71.心を奪えば勝ちのようです part1
―― ―― ―― ―― ―― ――
――レオナルド……いるか?
――マティルダ? どうしたのこんな夜更けに? まさか……またお腹空いたから今からステーキ食べに行きたいとか言うんじゃないよね? 嫌だよ!? 真夜中のステーキツアーとかいう暴挙は!? それにいくらスタイルが良いからって油断してたらあっという間に――いでで!?
――ちげぇよ! 馬鹿レオナルド! 流石にこんな時間から食いに行く訳ねぇだろうがっ!?
――いてててて……。じゃあ君はそんな寝巻姿で何しに来たの? しかもそんな“可愛いクマのぬいぐるみ”まで引っ張って来て……まさか……一人で眠れないからって添い寝の要求!?
――はあっ!? ばっ!? ちがっ!?
――先に言っとくけど絶対ダメだからね!? 年頃の女性が男性のベッドに入るなんて! そんなハレンチな事は僕が絶対許さ――ヘぶっ!?
――しーっ! 大声で叫ぶな! だから違うつってんだろうが! この“クマちゃん”はアレだ……暗い廊下を歩くのが怖いから連れてるだけだ! だから別にアレだぞ!? 寝る前には“これを抱きしめない”と眠れないとかそういうんじゃないからな!? 勘違いすんなよ!?
――僕まだ何も聞いてないんだけど……まあいっか。それで? そんな可愛い趣味を勝手に暴露したお可愛いマティルダ様がどうして僕の部屋に? 明日は美貌の儀で大忙しだって言うのに……暇つぶしに一服でも盛りに来たの?
――全然違うわ! それはだな実はお前に話したい事があってさ。今まで話せるタイミングが中々無くて……だから……へっ、へくちゅっ!
――……はあ、分かったよ……とりあえずそこは冷えるから中に入りなよ。すぐに暖炉付けるからさ。ああ……それと一つ忠告しとくけど僕は今審査員って立場だ。だから例えこれからどんな話を聞かされたとしても胸に留めるだけ。それ以上もそれ以下もない。それでもいいんだよね?
――へくちゅ! ん……ああ、それで一向に構わないぜ。元々私もそのつもりでお前の元を訪ねたんだからな! だから何の問題もない!
――うんうん、そこまで分かってるなら大丈夫。じゃあ風邪を引かないように君は暖炉の前に座って待っててね。今あったかい紅茶を淹れるから。
――へへへへ……わりぃなレオナルド。
―― ―― ―― ―― ―― ――
――マティルダ大丈夫? 肌寒くない? もし僕ので良かったら着ていた上着を貸そうか?
――気遣いどうもありがとよ。でも大丈夫だぜ! 私は最強の長女だからな! 風邪なんて軟弱な病気にかかる程ヤワじゃねぇんだ! それに今はお前がくれた紅茶と暖炉の火でポカポカしてるから余計に大丈夫だ! だから気にすんな!
――そっか。流石はマティルダだね。その気になれば風邪の病原菌ですら食い尽くしそうな気がしてきたよ。よし! じゃあ話を戻して温まってきたところで早速なんだけど……明日の儀式も早い事だし君の本題を聞かせてもらおうかな?
――あいよ、分かったぜ。まあなんだ正直言って今更改まって話す事でもないんだけど。こうしてせっかく異世界から召喚して審査員を引き受けてくれたんだ。だから私が【女王の座を目指す理由】でも話そうかと思ってさ。本当にそれだけなんだ。なっ? すぐに終わりそうな話だろ?
