33.ヌシに出くわしたようです
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×月〇×日
また酔っちまった……気分が悪い。
しかし航海は順調そのものだぜ。
天候は雲一つない、まるで俺の心みたいに晴れ晴れとした美しい青空、それに丁度追い風だ。
もしかしたら予想より早くつけるかもしれん。
とにかく今日は帆を全開で海を進むとしよう。
よし、短いが今日の日記はここで終わろう。
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これは現在レオナルドが乗る《アン女王の復讐号》の船長ティーチが記す日誌であった。
海賊らしい時折横暴な性格を見せる彼だが、こういう事はなるべく欠かさずに記載。
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×月〇〇日
うう……今日は吐いちまった。
全く、泣く子も黙る大海賊であるこのティーチ様が【船酔いにだけは弱い】なんて致命的な弱みを他の海賊団に知られたら、赤っ恥もいい所だぜ。
まあ、でも……しかし航海は変わらず順調だ。
歌でも歌いたかったが、トラウマになる歌声だから止めろって皆に怒られちまった……畜生。
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天候の変わり様やその日の航海の様子。
一日の出来事を書きたいように記していた。
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×月△〇日
今日も順調に船酔いが酷い中。
天気、風、波ともに平和なもんだ。
もうこのまま舵を切らなくても魔海域に着くんじゃねぇかってくらい、平穏そのものだった。
だけど、船の上ではちと平和とはいかず。
ギャレーとバラスが喧嘩してやがったんだ。
なんでも女の胸について語った末に喧嘩。
巨乳派と貧乳派で対立しやがったんだと。
本当にアイツらくだらねぇ事で喧嘩しやがる。
もし掟に従えば決闘もんだぜ……まったく。
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そしてその内容としては陳腐ではあるが。
彼の記すとおり、船旅はまさに順風満帆。
時折追い風を受けて海賊船は好調に前進。
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×月△△日
今日はいつもと違い珍しく気分が良い。
昨日物資の補充がてら、立ち寄ったバリの港町で大量に酔い止めを飲んだおかげだろうか。
それとも良い女を見て興奮したせいか……。
まあそれはともかく……本日も快晴なり。
波は静かで、風向きはちと悪いが進めている。
あと他の海賊船に見つからぬよう、迂回したりもしたが、今日もまさに平和の一言に尽きるぜ。
せいぜい、寝ていたレオナルドを襲おうとしたビルジが半殺しで海へ叩きだされたくらいかな。
あの野郎、レオナルドは止めとけつったのに、お尻が可愛いとか言ってアタックしやがった。
今じゃあ全身ボロボロだぜ……情けねぇ。
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さらにそれはまるで子守歌の如く、彼らの耳に届くのは騒音では無く爽やかに吹く潮風、緩やかな波の音。他には空を舞うカモメの泣き声などなど、
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×月△□日
今回の船旅は記す事が無い位、実に平和だ。
目立った出来事と言えば新生海賊団の襲来。
ケツの青いガキ共が十数名乗りこんできたくらいだが、余裕で叩き潰してこちらの被害もゼロ。
一応、相手はレオナルドの命令で生け捕り。
襲撃して来たけじめとして身包みと積み荷だけ奪いはしたが、全員生きて返してやったわけだ。
全く……これだから陸地育ちの甘ちゃんは……。
……しかし、本当に不気味過ぎる程に平和だ。
こいつはきっと海の女神様が俺達の味方をしてくれているに違ねぇ……さすがこのティーチ様だ。
自分でも惚れ惚れする豪運だぜ。
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争いの絶えぬ彼らからすれば頻繁に耳にする音。
武器である大砲、銃が散らす発砲音も少なく。
サーベル、カットラスが交わる回数もほぼゼロとこれまでに類を見ない程、楽な船旅だった。
だが……しかし?
―― ―― ―― ―― ―― ――
「畜生! さっきまでは何とも無かったのに!」
「ティーチ船長! 船が変な方向に行ってる!」
「このままじゃ、砲撃の狙いもつかねぇ!!」
これは丁度航海7日目に起こった。
平穏は長く続かないものという事を証明するように、これまでの順調な旅はまさに嵐の前の静けさだったのだった。
「早く帆をたため! マストがイカれちまう!」
「「「了解! ティーチ船長! すぐたたむ!」」」
しかし……それでも。
彼ら一行を乗せたアン女王の復讐号はついに突入した。
「シュラウド代われ! 操舵は俺がやる! お前はすぐに大砲の準備をするんだ! いいな!」
「了解! ティーチ船長!」
目的地であるこの【悪魔の魔海域】へと。
多くの海賊から船の墓場とも揶揄され、恐れられているその縁起でも無い海域に突入したのだ!
