トナリ
僕の悩みはまだ、解決されていない。すべては3年前と同じだ。ただひとつ、隣人の存在を除いては。
3年前のことは、あまり記憶に残っていない。大きな挫折、後悔、見えない不安と消えない苦悩。耐えかねた末に死のうとして、助かったことだけは事実だ。
あの時シオエのオーバードーズで朦朧とするなか、救急車を呼び、死にかけの僕を助けてくれたのが瑠花さんだった。瑠花さんがどうやって僕の自殺を察知したのか、その後何をしてくれたのかは覚えていない。
「何時でも死ねるでしょ。今じゃなくても」
病院の枕元で言われたこの言葉だけが記憶に刻まれている。
生きる意味
瑠花さんは、神父が教えてくれると言った。私も死のうとして、神父の言葉に救われたの、と。
もしかしたら僕も知ることができるかもしれない。その思いだけでセミナーへ行くようになり、3年間生きてきた。
神父の言葉は、いつもシンプル。異物なれ。要は、すべては異なるモノということで、とにかくそれを自覚するべきと言われてきた。
「…………………丸子くん、聞いてる?」
「え、あ、はい。」
「夕飯用のカレー、作りすぎちゃったのがあるから、欲しがったら後であげるね。」
「あ、ありがとうございます。」
瑠花さんは僕に何かと親切だ。それが、親切心なのか信仰心なのかは良くわからない。純粋に嬉しく思うべきかもしれないし、淡白に可容するべきかもしれない。しかし、神父に言わせると大切なのは感情の余計な推測ではなく、夕食の買い出しをしなくて良くなったことへの感謝だとなるだろう。
「食べ物を無駄にせず、良き隣人と分かち合えたことに感謝します。」
瑠花さんは率直な祈りを捧げた。喫茶店の他の客からじろじろ視線を浴びる。でもいいのだ。彼らは異物を意識できていないから、可容できないだけ。自覚できている僕らは恥ずかしがる必要はないのだ。たぶん。
「良き隣人から食べ物を分かち得られたことに感謝します。」
またも視線を浴びる。
ただ一人、席の向かいの瑠花さんだけは笑顔でグッドサインをしてくれた。