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4.どうやら住まいの事でお困りのようです


【異世界とはその名が示す通り、異空間に存在するという《別世界》の事を指す名称である!】

 

【私が片手間で続けた長年に渡る調査の結果。どうやら……我々が足を付けるこの世界は、特異な磁場の元に成り立っている様であり、中でも極稀に《時空の穴》という物が出現するというのだ。


 例として私が体験した時空の穴の一つは雲上。

 馬鹿でかい豆の木が突き抜ける様に伸びており。

 付近には巨人住まう城が存在するという、異質にして非日常な世界へと繋がっていたのだった。

 ……と、こんな具合に紹介し足りないが。


 まあ早い話、そこに一度入れば《異世界にワープ出来る》という訳である。

 無論、入る際には戻れぬ可能性も考慮せねばならぬ為、探求心だけで迂闊に飛び込むのは絶対に控えた方が良いだろう……。


 なお、《アイテムが通過した場合》も同様。

 あちら側の世界に転送されるという訳である。

 本当に、この世界は不思議ばかりだ……】


 ~ガリヴァ―書房刊『私が見た世界の不思議百景』の19の項【時空の穴と異世界】より引用~





「レオナルド……【この扉】も売り物にする?」

「ごめんエミリア、それ勝手に売らないで。その扉無かったら、ウチ筒抜けになっちゃうから。冬とか風が入ってきて超寒いからね!?」


「それじゃあ……私が直そうか?」


「そうだね……見た感じだと留めていた金具が外れただけだから簡単に直せるみたいだね。……悪いけど、お願いしてもいいかい?」

「ええ……代わりにお客さんはお願い……」

「うん、任せて……(それより何故、この子はあの重たい筈の扉を軽々しく扱えるんだろう?)」


 そうレオナルドは何故か、ヒーラーという非力そうな立ち位置にいた筈なのに、扉を片手で持ちあげるエミリアに呆れた顔ではそう返した後。


「で……闇の大魔王様が、僕に何の用なの?」


 彼はそのまま依頼人の方へと視線を移した。

 一先ずは店頭から客間に移動させたそのツンツンとした赤毛頭に、ピカピカと眩しい金の角を携える厳つい顔面の客。


「……我輩に全然怯えないのだな……まだ幼さ目立つ童顔に見えて、実に肝の据わった青年だ」

「まあ……僕もこの世界で色々見てきたからね。後、人の店の扉ぶっ壊すマナー知らずに怒りを覚えない方が難しいと思うんだけど……」


 さらにその身を覆う装束も大魔王と称するだけあり、最高位の死霊モンスターが着用する様な豪華な装飾入りの【黒の法衣を身に纏う】とんでもない存在……の筈のなのだが。


 レオナルドはそんな異世界の大魔王ルシフェルに対して物怖じする様子など一切見せずに普通に会話していた。


「うむ……別に良いか。それでは早速、今日我輩がここに来た理由についてなんだが……」

「うんうん、気軽に依頼を言ってみて」


 そうして……そんな初にして珍客である大魔王ルシフェルが持ちこんできた依頼はというと、



「実は我が魔王城の修繕・・を頼みに来たのだ」



「なるほど。魔王城の修繕ねぇ……それはそれは難儀な……えっ? まお……魔王城の修繕!? 修繕だって!?」


 依頼人の風貌、正体については殆どノータッチだった癖にも関わらず、そんなとんでもない大仕事に対してレオナルドは思わずそう二度尋ねたのだった……。


 そこらでは出回らない珍しい薬が欲しいとか、何か変わった素材が獲ってきて欲しいとかみたいな。

 単純で、すぐに解決出来そうな話では無く、



「ああ……訳合って【木っ端微塵】になってな」


「木っ端微塵って、それ直せって言うのか……」



「頼む! 貴様だけが頼りなのだ! ここなら何でも願い事が叶うってチラシを見て、わざわざ時空・・を開けてまで来たのだ!」


「そんな勝手な事情で時空の穴開けないで!? 迷惑にも程があるでしょうが!」



 まさかの予想を遥かに上回る【魔王城の修繕】。


 そんな誰でも難易度が異常だと即座に判断出来る、建築物の復元という滅茶苦茶な依頼だったのだ!


