51.特製ポーションにはご用心!のようです part1
「ふぅ、随分と遅くなっちゃった」
僕は独り言を呟きながら自分の店のドア。もといマイホームの扉を捻り屋内に足を運ぶ。
出かけてからほんの十数時間だというのにどこか懐かしさや安心感を覚える家の中に、
「……エミリアには明日の朝に謝ろうっと」
ひとまず僕は疲弊した肩の筋肉を未だに酷使する荷物の塊。
遠征で入手した素材とかを大量に詰め込んだ袋を店のカウンターの脇に置いた。
「でも、まさか【危険度SSランク】のバイオキングに遭遇するなんて……僕もツいてないや。どうにか倒せたから良かったけど素手で戦うには予想以上に時間がかかっちゃったよ……」
そうして僕は軽くなった肩を軽く回して自分の不運に愚痴を溢しつつ、暗がりの中で月の光と夜目を頼りにしながら、足先をリビングへ向ける。
「……何か食べないと。お腹ペコペコだ」
目的はもちろん食事だ。
風呂にも入りたいところだけど、まずご飯。
昼食から長い時間が経過し、疲れと空腹にまいった僕はリビングの明かりをつけて様子を確認していく。
「おっ、あれって……まさか」
すると、リビングのテーブルの上には、
【レオナルド。遠征お疲れさま……帰りが遅そうだったから……サンドイッチを用意したの……その、お腹空いてると思って……お肉いっぱいのサンドイッチを作り置きしておいたの……だからお腹いっぱい食べてね。 ~エミリアより~】
「いつもありがとう、エミリア」
相棒の女の子であるエミリアが書き残してくれた温かいメッセージと共に、僕は件のサンドイッチが入っているであろう傍にあった籠に手を伸ばし中身を確認した。
「おお、これは嬉しいや」
メッセージカードの通り。
時間も経って冷めている筈なのに、まだ香ばしい香り纏う太いビーフが挟まれた見るからにボリューム満点のサンドイッチが入っていたんだ。
「あと……あれは?」
あと、それからもう一つ。
美味しそうなサンドイッチが入った籠の蓋を一旦閉じた僕は、次に机の端に置いてあったある【一本の瓶】に目を留めて近づき確認していく。
「うーん。誰かの送り物かな?」
一言で言えば酒瓶に似ていた。
加えて手に取って見た感じだと銘柄を見分けるラベルも無く、代わりに赤く可愛いリボンが結ばれた中身入りの変わったボトルがテーブルに置いてあったんだ。
「見た感じだと中身はやっぱりお酒かな? いつもならエミリアにお酒はダメッ! って怒られるとこだけど……もう寝る寸前だし、丁度飲み物も欲しかったから少しだけ貰おうかな?」
と、僕はそんな具合にあと控えている事と言えば食事と風呂だけだからと、敢えて瓶の中身が酒かジュースかとかいう特定もせず、
グギュルルルルルル…………。
「おっとと、お腹がすごい鳴ったね。まあいいや、今日はこっそり飲む事にしよう!」
すぐに食べ物にありつかない僕へ胃袋の方も業を煮やしたのか、早く食い物を消化させやがれと腹を鳴らし急かし始めきた事もあって、
「エミリアありがとう。君の気遣いに感謝しながら美味しくサンドイッチを食べる事にするね。それじゃ……いただきます」
大切な相棒に感謝の念を送りながら、用意してくれた豪華なサンドイッチにありつくのだった。
もちろんさっきの飲み物も度々交えながら――
―― ―― ―― ―― ―― ――
深夜に物を食べると太るぞって注意されそうだけど、今日の空腹に限っては勘弁して欲しい。
「ふう、美味しかった……」
肉、肉、肉、肉!
