68.胃袋を掴めば勝ちのようです part4
「さあ、お召し上がりください!」
毒沼。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
それが真っ先に浮かんだこの料理のイメージだ。
さらに言えば同時にその単語一つで説明が終わってしまえるぐらい、得体の知れない【料理の形を真似した物体】が僕の前で静かに蠢いていた。
「ブツブツ……神よ……今までロクな事をしてこなかったが……どうか今だけ……今この瞬間だけ……このイザベラにお慈悲をくださいませ……」
さらにそんな隣から女王の懺悔が聞こえる中。この料理?の簡単な外見説明として、まずは今もなおボコボコと泡を立てている紫色のスープ。
次に具は白目をむいて浮かぶ魚だった食材。
食欲を無くすような配色のキノコや薬草とか、
「おや、どうされたのですか? レオナルド様、イザベラお母様。スプーンが止まっている様ですが……早く召し上がらないと冷めてしまいます」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
それで挙句の果てに目を惹くはこの【腕】だ。
猛禽類の腕っぽい不気味な食材が件の毒色スープに突き刺さっているなど、とにかく見た目の説明、ツッコミ所を追うだけでも一日かかりそうなトンデモ料理が鎮座していた間で僕は思わず、
「メアリーさん、メアリーさん」
「はい、どういたしました?」
この“料理”とは認可し難い暗黒物質。
食材が死屍累々の如く浮かんでいる、ある意味毒沼をも凌駕するまでに……グロテ……インパクトのある料理の見栄えだからこそ……僕は頑なにスプーンを握ったままでこう尋ねてみた。
「これ……食べなきゃダメかな?」
至ってシンプルな質問だ。
最早いただきますという感謝の言葉なんかよりも、ゲテモノ料理で葬られそうになる己の命を優先しどうにか逃げ出そうと試みた……けれども。
「勿論ですわ、さあ早く食べてみてください!」
ごめん、普通に無理だった。
ある意味強敵とかとの戦いと同じで【この戦いからは逃げられないぞ!】みたいな具合で審査員席から逃げだす事は僕には許されなかった……。
いや、それどころか!
「ほらほら、どうか遠慮なさらずに」
んあっ……やめてっ!
お願いですから僕の口元に笑いながら得体の知れない不気味な食材を近づけないでください!
……ってか何なんですかこの食材は!?
この人面ニンジンみたいな食材は何なの!?
「ああ、これですか。これは【ヘルマンドラゴラ】という食材なんです! 見た目は“少しアレ”で切った時にけたたましい断末魔が聞こえますけど、滋養強壮、体の免疫力を上げるのにもってこいの食材で調達するのに苦労したそうです!」
「ええっ……じゃあこの突き刺さってる腕は?」
「豪力猿の腕です! 以前訪問させていただきました異国の地では珍味とされていて、爪や腕の筋肉など何処を食べても元気になると伝えられているそうなので、食材として選ぶ事にしました」
「じゃ……じゃあ、この浮いてる白目の魚は?」
「それはゾンビフィッシュですね! 腐臭に似たとんでもない臭みはありますが、専門家の話では頑張って食べればまるで死んでも復活するゾンビみたいな生命力が得られるとかで早速――」
ヤバい、どうしよう……。
これ以上聞くの怖くなってきた。
「じゃあこの……もの凄い色のスープは?」
「はい! 具材との相性、健康面を考慮し赤ワインをベースとして色々混ぜ込んでいきました!」
「聞くのが怖いんだけど……色々って?」
「そうですね……牛乳は勿論、魚介スープ、肉汁など数十種類の美味で健康的な物を混ぜていき、中でもワタクシのお気に入りは【青汁】というとても苦いですが、とびきり健康に良いという緑色の飲み物もたっぷり入れました」
おおっふ……なるほど。
どおりで変な臭いもするわけだ……。
って言うか今更だけど何でもかんでも混ぜないでくんない!? いくら健康に良い物ばかりだからって全部混ぜたら味もへったくれもあるわけないでしょ!? せめて一回味見くらいし――
「その……僭越ながら調理中に味見もしたのですが、とても美味しかったですよ? ヘルマンドラゴラも……腕の肉も……ゾンビフィッシュもスープも……とってもとーっても美味でした」
あっ……これはダメなやつだ。
まず“病んだ目で腕の肉が美味しい”とか言う狂気じみた爆弾発言もハンパなかったけど、これは完全に【味オンチ】っていう最悪のパターンだ。
味覚そのものが壊れてるから絶品でもゲテモノでも等しく美味いと感じてしまう【料理人に備わってはいけないランキング№1】の素質ぅぅ!