――うんうん、なるほど。なんていうか僕も丁度そこが気になっていた所でさ。どうして君達が女王になりたいのかっていう【動悸や目的】を純粋に知りたかったんだ。流石にそれぞれの野望くらいは審査員としては知っておきたいからね。だからそっちから話してくれるならありがたいよ。
――おう! ただしヴィクトリアとメアリーに関しては私もよく知らないし、あんまり深入りはしないようにしてたからな。それについてはまたお前が自分で二人に聞いてくれ。じゃあ話すぜ。
――ああ、頼むよ。
――よし、じゃあまずはだな……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「………………ルド」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「………………ナルド」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「おいレオナルド! 聞いてるのか!」
「えっ!? あっ、はい! えっ? あ……あああイザベラ女王ですか……どうかしましたか?」
……僕は思い出していた。
「いや……どうしたもこうしたも、お前が虚ろな目をして遠くを見ていたからな。何かあったのかと思ってな。一体どうしたんだ? 疲れか?」
「いいえ……大丈夫ですよ、ははははははは」
「ふむ、そうは見えなかったんだが……」
ふと……昨日の夜に聞かされた彼女の本音。
姉妹の長であるマティルダが勇気を振り絞り僕に打ち明けてくれた彼女自信が【女王という国の頂点を目指す動悸】についてを、
「ええっと……それで何の話でしたっけ?」
「お……お前なあ。本当に大丈夫か?」
正直この状態が良くないのは分かっている。
別に物思いに耽る事自体は悪いというわけじゃなくて、一番の問題は今こうしてマティルダの言葉を思い出して思考停止していた事にある。
(くそ……流石に普段見せない様な“あんな顔”で話を聞かされたら少し考えちゃうよ……)
責任ある審査員が情に流されるなど許されない。
たとえ昨晩聞かされた彼女の意思がどれ程“立派だった”としても競い事で決着をつける以上、僕は公平に審査をして女王に相応しい人物を選定しなくてはならない……だから。
「えっと……そうだ確かこの【レバー】の説明でしたっけ? 何かさっきイザベラ女王が話していた内容と合わせると強制退場の時に使うとか――」
だからこそ! 今は心機一転!
マティルダの強い意思については片隅に残しつつも、今は120%思考を切り替えて競儀の事に集中するんだ! そうしないと審査なんてとてもやってらんないからねっ! さあ、集中集中!
「ああ、そうだったな。実はそのレバーは年に一度だけここで開催している超人気にして建国時よりの伝統的なイベント【細かすぎて伝わらないモンスターのモノマネ大会】に使用している“落下セット”のレバーなのだ!」
「………………はい?」
「だからだな! そのレバーを引いた瞬間に選手の足もとがバッと開いて、いきなり“会場から落下”して【強制退場になる】というわけなのだ!」
「要ります!? そのシステム!?」
しかも何!? 細かすぎて伝わらないモンスターのモノマネ大会って一体何なんなの!? 誰がそんな酔狂なイベントを思いついたの!? ってか建国時からって歴史古すぎませんっ!?
「ふむ、実はこの落下システムが中々に好評でな……つまらない時や全然似てない時は勿論なのだが何よりもスッ! と突然選手が消えるのが非常にシュールでな! 観客達もそれで笑うのだ!」
だからって使用しないでくれません!?
どうしてこんな正式な儀式に笑いを持ちこもうなんて思ったの!? あれですか! 初代女王はただの道楽者だったんですか!?
「まあまあ……落ち着けレオナルド。そういきり立たずとも私だって別に悪ふざけで導入している訳では無いのだ。あくまでこれは保険だ。あまりに酷いアピールなどをした者に対するペナルティとして用意されているだけだ。例えば歌が酷すぎて周囲が混乱状態になる時とかだな! ちなみにかつて競った私の姉上はそれで落とされたぞ!」
「それどんだけ酷い歌声だったんですか!?」
と、まあ今はどうにかこんな感じで……、
「うーむ……あれはもう思い出したくないな。なんというか姉上のあの歌声はもう絶望的と言うか、改善のしようがないというか。一つ歌えば全ての赤ん坊が一斉に泣き叫び、二つ歌えば国民が次々と発狂し、三つ歌えば他国が無条件で降伏する……とにかくそんな感じの破滅の歌声だった……」
「すいません! 逆に全然想像がつかないんですけど!? 逆に一体どんなダミ声で歌えば人を絶望の底に叩きおとせるんですかっ!?」
「ハッハッハッハ! まあとにかく、娘達が何かとんでもないアピールをする様なら遠慮せずに落としてやってくれ! 躊躇は要らんからな!」
「……出来るだけ使わない事を祈ってます」
イザベラ女王のお姉さんの歌声に興味を惹かれつつも、僕は一旦マティルダの言葉を思考から外し奇妙な緊急用の退場システムを使わない事を祈って僕は審査に勤しむ事にするんだった……。
※前話の文章の一部を修正&変更しました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は明日投稿予定です。
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