52.特製ポーションにはご用心!のようです part2
「本当に子供になった気分だ……」
小っちゃなお手手に短い両の足。
本当に確認すればするほどに悲しくなってくる。
「あと、まさか僕の留守中にアンタがうちに泊まりに来てたとは……呼んだ記憶ないんけど?」
結局、僕が【幼児化】したこの件についてはユニークスキルである【万能】は一切関係なかった。
いや、むしろそれどころか――
「まあまあ、そう硬い事は言いっこなしですヨ。にしてもレオナルドさん……くっ、くくくくくくく! アハハハハハハハハ! まったくお笑いですネ! そんな見事に縮んじゃうなんテ! アハハハハ! ダメ! お腹がよじれまス!」
「小さくなっても……私は大丈夫。レオナルドはレオナルドだから……私は受け入れる」
「犯人が大声で笑うな! この研究馬鹿野郎が! あとエミリアも呑気に僕の観察してないでコイツ追い出すの手伝ってください!」
犯人は目前にいた。
前に座ってムカつく笑いを決め込む男の名前は【ドクター・ルドルフ】。
後ろに纏めた銀髪に丸眼鏡を付けた白衣の男性で、一言で例えるならいかれたマッドサイエンティスト。あとは歩く薬品庫とも言えるかな。
「まあまあ……プププ、落ち着いテ。実は【新ポーション】の調合中に家が吹っ飛んしまいましテ。でも知り合いは誰も宿を貸してくんないので困ってたら、買い物中のエミリアちゃんに遭遇しテ、こうして一泊させてもらいましタ!」
いかにも科学者と言いたげに汚れた白衣を纏うルドルフは笑いをまだ浮かべつつ、僕の家に宿泊するに至った経緯を呑気に告げていく。
「ごめんね……レオナルド。博士……泊まる所無いって言うから……ここに泊めたの……昔の好で悪い人じゃないの知ってたから……」
「エミリア、悪人と畜生は紙一重だよ。コイツはただの畜生だからね。クエストで命を救った僕達にすらヤバいポーションを渡す野郎だし――」
「おーおー、流石レオナルドさんですネ。幼児化しても口の悪さは相変わらずのようです!」
まあ……それで内容から察するに、何だか嫌な予感がしてくるんだけど実際は予想通りだ。
「でも……まさかコレを一本全部飲んでしまうとハ。確かに飲みやすい様に味をオレンジサイダー風にしたので、まだ分かるんデスガ――」
それでルドルフの話によると、僕が昨日お酒と思って丸々飲んだボトルの中身はどうやら【若返りのポーション】だったらしく――
「本来なら試験管に入れて飲む量なんでス。それを全部飲んじゃうなんて、このルドルフ、ビックリしましたヨ……もぉう……本当にレオナルドさんたら、欲張りさんなんですかラ!」
「テメェ! その眼鏡叩き割ってやろうか!?」
「おーおー、小さくなっても威勢だけは変わらないですネ! でも今のレオナルドさんのお子ちゃまパンチでこの防弾仕様のレンズを割れるとは思えませン! 故に一ミリも怖くないですヨ!」
このマッドサイエンティスト曰く。
一本全部飲んでしまった影響で僕は10歳ほど若返ったらしい。
元々は若さの為なら幾らでも金を落とす貴婦人用にこしらえたらしく、昨日僕がジュースと間違えて飲んだそれが完成した試験薬だったそうだ。
「ってか、なんでそれをボトルに入れたの!?」
しかもどこかに保管する訳でもなく、テーブルの上にほったらかしにしやがって!
「そもそも貴重なサンプルなら管理ぐらいちゃんとし――」
「ああ、ちなみに私がこのボトルに入れた理由ですガ……なにぶん出来たての薬なもので試験不足デ……誰でもいいからモルモ……ゴホン、どなたか被検体になっていただければと思いましテ――」
「おい待て! 今、アンタ実験体って言おうとしませんでした!? アンタには一宿恩義ってものが無いのか!?」
「いやあ……アハハハ! 実はエミリアちゃんが君用に夜食を作っている所を見ましてネ、どさくさに紛れて傍に置いたら勝手に飲むかなぁって……そしてらBINGO! フーッ! やっぱり天才である私の実験は大成功ってワケですネ!」
「キサマアアアアァァァァァァァァァ!」
くそ、どこが天才だ!? こんちくしょう!
どう考えてもアンタはただの天災だよ!
関わった周囲の人間にろくでもない災いを巻き起こすトラブルメーカーそのものだよ!
「まあまあ……とにかく落ち着いて、カッカッせずに貴方も座って話を戻しましょウ。それにそんなイライラしてたら健康に悪いですヨ!」
「誰のせいでキレてると思ってんの!?」
まったくどの口がほざいてんの!?
