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44.歯車が狂い始めたようです



 いよいよ物語は大きく動き出してしまう。

 一人の【欲深き者】以外は決して誰も望まぬ()()()()()へと向けて――



 ~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~


 〇月△△日

【本日の天気】見事な快晴ですわ。


 ついに約束の日が【明日】となりました……。

 事前にお父様の口から発表をしてもらい、貴族の方々には既にお許しはいただいているそうですが、まだわたくしには不安でいっぱいです。


 ですが自分で決めた以上、成し遂げます。

 あの偉大な船長様を我々の国の貴族として迎える事。これだけは何としても成功させ命の恩人として称えたいと望んでおります。


 たとえ私情を抜きにしても我が国にはあのような強く優しい方こそ上に立つに相応しいと、わたくしはそう強く思うのですから――


 ~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~



 まさかの両想いであった。



「ふんふん♪ ふんふん♪」


 楽しそうに鼻歌を浮かべるエリザベート姫に堅物の()()()()()()が見事に一目惚れし、今も海上のどこかで好意を向ける中。


「セブル? セブルはおりますか?」


「はい、エリザベート姫よ。こちらに」


「その……次の航海はいつかしら?」

「……三日後にございます。南の国ハウィにて貴族との会談がございます」


「ありがとうございます。それで、その……なんと言いますか護衛についてですが――」


「フフフ、分かっておりますとも。()()()()()()でしょう? 本当にエリザベート様は()()()()()()()()なのですから。まったく――」


「むう……余計な事は言わなくていいのです」


「フフフ、これは失礼致しました」


 まさかの彼女も船長に惚れていた。


 幼さからくる無垢さ故か、初めて味わう【恋心】という特別な情を受け入れてしまった彼女は身分違いの恋だと自覚しつつも、


「ああ……“*$?&%船長様”。わたくしの心はもう貴方様の物です。もう今では四六時中貴方様の事を考えてしまいます。貴方様の自由な生き様、恩人へ向ける強い信念、その全てが愛おしくて堪りません。また早くお会いしたいです……」


 さらに一目惚れという点でも共通しており、加えて漢気溢れる勇ましい性格や優しい話し方であったり、様々な経験に基づいた先見性などなど。


「おかげでこの【日記】は貴方の事ばかりになってしまいました。貴方への想いばかりで……こうして文字にでも書き記さねば我慢できません」


 唯一姫という鎧を脱ぎ捨てて語り合う事が出来るうえ、おまけに窮地を救ってもらった大恩も含み、現在のエリザベート姫の胸中はすっかり薔薇色だった。


「あっ、そうでした。エリザベート様」


「? どうしたのですか、セブル?」


「その……和まれている所ではあるのですが。そろそろ例の会議の準備が整い、来賓される貴族の方々も既に御到着との事ですので――」


「まあ、もうそんなお時間でしたか。ではすぐに支度をして会議の間に向かうようにしますので、貴方はお父様への伝言だけお願い致しますわ」


「はっ。では先に失礼致します」


 そして彼女はその恩に報いるべく準備していった。

 彼らの一団を国公認の船団として迎え入れ、恋心を抱く船長については貴族としての高い地位と名声を与えるという重要な会談へ向かうべく……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――


 次なる回想はまた会議室だった。


(……………………)


 前回と同じく広い赤絨毯の上には長いテーブルに金細工が施された椅子と、代わり映えの無い室内の天井からレオナルドは傍観していた。



「皆様……ご機嫌麗しゅうございます」



 ただし、今回は()()増えていた。

 以前の会議に参加していた貴族と王含めた五名に加えて、もう一人。



「この度はワタクシの我儘から生まれた会議にもかかわらず、我が国を支えてくださっている貴族の皆々様にお集まりいただけて光栄にございます」



 エリザベート姫が参加していたのだった。

 議題は勿論【船長の貴族入り】についてであり、そんな丁寧な前口上と挨拶を終えた後。



「では早速……以前我が父より皆様のご提示していただきました【*$?&%海賊団】を我々の庇護下に置く事。そしてその頭目であられる船長様へ貴族の地位を与える事について。誠に勝手ですが……最終の決議を執り行いたいと存じます」



 エリザベート姫は芯広い会議室に届くようにハッキリと芯の入った声で、場に座する貴族達へ向けて承諾を得んと発すると、



「……では皆々様、確認致します。此度の決議において異論のある方はおられるでしょうか。もしおられたならばこの決議。そして明日の貴族就任式は急遽白紙に戻し、一団へその旨をお伝えする所存です……皆様いかがでしょうか?」



 ここ一番の緊張走る場面にて彼女は皆の賛同を得られる事だけをひたすらに祈り、決議が無事通る事を念じた。




「「「「ふむ……」」」」



 すると、会議の結末は――。



「別に私めに異論はございません」

「こちらも同じ意見にございます」

「私も王と姫君のご決断に従います」


「…………。スプリークも異論はありません」



(えっ……という事は――)



