

 また神界に呼ばれるのではと、ちょっとドキドキしたが、用は無い様で何事も無く済んだ。


「おお、ルゥクスじゃないか、今日はどうした?」

「用事があって村に来たんだけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんにも会いたいなって」

「あらあら、何かあったのか心配したけれど、お使いなんて偉いのね」


 数日前にも会ったばかりだが、変わりは無い様だな。

 子供達の面倒を見ているので邪魔になってはと、軽い世間話の後に手土産を渡して早々に引き上げる。



「それにしても、結構な数の子供が居るんだね」

「収穫が終わってもまだまだ農家は忙しいですから、農作業に連れて行けない歳の子は神殿に預けるんですよ」


 託児所みたいな役割もあるのか……それを近所の年寄り達が面倒を見る。

 ご近所付き合いみたいで、なかなか良いシステムだな。


「僕もここに通えば、もっと早くに読み書きが出来る様になったかもしれないな」

「ルクシアール様は十分に早いですよ、大抵は五歳頃にイラデオ文字を覚え始めるくらいなんですから。私だって、ロフシート文字は簡単な物だけで、本を読むのも難しいですからね」


 母音が六と子音が十、それに特殊文字を加えた七十三文字がイラデオ文字で、日本で言う平仮名にあたる。そして漢字にあたるのがロフシート文字。言語システムは早々に理解できたが、結局は文字を全て暗記しなくてはならないので、未だに知らない文字や言葉が出てくる。


「もっと本が安くなれば、皆文字を覚えると思うんだけどね」

「どうでしょう、紙も高いですし、本を写せる人も少ないですからね」

「そっか……」


 製紙技術はあるから、蒸気機関とかを利用した工業技術と活版印刷か……あったら便利だけど、こういうのはこの世界の発明家に任せよう。

 公害問題もあるし、この綺麗な環境を壊してまで手を入れる分野じゃないよな。


「この後はどうしますか?」

「買出しして、ついでにお昼を食べて……もう起きたかな」

「どうでしょうね……それでは、とりあえず買出しに向うという事でよろしいですか?」

「うん、お願い」


 家の買出しを終え、何を食べようかと露天巡りに精を出す。

 荷馬車は買出しをした商家に預かってもらっているので徒歩移動だが、それゆえに視点が低く何を売っているのかが見えない。


「この間来た時もだったけど……やっぱり全然見えないな」

「だから馬車で移動しましょうって言っているのに」

「だって、荷馬車で露店巡りしたら他の人の邪魔でしょ? それに今日は幌が張ってあるから、余計に外が見えないし」

「それで徒歩に(こだわ)ったんですね」

「……遠くの屋台なら、何を売っているのか何とか見えるんだよ。すぐ近くのは店主の顔しか見えないけど」


 道中は良いとしても、村の中で周囲が見えないのは詰まらなかったのだから仕方ないじゃないか。


「まあ、身長の事は仕方ないにしても、この間食べた『パンで挟んだ物(カットイロット)』みたいな当りに巡り合えれば良いね。……あれも美味しかったけど、他の美味しい物も探してみたいな」

「わかります! 色々と試してみたいですよね」

「だよね……ん? この香ばしい匂いは?」

「えーっと、あの屋台ですね。……チポリを揚げた物みたいです」


 『チポリ』はまんまジャガイモで、この領内でも普通に生産され食べられている物だ。が、揚げ物た物は珍しいな。

 フライドポテトか……懐かしい。


「美味しそうだね、あれを買おう……いや、まだ買わないで、食べたい物候補にしておこう」

「買わないんですか?」

「今、買って食べて、他にも美味しそうな物があったら?」

「それも買って食べます」

「おなか一杯にならない?」

「うーん、確かに……」

「それにほら、この間は一つしか食べなかったでしょ?」

「美味しかったですよねー、あれ」

「でも、あれを一個だけ買って半分にしてもらっていたら……」

「…………もう半分の分、別の物を食べることが出来た!」

「そういう事です」

「さすがはルクシアール様、賢いです」


 なんか凄く馬鹿にされている気分だ。

 しかし、三歳の体じゃすぐにお腹一杯になるし、色々食べるにはこの方法しか思いつかなかったのも事実だからな。

 ともあれ、匂い頼りで品定めをしてパンと飲み物を追加し、少し豪勢な昼食をとる。


「はあ、美味しかったです」

「どれもこれも当たりだったね」

「チポリ揚げならお屋敷でも出せそうですよね……バーノンさんに教えないと」


 うちは基本的に皆同じメニューの食事だから、自分が食べたいだけだろうなぁ。

 

「さて、食欲も満たされたし、一回鍛冶屋に戻ってみようか」

「そうですね、それでは戻りましょうか」


 商家に寄って馬車を引き取り、そのまま鍛冶屋へと戻る。



「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「いえ、他の用事もあったので気にしないで下さい」


 起き抜けのエルバさんが身支度を整えるのを待ってから、新型の話を聞くことにした。

 寝ぼけた頭で説明されても不安だからな。


「――そう言う訳で、材料費は銅貨六枚程度、雑費を含めても銅貨八枚程度に抑えられると思います」


 季節や需要で変動する薪とかの価格を考慮しても、年間平均でこの価格なら……。


「作るのにどの位時間が掛かります?」

「そうですね…………六日って所ですかね」

「ん? もっと早く出来るんじゃねえか?」

「父さん、一つの炉で作るとしたらこれ位だよ。初めて作るんだし」


 炉が一つじゃ、部品を一個ずつ作るしかないし手探りの作業になるからな。部品の数だけ炉があったら大量生産出来そうだけど……。

 

「それじゃ、とりあえず一個作ってもらってからですね」

「その後の事は作ってみないと判りませんしね」

「……リトナさん、お父さんからどれくらい預かってる?」

「はい。銀貨一枚分、小銀貨十枚です」

「それじゃあ、これまでに掛かったのと合わせて、小銀貨五枚を置いていくので作るのはお願いします」

「ええ、ご期待に添えるよう努力しますよ」


 リトナがエルバと何かを話しているが、恐らくは明細とかの話だろう。一応、この資金は領費から出てるし、こういう事はしっかりとやっておかないとね。


 さて、これでやるべき事も終わったし、後はどうしようかな。

 せっかく村に来たんだから、色々と見て回ろうかと外に出たら、ちらほらと雪が降り始めていた。


「ああ、降ってきちゃいましたね」

「積る感じはしないけど、これは早めに帰った方が良いかなあ」


 天気予報なんて世界、これからどれ位降るかは不明なので、残念だけど帰路に付く事にする。


感想はもちろんの事、誤字や脱字、誤用などがありましたらお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