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79.彼は何かを察していたようです


 ……違和感はあった。


 キンッ! キンッ! ガキンッ!

 ジャキッ! ジャキンッ! キンッ!


《うおおおおおおおおおおおお! 流石は我らがイザベラ女王の遺伝子を継ぐ方々です! 強い! とにかく強いです! 普段から活発なお方であり、国外での交易や材料の調達の際に魔獣に襲われそうになった我が国民を何人も救ってきた力強いマティルダ様だけでなくっ! その妹君――》


 一応最初はそれこそ本当に極々小さな違和感で、例えるならいつの間にか小さな虫に噛まれていた位の何気ない、その気になれば忘れてしまいそうな程度の違和感に過ぎなかった…………でも。


《ヴィクトリア様、メアリ―様達も決して負けてはおりません! それどころか試合が進むにつれてその鮮やかな技と速度でじわじわとマティルダ様を追い込んでいるようにも見えております!》


 そう……試合が進むにつれて、ここが肝心だった。

 この最強の儀が始まって約半時間ぐらい経過し、そろそろ耳が剣の交わる音に慣れ始めてきた頃。


(なんだろう……奇妙な感じがする……)


 その【違和感】が急に膨れ上がり始めたんだ。

 最初は虫刺され程度の傷だったというのに、今では一つの腫瘍かの如く疑念が大きく膨らんでさらには何処となく寒気までも覚え始める始末。

 だからこそ僕はこの時点でようやく……、


「……イザベラ女王」


「むっ? どうしたレオナルド、そんな強張った顔をして……ははん、なるほど。なあに大丈夫だ心配するな。アイツらもルールはちゃんと分かってるし、着用している鎧の防御力だってある。だから万が一にも死ぬようなことはあり――」


「女王……すいません。その事じゃなくて」


 ふと気になっていた”ある事”を尋ねた。


「彼女達が使っている【剣】について尋ねたいんですが……教えてもらってもいいですか?」


 それは今回で初めて使われる武器について。

 今でも三姉妹が果敢に力を込めて振るい、躱し、幾度となく交えているその“剣の名称”と“出所”を探る事にしてみたんだ………………すると。



「ああ、それならいいぞ。えっとな……確か審判から聞いた申請通りなら、まずヴィクトリアが使っている双剣は町一番の女性職人のマリナが打った『デュアルブレード』で、メアリーが使っているのも同じくマリナが打った『プラチナサーベル』だな……えっとそれで……うん? あれ?」


「? イザベラ女王?」


「待ってくれ……えっとなマティルダの武器がな……なんと言ったかな……ああ、そうだ確か【煌剣ディルフォーン】と言ったか。それで打った人間は【異国の老人】らしい。最初はそんな武器使うのかと審判に言われたらしいが、マティルダは強引に納得させるためなのか、その職人顔負けの見事な逸品を見せつけて申請を通したらしい」



 そうすると……これが違和感の答えなのか分からなかったけれど、マティルダの持っている剣だけが少し変わった経歴を持っている事を知った。



(煌剣ディルフォーン……それでその武器を打って作った人間の詳細が国内の知っている人間じゃなくて異国の老人……違和感の正体はこれ?)



 しかし……それを知った時にはもう遅かった。



「我が剣刃よ! 一斉に舞い立ち塞がる者を翻弄しなさい! 双剣舞デュエサベール・ダンザー!」

「散りなさい鋭き剣先よ! 五月雨突剣アペート・フルーレ!」


「!?」


 瞬間、戦況がさらに大きく動いた。

 まだ明確な形にならない違和感が頭の中を巡っている途中だったけれど、どうやらヴィクトリア達妹二人組は各々が鍛え上げたと思しき鮮やか連携技があの強いマティルダを追い詰めていった。


《こ……これは何という事でしょう! 最早何から解説させていただけばいいのか迷うところですが! ま……まさかの共闘!? しかもヴィクトリア様の美しくも凄まじい連撃技『双剣舞デュエサベール・ダンザー』だけでなく! メアリ―様による秘技『五月雨突剣アペート・フルーレ』を用いての同時攻撃という! この場の誰も予想だにしていなかった技が放たれましたっ!》


 そしてそこにすかさず審判による実況。

 これ以上無い声量で観客席を盛り上げんばかりに、遠回しにもう決着は付いたとそう会場全体に声を響かせていったんだ……だから思わず僕も、


(違和感はまだ微妙に残っているけど……もう勝負は付いたしどうやら杞憂に終わりそうだ……)


 この最強の儀の終幕を察しながら、


(マティルダ……君が女王を目指す動悸はとても立派だったよ。けれど、これは君のお母さんの依頼なんだ。この儀式においてどんな結果になっても公平に審査をするっていうね……だから君も頑張った妹さん達の事は悪く思わな――)


 そう……コロッセウムの壁に激突し力無く崩れるマティルダを見て、審査員としては失格だけど同情の気持ちを向けながら彼女の敗北を悟った――――――けれど! その瞬間の事だった!



