38.キーワードは日記のようです
文字通り、魂を賭けた挑戦が始まった。
対峙者は二人。レオナルドvs幽霊船長。
舞台は世にも珍しい、霧中の海を彷徨うこの漆黒の船《幽霊船》という船上にて、
「なにっ? この幽霊船の名前? ギャへへへへ! 残念だが俺様達も記憶がねぇんだ。だから船長と同じで、この船の名前どころか自分の名前も知りゃしねぇわけなのヨ……」
そして挑戦内容は以下の通り。
【名も無き幽霊船長の名を探し、正体を暴く事】というこれまた珍妙な内容で開幕し、既にレオナルドは船中を懸命に探り回っていた。
この勝負に勝たなければ、捕まった仲間の命だけでなく幽霊船に捕らわれた生者の魂の“人魂”も解放出来ぬ為に尚更必死になっていたのである。
「なんていうかおかしな話だね。記憶がない癖に君達はさっきの幽霊を【船長】って呼ぶのかい?」
「ギャへヘヘ……確かに変ダ。だが違和感も無いんだ。これは俺様の予想だが……聞くカい?」
「頼むよ。今はとにかく情報が欲しいんだ」
「オッケー……多分だが俺を含めたここで働いている屍人達は生前。あの船長が率いる一団に所属していたんだと思うゼ。それもなんだか相当に立派な船長だったと思えるのサ」
だからこそ今は手がかり探しに奮闘。
同行していた旧友のティーチ率いる黒ひげ海賊団が全員船底へ連行されてからというもの、
「なるほどね……君達とあの船長は元々同じ海賊団のかもしれないか。他に情報はある?」
「いいヤ、悪いがこれ以上無イ。まあ精々頑張れよ勇敢なレオナルドさん、クカカカカ!」
挑戦の為にと拘束を解かれ行動が許されたレオナルドはそうやって、幽霊船中にいる屍人達から色々な探りを入れたりしていた……そうして?
「はあ……」
一通り探り終えた頃。
彼はそう大きく一つ息を宙に洩らす。
そしてその溜め息の理由はというと、
「まるでホラー小説みたいな空間だ……」
ボロ布のようなセーラーを着た屍人。
腕、頭の一部が欠損した屍人、腹部の無い屍人。
そんな乗船している船員達全てが屍人という、
「本当に誰もかれも薄気味悪い船員だね」
「オイ、アンタ……全部聞こえるゼ?」
「もちろん。わざと聞こえる様に言ったからね」
「アンタ、屍人に手厳しくなイ!?」
そのまさにアンデッドモンスターの博物館かの如く、酷く不気味な風貌が出そろった船員達相手にレオナルドは思わずそう息を漏らしたのである。
だが、彼の不快感はこれに留まらず。
(空想上の産物だと思ってたけど……いざ目の当たりにするとワクワクよりも嫌悪感が勝るね)
無論、そんな連中を乗せた船も例外ではなく。
風を受ける帆はあちこち千切れズタズタ。さらには踏む力を強めただけで今にも抜けそうな、不衛生感漂うフジツボ塗れの脆い甲板床。他にも所々に穴が開いているなどなど。
(多分、知り合いの船職人にコレ見せたらたまげるに違いない……よくこんなボロ廃船で海を渡れたなって常識を疑われる事請け合いだ)
レオナルドは探索しつつこの凄惨な姿晒すオンボロ船に心中でそう酷く毒づきつつも、今は船の評価について熱弁しても何の解決にもならない為。
「取り込み中ごめん。少し聞きたい事が……」
「………………………………」
(あれ? 聞こえなかったのかな)
「おい金髪坊主、それに何聞いても無駄だゼ。そいつは口の利けねぇただのしかばねだからナ。返事なんてあるわけねぇのサ……諦めな」
「なるほど。それじゃあ聞ける訳ないね……」
今はとにかく情報集めに意識を集中。
主な行動としてはひたすらに事情聴取を徹底。
不気味な船内を巡回しつつ、おぞましい船員へ質問というこの行動をレオナルドは繰り返した。
「悪いノォ。ワシから話せる事は無い」
「そっか。分かったよ」
「多分、他の幽霊に聞いても同じジャヨ……皆記憶が無いんジャ。手掛かりなんて無いかもノ」
「……………………」
だが、そんな懸命さも虚しく。
船長の正体の核心を付く情報は皆無。
「本気で使いこまれた海賊船は不思議なもんでよ。船員が“沈む船と運命を共にするの”と同じでよ。船も“船員がいなくなれば消えちまう”って言われてんダ。そんでそれを実際にやっちまうのガ、ウチの船長の呪力ってワケなのサ」
