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25.ついに……きてしまったようです


【料理の温度とは旨さに直結する重要な要素だ!】


【この博識王こと私ガリヴァ―が世界中をグルメ目的で再度巡り、各地で口にした絶品料理を研究し尽くした中でふと()()()に気が付いた。


 それは……料理の【()()】についてである!

 とまあ、これをご覧になっているであろう主婦の貴重な時間を浪費しない為にもここは簡単に小難しい事抜きで分かりやすく記すならば、


 料理の温度というのは()()()()()する。


 例えば塩味ならば温度が低ければ強く、高ければ感じにくいという性質を持つ。

 そして他にも味が変わりにくい酸味を除いた甘味・苦味・うま味といったモノも同様に、温度により感じ方が異なってくる為、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()されるからなのだ。


 よって……私が研究した内容を基にした簡単な温度帯の例えを設けるならば、こう。


 味噌汁・シチュー等 62~70℃

 米・煮物などの料理 40~48℃

 生野菜などのサラダ 4~10℃


 といった具合に絶妙な味を醸し出すにはいずれも適度な温度帯がある事を理解すれば、明日から貴方の料理は美味しくなるかもしれないだろう。


 ※味の感じ方については個人差があります。


 ~ガリヴァ―書房刊『博識王が教える絶品料理』34の項【温度で変わる料理の旨さ】より引用~


 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 残念ながら……。



「んっ……ぐっ!」


 レオナルドの読みは的中した。


「ぐぐっ……熱い……」


 それは温度が【4()0()()】を越え始めた頃。

 身近な食事で言うとホカホカの炊き立てご飯。

 人間の体温より僅かに高い温度帯にて起こった。


「そろそろ、食べるのキツくなってきた?」


「い、いいえ。まだ私はいけますわ」


「でも、さっきから口元で煙あがってるよ?」

「先程の39℃時点でも少し出てましたわ……大丈夫です。まだまだ私は諦めません……わ!」


 その氷の体が限界を迎えようとしていたのだ。

 それは人間が約1000℃近い温度を持つという溶岩(マグマ)を飲む事が出来ないのと同じ意味。


「……エミリア。おかわりを」


「分かった……でもお姫様……」


「大丈夫。いざとなったら僕が止めるから」


「分かった……はい。じゃあこれ」


「ありがとう。えっと今度は47℃か……」

「だ、大丈夫ですわ。まだ私食べられますから!」


 努力というのは限界があるものである。

 いくら奮闘しようとも越えられない壁はある。


 確かにここ数日でエルザは温かいシチューを食べ続けた甲斐あってか、熱に対する免疫や抵抗のようなモノが付いて来つつはあったのだが……


「ンクッ!?」


 だがこの事態を鑑みるにそれは困難を極めた。


 結局は無理難題に過ぎなかったのかもしれない。

 何故なら出来立てを食べると決めている以上。氷の体を持っていようといまいと目標である()6()0()()を越える食物を食せなくては話にならないのだから。


「ムググ、ハアハア……うう、熱い」


「はい、これ冷凍タオル。これで熱くなった口元を拭いた方がいいよ。溶けて死ぬよ」


「い、要りませんわ。アグニさんの前ではそんな物はありませんもの……あるのは出来立ての熱々シチューだけですから」


「…………分かった。次も頑張ろう」


「ええ、勿論ですわ。ではおかわりを……」


 しかし。それでもエルザは食べ続けた。


 執念というか根性といった固い決意。

 容易には崩せない意思で食べ進めたのだ。


 その身が焼かれるような熱さを感じつつ、


「くっ!? でも、私は諦めませんわ!」


 彼女は必死に食らいついていったのである。

 その温度が上昇していくシチューを……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 けれども。ついに【()()】は来た。

 無情にもレオナルドとエミリアの二人が危惧していた時が訪れたのである。



「グス……ごめんなさい。私はもう……」

「分かった……お疲れ様。エルザ姫、本当に君はよく頑張ったよ。よくここまで食べ進めたもんだ」



 そう……()()()()()のだ。

 シチューの温度としては51℃。

 出来たてとまではいかないが上出来。


「で……ですが。まだこんな温度帯では」


「いや、いいんだ。無理はしない方が良い」


 大切な人の事を想いながらも、ここまで苦手としていた筈の熱々の食べ物をある程度まで克服したのだから……充分その努力は認められ称えられるに相応しい成果だった。


「まだ……まだいけます! 私はまだまだ――」


「大丈夫、大丈夫だから。お姫様は本当に良く頑張ったよ。だからもう今日は良いんだ。あとはお城に戻ってゆっくり休んだ方が良い。体を壊してしまっては何の意味も無くなっちゃうからね」


「お姫様……頑張ったの……凄く頑張った」


 よって本来なら拷問に近い筈の高温に悲鳴を上げながらも、必死になって食べ進めたその姿に見守っていたレオナルド、エミリアから称賛し褒め称える声も上がっていたのだが……



(そんな……私は……ここまでなんですの?)



 唯一、彼女だけはそんな己の限界を悔いながら称賛の声に反応せず、ただ悔しそうに店の裏口に開く自国グレースランドへ繋がる《時空の穴》を通って、自分の世界へと戻っていくのだった。



 そして、その後に彼女は……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「ただいま……戻りましたわ」



「おかえりなさいませ! エルザおじょう……さま? えっ……エルザお嬢様!? 一体どうされたのですか!? そのお顔は一体!?」


 犯してしまう。


「便箋を……便()()()()()をお願いしますわ」

「で、ですが。その御様子ですと……一度お休みになられた方がよろしいかと思いますが――」

「良いのです。もう……良いのです。ですからエミル。どうか便箋の用意をお願いします」



 一番やってはいけない事を、



「わ、分かりました! すぐにご準備を!」



 その悔しさに任せてとんでもない過ちを、



(お嬢様、凄く思いつめた表情をされていました……何かショックな事でもあったのでしょうか?)



 それこそ茶化す事が多い専属メイドのエミルでさえ真面目に命令に従う程まで言葉が重く、絶望した表情で彼女はそのまま取り返しがつかない行為。



(そうですわ……もうこの際、何もかも何もかも)



 今までの努力が水の泡に変わってしまうような。それこそ実行すれば後で必ず悔いが残ってしまうと分かっていても、今のエルザ姫にとってはその()()()()()()()()()に移ってしまうのだった……。


次話、明日更新予定。

正午以降にて【直接投稿】致します。

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