39.無事に飛べたようです
【愛用された品々には魂が宿る事があるものだ!】
【恐らく今からこの項目を読む者の多くはそんな馬鹿な事ある訳ないだろ!? 筆者頭おかしいんじゃないの!? などという罵詈雑言を私に向ける事が容易く予想出来る。
しかし。しかしだ!
今から話す事は紛れも無い真実なのだ。
そう、ここからは冒頭の一文に示した通り。
物の形や種類を問わず主によって大切にされた、もしくは何かの特別な思いを込めた物品には見えずとも“特殊な思念”“魂”が宿るものなのだ。
例えば、私の場合は親友から貰った魔道書。
私が世界を巡る冒険者としての門出を祝して、学友であった親友の女性から頂いた物だった。
ずっと私の無事を祈っているからと、別れ際にいつも持ち歩いていた大切な辞書をくれたのだ。
そしてあの時の彼女の表情はどこか印象的で、特別な意味があったのかは女性に疎い私にとって今も難題の一つにはなっているが……とにかく。
それから大切な親友の魔道書を私は常に持ち歩き、軽い魔法を使う際には必ず彼女の魔道書を使う。そう決めて行動していたある日……不幸にも私は【野盗の襲撃】に遭ってしまった。
そうやって戦闘が得意では無い私へ数人の賊が現れた後。必死な抵抗虚しくも鋭利なナイフで腹部を刺されてしまい、出血も酷く意識も薄れゆくまさに絶対絶命だった。
それで……ここからどう記せば正解なのか。
的を射た言葉の持ち合わせがないが、早い話。
《彼女の辞書が私を救ったのだ》
あれはまさに意思を持ったかのような動きだった。
私の胸元に入れていた筈の辞書が独りでに落ちたかと思えば、私の手元へと転がり落ちてきたのだ……だが信じられない事は次の瞬間。
事前に彼女が仕込んでおいてくれたのか。
瀕死の際に発動するという回復術式が込められたページが開かれ、私の傷を癒してくれたのだ!
それもみるみる内に致命傷に思われた刺された腹部の傷が塞がっていき、失った血こそ多かったがどうにか生を繋げたのだ!
我ながら超常現象的と思ってはいる。
だが、これは確かな一つの結果だ。
大切な親友が身を案じてくれた贈り物。
そして私はそれを大事に常備していた事実。
この二つの偶然はきっと辞書に宿った“特別な思念”“魂”が起こした現象だと私は推測する】
~ガリヴァ―書房刊『奇跡のスピリチュアルパワー』9の項【魂が宿る物品】より引用~
―― ―― ―― ―― ―― ――
レオナルドは目を覚ました。
(う……ううん?)
ドタドタドタドタドタ!!
バタバタバタバタバタ!!
ガラガラガラガラガラ!!
まあ、目覚め方についてはそんな雑音で叩き起こされるという良好とは言えない形だったが……けれども。そのとめどなく響くやかましい音から察するにどうやら上手くいったらしい。
「――れは――へ運ぶんだ!」
「――物は船長に……」
(僕は何とか“戻れた”のかな?)
自身が発動したユニークスキル。
【万能―憑依記憶再現】により、重ねた二冊の日記に宿った記憶を頼りに過去へ遡ったレオナルド、
(……ここは船倉かな? 荷物いっぱいあるし)
そして彼は船員達の命を繋ぐ貯蔵庫。
その船倉にて目を覚まし覚醒しつつ周囲を確認。
(うう、頭が痛い。あんまり慣れないスキル使うもんじゃないね。おかげで二日酔いみたいになったよ……でも成功したのは確かだ)
そのまだ朧げな意識、ふらつく視界の内。
自分の取り巻く環境の認識・把握していく。
「違う! その食い物は俺達のじゃねぇだろ!」
「あれ? さっきの船長の話だとコレに今回の食料が入っているって言ってましたけど――」
「おい、誰だ! 昨日酒盛りした奴! ちゃんと空き瓶片付けとけよ! 船長怒るぞ!」
「ああ、わりぃ俺達だ! すぐに片付けとく!」
まずレオナルドの耳が捉える激しい足音の数々。
他愛の無い会話が音に混じって飛び交いつつも、船上では常にドタドタと慌ただしく活気に満ち溢れた船員達の足音が甲板を何度も踏み鳴らしていく。
(うん。どう考えてもさっきの幽霊船とは雰囲気がまるで違うね。やる気に満ちた良い音だ)
一応……船倉に響くのは音のみでその目で船員達の姿を視認した訳では無いが、少なくともこの時点で静寂に包まれていたあの【幽霊船】から転移したとレオナルドは確信。
「おーいみんな! お待ちかねの朝飯出来たぞ! 荷物の整理が終わった奴から食っていけ!」
「「あいよ、料理長! すぐに終わらせる!」」
「あと……今日は朝からガッツリ肉だぜ! 海の漢らしく汚く豪快に食い散らかしやがれ!」
「「「フゥゥッ! 待ってましたぁ!」」」
さらには、こんな呑気な会話が挟まれる始末。
感情の薄い屍人だらけだった先程とは一変し、幼い子供かの如く肉という食欲そそるワードに興奮を禁じえず、次々と騒ぎだす船員の声が船倉及び船内へと轟いていたのである。
(よし。まあ何はともあれ成功して良かった。やっぱりあの“日記二冊”は幽霊船長の思い出の品だったんだね。よかった……手掛かりになって)
これによりレオナルドはさらに成功も確信。
幽霊船長の持っていた日記から、彼の名前を暴く為に役立つであろうこの過去へのワープに成功したのだった。
「ふう……さてと。ひとまず成功したはいいけど。これからどうしよう? 時間軸的には僕はいない存在だから名乗る訳にもいかないしね」
そう一息つきつつも、彼の告げた通り。
今回のレオナルドはあくま日記の因子。そのためこの場を掻き乱す事も出来ず、過去を変える事などもってのほかという何も出来ない脇役となった彼の制限は大きく、
「過去矛盾を起こせない以上。静かに結末の見届けるしかないんだよね」
そう、まあ簡単に言えば何も出来ないのだ。
幾ら強力とはいえ彼のユニークスキルでも精々この過去飛びが関の山であり、歴史の改変まで行える力などは一切無いである。
よって。
「とりあえず船長でも探しに行こうか」
彼は大人しく日記に宿った物語の軌跡。
その経緯を辿るべく未だふらつく足取りで船倉から出て、
「さあ、それじゃあ――」
ひとまず船長室に向かおうと身を起こし、足を動かし始めた……その矢先であった。
「物音がしたが……誰かいるのか?」
「へっ?」
出口まであと数歩。
船の揺れに足を取られつつもレオナルドの手がドアノブに届こうとする刹那、
「入るぞ。ったく……誰だ一体? 私の許可無く船倉に入った奴は。もし盗み食いなんてしてたら、料理長に言って晩飯を抜きに――――」
ギイィィィィィと船倉の扉が開かれた。
すると?
「あっ……」
「……むう? 君は?」
それは……何という偶然だったのか。
先にドアを開けて船倉へ足を踏み入れるは、
(ああ……【この人】だ。間違いない)
レオナルドはその時確認するのだった。
その“面影”がしっかりと残る男性の姿を……。
「えっと、君は誰かな? 見ない顔だね? もしかして新入りか?」
「えっ? ええっと。その……僕は……」
格調高い黒い羽毛付きの立派なコート。
さらには立派な海賊帽に艶のある肌、白髪という……【生前の幽霊船長】と彼は対面するのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は明日投稿予定です。
正午以降【直接投稿】致します。
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