6.レオナルド君は【万能】を使うようです
【創造系スキルとは、時には世界の理をも超える可能性すらあるとんでもないスキルである】
【まず、創造系スキルとはその名称の示す通り。
何かを《作りだす》《生み出す》といった類に他ならないわけなのだが……残念ながらこの力を例は非常に珍しいらしく、悔しい事に博識王の私ですらこの力を持つ存在に出会った事が無い。
その為、ここには噂程度で聞いた説明を記していこうと思う。
さてまず一言に生み出すと言っても無から発生させるのでは無く、あくまで常に材料等の制約などが付き纏う。よって仮にこんな創造能力があっても《生み出す》なんて非常に不安定であり、失敗も多いと判断出来る為に持て余してしまう場合が考慮される。
だが……けれども、もし。
この創造能力と併用して必要な材料を瞬時に見極める力があり、尚且つ制約無しで生み出す的な。
材料など無いのに完璧に創造する能力などがあれば、この世界における様々な制約を無視して凌駕する真にとんでもない能力に化ける事だろう。
まあ……最後に補足で付け加えるとするなら、あくまでこれは机上の空論に過ぎず妄想の領域を出ない不確実な内容の為。この情報は私の夢物語の一つとして記憶する程度で良いと考える……】
~ガリヴァ―書房刊『スキル知識・最上級編』の最終項【創造スキルという神業】より引用~
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異世界ピースワールド。
魔界エリア最北端、絶望谷の魔王城跡地。
「情報としては、この設計図と崩壊前の魔王城の姿を写した写真となる。材質等は申し訳ないが全くだ。職人達を呼べば分かるだろうが……」
「いや、良いよ良いよ。崩壊したとはいえ材料の破片とかはまだ残ってるしね。ひとまずこれらの残骸を使って色々試してみる事にするよ」
……闇の大魔王ルシフェルに誘われるままにレオナルドがたどり着いたのは、流石魔界と称させる地帯であり空は禍々しい暗色の雲に覆われ、大地の色も似たような毒々しい色を持つ世界。
「それにしても、予想以上に酷い崩れ方してるね……アンタの配下の魔物は無事だったのか?」
「ああ、それなら大丈夫だ。丁度、目付け役を除いた全ての魔物達には南の島にバカンスに行くように命じておいたからな。今頃は砂浜でバーべキューでもしているのではないか?」
「理想の上司か!? 大魔王とか言ってたけど、やっぱりアンタ、根は良い奴だよね!?」
そうしてレオナルドは現在その魔界の中でも、刺々しい谷の頂上に建造されていたであろう魔王城の跡地でそんな和やかな会話を挟みつつ、
「うーん……とりあえずは……そうだな」
彼は今では瓦礫の山と化したその廃墟。
勇者パーティーが使用した爆発呪文により、大きく抉られ崩れきっていた城の周囲をぐるりと一周して見て回っていたのだった。
「どうだ? 我輩の城は何とか出来そうか」
「少し待ってね……」
ぐるぐる、ぐるぐると。
レオナルドは顎に手を当てつつ、一度沈黙後。
意識と視界を廃墟にのみ集中させ、城の周りを2・3周ただ静かに巡回していった。
「レオナルド、いけそうか?」
「……ああ、何とかなりそうだよ。じゃあ、まだ原形の残っているこのレンガを使うとしようかな」
そうすると、やがて沈黙を破るように大魔王が心配そうな声を向けてくる最中。
レオナルドは現場に残っていた城の主な建材となるレンガを一つ拾い上げ、手に持つ。
すると……。
「ユニークスキル【万能―鑑定】を発動」
そう、小さく口すさんだのだった。
すると! その直後だった!
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【魔王城のレンガ】……魔王城建設の際に用いられ、丈夫さに評判がある材質で構築されたレンガ。
【材料】・暗色の魔砂 素材ランク☆2
・暗黒魔粘土 素材ランク☆3
・死火山の灰 素材ランク☆2
【特徴】……魔界の素材で製造された影響により闇の力を含んだ特殊なレンガ、同種のレンガと組む事によりすぐに接合する他、耐久度が増す。
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……などなどレオナルドがスキルを発動した途端、未知なる異世界の物体の筈だというのに!
