先輩は推理小説が書きたいらしい。
四月の暖かな気温のせいで、授業中寝ていたにも関わらず、睡魔が助走をつけて襲ってくる放課後、文芸部で酉城先輩と部活をしてる時だった。
部活をしているといっても、俺は部室にあった古い漫画を読んでいただけだ。
「祐樹、人を殺害するうえで、撲殺を使うメリットって何だろうね。
私は、やっぱり嫌いな奴を直接手にかけることによって、今までの恨みが晴れて気分がスッカ~とするってことかなって思うんだけど、祐樹はどう思う」
突然、酉城先輩がとても物騒な質問をしてきた。
もっとも、実際に先輩が誰かを殺そうとしていない事は、僕も知っている。
わかってはいるんだけど、何度聞かれても殺しの相談を何の脈略もなく振られることには、部活に入って1年以上たつが未だになれそうにないし、慣れたくもない。
というか、撲殺するメリットが、スカっとするってなんだよ。小並感か!。
もっと、何か他にメリットあるだろうに、推理小説書こうと思っているくらいには、推理物が好きならいろいろ小説読んでるはずはずなんだからさ。
「酉城先輩また、推理小説のトリックでも考えているんですか」
「そうなのよ、推理小説のトリックを考えているんだけど、考えても考えても、
トリックなんて全く思いつかないのよ。
だから、犯人が犯行を行うシーンを思い浮かべて、そして犯人の気持ちになってトリックを考えようと思ってね」
先輩は頭を右手でかきながら、そう答えてきた。
文芸部に入ってから2年くらいたったが先輩は、推理小説は一冊も書ききれていない。
俺自身も、文芸部に入ってはいるが小説を書こうとすらしていないので、そこに文句は言えないのだが。
「推理小説のトリックを考えるのは別に先輩の自由ですがなんで被害者が俺なんですか
一応、不謹慎なんでやめてもらえませんか。
俺、縁起とか風水とか占いとかわりと気にする方なんで、気分悪いんです。
あ、そういえば、さっき、直接殴ることによって、今までの恨みが晴れるとか言ってませんでしたっけ。
俺、先輩に対して何も悪いことしてなかったはず」
どちらかと言えば、たぶん俺の方が酉城先輩を恨んでるぐらいだと思う。
だからといって手にかけようとは一切思ってないよ、本当だよ。
「当然のことだけど、別に本物の祐樹に殺されてもらう訳じゃないから、かまわないでしょ。
それに、いい名前が思いつくまでの仮りで適当に付けた名前よ。
他にもっといい名前を思い付いたら、直ぐにこんな良くあるモブのような名前から変更するから安心しなさい」
確かに、結城って苗字の主人公は、良くいるが名前がユウキなのは、確かにどちらかと言えばモブよりかもしれない。
でも、ユウキって名前の主人公がいてもいいじゃないか。
まぁ、推理小説の被害者って準主役ぐらいであって、主人公では、絶対にないけど。
(犯人が探偵を除く)
「で、祐樹は殺人を行う上で、撲殺を選択するメリットって何だと思う?
気分がスカッとする以外で」
「そうですね、ありきたりの事しか思いつきませんが……。
犯行を行う準備をしなくても、その辺に置いてある物で殴れば犯行を行えるってところですかね。
例えば、そこの教室の隅っ子に置かれている掃除道具入れの中に入っているであろう箒とか、
そこの本棚の上に置いてある花瓶を手に取って、
被害者の頭に向けて、何かしらの固くて重いものを振り下ろしてボカーンとやれば終わりますからね」
ドラマとかだと、超人的に頭が回って、アリバイ工作やら密室トリックなんかを思いつく。
推理小説がどうなってるかは、あまり小説を読まないから知らない。
「突発的に犯行を行うことができるかぁ。
そうよね、ドラマでもその辺にあるハエ皿や、花瓶で殴るってのはよくあるわよね。
外からハンマーなんかを持ち込むより楽よね」
そう、呟きながら酉城先輩は近くにあった分厚い小説を手に取って軽く素振りを始めた。
あの、何となくうっかり後頭部を殴られそうで怖いんで素振りをするの、やめてもらえませんか、先輩。
「ちょっと、祐樹。
そこですこし動かないでね。
すぐに終わるから、大丈夫だからさ」
「あ、はい?