そう男の胃袋にガツンと訴えてくる絶品サンドイッチを前にして、空腹状態だった僕は次から次へと口に入れては頬張っていき、気が付けばあっさりと完食した。
「もうお腹いっぱいだ……」
もし欲を出せるのなら出来たてを食べたいところではあったが、多少冷めていても質は維持。
太く切り落とされた肉はまだ柔らかく、包んでいる薄切りのパンも充分に味が染みていた。
まあ、だからなのか二人前に匹敵しそうな量のサンドイッチをあっという間に平らげてしまったワケなんだけど…………とにかく、
「結局、誰の贈り物か分からなかったけど。勝手に飲んだらダメだったかな?」
続けてテーブル端に置かれていた瓶。
さっきのラッピングされていたリボン付きのボトルの中身は柑橘系の炭酸飲料だった。
柑橘系の僅かな甘味と炭酸が加わった味で肉のボリューム感と丁度合い、さらにジュースの様な軽さもあって僕は全部飲みきってしまっていた。
「アルコールの感じは無かったから、お酒じゃなかったみたいだけど。でも勢いに任せて全部飲んだのは失敗だったかな……」
ラベルが無いのは気になる所だけど、わざわざ机の端に分けて置いていた代物だった以上。ひょっとしたらエミリアが飲む予定だったのかも――
「ふわあああああああ……まあいいか。もしエミリアが怒っちゃったら素直に謝ろう。それで一緒に代わりの飲み物を買いに行く事にしよう」
まあ……でも、後悔あとに立たずという言葉があるように、飲んでしまった物はどうしようもないし、怒られるならば四の五の言わずちゃんと謝るだけ!
「よし。それじゃあ今日はもうお風呂に入って寝ようっと。お腹いっぱいになったら……ふわあああああああ……眠くなってきたしね」
だからそのまま僕は深夜の風呂で汗を流し、寝巻に着替えた後は自室にてすぐに夢の中。
まるで睡魔にでも襲われたかみたいに瞼が急激に重くなって眠るんだった。
でも……この時の僕は知らなかった。
この一連の行いが次の日にまさかあんな惨事を引き起こすきっかけになんて思いもせずに、僕はただ疲労に身を任せて眠りの世界へと落ちるだけだった――
―― ―― ―― ―― ―― ――
翌日。
「う……うぅん、もう朝か」
思い返せば“明確な点”は複数あった。
でも、朝一の僕は残念ながら核心を突く訳どころか疑いもせずベッドから身を起こすと、
「ふわああ、よぉし……起きよう」
まだ意識の一部が寝ぼけて感覚が鈍いまま、ボケッとしつつも体をベッドから降ろし顔を洗ってさっぱりしようと扉の元へと足を動かす――
「うん?」
その途端だった。
本来なら【起きた時点】で色々気が付くはずだけど、僕は自室のドアノブへと近づいた場面でようやくその違和感に気が付いた。
「……あれ?」
違和感を一言で言うならばデカかった。
まるで扉が巨大化でもしたかのようにドアノブが妙に遠く、僕の頭を軽く超える高さから見下ろしてたんだ。
「まさか僕、また何かやらかしちゃったかな。前にもこんなおかしな事あったし――」
けれども、僕はまだ“自覚”が無かった。
子供がする寝小便と同じくたまに睡眠中に無意識でユニークスキル【万能】を発動して、ベッドに【飛行能力】を付与して起きたら宙を舞っていた事とかもあったからと、
「まあ朝からウダウダ言っても始まらない。早くこの部屋を出て、エミリアに何か他に迷惑かけてないか聞こう。話はそれからだ」
まだボケーっしつつ、僕はとりあえずそう強引に違和感の原因は自分のせいだと、
「まったく……便利な能力だけどイマイチ使いこなせてない感じがあるんだよね。強力な能力だからこそ扱いにくいって事なんだろうけど」
僕は早合点もいいところの雑な解答へ思考を行きつかせ、とにかくこの家具のサイズが全て1ランク大きくなったみたいな奇妙な自室から出るべく、
「まずはあの椅子を持ってこよう。それならドアノブに余裕で手が届くからね」
僕は手のギリギリ届かない件の巨大ドアから振り返り、立てかけた鏡の傍にある木製の椅子へと焦点を合わせて足を動かしていった。
「本当に僕は睡眠中に何を――」
だが、ついに僕は【現実】と直視する。
「鏡まで大きくなってるよ……僕ってば何をやらかし――」
あともう少しその“小さい手”を伸ばせば目的の椅子に届くという距離にて、どうした経緯からか見当もつかないが大きくなった鏡に目をやった…………その瞬間!
「…………へっ?」
僕は鏡に映った己の姿に目を疑った。
「へっ? へっ? なにこれ……嘘でしょ、嘘だよね? 嘘ですよね!?」
思わず驚愕せざるを得なかった。
だってその鏡には――
「うそ、僕……小さくなってる!?」
まさかの【幼児化した自分】が映ってたんだからっ!!!