その詳細が浮かび、単なる概要だけではなく、材質に至るまで全てが明らかとなったのだ。
だが彼の【万能】は《こんな鑑定能力》だけで、語れる能力などでは決して無く。
(ふむふむ……どれも素材ランクが低そうみたいだし。【この程度の素材】ならあっという間だろう。それじゃあ、鑑定しているイメージも固まった事だし、すぐに取りかかる事としようかな!)
「【万能―複製】を発動」
その能力の異質性は直後に起こる!
「うおおおおおおおおおお!?」
それは流石の大魔王ですら驚愕する光景。
ガラン! ガランガランガランガラン!
ガラガラガラガラガラガラガラガラ!!
と、そんな次から次へと留まる事を知らず。
連続的な落下音をあげながら、怒涛の勢いでレンガを大量に生み出していくのであった!
「我が魔王城のレンガが増えているだと!?」
レオナルドの手元のレンガが光ったと思えば、まるで分裂でもする様に今も際限なく増殖。
「【複製】【複製】【複製】【複製】ディプ……」
城復興に不足していた材料が増える増える。
彼が一言、複製と唱えるだけで素材が急増。
さらに、速度も凄まじい事ながら数も同様。
複製されたレンガの数は1から10へ、
「……【複製】【複製】【複製】【複製】【複製】」
そしてその10はいつしか100ヘ、100から1,000へ、1,000から10,000へと……。
大魔王が瞬きする一瞬だけでも総数が膨れ上がり、次々と材料の数を増やしていったのである!
「【複製】【複製】【複製】ディッ……ああ、しまった噛んじゃった……【複製】【複製】【複製】と」
「わ……我輩は幻覚でも見ているのか……」
本来のレンガ製作ならば複数の工程。
素材の粉砕や練り合わせる工程【素材加工】
その名の通りレンガの形を整える【成形】
成形した土を数日かけ乾燥させる【乾燥】
乾燥させた生地を窯の中に並べる【積載】
そして最後にレンガを焼き上げる【焼成】
そんな羅列するだけでも面倒な工程を数日に分けて行い、ようやく生み出されるのがレンガという建材の筈なのだがレオナルドにとっては、
「ふう……とりあえず、城の外観も軽く【解析】して。まずは土台や壁を作る分に必要そうな【50,000個のレンガ】を複製しといたからね!」
複製というたった言葉一つだけで終わらせた。
手に持ち、少し念じただけだというのに、
「なっ!? ななななななっ!?」
「流石にこれを組み立てるのは任せるよ。まあ一応、やろうと思えば【建築】も出来るけどね」
「なんだと!?」
ものの数分でレオナルドの傍にはもうとにかくレンガ、レンガ、レンガ、レンガの山。
もう場を埋め尽くさんばかりの建材が揃っていたのだった……。
「でも僕は【万能―内装把握】で玉座とかベッドとかの、失った家具を調べて全部【復元】する作業に、残ってる魔力を全振りするから。頼むよ」
「へっ……はっ……えっ? ああ……」
レオナルドは勉強熱心な人物だった。
その為彼が『天の箱舟』にいた頃。
周囲のメンバーと比較して力で劣るなら、せめて技術面で勝りパーティーに貢献しようと奮闘。
常日頃から多くの技術を学び実践した結果、【錬成】【鑑定】【錬金】【調合】……etcと多岐に渡る幅広い知識を身に着けていたが故に、こんな特殊なスキルを発現。
(でも、やっぱり使ってみると本当に便利だな。流石に素材ランクが高すぎるアイテムとかが創造出来ないだろうけど……まあ、そこは別に良いか)
成長限界となった途端に覚醒し、その技術全てを軽く網羅する職人泣かせの【万能】という、主に戦闘外で役立つ能力を開花させていたのだ……。
「レ……レオナルド……貴様は一体……」
「只の“雑用係”さ。但し世界最強のだけどね」
と、そうして……軽く。
次の作業に取りかかろうとするレオナルドは、今も背後で慄く大魔王にそう返すのだった……。
次話、明日の30日の15時にて更新。