72.心を奪えば勝ちのようです part2(☆)
「~~~~♪♪~~~~~♪♪」
「…………………………………ふむぅ」
「………………………なんと美しい」
「…………………………癒されますわ」
それは会場全てを魅了し、黙させる美声。
誰もが思わず聞き惚れてしまう歌声だった。
「♪♪~~~~~~♪、♪~~~~~♪~~♪♪~~~~♪♪~~~~~♪♪、~~~~~♪~~♪~~~♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~」
僕は過去に友人の誘いで劇場に足を運んだ事があって、様々な演技や演奏を見てきたんだけど……その中でも特に『オペラ』だけはまさに別格の一言だった。
「♪~~~♪♪、♪~~♪♪~~♪♪、♪~~~~♪♪~~~~~♪♪~~~~~♪~~♪~~~♪~~~♪♪♪♪~~~♪~~~~♪♪♪~♪」
『演劇』+『役者』による歌唱。
そんな単純な足し算ながらその衝撃や感動はしばらくの間頭に印象深く残り続け、特にそのメインである【歌唱部分】の影響が非常に大きく、
「♪♪♪~~♪~~♪♪、♪~♪♪、♪~~~~♪♪~~~♪♪~~♪♪~~~~~♪~~♪~~~♪~♪♪♪~~~♪~~~~♪~♪~~♪」
その会場中に響き渡る程の張りのある歌声。
だがそれでいて大声で叫んでいるのではなく、母親が子供に聞かせる子守歌のような落ち着いた波長が聴く者の心を鎮め、自然と落ち着かせる。
「♪♪~~~~~~♪、♪~~~~~♪~~♪♪~~~~♪♪~~~~~♪♪、~~~~~♪~~♪~~~♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~」
そして今回それを歌うはヴィクトリアだ。
このコロッセウム全体を魅了し惹きつけて歌姫にも決して劣らない奥深い美声を発し、今も演奏の中で高らかに歌っている黒髪が特徴の次女。
「♪~~♪♪~~♪♪、♪~~~~♪♪~~~~~♪♪~~~~~♪♪♪、~~~~~♪~~♪~~~♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~」
うん……やっぱり誰が聞いても満点の歌声だ。
100点満点ならば200点を付けたくなるぐらいだね。さらに贅沢を言えるならこの闘技場に豪華な劇場のセットでも備わっていれば即座に300点に点数を引き上げたくなる。
「♪~~♪~~~♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~♪、♪~~~~♪♪~~~♪♪~~♪♪~~~~~♪~~♪♪♪~~~♪~~~~♪~♪」
でも……。
(…………なんで)
「♪~~~♪♪~~~♪~~~♪♪~♪」
何故か奇妙な事に、
(どうして……)
……僕は【レバー】から手を離せなかった。
強制退場に使うこのレバー、ちょいとでも捻れば選手の足もとがパカッと開いて場から消し去るっていう起動装置を終始握りしめていたんだ……。
えっ……じゃあ何故離せないのかって?
「♪~~♪~~~♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~♪、♪~~~~♪♪~~~♪♪~~♪♪~~~~~♪~~♪♪♪~~~♪~~~~♪~♪」
どうしてこんな文句なしの満点の歌唱力。
さらに思い返せば一つ前のダンスでも見事な足運びを見せ、もうどちらがエスコートしている側なのか分からないまで素晴らしいあのヴィクトリアを退場させようとしているのかだって?
……その答えは至ってシンプルだ。
「♪~~~~♪♪~~~♪♪~~♪♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~♪、♪~~~~♪♪~~~♪♪~~♪♪~~~~~♪~~♪♪♪~~」
「なんで……」
「♪♪~~~♪♪~~♪♪~~~~~♪~~~♪~~~♪♪~♪、♪~~~~♪♪~~~♪♪」
「なんで!? なんであの人は“あんな姿”で歌ってるんですかあああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そう……。
「どうして! あんな恥ずかしい【ボンデージ姿】で平然と歌ってんですかあああああぁぁぁ!?」
その【衣装】が異常だったんだ……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
ボンデージ……それは“性的興奮を得る”ための拘束行為を楽しむ事を指す他、今僕が目撃している露出度の高いハレンチな衣装を刺す言葉。
「どうして! あんな“恥ずかしい姿”でヴィクトリアはあんな平然と歌ってるんですかっ!?」
普通のドレスでも着てれば文句なしの満点だったのに! 何をはき違えたのか胸元、腰、脚と所々で肌が露出したとってもセクシー……いや、この場においてはただのハレンチな黒装束をだ!