「じゃあ……最後にこの【鉄】っぽいのは?」
「はい! それは仰る通り【鉄】ですわ!」
「…………………………はえっ?」
「ですから鉄です! アイアンです!」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ちょっ!? は!? えっ嘘だよね!?
なんで鉄塊が料理の中に入ってるの!?
まさか出汁にでもしてたんですか!?
「その……色々と不足しがちな“鉄分”を補おうと思いまして……野菜とかよりもこっちの方がたっぷり含まれていると考えたので投入しました」
はいアウトォォォォォォォォォォォォォ!
お願いぃぃぃ! 誰か誰かぁぁぁぁぁ!
誰でもいいからこの人に鉄分の意味を教えて!
鉄分という栄養素の意味はき違えてるからって誰か教えてあげてくださいぃぃぃぃぃぃぃ!
「ですからワタクシとしてはこの料理を召し上がった方に健康になっていただければと思い――」
いやまず食える物入れてくんないかな!?
いくら鉄って文字が入ってるからって今までどんな知識を学んだら【鉄そのもの】を食材として鍋の中に放り込む思考に繋がるんですかっ!?
百歩……いやこの際百万歩くらい譲ってマンドラゴラや腕とかごちゃまぜスープを食べ物として認めるとしてもこの鉄だけは認められないよ! 不可能だよ!
「ねぇ審判さん! これは流石にアウトだよね! 鉄とかいう明らかに食べられない物体を入れてるんだからこれは流石にアウトですよね!?」
《そ……それは……》
お願い! 審判さんアウトって言って!
本人には悪いけど退場扱いに!
《……レオナルド様。誠に残念ですが……今回の料理におきまして、メアリ―様は『ルール通り』に全ての食材を見事に使いきっておられますので……本当に……誠に残念ですがルール違反という形での退場は認められないという結果で――》
嘘だっ!
いやまあ確かに違反はしてないけどさ!?
こっちが完全に“胃反”しちゃってんだよ!
僕達の胃袋が料理を拒絶してるんだけど!?
完璧に“胃”に反しているんですが!?
「レオナルド……覚悟を決めろ。私は出来てる」
「いい、嫌だ……絶対に毒だって分かってるのに食べさせられるのは嫌なんですけど……」
そう僕は何かを悟りきったイザベラ女王に向けつつ、頑なに料理を視野に入れないように頑張っていたんだけど…………まあそれでも結局は、
《で……では実食願います!》
「レオナルド……頼むっ! この通りだ!」
「イザベラ女王やめて! そんな死にかけの仲間が遺言を残す時みたいな苦悶の表情で言わないで!? ううぐぐぐぐぐぐぐ……わ、分かりましたよ……食べればいいんでしょ! 食べれば!」
こうして……食べる羽目になるのだった。
本音を言えば本当に嫌だけど……冗談抜きで今すぐ逃げ出したい位にマジで不本意だったけど……依頼を受けた身として僕はスプーンを動かし、
「じゃ……じゃあ、いただきます……」
正直全然いただきたくも無いけど、僕は勇気を出して器に盛られたスープをほんの僅かだけすくって、たった一口だけ含んだんだ…………。
「………………、………………!?」
すると!?
―― ―― ―― ―― ―― ――
「……………………………………」
ハッキリ言って深くは覚えていなかった。
「メディック! メディーック! 早く誰か! ええい! もう誰でも良い! 誰でもいいからありったけの毒消しを持ってこい! 一刻も早くこの顔が“変色している”レオナルドを助けろ!」
ただ……スープを飲んだ直後、僕は自分でも分からないくらい凄まじい奇声をあげた直後に卒倒し、生と死の狭間を彷徨っていた事は覚えてる。
「イザベラ様は大丈夫なのですか!?」
「ああ、何とかな……とにかくレオナルドを!」
「ダメです! 泡を吹いて息をしていません!」
「ええい! 解毒薬でも強心薬でも何でも構わん! 城中の薬品や薬草を使って蘇えらせろ!」
そんなイザベラ女王達が慌てふためきつつ、常駐していた医者全員を呼びよせる声が響く最中で、
(もう……二度と受けるか……こんな依頼)
僕はほんの僅かな意識さえ遠のく……あの世とこの世の瀬戸際を彷徨いながら……脳にトラウマを植え付けられたんだった……ガクッ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は明日投稿予定です。
正午以降【直接投稿】致します。
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