 ビカンッ!



(なっ!? 今の感触は)



 たった一回だけ。

 ほんの一度だけの閃光だった。


「うん? レオナルド? どうしたいきなり立ちあがって? それにその顔も……さっきよりも数倍は怖い顔になっているぞ。一体何が――」

「イザベラ女王……観客の避難をお願いします」

「? レオナルド……お前は何を言って――」


「ようやく分かったんです……違和感の正体」


 そのほんの数秒にも満たない光。

 本当に極僅かな時間だったけれど、マティルダの持つ剣の柄から音と共に発した、その赤き閃光が僕の疑念を確信へと変えさせ……


(まだ戦いは完全に終わってないけど――)


 もう今度は小さな違和感なんてちっぽけなレベルではなく、がっしりと首を冷たい手で握られたくらいに確かでおぞましい寒気に襲われたんだ!

 そうして! その原因は勿論……。



(マティルダの持っている剣……間違いない! あれは【魔剣】だ! これまでに何度か感じた事ある人の欲を糧とする呪われた武器のそれだ!)



 そう僕は今までの冒険で様々な武器や防具を目の当たりにし、鑑定や解呪をしてきた強力な呪いの武具と同じ気配を自分の肌に感じ取って、



「お、おい!? レオナルド何処に!?」

「イザベラ女王……申し訳ありません。この戦いは一時中断という形でお願いします。そして先程も言ったように観客の避難をお願い致します」


 そして一国の女王に命令なんて大罪クラスに無礼なのは百も承知だけど、僕はそう彼女に言い残し全てが手遅れになる前に審査員席を離れると、



「そんな……こんなの嘘ですわ……」

「あれ程の攻撃を受けたのに……どうして」



(くそっ! 急がないと時間が!? 頼むマティルダ……どうか早まらないでくれっ!)



 もう既に【穏やかではない変化】に襲われ始めた只ならぬ空気に包まれていく戦場に向けて、僕は全力でその足を急がせたんだった!



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 こうして……。


「いかなる攻撃をも通さぬ究極にして鉄壁の盾よ! 眼前の脅威より我の守護すべき者達をどうか守りたまえ! 大地の壁盾(ガイアシールド)!」


 ガキィィィィィィィンッッッ!


「二人共……一旦この場から離れた方が良い」

「えっ? あ、貴方様は……どうして!?」

「何故……レオナルド様がここに――」

「それはいいから……とにかく今は逃げて」


「「は……はいっ!」」


 ギリギリ間にあった。


「ウぐぐグ……どケレオナルド……私が……私が最強なンだ……私が勝っテ女王になるんだっ!」


「ぐぐっ……にしては君らしくも無い行動じゃないか。なあマティルダ! 君の願いはただ単に女王になる事じゃないだろ! 早く目を覚ませ!」


「ぐぐググぐ!? うる……せぇッ! テメェも邪魔すんなら……ブッ殺すぞ! レオナルド!」


 誰よりも優しい筈の彼女自身が最悪のシナリオを歩む前に……哀しき悲劇を招いてしまう前に、


「面白い! 殺れるもんなら殺ってみろ! 魔剣の呪いに負けるような弱っちい君に僕が殺せるもんかっ! 世界最強の雑用係を舐めんなよ!」


 僕は一刻も早くその暴走を止めんと、ざわつき始めた戦場へと飛び込んでいったんだった……。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

次話は明日投稿予定です(/・ω・)/

なお展開的にはかなり終盤であり若干書き溜めが出来ているので、明日は思い切って【朝頃】と【夜頃】で合計【二話分】を投稿出来ればと思っておりますのでまたよろしくです( `・∀・´)ノ


ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!

マヂで皆様の評価はこの【黒まめ】の執筆モチベに直結するほか、ユーザ様の声は私にとってものすごく励みやタメになりますので……あとおまけで飛び跳ねるくらい喜びます。

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