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34.お出ましのようです


 ~~ ~~ ~~ ~~ ~~


 ×月□□日。

 全くとんでもない一日だった。

 ここまでの平和過ぎた航海日誌を反吐塗れにして海に破り捨ててぇくらいに最悪の一日だ。


 天候の野郎。俺達の目的地である“悪魔の魔海域”へ到着した途端に突然天候が激しく荒れ狂いやがった。しかもそこに()()クラスのドデケェ【デビル・クラーケン】まで現れるんだから、もう船上は大パニックだ。


 だがそれでも俺達は両方ともやり過ごした。

 嵐も脅威だったが、レオナルドのおかげで命拾いした。アイツが雷の魔法でイカ野郎を仕留めてくれなかったから海の藻屑になってかもしれねぇ。ったく……魔法ってのは大砲と違ってロマンが無くて気に食わねぇが、今回は仕方ねぇか。


 さて……色々あり過ぎて、少し長くなったが。これからレオナルドに依頼の本題を伝えに行くとしよう。早く話してくれって急かされていたからな。


     黒ひげ海賊団船長 船酔いティーチ

 ~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~



 どうにか沈没の危機は脱した。

 レオナルドが放った究極の雷呪文である一点集中型の魔法【天襲雷光(シエロ・トール)】により、脅威であった巨大デビル・クラーケンはいとも容易く打ち砕かれ、飛んできた肉片ならぬ……その焦げたイカ片はその日の一行の夕食となった。


「よう、まだ起きてたのか?」


「ティーチか。まあね」


 そうして……嵐の峠を越えた今。

 一行乗る《アン女王の復讐号》を迎えるは星海。

 空を覆っていた暗雲は消え去った現在にて、その下に潜んでいた星々の光が反射する神秘的な海面を彼らの船はのんびりと漂っていたのだった。



「話してくれる気になった?」



 そしてそんな中レオナルドは尋ねる。

 どうしてわざわざこんな危険が伴う悪魔の魔海域まで来て、幽霊船探しという奇妙な依頼に付き合わされる事になったのかを……。


 対してティーチは彼の隣に腰を下ろすと、


「お前、キャットって覚えてるか?」


 彼はレオナルドの質問にそう返した。


「キャット? キャットってまさか……」


「そう、一時だけ俺達が組んでた“女海賊”だ」


「……………………」


 名前を聞いた途端であった。

 普段はあまり不快な感情を表に出さないレオナルドはその“キャット”という聞き覚えのある女性の名前に僅かに顔をしかめる。


 では何故その表情をしたかというと、


「だから、ここまで本題を明かさなかったのか。キャットの名を出せば僕が()()と思って――」


「まあまあ、そんなふてくされんなって。例え一時的とはいえ互いに背中預けた仲だろ?」


「ハア……そうだね。最後に僕達に何も言わず、苦労して見つけた海賊の宝を黙って持ち逃げしたんだから。本当に()()()()()()()ね……」


 そう、それは彼女の裏切りが原因だった。

 けれども……彼の憤りの矛先は宝では無く。



「ああ、あれはだな。その……実は――」


「いや……別に騙された事を恨んでるんじゃないんだ。でも……僕は知りたかった。彼女のその裏切りの理由を。僕だって何か事情があったなら、別に騙されてお宝を持っていかれても仕方が無いって思ってるしね」


「ハハハ……お前ってお人好しだな」


 彼が怒る理由はまさにこの部分。

 その信頼を理由なく裏切った事にあった……いや、むしろ仲間だったからこそか。

 共に戦った仲だったからこそ、たとえどんな自分勝手な理由であっても相談も無く黙って消えてしまった事に彼は憤りを覚えていたのだ。



「だから心配しないで、ティーチ。僕は別にキャット絡みでも依頼は引き受けるさ。むしろ()()()()()()()()()()()()()()()んだったら、快く引き受けるさ。それが僕のやり方だ」



「お前……俺らより【漢】だな」



 それは仲間を一番大切にすると決めているこのお人好しのレオナルドにとって辛かった。

 だからこそ、そう言いつつも久しぶりの再会の機会が巡ってきた事に彼は改めて依頼を受諾。



「それで、そのキャットがどうしたの?」


「ああ……それについては少し長くなる。だから俺の部屋で話そう。酒と余ったイカでも食いながらな」


「オッケー」


 そうして二人は船の見張り達に後を任せ、船長室へと向かったのだった。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 女海賊【キャット】の捜索。

 それがティーチの依頼内容だった。


 この悪魔の魔海域で行方不明になったキャットを足取りを追う事こそ彼の目的。

 しかし……以前に彼女と再会したティーチ曰く、彼女の海賊団は自分達と決して引けを取らない程の卓越した強さを持ち、そんじょそこらの海生モンスター如きに沈められる筈が無いとレオナルドに強く語った。


「それで……たどり着いたのが()()()ってわけ?」


「ああ、人間ってのは得体の知れねぇ化け物には弱いもんだ。それにキャットは大のオバケ嫌いだったろ? 余計に怪しいと思ってな」


「……確かに。夜は船室に籠ってたもんね」



 そこで、ティーチは以前から屈強な海賊団がこの悪魔の魔海域で姿を消すという海賊界隈で話題にあがった【幽霊船】に着目し、博識で強い味方となってくれる旧友のレオナルドへと協力を仰いだ……というのが今回のあらましだった。



