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32.陸を離れるようです


 青。


「いつぶりだろう……」


 レオナルドの目に映るはまさに()()()


 だが、それは別に空色を指す訳では無い。ではこの青が指し示すモノとは何か?

 現在彼が目の当たりにしているこの()()()()()()までを染めるこの美しい青が何を表すかというと――


「ダハハハ、【船】は久し振りか? レオナルド」


「まあね。以前までは転移魔法でクエストの現場に向かっていたからね。何だか感慨深いもんさ」



 レオナルドはそう軽く隣の友人の問いに返す。

 その無精髭のせいか本来の年齢より年老いて見える彼の友人。それも現役の海賊という珍しい友人の通称”船酔いティーチ”の言葉に呑気にそう感想を溢したのだった。


「転移魔法か。……ったくセンスが無くていけねぇよな。人の子なら“海渡るんだったら船使う”のが道理ってもんだろうが……それをどいつもこいつも座標が固定してあるから魔法で飛べって。全く男のロマンってものを分かっちゃいねぇ!」


「何それ、皮肉? 魔法使う僕に怒ってるの?」


「いんや、別にそうは言ってねぇよ。でもオメェ程の操舵能力を持つ輩も中々いねぇのさ。どいつもこいつも闇雲に舵を切ればいいと思ってや――」


「はいはい、分かったから……魔法に頼らない立派なティーチ船長は愚痴溢してないで働いて」


「へぇへぇ、分かりましたよ。ほんと口悪――」


「なんか言いましたか? ティーチ船長?」


「いいえ! とんでもございません! この船酔いティーチ! 汚い汗水たらして責任もってレオナルド様を目的の海域へお送りします!」


 そして……。

 そう、まさに今の会話通り。

 レオナルドが足を付けるこの場所はというと――



(にしても……()か。本当に久し振りだ)



 ティーチの海賊船《アン女王の復讐号》の船上。もとい360度。

 視界の見渡せる限りが青一色で染まった果て無き大海原に彼は身を置いていたのだった。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 これは、ほんの数時間前のこと。



「えっ、()()()? このご時世に?」


「ああそうさ。停泊したあちこちの町で集めた話なんだが。なんでもあの【悪夢の魔海域】。ほら、《エビル・クラーケン》とか《怪奇魚》とかのヤベェ奴らが縄張りにしてる場所あんだろ?」


「ああ、嫌と言う程知ってるよ。昔、過酷なクエストを受けた事があるからね……」


 それはこのよろず屋開店して初となる知り合いからの依頼だった。

 そのせいか今まで異世界の客ばかり相手にしていたレオナルドからすれば、その依頼は新鮮というか目新しいというか、



「で? それがどうしたの?」



 とにかく旧友がよろず屋を営んでいるという噂を聞きつけ訪れた海賊ティーチは、レオナルドに向けて事の詳細を話していく。



「――で、そこには最近幽霊船が出るって話なんだ。まあ、あくまで見た本人の話じゃなく。又聞きの又聞き。家系で例えれば()()()()()()()()()()()()()が発言ってところだな」


「それ最後明らかに他人交じってるよね!? どう足掻いても信憑性ゼロだよね!? 信じられる要素が塵すら残ってないんですけど!?」


 その……他の誰にも頼めないという。

 いわゆるヤバめの依頼内容を、


「まあとにかくだ。オメェへの頼みってのはまさにその悪夢の魔海域に出没するっつう怪しい幽霊船についてなんだよ」


「幽霊船……ねぇ。また変な依頼が来たもんだ」


「どうだ? 今は深く聞かずに来てくんねぇか? 礼は満足いくようにたっぷりするからよっ!」


 と、事の事情を話し終えたティーチが頭を下げて頼みこむ中。


(うーん……本当は休みたかったけど)


 正直、レオナルドとしては数日かけた遠征から帰ってきてやっと一休み。

 久しぶりに日がな一日を読書で潰そうとしていたのに、また変な依頼を持ちかけてきやがった……とそう毒づきたい所ではあったのだが、


「分かったよ。これ以上聞かない」


「おっ、引き受けてくれるのか! 助かるぜ!」


「その代わり……礼なんだけど――」


「ああ! 俺の知る一番の美女を好きなだけ抱かせてやるぜ! そいつ、お前みたいな金髪の少年が大好物らしくてよ! きっと足腰立たなくなる位に一晩中()()()()()()()()()出来――」


