94.結局どう足掻いても休めないようです
今日の敵は明日の友。
……その瞬間だった。
「うう……うがあああああああああああ!!!」
ついに僕の中でブチリッ! と切れた。
その今まで耐え凌いでいた堪忍袋の緒が……。
「二人とも! この部屋から出ていけぇぇぇ!」
そうして僕は熱を持った感情に任せての一喝。
それと同時に、ばっと部屋と廊下を区分していた襖が勢いよく開けて襲撃者を追放!
「もう……けちんぼさん……少しは誘いに乗ってもええんとちゃう? 潔癖すぎてもええことないよ? 少しは女の味を覚えやなあかんで?」
「うるさーい! 出ていけぇぇぇ!」
初めに叩きだしたのは鬼の少女シュテンだ。
まず彼女がやらかした【罪】は二つ。
一つ目はまたもクロム関連。
僕と同室で眠る予定だった彼をまた邪魔者の如くノックアウトし別室に連行した件だ。
どう考えても従業員が客に危害加えちゃダメでしょ!?
それも若女将が気絶させるって、どういう事なのさ!?
「後でちゃんとクロムを起こしといてね!」
「ええ……面倒臭いなぁ……別に寝かしたままでええんとちゃうの? ぐっすり寝てはったで?」
「だからそれを気絶って言ってんだけど!?」
「それに……倉庫にしまい込んだやさかい……取出しに行くの面倒やわあ……埃まみれなるし」
「せめて布団で寝かせてあげて!? 物扱いじゃなくてせめて人としての尊厳だけは与えて!?」
因みに二つ目はこうして同室の邪魔物を排除し単独になった僕の寝込み容赦なく襲わんと、布団内でスタンばっていた事についてだった。
なお僕が見破れたのは明らかに僕の寝る布団がこんもりしていたからだ。
「レオナルド……私は良い……よね?」
「ダメッ! エミリアもそこで反省してなさい!」
「むうう……」
そして……続けて叩きだしたのはエミリア。
彼女は彼女で勿論問題があり、はだけた浴衣姿をしていた彼女はまさかの布団を仕舞う“押し入れ”にて身を潜め、僕の襲う機会を伺っていたという暗殺者顔負けの芸当をこなしていたんだった。
もう! 本当に……どいつもこいつもっ!
僕に安息という時間を与えてあげようという優しさは無いんですかっ!? 依頼の無いこんな平和な時こそスローライフを堪能させてあげようという温情は一ミリも存在しないんですかっ!?
「それじゃあ二人とも三十分だからね。時間経ったら確認しに来るからそこで反省するんだよ」
それも先の入浴時の騒動だけならまだしも!
その後の食事ですらどちらが口移しで食べさせるかの喧嘩に巻き込まれ、絶品料理を落ち着いて堪能出来ずにさらに僕の怒りは加速!
「もう……本当に君達と来たら……むむむ!」
それもせっかく普段では見ない様な料理ばかり。
特に魚の身を生で食べるっていう『サシミの盛り合わせ』とか、ローストビーフと違って表面だけを炙った『牛肉のタタキ』とか、是非ともゆっくり味わってみたい料理ばかりだったのに!
「足痺れるの……レオナルド……触って」
「おや……抜け駆けは許さへんでぇ……レオナルドはん……足触るんなら先にうちの足を――」
「だああああ! もう、文句言わないの!」
それでそのとどめ、起爆剤になったのがコレ。
今度こそ落ち着いて床に就けると思った矢先に起きた惨状に僕の怒りは頂点(Max)に達したんだ!
「もし逃げたりしたら……絶交だからね」
「「はい……分かりました」」
だから僕は二人に言い残すとそれこそ鬼の形相。
多分鏡で見なおしたら自分でもゾッとする様な普段は見せない表情で二人を正座させると、ぴしゃり! と襖を閉めて部屋に戻るんだった……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
と……こうして。
「なあ……あんた……」
「? どうしたの?」
そんな彼の激昂後。
「まあ……なんや……曲がりなりにもここまでうちと張りおうたんや。せやから少しだけ聞かせてくれても……罰は当たらへんのちゃう?」
一喝で部屋から叩きだされた後、今回の戦犯であるエミリアとシュテンはこの部屋前の廊下にて強制的に正座し、反省するよう告げられた……。
「聞かせてって……何を?」
「せやから……ほら、なんて言うの……そのあんたがレオナルドはんを好いとる理由って言うか……惚れ込んだ所って言うんか……ちょっとだけでもええから聞かせてほしいなあ思うたんよ」
……筈だったのだが?