肉体に影響及ぼす薬品作ってる奴なんかに言われたくないし、あとなんで僕が悪いみたいになってんの!? せめて犯人なら犯人らしく自覚を持ってよ!?
「レオナルド落ち着いて……私は気にしないから……むしろ小さいレオナルドも……ポッ」
「エミリアさん……頭ナデナデしないでください。なんか悲しくなるから。駄々こねてる子供をあやしてるように見えるから勘弁してください」
「ほらほら、エミリアさんの言う通りどうか落ち着いてくださイ。私の失言についてはちゃんと謝りますかラ。とりあえず、ほら仲直りの印にお気に入りのキャンディーあげますかラ」
「マジで子供のワガママみたいに片付けようとするの止めてくんない!? イライラするから!」
と……言いつつも確かにわめいても仕方が無い。
僕は隣に座るエミリアの大きな手に頭を撫でられつつも、ひとまず一つ息を吐いて、
「ハア、分かったよ。本当に世界中のポーション研究家が君みたいのだったら僕が討伐クエストを出してるところだよ……まったく」
「アハハハ! これは手厳しい!」
どうにか冷静さを取り戻して、発した。
まあ、過去にコイツが作った変身ポーションのせいでメンバー全員がスライムにされて一週間の間、洞窟を彷徨ってた時に比べれば軽いもんだ。
それに……よくよく考えれば別段そこまで困る話でもない。だって今の僕には――
(自分の体を診るのも変な気分だけど、【万能】を発動して僕自身を診察すれば元に戻れる方法くらい模索できる。一番の問題はどの方法で戻るかって事だけど)
そうだ。別に焦らなくても今の僕には頼れる“ユニークスキル”があるんだから大した問題では無い。
特殊な材料こそ使うかもだけど【万能ー超調合】で《打ち消しのポーション》を作るも良し、あるいは【万能ー清浄】とかで体内から《ポーションの効果を消す》とかでも解決出来るだろう。
「おやレオナルドさん、どうかしましたカ? 急に黙り込んだりしテ。もしかして諦めて私の実験に付き合って――」
「ふんっ! これ以上、君の新薬のオモチャにされてたまるか! さあ気が済んだら早く身支度整えて出て行くんだね!」
「おヤ? それでイイんですか? 私がこのままこのよろず屋を去ってモ。貴方を素早く元の年齢に戻せるのは私の特製ポーションだけですヨ?」
「大丈夫。僕の能力で戻れるから。だから――」
だから解決方法が分かった以上。もうエミリアに子ども扱いされない為にも、この実験大好きな天災博士には早々にご退場願――
「ああ、ちなみに先に忠告しておきますが……貴方の【万能】とやらは使えませんヨ」
「……へっ?」
…………………………。
……………………………………。
はっ!? いけないいけない。
思わず変な言葉に遮られて思考が止まってた。
なんかチラッと不穏な言葉が聞こえた気がしたけど、きっと僕の気のせいだよね?
「エミリアちゃんに聞いた所。貴方がユニークスキルに目覚めたのは最近になってと聞きましタ。つまり……たとえ貴方の頭はそのままでも、肉体内で覚醒した能力は消えちゃってるってワケですかラ。私が【成長のポーション】を作る以外に戻る手段は無いってワケでス……残念ですネ!」
「なななななな……なんだとぉぉぉぉ!?」
最悪だ!
聞き違いなんかじゃなかった!
えっ、嘘でしょ……じゃあ僕が元に戻れるかどうかの鍵を握ってるのは――
「まあ、任せてくださイ! このポーション博士ことドクター・ルドルフがちゃんと責任もって作りますかラ! だからレオナルドさんは私のドロドロの泥舟に乗った気で待っててくださイ!」
「出航前から沈みそうな発言するな!」
この頭のネジが吹っ飛んだ……いや、
「では、今日から私の事は【パパ】、エミリアちゃんの事は【ママ】と呼んでくださイ! その方が雰囲気出ますシ。あとレオナルドさんの恥じらう姿も実験の観測対象として視てますからね!」
「テメェ! 絶対に僕を治療する気ないだろ!? ふざけんな! 完全に実験動物として観測する気満々じゃないか! ボロ雑巾みたいにされて追い出されたくなかったら、黙ってアトリエで成長ポーション作ってこいっ!」
「はいはい……で、お代はいくらですカ?」
「金取る気!? 人をこんな姿にしといてどんな思考回路してんだ!? アンタって奴は!?」
「こらこらレオナルド……怒っちゃダメ……怒るのなら私の……ううん、怒るのなら【ママ】の胸の中でいっぱい怒るの……分かった?」
「エミリアもどさくさに紛れて便乗しないで!?」
生まれる前にネジを自分で千切ってきたみたいな。
もはや母親の胎内に捨てて来たみたいな奴に託す羽目になるんだった――