ナンノヨウデスカ、先輩」
なんだろうか、少し嫌な予感がする。
先輩が、あんな風に笑っている時は、ロクなことを考えていないことが多い。
この前は、誰かを転落させる所を小説にする、言って窓から突き落とされかけたからな。
あの時は、本当に死ぬかと思った。少なくも走馬燈のような物がみえ、世界がスローモーションにみえたぐらだ。
万が一に備えて、その辺に置いていた紐をを命綱として付けてなかったら、俺はこの世から消えていた子も知れない。
「今から軽く祐樹の頭をそこのホウキで殴ってみてもいい?
もちろん死なないように手加減してなぐるからさ」
「いやですよ。
俺の頭が悪くなったらどうするんですか。
この前もそんなノリで、俺が死にかけた、いや、殺ろされかけた事をわすれたんですか」
「忘れたわよ、あの時も、その時も、結局だれも死ななかったどころか、けが人すら出ていないわよ。
安心して、」
「そんな、事を言われて安心する奴なんていない」
「ままぁ、今回も絶対怪我しないように、ホウキの掃くぶぶんで、殴るから」
「確かに、そのホウキの柔らかそうな部分なら怪我は、絶対にしないと俺も思いますよ。
しかし、怪我をしない代わりに頭が誇りまみれにまって汚れるから嫌です」
「っち、しょうがないわね。
じゃあ、昔から、ここに置かれている、要らない紙でも丸めてっと、」
多分それ、先輩が昔書いた小説じゃないか、そんな雑に扱っていいのか。
まぁ、俺のじゃないから別にいいですけど。
「これなら、ビシビシ殴っても大丈夫でしょ」
と、いいつつ、酉城先輩は、筒上に原稿用紙を丸めて、俺の顔に当ててきた。
「ぐへ、鼻に当たって、地味に痛いじゃないですか」
「あはは、ごめん?」
てへ!ってのりで、誤ってきたが、余計腹立つ言い方やな。
「じゃあ、こんどは、頭を殴ってみるわね」
そういいながら、俺が返事をする前に先輩が頭に向けて振り下ろしてきた。
「ちょっと、まってよぉ」
殴られるとわかって、そのまま殴られるのは、人間怖くてできない。
目をつぶって、酉城先輩からの原稿用紙ブレードによる攻撃を手を伸ばして防ぐ。
「いて!」
地味に、薬指に当たって、痛かった。
なんで、原稿用紙1枚じゃなくて、複数枚を丸めて筒状にしてるんだよ。
「ちょっと、祐樹。なんで、防ぐのよ」
「見えてたら、恐いんです。
たとえ、紙でできた棒で絶対に怪我をすることは、無いとわかっていてもです。」
わかっていても眼の付近に何かが当たるのは怖い。
反射的に、手が出ても俺は悪くねぇ!!。
うっかり、酉城先輩を殴らなかっただけ、マシだろ。
あと、ついでに酉城先輩の眼つきも、恐かったのも原因だ。
手加減するって言っただろうに。
いやあれは、ホウキで殴る時に言ってただけで、紙の棒の方では手加減するとは一言も言ってなかったか。
「そっか、凶器で殴る所が見えていたら、相手は手でガードされるのか。
こう手の後ろに隠して行って、急に凶器を取り出しても、いや無理よね」
「はい、無理です。
まぁ、剣道の達人とかなら可能かもしれませんが……。
剣道をやっていた、だから犯人は、と……お前だ、では微妙ですよね」
「いま、私を犯人って言おうとした?」
「いいえ」
ついうっかり、言いそうになっただけです。
先輩のためにいろいろ想像してただけで、その中で犯人役を酉城先輩にしてただけだ。
え、他の友達でもいいだろうって、そこは友達が少ないんだ、察して。
だから先輩、そんなに睨むのはやめてもらえません。
それに先輩も、先に俺の名前使ってたじゃないですか。
「あ、そういえばドラマでもは大抵の犯人は、後ろから被害者の後頭部に向けて凶器を振り下ろしていたわね」
気が付くのが遅いような気がする。
「じゃあ、今度は後ろから殴ってみるから、今度は手で防いだりしないでね」
そういいながら、先輩が背後に回ってきた。
その後すぐに、頭にコツンって音が鳴った。