得られる情報はせいぜい与太話。
屍人の気持ちや今まで捕えた海賊船の行方など、今は特に必要無い情報だけが集まっていきただ無為に約一時間が経過しようとした……。
「休憩中に悪いね。質問良いかい?」
その頃だった。
「ああ、良いゼ。船長命令でお前に協力する様に言われているからナ……質問してみナ」
「じゃあ、早速なんだけど――」
レオナルドはついに最後に残った屍人。
その胴体の一部が喪失している“副船長”へ向けて、
「そうダな。唯一手掛かりになる物つったら、船長が肌身離さず大切にしてる【二冊のボロ日記】か……まあ焼け焦げちまって、名前どころか内容すら読めねぇ代物だが」
船室のタルに腰を落ち着かせ、煙管からプカプカと煙をあげる彼へ尋ねたのだ。
対して、レオナルドは苦労の甲斐あってかその初めて耳にする【日記】というワードに、
「日記……か。それってどこにあるの?」
「階段降りた先にある船長室だ。でも部屋にはいつも鍵かかってるんだ。自室を荒らされたくねぇのか……それとももっと他に理由があんのかそいつは分かんねぇが。まあ行くだけ無駄だと思うゼ。俺だって殆ど入った事無いしな」
(……船長室ね。試しに行ってみるか)
彼は話を聞き届けた後、すぐに行動を開始した。
副船長の口から飛び出したその【二冊の日記】という唯一それらしい情報、その詳細を調べるべくレオナルドは船長室が設けられている船内へ足を向けるのであった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
屍人にも睡眠が必要なのだろうか。
「すぅぅぅぅ。すぅぅぅぅ」
「良かった……寝てるみたい」
レオナルドはユニークスキル【万能―施錠破壊】で遠慮なく鍵を破壊し部屋に入り、その眠る幽霊船長の姿。
机に突っ伏して、静かな寝息を立てつつ眠っている様子を確認する。
「すぅぅぅぅ……くぅぅぅぅぅ……」
「それで、あれが例の日記ってやつかな?」
そして……そんな大人しく船長が寝息立てる間。
起こさぬように慎重にその元へ近づいていく。
目的の船長の手元にある二冊の日記を求めて、
「人の物を無断で拝借する趣味は無いけど。今はそんな悠長な事言ってる余裕無いからね。悪いけど勝手に読ませてもらうよ……船長さん」
そうして。本来ならば信用ある者しか見れない。
それどころか触れることすら許されないという日記を手元に手繰り寄せると、中身を捲っていく。
だが……その肝心の中身はというと、
「……なるほどね。さっきの副船長の言う通りだ。焼け焦げてるのと老朽化のせいかどのページもロクに読めない……辛うじて一部の日付くらい――」
忠告通り、とても読めたものではなかった。
火災か何かで燃えた痕跡や時の経過などにより朽ち果ててしまった為か、殆どの文字は消失。
中に何が書いてあったのか。
どうして二冊とも種類が違うのか。
その重要となる情報が欠けていたのだ。
(でも、一番の手がかりはこれしか無いみたいだし……一か八かやるしかない)
そこで。レオナルドにとっては成功するかは不明だが、他に情報を探る術が無いと判断するとこんな絶望的な状況でも諦める事無く、
「【万能―憑依記憶再現】を発動……もうこうなったらこの日記に残っているであろう記憶を辿る以外に手段は無い。ティーチ、悪いけど一時的にだけ消えるね」
その通常の人間には到底出来ぬ芸当。
物体に宿る過去や記憶を辿るという離れ業【万能―憑依記憶再現】の能力の影響により物体の中へと意識が吸い込まれていく間で、
(僕は僕に出来る事をやるしかないんだ)
彼は船長の正体に近づく唯一の手掛かりとなる二冊の日記の記憶を辿る賭けに出たのだった。
(だから何としても見つけて……くる……よ)
そうして彼の意識は日記の中へ……。
重ねた二冊の中へと吸い込まれていったのだ。
“タイトルの無い黒いシンプルな日記”
“金の刺繍が入った高価そうなな日記”
その二冊に刻まれた過去を探る為に……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。




