カタリ
ある時、アダムとイヴが異物であるかどうかを聞かれた神父は、少しの沈黙のあとこう言った。
「アダムとイヴを''1''と''1 ''の存在と捉えれば、異物の一部、或いは始まりと言えるかもしれません。存在は全て異物であり、''0''だけが異物ではないと言えるでしょう。」
瑠花さんいわく、0は何を掛けても0だから、無限と同じ意味だとかいうことらしい。そうなれば失う物もないし、悩みも、苦しみもない。
僕が瑠花さんと落ち合ったのは、明くる日の夜だった。
「早く行かないとフェリーが出ちゃうよ。」
僕らは旅の終着地をとある島に決めていた。何もかも捨てた、船旅だ。
「丸子くんがいてくれると、とっても心強いよ。一人だったら辛くなってたかも。」
フェリーから岸壁を眺めた。色とりどりに輝く都会の光。潮風が冷たくほほに刺さる。
「僕も、わくわくしているんだ。」
「あはは。本当に?」
「悩みも苦しみも、もう何もかも考えなくて大丈夫だし、隣に瑠花さんがいてくれるから。」
「ありがとう。丸子くんがいてくれたことに感謝します。とっても。」
「僕も感謝します。」
それから、二人でスマホを投げ捨てた。
ボチャリ
鈍い音。あれだけ肌身離さず持っていた文明の利器も、あっけなく消えていった。
それから、二人でたくさんの事を話した。母親からの躾のこと。高校での挫折のこと。元バイト先のこと。夫のDVのこと。祈りのこと。神父のこと。そうだ、僕に多くの事を教えてくれた神父は、今は寝ている頃だろうか。船は南へ進み、日の出の頃に港に着いた。
「お一人旅ですか?」
降船のとき、港のタラップ係りのおじさんが話しかけてきた。
「いえ。」
「《《つれ》》も一緒です。」
瑠花さんが照れて笑った。おじさんは少し怪訝な顔をして、はあ、そうですか、楽しんでねとだけ言った。