「うぐっ! 舵がまるでいう事を利きやがらねぇ……がっちり固定されているみてぇだ!」
だが海域へ突入してからというものの。
現状を擬音に一気に例えるなら、こう。
ザアザア! ビュウビュウ!
ゴロゴロ! ビカシャァァ!
……とでも言った具合だろうか。
「ちくしょう! これだから危険な船旅は止められねぇんだ! 体中の細胞が生き残れと俺を突き動かしやがる! ダッハハハハハハハハハ!」
船長本人は高笑いを決めているが、それは今までの順風満帆がまるで嘘の如く。天候は瞬く間に崩れ、現在船はまさに嵐の渦中に吞まれていた。
この空は暗雲、甲板には豪雨。轟くは雷鳴、照らすは眩い稲光という船乗り泣かせの最悪な天候に見舞われていたのである。
「ティーチ船長! 大変だ!」
「どうした、サベル!?」
「奴に宝物庫をやられた! おかげで前の新米海賊団から奪った宝が全部流され――」
「構わねぇ! そんな事よりも今はお前らの命だ! 早く戦闘準備を整えろ! 急げサベル!」
「わ、分かった!」
しかも今までの平穏な船旅のツケを清算させるかの如く。
そんな大荒れの天候の中で、もっと最悪な事なのは現在出くわしているこの海の魔物。
「グショォォォォォォォォォォ!!!!!」
「「「ひぃ!? アイツ俺達食う気満々だよ!」」」
「野郎ども落ち着け! あんなのただデカいだけのイカちゃんだ! 大砲で黙らさせてやれ!」
そしてその海の魔物名は【ヘル・クラーケン】。
危険度《S》ランクを誇る巨大な海生モンスターで、悪目立ちする異様な赤紫色の巨躯に大木の如き十本の触手を武器にして暴れ回り、通りがかる船を粉砕し座礁させるという凶悪なモンスターに襲われていたのだった。
「ティーチ! ティーチ!」
「なっ、レオナルド!? 隠れてろって言ったろ!? テメェは今回の大切な客人なんだぞ!」
「あんな馬鹿でかいエビル・クラーケン見て、呑気に構えてる方が無理ってもんだよ!」
それも不幸な事に通常のサイズではなく、下手をすれば《SS》ランクにまで格上げされそうな超特大の【ヌシ】サイズが彼らを襲撃している。
「とにかく、あれは僕が魔法で蹴散らす。あんなサイズでも一撃で倒せる魔法を僕は使える!」
「魔法だぁ!? ふざけんな! 海の漢たるもの大砲でドカンと勝負に決まって――」
「この船沈んでもいいの?」
「………………。おい、野郎ども! 全力でこの可愛い金髪レオナルドのサポートに回るんだ!」
「「「了解! ティーチ船長!」」」
そして。そんな荒れ狂う最中。
下手をうてば船ごと潰されかねない可能性すらある巨大サイズ相手にティーチは望まぬながら決断し、交戦時の海賊船の命を握る大砲をあくまで牽制に使用する様に全員へ指示。
「それと……もし上手くサポートできた奴には」
「「奴には何をくれるんだ!?」」
「「宝物庫に残ったお宝か!?」」
「特別にこの俺様が夜も眠れない熱いキスをしてやるぜ!」
「よし全員! 船を捨てろ! この船を捨てて海に早く飛び込んで逃げるんだ! あの“化け物より恐ろしい奴”がここにいる!」
「「「了解! キス魔船長から逃げろぉぉ!」」」
「待て嘘だ! 嘘だから! 全員戻れっ!」
そしてこんな危機的状況。
今にも船が沈められるかもしれないという切迫する空気を和ませるようにノリが非常に良い、何処かまだ余裕を見せつつある船員達に支えられる中で、
「よし。準備オッケーだ! 頼むぜレオナルド!」
「オッケー、任せて……《厚き雨雲に潜む雷光よ……我の魔力に応じ応えよ。我、天の雷、天雷を望む者なり、眼前の邪悪なる者を打ち砕く力を貸せ――》」
レオナルドは告げた一撃必殺魔法。
雷光纏う暗雲があるこの悪天候だからこそ、よりその効果が上がる究極雷呪文【天襲雷光】に全ての望みを託すと……。
「いけぇぇ!! レオナルドオォォォォォ!」
「唸れ! 天の雷光《天襲雷光》!!」
襲い来るデビルクラーケンめがけて青白い雷を落とすのだった。
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