ミノリ
僕らは島の真ん中にある休火山に登ることにした。旧・自殺の名所-ーー。雑誌に書いてあった。
しかし僕らは死にいくわけじゃない。この場所で、異物をやめる。その一心だけだ。火口が近づくにつれて心は晴れやかに、足取りは軽くなるように思える。
ふと隣を見てみると、瑠花さんは歩きながら涙ぐんでいた。
「やっぱり後悔とかしてます?」
「ううん、違うの。嬉しさ半分、寂しさ半分って感じ。」
「僕はもう寂しくなんてないですけどね。僕らはこれから異物じゃなくなるんでしょう?」
「うん、そうだけどね。神父様や丸子くんと話したりすることが出来なくなっちゃうのが少しだけ心残り。」
瑠花さんはいつの間にかバイブルを両手で抱えていた。
そうこうするうちに、火口の見える場所までやって来た。休火山にとはいえ、その火口は地球をえぐりとったかのように荘厳で、迫力がある。
「いよいよだね。」
僕は瑠花さんの肩を抱いた。瑠花さんはすっかり泣き顔になっていた。
「私が神父様を知ってから10年がたって、」
瑠花さんはバイブルをぎゅっとつかむ。
「たくさんの事を教えてもらったし、初めはなんだかよくわからなかったこのノートも、全部暗記して、理解できるようになった。」
バサッ
ぼろぼろになったバイブルが宙を舞う。そしてそれは枯れ葉のように火口に消えていった。
「丸子くん…。」
瑠花さんは僕に向き直って手をとった。
「丸子くんには、とっても辛い思いをさせちゃった。私の身勝手で……。こんな私を赦して欲しい。」
「瑠花さんが受け入れてくれるなら…僕は幸せです。苦しみや辛さは、時間と……瑠花さんが癒してくれましたよ。だからもう、いつでも大丈夫です。」
「……ありがとう。決心がついたよ。私たちは異物じゃなくなる。」
「こちらこそ。ありがとう。これからはずっと一緒だね。」
「お帰りなさい。」