「違うそうじゃない! ってか……エミリアの前でそんな事言ったら。あっ――」



「レオナルド。私というものがありながら……まさかエッチな事……するの?」


「ひぃっ!? ほら言わんこっちゃない! エミリアが僕に()()()()()()()()()()みたいなどす黒い視線を向けてきてるじゃないか!?」


 まあいわゆる腐れ縁というか。レオナルドの所属していたパーティー『天の箱舟』が現役時代だった頃に知り合い、一時だが共に旅をしていたティーチの頼みとあっては、


「わ、わりぃ……冗談、冗談だよエミリアちゃん! だからマジでその果物ナイフを俺に向けないで! なっなっ! 今の嘘だから!」


「嘘……なら許すの……お話続けるの」


「ふひぃ……まあとにかくだ。依頼の要件を後回しにして言うのもアレなんだが。真面目な話、礼は俺が他の海賊から奪った宝だ。金銀財宝の一部をお前にそっくり譲ってやるよ」


「オッケー、それでいこう。お金は大事だからね。引き受けよう!!」


「おう! その返事を待ってたぜ!」


 彼も流石に無下にしたりする事も無く。

 両者共に冷酷な目線で果物ナイフを突きつけるエミリアをなだめつつ、どうにか依頼を承諾。


「じゃあ明日の朝にサンクリアの港で会おうぜ。そこに船を停泊させておくからな!」


「えっ、サンクリアに停泊してるの? あそこ嫌なんだけど……女性にナンパされたりするし」


「なに、あの美女揃いの港町でか? ダハハハハ! 冗談きついぜ! そんな簡単に女が釣れるわけ…………今度一人紹介してもらえる?」


 こうしてここ最近はずっと陸地での生活が多く。なおかつ長期に渡り船や海から離れていたレオナルドからすれば懐かしい海で冒険という刺激の意味も兼ねて、海賊との航海に勤しむ事を決めたのだった……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 そうして。



「あと、どれくらいだっけ?」


「えっとな。海図の距離から考えると……早くてもあと5日ってとこだな。まあ、女の機嫌と同じで天候もコロコロ変わりやがるから、ハッキリした事は言えんがな。まあ長く見ても一週間だな」



 承諾後のそれからというもの。

 危険だからという事でエミリアは留守番。

 代わりに海賊ティーチがレオナルドの相棒を務めるという珍しいコンビで船に乗り、今はすっかり陸地から離れての航海へと身を投じていたのだった。


「長くて一週間か。その間に事情話してね」


「ああ分かってんよ。副船長補佐さん」

「はいはい。キャプテン・ティーチさん」


 ……こうして。

 二人を乗せた総勢15名の船。

 髑髏(ドクロ)入りの赤き帆を張る《アン女王の復讐号》は、眩しい太陽の日に照らされたその絶景とも呼べる海上を優雅に進んでいく。


「あと、他の海賊に襲われるって事無いよね?」


「んとな……残念だがそれは保証できねぇな」


「えっ!? 嘘でしょ!?」


「だって俺ら海賊だぜ? 奪われたり奪ったりするんだから襲われても文句言えねぇだろ。それにあの赤い帆と、アン女王の石像見れば誰でも俺達が有名な《黒ひげ海賊団》ってバレちま――」


「帆と石像破壊してくるね」


「レオナルドさん、お待ちになって。分かった分かったから。なるべく他の船から離れるから。だからその握った拳を開いておくれよ。せっかくの船旅なんだしリラックスしていこうぜ。()()()()は」


 まあ向かっている先はロマンチックとは程遠い危険地帯。

 それも今回はおまけで幽霊船まで出るというどうも信じがたい。書物などから色々な情報を仕入れるレオナルドにしても、本業で海を回っているティーチからしても怪しい噂立ち込める。



「よーし野郎ども! もう一度行き先を確認するぞ! 俺達の目指す場所は泣く子も黙るあの【悪魔の魔海域】だ! 全員ビビって小便チビるんじゃねぇぞ! ダーハッハッハッハ!!!!」


「「「了解! 向かうは悪魔の魔海域!」」」



 危険なモンスターの影響で沈没船や行方不明者が絶えないという優雅さとは程遠い【悪魔の魔海域】と称される恐ろしい海域へと進んでいくのであった……そんなあやふやな目撃情報を元にして……。

明けましておめでとうございます!!

そしてここまで読んでくださりありがとうございます。

この度新年を迎えるに至って一週間ほど連載のお休みを頂きましたが、次話は【明日更新予定】となっています(*´ω`)

時間としては正午以降に【直接投稿】致します。


最後にもしよろしければブクマや評価、感想をお願い致します。私としてはユーザ様の声はものすごく励みになりますので……(´・ω・`)

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