35.怪奇からは逃げられないようです
【幽霊船とは海の怪奇現象の一つである!!】
【幽霊船……それは闇夜に浮かぶ死を乗せた廃船。
一応、発生の伝承については諸説あるが……とにかくいずれの伝承でも共通するは亡霊。
海に未練を残した者達が何らかの形で成仏できずに延々と海を徘徊する幽霊を乗せた船。
出現する時間帯としては無論、夜が多い。まあ……名の通り亡霊が乗っている船という以上、昼間に我が物顔で徘徊されては我々生者側からしても良い迷惑だし、ありがたいわけではあるのだが……まあこれはさておくとして。
肝心のその未練についても諸説あるが、怨念だの生への執着だのと、その全てを記していたら一つの物語になってしまうので多少は割愛させてもらう。
そして最後にこう記しつつも実際の話。
今や魔法だのクエストだのというご時世。
博識王であるこの私ガリヴァ―も過去に一度だけ目撃した程度であり、まだまだ謎も多く。
実際厄介なデマ情報を多く出回っている為、情報の真偽を決めるには自分の眼で確かめるしかないのだ……まあ見つかればの話だが……。
~ガリヴァ―書房刊『海の怪異について』61の項【夜の海に揺らめく死神の船】より引用~
―― ―― ―― ―― ―― ――
まさに五里霧中。
「「ティーチ船長! 大砲の弾は!?」」
「全部だ! 全弾、準備しとけ!」
「「了解!」」
レオナルド一行の乗せた海賊船【アン女王の復讐号】は一寸先は闇ならぬ、一寸先も霧という突如出現した濃霧の中を進んでいた。
「サベル! バラス!」
「「あい船長! アッシらはどうすれば!」」
「急いで帆を畳んで来い! 風が完全止まっちまった以上張ってても仕方がねぇからな!」
「「了解! すぐ帆を畳んできやす!」」
「おう、頼んだぜ!」
それも周囲の状況を確認出来ないという、船を操るうえで致命的な状況。
だが……そんな視界が殆ど確保出来ない状況もマズいと言えばマズいが、一番マズいのは――
「どうだレオナルド!? 奴らまだこの女王様の尻を追ってきてるか!?」
突然、音も無く出現した暗色の船。
霧の中より唐突に現れ出でた【幽霊船】にしつこくどこまでも追いかけられていた事であった。
それも海戦としては最悪な背後を取られて……。
「うん、付いて来てるよ。ご丁寧に船首に二丁の大砲を携えてね。もしも追い付かれでもしたら背後を狙い撃ちされて終わりさ」
「けっ、そんなに女王様のケツにぶち込みてぇってか! 全くお盛んな幽霊船だぜ!」
だがそんな苦境でも生者側は懸命に奮闘。
視界の悪さはレオナルドがユニークスキル【万能――性質変化】を発動し【視界妨害無効】を付与した望遠鏡を用いて、背後から迫る幽霊船の動きを確認。
そして彼らが幽霊船の存在を認識する前。
この霧の発生と共に風が一切吹かなくなるという、ある意味帆船を動かすには不可欠な要素が欠けてしまい幽霊船に襲われそのまま終わるかと思いきや、
「あまりコイツを使うのは好きじゃないんだが……まあ今回はいざという時の工作が役に立ったな」
「まったく、海賊船は男のロマンとか僕にほざいてた癖に、ちゃっかり“スクリュー”を仕込んでたなんて……君も近代的になったもんだね」
「うるせぇ! 海賊稼業も楽じゃねぇのさ。仲間と宝石と我が身を守るためには何でもやるの!」
今ティーチとレオナルドが語った通り。
あくまで保険としての装備であり、追い風程の勢いは無かったものの代理の推進力。
改造の際に仕込んでもらったというスクリュープロペラを回転させ、まさに最後っ屁かの如く、
「ガハハハハハハハハハ! ざまぁねぇぜ! あんなオンボロ船に遅れを取るほどこの女王様はトロくねぇんだよ! 馬鹿幽霊船が!」
船員全員の生き残ってやるという比類なき執念により、一行を乗せたアン女王の復讐号は背後につく敵の先制攻撃を受けずに済んでいたのであった。
そうして……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「「「ティーチ船長! ここからどうする!」」」
高性能スクリューにより船の速度も乗り始め、距離を離した頃。
「「こっちは既に大砲の準備は済んでるぜ! 幽霊の船相手に当たるかどうかは分かんねぇが!」」
「よし! よくやったぞ、野郎ども! まあこのまま逃げ切るのも結構だが、折角狙った【獲物】を見つけたんだ。引き下がる訳にはいかねぇ!」
「「……って事はまさか!?」」
「ああ! 一気に乗りこむぜ!」
「「ひゃっほう!! 待ってました!」」
速度が安定してからの形勢逆転。
今度はこちら側から敵の船へ接近という海の漢にとっては最高の刺激。
「「幽霊と戦って死ねるなら本望だぜ!」」
「「生者の恐ろしさ見せてやる!」」
血沸き胸躍る敵船への乗り込み、カットラスやサーベルなどの近接武器を用いた激しくも命の重要さを噛みしめられる肉弾戦。
正真正銘命を賭した死闘が始まらんとしていたのだ!
「では野郎ども! 突撃命令の前に。この船で一番頭の良いレオナルド様に意見を求めようと思う! 殺し合いか船を沈めるかの相談を――」
しかし……。
そんなティーチが逃げの姿勢から攻撃態勢。
散々追いかけ回して来た幽霊船に一泡吹かせんと船員たちに喝を入れんとした矢先!?
「なっ!? ティーチ!」
「その……相談して」
「僕の声が聞こえないのか! ティーチ!」
「ったく……これからが良い所だってのに。どうしたんだレオナルド。珍しく大声出しやがって! 俺のキスが欲しいなら後で幾らでも――」
船の命運握る舵輪を握りつつ、ティーチは下の甲板で集まる船員達を他所にして背後を振り返り敵の行動を監視している友人の方へと向いた。
そうすると?
「……消えたよ」
「はあっ? 消えたって……何が?」
信じられない事に。
「……瞬きした途端に幽霊船が消えた」
「んなっ!? そんな馬鹿な!?」
「「「「へっ!?」」」」
先程まで見ていた幽霊船が消失。
それはもう常識の秤では決して測れない現象。
非常識も甚だしい、まさに怪奇とも呼べる誰も経験した事が無い様な出来事だった。
だが……。
この予期せぬ異変はあくま序章に過ぎなかったのだ……何故ならば直後にて!
「「おいおいおいおい!? 嘘だろ、コレ!?」」
「せ……船長っ!! 前だ! 前方を見てくれ!」
「なに、前だと? 一体なにを――」
誰も予想できない展開であった。
しかし全員はその光景に戦慄を覚える。
「んなっ!? なんだと!?」
「「「ゆ……ゆゆゆゆゆゆゆ、幽霊船だあああああああああああああ! いつの間にか前に出てきやがったああああああああああ!」」」
なんと……“移動”していたのだ。
先程まで船尾を追いかけていた筈の船。
背後についていた筈の幽霊船が……。
(ま、まさか……この霧の空間といい。この異常現象といいもしかして【固有空間】なの……か?)
今では最早、船自体が意思を持つかの如く。
アン女王の復讐号の行く手を阻んだのだ。
これ以上は逃がさぬぞと言わんばかりに……今度は後方ではなく一行の前にその黒き巨体を現したのだった。
くっきりと……はっきりと。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は明日投稿予定です。
正午以降【直接投稿】致します。
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