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23.密かな嗜みだったようです

かごのとり


 彼女は文通が好きだった。


『アグニさんへ。こんにちは。

 お元気ですか? 私は変わらず元気です。

 最近は忙しく、すぐ返事出来ずごめんなさい。

 この前、両親の事で悩み事があると書かれていましたがその後はどうですか? その……僭越ながらもし私にもご協力できる事がありましたら遠慮なくお返事ください。お待ちしていますね』


 その高貴な身分の都合や隣国との関係上。

 滅多に外出の許可を許されない中で彼女、氷国グレースランドの王女であるエルザ姫が唯一厳格な国王である父より許可された、この()()()()()()()細やかな趣味であり生きがいだった。


『そう言えば。先日私にお勧めくださいました。

 アグニさん一押しのベストセラー冒険小説。

 【私が見た燃える土地】を付き人……いえ知り合いの女性から譲り受ける形で読んでみました』


 その束縛振りはまさに箱入り娘……いや。

 事態を見るに相応しい例えならば()()()か。


『すごく面白かったです。特に作者が好奇心で火山の火口に飛び込むシーン! あそこは文章とはいえ思わず声をあげてしまった程でした』


 この城内を歩けるのならまだしも。

 彼女の箱入り振りは完全に拘束と呼べるレベルであり、その自室から出る事を許されるのは基本的に()()()()()()()()()()()()()()()()の動きのみ。


『そこで、その……もしよろしければですが。

 私からもオススメの本があってタイトルは【凍てつき燃える夜】という恋愛小説なんですが、決して相いる事が出来ない二人の種族が恋に落ちるという内容で……私の憧れとも呼べる作品ですので、一度目を通していただければ幸いです』


 もしも外出しようとするなら許可が必須。

 それも許可が下りるまでには数日以上。

 さらにその流れも付き人の推薦状から始まり、父親である国王の目に留まって認定されるまでという複数の手順が要求されるため、外出も準備すらも非常に面倒なのだ。

 

『それでは便箋の余白も僅かになってまいりましたので、今回のお手紙はここまでに致します。

 お互いに楽しい……毎日を過ごしましょう』


 よって。彼女にとっての自由とは親の手中。

 自分の事だというのにいつまで経っても自らの意思では叶えられない悲しさ、束縛感、閉塞感。


 そんな窮屈過ぎる毎日に苦しめられていたのだ。


『最後に、もしアグニさんがよろしければ……。

 またいつでもお返事の便りを待っていますね。

       ~貴方のお友達のアイスより~』


 だからこそ、互いにペンネームを用いた自分の正体を隠す匿名の文通とはいえども。

 息苦しい日々が続く中でも『外の存在』と触れ合える、この文通こそが束縛されぬ唯一の自由。

 もうかれこれ始まってより数か月以上経つ中でエルザを癒せるたった一つの手段だったのだ。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「エルザ様。お待たせしました!」

「!? どうでしたか! 届いていましたか?」


「はい勿論です! いつもの郵便局前で待機していたおかげで届きたてホヤホヤですよ! はい!」


「ありがとうございます。本当に頼れるのは専属メイドの貴方だけですわ。ありがとうエミル」


 だが……やがて、そんな細やかな光。

 か細くも自分を解放してくれる光にも大きな暗雲が立ち込める事になる。


「では、私は失礼しますね。お嬢様の()()()()()()の邪魔をしてはいけませんので……」

「なっ!? べ……別にそんな関係ではありませんわ! これはただの文通に過ぎませんもの!」


「またまたぁ、私知っているんですよ? ()()()()()()()()()()()()()()()に丁寧にしまって――」

「んなっ!? それ以上言うと怒りますよ!」


「あっ、そうですわ。今日は幸いな事にコルドル大王様は隣国との会談でお留守ですので、もし外出でしたら私めがこっそりと算段を立て――」


「もう! 早く出て行ってくださいっ!」


(うふふ。お嬢様ったらすっかり赤くなって可愛い。恋なさっているお姿は凄く絵になるわね。あら……嫌だわ、可愛すぎてなんかムラムラしてきましたの……)


 それは彼女がいつも通り、手紙の返事。

 何処にいるか分からずとも繋がっているたった一人の『外』の友人からの返事に首を長くして、長らく待ちわびていた時だった。


「もう……エミルったら。人の部屋を勝手に漁るなんて専属とはいえ許せませんわ……本当に」


 一応いくら匿名であるとはいえ、流石に王宮へ直接手紙を送ってもらう訳にはいかない彼女は互いに指定した郵便局宛てに送るようにし、それを専属メイドが取りに行くというなんとも変わった形式で両者共身分を隠していた。


 しかしこればかりはもしも相手が()()()()()()()()()()()()などと知れば、相手も緊張せざるを得ないとエルザ姫考えての事だった。


「それでは早速……誰も見ていませんわね?」


 よって今回もそんな回りくどい手段ながら、こうして手紙を手に入れたエルザはその手紙の封を切ると友人からのメッセージに目を通す。


【僕の大切な友人アイスさんへ。こんにちは。

 お元気ですか? 僕の方も変わらず元気です。

 まず初めに先日お手紙をいただいたというのにすぐ返事出来ず申し訳ありません。僕の方も少し忙しくて中々お手紙を書けなかったんです】


「うふふ。アグニさんも忙しいみたいですね」


 手紙の前半は言ってしまえばただの定型文。

 ある意味社交辞令とも呼べる文章だったが、交友関係ゼロのエルザにとってはその手書きの一文字一文字が大切な相手の言葉であり大切な気持ち。



「あらあら、そんな事があったのですか」



 だからそんな小さな事であっても貴重な刺激。

 季節による僅かな気候、景色の変動といった他愛無い文章でもエルザは喜んで読んでいたのだ。


 しかし……そんな彼女の細やかな趣味。

 許された僅かな楽しみも束の間だった!