「♪~~~♪~~~♪♪~♪、♪~~~~♪♪♪、~~~~~♪~~♪~~~♪~~~~~♪♪~♪」
それを事もあろうか『こんな場』で纏いながら彼女は大衆の前で歌っていたんだ! 本当にあの人どうかしてるよ!? 異常そのものだよ!?
「マジで何考えてんの!? ねぇイザベラ女王、明らかにおかしいですよね!? あの格好!?」
「ふむ……どうやらアレは見た感じだと、最近我が国のファッションブランドに参入して来た【さあ早く私を女王様とお呼びなさい、この豚野郎!】のブランドシリーズのようだな……なるほど」
「いや、そんな冷静に観察している場合じゃなくて止めてくれません!? ここ公の場ですよ! 別に僕だって個人の性癖にそこまでとやかく言いませんけど、明らかにアレはこの場に着てくる様な装いじゃないですよね!?」
「むむぅ……確かにそれはそうだが……だが冷静になって考えてみろ。さっきまで客の1/4くらいはヴィクトリアに食い入るように見てただろ?」
「それ逆に【75%】がドン引きしてるんですが!? しかも今は歌が入っているからまだマシですけど、最初のアピールなんか葬儀みたいに周囲が凍ってたんですよ!? マジであのまま強制退場か凍死かの二択を迫られたんですよ!?」
「じゃ、じゃあ……ほら、あの辺を見ろ。あの辺の男衆なんかあんなに幸せそうな顔をして――」
「アレ明らかにエロい目線ですよね!? あの目尻見て! ゆるゆるのダラダラですよ!? 明らかにエロに喜んでいるスケベ親父の眼光です!」
「じゃ……じゃああっちの女達はどうだ?」
「あのハートの目は明らかに調教済みの目ですよ!? 攻められる事に目覚めて堕ちちゃって奴隷として化している人間の目です! あれは! とにかくどう教育したらこの場面であんなハレンチ衣装を着てくる思考に行きつくんですか!?」
「……ふっ、ふんだ! 貴様は私がここまでマトモな教育をしてきたと思っているのか!? それならばまだまだ読みが甘いぞレオナルドよ!」
「堂々と開き直らないでくれません!?」
……と、審査の途中からこんな調子で僕とイザベラ女王がしょうもないボケとツッコミの問答を何度も繰り返している間に……、
《さあ! 以上でメロディーは終了となります! ヴィクトリア様、素晴らしい歌声をありがとうございました! ではこれより最終種目――》
「!?」
気が付けばヴィクトリアの歌は終了。
姿こそなんとも異様だが、その全員の心を掴んだ彼女の歌唱力を称える拍手喝采に場が包まれる中で、種目は次の内容へと移行していく。
《最後のアピールタイム! 自分が最も得意な方法で己の魅力を引き立たせるフリーアピールのお時間へと移る事と致しましょう! それでは!》
(まあ、とにかくここだね……ここさえイイ感じのアピールならばあのボンデージ姿は見過ごそう……あの美しい歌のおかげか客も少しは彼女に対する変なイメージが和らいだみたいだしね……)
そう僕は思考に踏ん切りを付けて、ハレンチ衣装のヴィクトリアがこれ以上王家のイメージを下げるような過ちを犯さない事を祈りつつ、
(まあ、言ってももう最後だ。流石にここまで来たらヴィクトリアもおかしな行動は取らないだろうし、肩の力を抜いて見守る事にしよう!)
そう僕は一つ息を吐き、握っていた強制退場レバーから手を離したんだ……すると!?
「では皆々様! ここまで私のこれより最後のアピールとさせていただきますわ! その名もこの鞭を用いての【ドM奴隷の調教】をお見せ――」
ガコンッ! ヒューッ!
《おおっと!? ヴィクトリア様! せっかくのフリーアピールタイムを前にして強制退場となりましたのでこれにて審査は終了となりました!》
「…………レオナルド、お前」
「女王。僕、何かおかしなことしました?」
「いや……それで大丈夫だ。すまん……」
僕は即座にレバーを引いたんだった……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は現在執筆中で間に合えば明日投稿予定です(*'ω'*)
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