 実に拍子抜けだった。


 理由としては以前に国王による推薦のおかげか。

 彼女の心労とは裏腹に決議の結果は誰も異論を口にせず、あっさりと満場一致。


「ふむ! では今回の決議は満場一致により件の海賊団を及び船長に向けての【特別措置】。そして就任の儀をこのまま執り行うとするっ! 以上!」


(良かった……本当に良かったですわ)


 そのままエリザベートが安堵する間に会談は終了。

 彼女の意向通り船長の貴族入りが確約され閉幕し、こうして全ての事柄が丸く収まった様相を呈していた。



 そう、誰もが思い部屋から次々と退いていったのだが、



「おやスプリーク殿。どうかされましたか?」

「ご退席なさらないのですかな?」


「あっ、いえ……実は朝から少し気分が優れないものでして。私に構わず皆様は先にお戻りくださいませ。回復し次第、後ほどこの従者のポルンと共に退場しますので」


「そうですか。どうかご無理はなさらないように」

「また後日にてお会いしましょう」


「はい……」



 けれども……あっさりとした確約の裏でもう既に()()()()()()()

 今までの何もかもが台無しにしてしまう最悪の筋書き(シナリオ)が――



(それで残ったのは……あの人か)



 そしてレオナルドだけは事の発端を視ていた。

 うっかりこの会議室に置いていかれた一冊の本、エリザベート姫の日記に憑いた者として――



「全く……くだらぬ議論だった」



 部屋に残っていたのは小太りの貴族と従者。

 先日、王の決定に唯一不満を覚え黙っていたエリザベート姫の幼馴染みスプリークだった。


「よもやあの大人しいエリザベート姫があそこまで強く発言されるとは……よほどその海賊を気にいっていらっしゃるのでしょうな……」


「……ポルン、お前何を聞いていたのだ」


「と……言いますと?」



「チッ、さっきのエリザベートの表情を見ていなかったのか!? あの世間知らずの哀れなアイツは海賊などという卑しい低俗な屑を近い場所に置き、あわよくば()()()()()()としているのだぞ!?」



「こ!? 恋人にでございますか!?」



「そうだ! この選ばれし貴族であるスプリーク様を差し置いてだぞ!? ふざけるな! 海賊なんぞにエリザベートをやるものか! あの女は私の物だ! 幼い頃からコイツは我が妃にすると、()()()()()()()()()()()と決めていたのだ。そしてゆくゆくは私こそがこの国の王として君臨すると! そう、私は幼い頃から計画して生きてきたのだ!」



 己に従う従者以外誰も聞いていない事を良い事に、スプリークは吐きちらす。

 その胸中に秘めた邪悪な野望をただ思うがままに漏らしていった。


「ス、スプリーク様……どうか落ち着きを。この部屋に誰もいないとはいえ、あまり大声を出されては――」


「ゼェゼェ……あの女は私の物だ。ヒヒヒヒ、あと一年か二年もすれば()()()()()()()()()()()になる。ハハハハ、エリザベート待ってろ? 私……いや俺が壊れる程に貪ってやるからな」


「スプリーク様、それ以上の発言はお控えを……それで、一体どうするおつもりですか? 貴族への昇格式は明日に控えていますが?」


 最早、清々しい程の外道振り。

 表面を金と権威で綺麗に塗り固めただけであり、腹の底には誰よりも卑しく、誰よりも傲慢という他者の幸を祝えぬ悪党ぶりが滲み出ていたのだ。


(……………………)


 そして……レオナルドの目下。外道貴族スプリークは従者へ向けてとある()()()()()を命じた。



()()()()()()()()()。もうこうなれば手段は選ばん。エリザベートを取られる前に、あの海賊団に()()()()()()()()()()()()()()()()()


「はっ、了解致しました。ですが……どうやって連中をおびき出すご予定ですか? 今頃奴らは招集に応じ、既にこちらへ向かっている――」


「任せろ。私に【良い考え】がある」


 スプリークはひどく醜い邪悪な笑みを浮かべながら、こそこそと従者の耳元で囁くのだった。



(…………くそっ!)



 と、そんな明らかにただならぬ空気が漂い始める最中。



(あのスプリークって貴族――)


 レオナルドには何も出来なかった。

 何故ならば彼は見届けるだけの役割なのだから。


 たとえ、どれだけそんな汚れた人間の本性。

 どす黒い腹の底を覗く事に成功しようとも、


(僕の一番嫌いな……クソ野郎だ……)


 幸せに向かう人間の足を千切ろうと企む外道を見つけたところで、干渉できないという【能力の制限上】その無力さをグッと噛みしめるしかない。


(くそ、くそ! これ以上過去を変えてやりたいと思った事は無い……でも――)


 レオナルドが自覚していた通り、元よりこの【記憶巡り】にそんな改変を可能にするといった便利な機能など備わっていないのだから。


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