(うーん……そうだな……予想の遥か斜め上の依頼が来たな……思わず面食らっちゃったよ)


 それこそ……犬小屋と鳥小屋とかいう小さな物の修繕ならばともかく。

 まだ規模こそ不明だが下手をすれば達成するのに数年はかかると、素人でも予測出来る大がかりな作業を要求される作業であり、相当な苦労を強いられるのは至極当然の話。


「ダメ……か?」

「少し待ってね……今考えてるから」


 だからこそ、余生をまったり楽しみたいと願う人間からすれば絶対に受けたくない様な難題、迂闊に受ければ確実に後悔する様な依頼だった。



 だが……けれども。



(幾ら大魔王だからって無下にすると面倒くさそうだしな。それに【万能】のユニークスキルの試験的な意味でも悪くなさそうだし……よし!)



 そんな急な依頼内容を聞いた後。

 僅かに沈黙を挟んでからレオナルドは、



「分かった! 折角のお客さん第一号だしね。魔王城の修繕。この僕レオナルドが引き受けるよ」


 一応……彼の目的の一つも兼ねてだが、なんとレオナルドはそんな依頼を引き受けるのだった!


 自身の開花させたユニークスキル【万能】のテストも兼ねる事を視野に入れてはあったが……。

 とにかく彼は嫌な顔一つする事無く、そう承諾の返事をあっさりとルシフェルに向けたのだった。


「ほ……本当か! 我輩的にも自分で言っておいてアレなんだが、本当に良いのだな!?」


「ああ、いいよ。僕に任せてくれ」


 と、こうしてレオナルドは依頼を受託。

 基本的に助けを求めてきた者に対しては分け隔てせずに平等に救うという信念の元にある。

 お人好しの彼らしい行動だったのだった。


「じゃあ、まずは現場に行こうか。時空の穴の場所は僕知らないから、魔王城までは大魔王様直々のエスコートで頼むよ」


 そして……彼はひとまず魔王城の荒れ具合を確認すべく、座っていたテーブルから立ちあがり。

 異世界へ案内するように大魔王に告げた。


 けれども……。


 そんな彼の意思を無視するかの如く。

 いきなり、こんな言葉を彼は放った。



「そうだな! まずは【回想】だよな!」



「えっ!? いや、僕は現場に――」

「そう……あれは今から――」


「いや! 回想とか後でいいから! 建物の材質の解析とか、構造の理解とかで時間かかりそうだから、早く連れてけって言ってんだけど!」


「まあ……今聞いてくれよ。その……割と大魔王って言う立場だと……周りに悩み相談とか出来なくて……誰かに聞いて欲しくて寂しいのだ」


「アンタの寂しさなんか知らないよ! 何、お話したいから来たの!? 只の寂しがりか!?」


 ……そんな強引すぎる話の流れに対して。

 そうレオナルドが、回想を拒否したにもかかわ――わっ!? 何しているんですか! 止めてください、何勝手に【こちら側】に――――。


 やかましい! 我輩が回想だと言ったのだ。

 ここからの話の主導権を我輩が握る!

 人の心理を勝手に読む天の声は一旦黙れ!


 ……はい……分かりました。

 終わったら呼んでください……。


 ああ、分かった……分かった……。

 ゴホン! では、少し失礼して。


《早速、物語は我輩の領域へと突入するぞ》

《アンタ、自由過ぎんだろっ!!》


 レオナルドが必死に喚いていた気もするが……まあそんな事は一時保留だ。

 一先ず、話の内容は【我輩の凄惨な過去】に移行するのだった……。



次話、明日の28日の15時にて更新。

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