「……えっ!?」



 ワクワク、ドキドキと高揚感に満ちる中。

 先まで笑顔で読んでいた彼女の表情が凍った。


 そして異変の要因はというと……()()()()()


「そ、そんな。私は一体どうすれば……」


 数枚の内、あと便箋一枚。そこに彼女から笑みを奪った内容があったのだ!

 そして……その最後にはこう記されていた……。


【その、これは君がもし良ければなんだけど。

 僕としては一度君に会って話をしたいんだ!

 それで……だから……その席でなんだけど。


 そこで僕達の一族に伝わる歴史ある伝統料理。

 普通ならよそ者には決して出さない【伝説の熱々シチュー】の出来たてを親愛なるアイスさんに食べて欲しいなって思ったわけなんだ……。


 その、だから……凄く差し出がましい。

 とても身勝手なお願いかもしれないけど。

 これが今の僕の素直な気持ちなんです。

 最後に君の返事をいつでも待っています。

        ~貴方の友達アグニより~】



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「なるほど。それで君は困り果てた中で君達の世界(そっち)に入り込んだウチの広告紙チラシを見て、このよろず屋を尋ねてきたって訳なんだね……」


「はい、ですがこんなお誘いが来るとは――」


「で、この一番の問題はというと。君が()()()()()()()と強がった末に出したこの手紙――」



『アグニさんのお誘い内容拝見させていただきました。実は私も是非アグニさんにお会いして、一族秘伝の絶品デザート【古の凍てつきフルーツシャーベット】を食べて欲しいと思っております。

ですので、互いの伝統料理を同じ席で召し上がりましょう! では予定が纏まり次第、私から一度手紙に添えてご連絡させていただきますね!』



「……ったく、高貴な身分の人達と来たら。どうしてこう嘘つきの見栄っ張りなのかな。全く」

「嘘つく位なら……ごめんなさい……するべき」


「仰る通りです……面目次第もございません」


 エミリアの告げた通りだった。

 素直にシチューは食べられないと。

 仮に食べようものなら熱気で死んでしまうとそう正直に打ち明けた方がまだ救いはあった。


 しかし彼女はそんな状況を悪化させた。


 無論その真意は()()()()()()()()事。

 初めて出来た唯一の友人に嫌われてしまう事を酷く恐れた末に、そんな如何にも()()()()()()()()()()()()()()()を送ってしまった訳だった。


「でも仮にさシチューが食べられる様になったとして、お城からどう出て行くんだい? 今日もそのメイドさんが何とか誤魔化している間にここへ繋がる【時空の穴】を開けて来たんでしょ?」


 最早、開店当時から今では通例となった。

 この世界とは時空が違う異世界からの客に何の疑問も抱かなくなったレオナルドは外出方法。

 どうやってから脱出するのかを尋ねた。


 すると彼女はあっさりとこう告げた。


「エミルは母上お墨付きの優秀なメイドですの。ですから厳しい父上が留守であるなら、きっとお城の警備の隙をついて少しくらいの脱走は……」


「でも、それってばれたら只事じゃ済まないよね?」


「大丈夫ですわ。エミルは『()()()』という痛めつけられる事で興奮する性格みたいですもの」


「なんでそれを専属メイドにした!?」


 その返答を聞いた瞬間レオナルドは思った。


 もうこればかりは世界問わず。

 常識の器では測れぬ変態はどんな場所にも。

 どんな身分の傍であろうともいるんだねと、そんな微妙な感情を抱きつつも、


「まあ分かったよ。とりあえず頼み事があってここに来てくれた以上誰だろうとお客さんだ。但しシチュー・トレーニングは明日からだからね。また上手く両親の目を盗んで来るように……」


「分かりましたわ。このエルザ、彼の為に何としてもシチューを食べられるように致しますわ!」


(本当に大丈夫なのかな……)


 専属の変態メイドもさることながら。

 彼は、囚われている割には生き生きとしているエルザのお転婆ぶりに呆れながら、結局この少し厄介な依頼を引き受ける事にしたのだった……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「ねぇねぇ……レオナルド?」


「? どうしたんだい、エミリア?」


「どうして……あのお姫様に()()()()()()()?」


「ああ、この前の【()()】かい? まあこう言うのってさ、直接伝えるよりは本人達で気が付かせた方が効果あると僕は思うんだ。だからだよ」


「むぅ……レオナルドってば意地悪」


「ははは、やっぱり僕って性格悪いかな?」


「大丈夫……どれだけ性格歪んでても……私はレオナルドの言いなり……好きにして」


「……出来れば否定して欲しかったんだけど」


次話、明日更新予定。

正午以降にて【直接投稿】致します。

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