「さてと……そんじゃあ、もう深夜だしな。お互い早く寝ようぜ。今夜はラッキーな事に幽霊船は出ないみたいだしな、明日の夜に備えねぇとダメだぜ。レオナルドの坊ちゃん」


「はいはい。ホントお節介な船長だね、君は」


「ふふん。お前のお人好しぶりには負けるぜ」


 と、こうして。船長室での二人の話が終了。


 後は大切な客人であり今回の“イカ狩り”のMVPであるレオナルドを、船長ティーチ自ら中甲板に設けてある彼の寝室へわざわざ見送らんと部屋の扉に手をかけ、


「そういえばさ。今度時間があったら飲みに行かねぇか? 最近良いバーを見つけたんだ」

「あはは。それはいい話だね。じゃあキャットとエミリアも入れて四人で飲みに行こ――」



 一度、船室の外へと足を付けんとした――



「うん?」


「あれ?」



 そんな矢先の出来事であった。

 船長室の扉を開き外に出た途端。

 

 二人は即座に()()()()()に覚えた。


「やけに“濃い霧”だな……いつの間に」


 そう、それはその周囲の景色を覆う霧。

 先までの夜の海を見渡せた筈の時より一変。


「ここって霧なんか出る場所だったけ?」


「いいや。少なくとも俺は初めて見る」


「そっか……じゃあ君が見た事無いんだったら、きっと()()()()()()()って事になるね……」

「ああ、何か妙な空気だ……」


 今度はその湿気を多く含んだ異常気象。

 最早肉眼では一寸先もまともに見渡せぬほど、太く分厚い白の大気に海上が支配されていたのだ!


 ……さらにっ!?



 ガコンッッッ!



「うわっ!?」

「うおっと!?」


 その霧はあくまで前兆に過ぎず……異変はこの濃霧には留まらずに彼らが抱いていた違和感はすぐに現実の形となった。この一つの()()()()()()()となって。



「だ……誰だ!?」


「「船長、今のは一体!?」」


「……くそっ!」


 なんと……先のに衝突したかのように、一度船体が大きくグラついたと思えば()()()()()()のだ。そして先の揺れの正体はまさにその急ブレーキを踏んだ際にかかる反動と同じであり、乗員全員の足もとを大きく崩れさせたのだ!


「な、なんで……オレは何も――」


「おい、シュラウド! どうした!? 何故船を止めた!? 俺はそんな命令出していねぇぞ!?」



 そしてこの緊急時には流石のティーチも驚きを露わにし、舵を握っていた筈のシュラウドへ言葉を飛ばし状況の確認をするが……もう()()()だった。



「ち、違うんだ船長! オレはただ舵輪を握っていただけなんだ……いつも通りに」


「ああ!? そんな訳あるか!」


「ホントだよ、船長!」


「……ティーチ、彼が嘘を言っているようには――」


「……んな事分かってる。じゃあなんで船は――」


「いいいい、(いかり)も下ろしちゃいねぇよ!? それどころか誰も手ぇ付けちゃいねぇんだ! でも強引に()()()()()だよ! この船は!」



「強引に……だと!?」



 ……明らかに異様だった。



「おいおいおいおい。この船はその辺のポンコツ船とはワケが違うんだぜ? デビル・クラーケンの触手に多少襲われたくらいでへばるみてぇな、そんな軟弱なアン女王様じゃねぇんだ!」


「で、でもよぉ船長……本当に――」

「まだ御託並べんのか!?」


 だが、そんなすぐには答えの出ぬ口論。

 ティーチと操舵担当のシュラウドが再び不毛な言い争いを甲板で繰り広げていく間。



(……うん!? 何だ!?)



 瞬間。

 レオナルドだけが()()に勘付く。

 その何か得体の知れない寒気を感じ取ったのだ!


(ま……まさか!?)


 ダッ! と即座に彼は駆けだした。

 そして考えるよりも先にレオナルドは急いで船尾へと。謎の霧に困惑する他の船員掻き分け、慌てて彼は階段をかけ上がり、船の後方へ足を速めていく。



「【万能(オールマイティー)性質変化(クオ・チェンジ)】を発動。望遠鏡に【視界妨害無効】の変化を付与」



 そうすると。



「やっぱり……」



「おいおい、どうしたんだレオナルド? いきなり血相変えて。今度は別の化け物でも出たのか」


「化け物か……その方がマシだったかもね。ほら……これを見て見なよ。きっとぶったまげるよ」


 レオナルドはそんな冗談を交えながら、自分を追ってきたティーチへと望遠鏡を渡した。

 その霧で視界が遮られようとも関係なく、周囲の景色が見える効力が付与された望遠鏡を彼へ渡してレンズ越しに船の背後を確認させたのだった。


 すると……なんと!?


「なっ!? 嘘だろ!?」

「背後を取られてる。かなり厳しいよ」



 ()()



「「ティーチ船長!? どうしたんすか!?」」

「「一体、何が見えたんです!?」」


 現状を把握出来ない船員達が不安に駆られそれぞれ声を荒げ、船長(ティーチ)へ説明を求めていく。


 しかし……この現状に彼は多くを語る事無く。

 たった一言だけ。たった一つだけ命令を下した。



「野郎ども、死にたくなかったら働け……」



 その視界に移っていた()()()

 音も無く背後より忍び寄る……明らかに通常の船とは違う。あらゆる部分が朽ち果てた異形にして異質なこれまでの人生で全く見覚えの無い暗色の船を目撃し、命令を下した。


 そう……件の【幽霊船】が現れたのだ。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

次話は明日投稿予定です。

正午以降【直接投稿】致します。


それでは最後にもしよろしければブクマや評価、感想をお願い致します。私としてはユーザ様の声はものすごく励みになりますので……あとすんごい喜びます(´・ω・`)


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