86.主の元へ帰還したようです
完結した五章の補填&以降への伏線
……その人物には足が無かった。
「ただいま帰還致しました。――――様」
いや……それどころか下半身ごと喪失。
胴から下がまるで抉り取られた様に欠損し、どうにか形を残す上半身ですら所々骨が露出しているという、誰から見てもその痛々しい姿は最早生存可能なのかどうかを問うまでも無かった。
だが……。
「――――。―――、―――――――――」
「ははっ……なんと有難きお言葉でございましょう。このルゴール感激の至りにございます」
だがそれでも“彼”は生きていた。
そしてその生命維持装置『命櫃』の中より、自身がこの世の誰よりも最も信頼を寄せる配下ルゴール・カエス―ル、通称吊られた男に日頃の労を労う言葉らしきものを発していた。
「――――――――。――――――――――」
「了解でございます。それではこちらが――」
そして……彼はそのまま部下に要求する。
今回も異世界より持ち返った品を出すよう、
「――――――、――――――――――」
「はい、その通りでございます。こちらがこの度私めが持ち返りました『金の冠』でございます」
するとハングドマンは主の命令通りに献上。
今も果てしない強力無比な魔力が籠り続けており、所持者には無限の力を授けるという逸話が残され、【常時】“力を与え続ける”とされる物体。
「――――――。――――――――――――」
「はい、これは仰っていただきました通り、そのアルテミアーナと呼ばれる異世界の国より持ち返ってきた物にございます。ご覧いただきました通り強大な力を宿しておりま…………む? はて? 私は何処かで今回の国名を口に致しましたか?」
「――――、――――――――。――――――」
「ははは……なるほど“視て”おられたのですね。そしてなんとも手厳しいお言葉です。確かにあの様な優しく可憐な女性を騙すのはいささか忍びないですが……ですが何としても目的は達せねばなりませんでしたので、こればかりは何とも――」
だが……そんな魔法という文化があまり発達していない世界において手に余る異質な物体だったからこそ、今回“彼ら”に狙われてしまったのだ。
「――――――――。――――――――――」
「了解致しました。では仰せのままに……」
そして……今。
【生命維持装置『命櫃』起動、強大ナ魔法道具ノ挿入ヲ確認シマシタ。魔具特性《無限魔力》ヲ認識。直チニ解析シ主の魔力蘇生ヘ変換シマス】
その“半身の男”を復活させる為の触媒として。
かつての常人では計り知れない膨大な魔力を宿した肉体を取り戻すエネルギーの供給源として、その冠は『命櫃』の中へ吞まれていった……。
「――――――――。――――――――」
「いいえ……そんな。私如きに勿体なきお言葉にございます。私めにとっては貴方様の復活ほど心待ちにしております事はございませんので……なんなりとお気軽にお申し付けくださいませ」
そして恐らく相当な褒め言葉だったのか。
そうハングドマンは言葉を前に再び装置越しではあるが、絶対と信じて疑わない主の前に跪き改めて心の底から“彼”に向けて忠を示すのだった。
「――――――。―――――――――?」
「はい、そちらの方も滞りなく。既に何名かの“ゲスト”の方々は目的を達せられ、貴方様の野望に賛同せんと集まっておいでです」
こうして……。
「――――――、――――――――」
「はい、既に【四皇帝】の方々はこちらに――」
まだ大きく目立つ亀裂こそ入ってなかったが、その“彼が育てた世界”はほんの僅かずつ破滅の道を辿らんと端からひび割れつつあった……。
「ああ……それからもう一つ。本当に他愛の無いご報告ではあるのですが、よろしいですか?」
「――――。――――――」
「……ありがとうございます。実は先の金の冠を入手した後、私めがその異世界を去る際にとある“金の髪をした若者”の姿を確認したのです」
「――――――――。――――――――?」
平和という一時的な安息を取り戻した世界に“再び”災厄という変革をもたらさんと……。
「はい、そしてその若者の名なのですが――」
今でこそ敗北し肉体の大半を失ってはいるが。
かつては魔法文明の創生者、全ての魔法の礎とまで謳われていたその半身の男を筆頭にして、
「――――――。――――――――」
「なっ!? それは無茶でございます。大変申し上げにくいですが貴方様の状態として、今はその装置から出られるのは難しいかと思われ――」
「――――――――。――――――――」
「なるほど、あれが“代理体”という事ですか。承知いたしました。貴方様が憑依できるように私めがご調整致しますので暫しお時間を……」
彼がハングドマンを通じ、互いの利害の一致等であちこちの異世界より集められた選りすぐりの兵達により構成された強大な組織。
「――――――――。――――」
「はっ! では直ちにそのように!」
それぞれの成り立ちや特性に応じた力を“彼”より与えられ、さらに凄まじい力を身に着けた猛者達が己の目的の為に暗躍していたのだった……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は現在執筆中で完成次第投稿予定です。
間に合えば明日位に一話だけでも投稿したい……。
内容としては箸休めを兼ねた『幕間の物語』で、ヒロインに重きを置いた平和ながら奇妙で何処か微笑ましい感じの可愛い日常風景を描きたいと思っています(`・ω・´)ゞ
ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!
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