「……どうして?」
「ほら……その、うちもなんやかんやであんたと同じでレオナルドはんの事好きやろ? だから好きな者同士語れたらなぁ……なぁんて思うて――」
「ふふ……分かったの……でも一回だけ、一回しか言わないから……ちゃんと聞いてほしい……」
「ええで……うちは耳がええさかい……」
何とも不思議な事に。
先まで下らない喧嘩していた筈の犬猿の仲の様な彼女達がいつの間にか互いに口を利き始めた。
それもこれまでの悪口や罵倒合戦などを繰り広げる素振りも見せずに、まさかの共感という珍事。
「それで……他にもいっぱい良い所あるけれど……やっぱりレオナルドの……一番良い所はその優しい所だと思うの……それもただ優しくじゃなくて……最後まで責任持って面倒を見る所……」
「うんうん……分かるで。あの決めた事は何があっても達成しようとする強さ……そう……瀕死のうちを助けてくれたあの時もそうやった……」
「その、あの時……って?」
「ああ……それはな。昔……この辺にあった『熱焼洞窟』ってダンジョンにうちが単身で探索した時の話なんやけど……まあ早い話が滅多に姿を現さへん洞窟の主の『煉獄魔鳥』と遭遇してな……そいつの燃える羽を飛ばす技や鋭利な爪による激しい連撃でえらい傷負ってな。最後は灼熱の息で焼き殺されそうになったんよ……」
それは一息置いたせいなのか。
はたまたそんな両者ともに想う男性レオナルドの持つ魅力という重要な話題のせいだったのか。
いつしか足の痺れだけでなく二人の頭からは現在罰を受けているのすら忘れ、その話題に熱中。
「それで……貴方はそのまま焼け死んだの?」
「いや死んでたらここおらへんやろ!?」
「もしかしたら……幽霊という可能性もあるの」
「勝手に殺さんといてくれるっ!?」
しかも挙句の果てには入店早々のあの険悪ムードはどこへやら、既にボケとツッコミの仲良しコンビへと変化していき……さらにはなんと!?
「ごほん……まあそれでな……そんな危ない中レオナルドはんが現れてな……危険承知のうえで、必死に瀕死のうちおぶって、ダンジョンの外までどうにか連れ出してくれたんよ……下手すれば自分も丸焦げになってかもしれへんのに……」
「ふふ……流石レオナルドなの」
「だから今でも忘れへんのよ……あの時のレオナルドはんの横顔は……ごっつカッコ良かった……今まで……うちに言い寄って来た不純な色男どもなんかよりずっとな…………あ……あかん……思い出すだけで……また体が火照ってきよる……」
「うんうん……貴方……中々にレオナルドの優しさを分かってるの……だから……少しだけ……ほんのちょっぴりだけだけど見直してあげる……」
「あはは……あんたもな……流石は今まで行動を共にして、今は同居してるだけあるなぁ……でもレオナルドはんは渡さんさかい……だから、まあ……次にこの鬼の里来た時は覚悟しときや?」
「むう……手強い好敵手が出来たの」
最早、何という奇妙な縁なのだろうか……。
なんとお互いの彼に対する想いや、感じていたカッコよさを告げていく内に見事に意気投合。
恋敵同士で新たな絆が結ばれるのだった。
「ちょっと……君達反省する気ある?」
こうして。
「あっ……レオナルドだ」
「おや……ほんまや。なにどうしたん? やっぱりうちの肌が恋しくなったん? ったく、しゃあないお人やなぁ……それならそうと素直に――」
こんな誰も予想しなかったであろう厄介な恋敵仲良しコンビの結成によってか、レオナルドからすればまだ一日目に入ったばかりだというのに、
「だああああああ! いいからそこで黙って反省してなさい! 自由にペチャクチャ喋ってたら反省の意味が無いでしょうが! さあ、早く!」
「……反省なんか無駄なの……ねぇシュテン?」
「うふふふ……せやでぇ? ここからの数日間……もう、うちとエミリアはんはレオナルドはん狩る狩人コンビになったんや……だから――」
「この旅行の間……気を抜いたら負けなの」
「どうしよう。今すぐ帰りたくなってきた……」
どう転べばこんな悪夢が発生するのだろうか。
もう既に前途多難な様相を呈し始め、ここからの彼の数日間はまさに女性二人による襲撃地獄。
この温泉旅行という【休み】とは程遠い、非常にドタバタな日々を送る羽目になるのだった……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回でこのテコ入れ(?)温泉回は終了となります。
次話については現在執筆中であり、もう一つギャグメインの幕間を入れるか、新章に突入するかで悩んでいる段階ですのでまた近日中に投稿出来ればと思っております。
ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!
皆様がくださる評価等はこの【黒まめ】の執筆モチベに直結するので……あとは飛んで喜んだりもします(´・ω・`)
そしてお礼を言いたくても、IDだけではどのユーザ様か特定出来ませんでしたが誤字脱字報告ありがとうございました!! これからもよろしくお願い致します!!




