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22.その令嬢はとろけるようです


「出来たの……お待たせ……したの」


 シチュー。

 それは日常生活でもメジャーな料理である。

 野菜や肉、魚介類をソースで煮込んだ料理の事を指し別名ではラグーとも呼ばれる。


「これが……シチューですか。初めて見ました」


「あのぅ……それ本当に食べる気なの?」


「ええ勿論です。その為に私は来たのですから」


「その……用意した側として言うのもなんだけど、悪い事言わないからやめた方が良いと思うけど……」


 そして派生した種類としては他に、赤ワインやトマトを基に牛肉やジャガイモ、ニンジン、セロリなどの香味野菜を入れた赤みにあるビーフシチュー。単純にカレー粉を混ぜたカレーシチューなどそのアレンジが出来る幅は広く、寒さのお供とも言える有名な料理なのであった。


「エミリアもそう思うよね?」

「うん……自殺……行為」

「あはははは、ですよねぇ……」


 と、そんな料理の紹介を終える中。

 現在のレオナルドのよろず屋では食事前。


 相手は本日訪ねてきた依頼人のとある令嬢。

 そのまるで()()()()真っ白い肌をした女性の前には一つの皿が並べられていたのだった。

 さらに中身については彼女が調理するよう頼んだ温かいホワイトシチューが注がれていた。


「……いいえ、きっと大丈夫ですわ」


「いやいや! どう考えても()()()()()()()に考えるとするならここは遠慮した方が――」

「では……早速ご馳走になりますわね」

「ちょっと!? 少しは僕の話聞いて!?」


 対してそれを傍で見守っていたレオナルドは依頼人の危機を察知してか、その湯気が立ち込める如何にも()()()()()()()()()()()()()を口元に運ぼうとする女性を何故か制止した……のだが。


「では、いただきますね」


「もう好きにしなよ。僕知らないからね」


 けれどもその令嬢はそんな彼の忠告など意に介さずそのまま、スプーン越しでも熱さを感じられる出来立てのシチューをその口へと流したのだった。


「んく……」


(本当に大丈夫なのかな?)

(私……悪い予感……する)


 エミリアとレオナルドが固唾を飲み見守る間。

 彼女は熱気立ち込むシチューをほんの一口だけ。

 喉に僅かに掬いあげた白い液体を伝わらせた。


 そうすると……なんと!。


「はい、()()()()()()()()!」


 ジュウウウウウッ!!


「いや何処が!? 明らかに味覚どころか()()()()()()()()()るんですが!? そんな熱いもん飲むから煙が上がってるんですけど!?」


「いいえ、違いますわ。これはただの湯気……ウグッ!? ケホッケホッ、ゲフォッ!?」


「ほら言わんこっちゃない! 強がってる場合じゃないよ!? エミリアすぐに回復してあげて! 早くしないとこの人()()()()()()()()()()()!」

「分かった……完全治癒エクスヒール


 そうレオナルドの発言通り!


 彼女が熱々シチューを口に入れた途端、なんと彼女の頬の一部が煙をあげて文字通り気化!

 ドライアイスを水に入れた時と同じくジュウゥゥゥと白い煙をあげていたのであった!



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 出来たての熱々シチューを食べたい!


 そんな傍から聞けばどうって事は無い。

 自分で作って勝手に食えばいいじゃないかと、ツッコミを受けそうな内容こそ今回レオナルドが請け負った依頼内容だった。


「先程は申し訳ありませんでした……私のワガママに付き合ってもらっただけでなく、治療まで」


 そして今こうして頭を下げて話しているこの女性こそがその依頼人である【王女エルザ】。

 こことは別の空間に存在する異世界にあり、一面が雪原に満ちているというまさしく銀世界に相応しい()()()()()()()()()()()こそが彼女であった。


「ホント冷や汗かいたよ。おまけに寒気もした」


「レオナルド……寒気は彼女・・のせい。多分()()()()()()()()()()()だと……思う」


「……そうだね。さっきは()()()()もんね」


 肌はまさに凍土の如く透き通る白き肌。

 髪は氷を彷彿とさせる水色のポニーテール。

 最後に体を纏うは(あお)のドレスという、


「本当に申し訳ありません……」

「いやいや確かに驚いたけど、そこまで謝る必要はないよ。早く顔をあげてください、王女様」


「……はい、お心遣い感謝いたします」


 そんな見るからに寒々しい色を基調とした風貌であり、近付くだけで凍てつかせますよとでも言いたげな。全てが寒色で見事にコーディネートされていたのだった。


「でも、本当にこれまた不思議な……ブルル……不思議なお客様な事だよ。へっくしょい!」

「私も……同じ思い……へくちゅ……」


 しかし、これは比喩では無く事実だった。

 何故なら彼女の体質もまた同じなのだから。

 熱気に溶ける雪や氷などと同質なのだ。


「ブルル……暖炉付けたいけど……」


「ダメ……エルザさん……消えて死んじゃう」


「うう……仕方ないね。エミリア上着持って来て」

「うん、分かった……持ってくるの」


 よってそんな氷と同質の彼女を溶かしかねない火や炎などの火気は当然として、食品も同じ。

 お湯、鍋物、無論シチューも例外では無く、熱を発する温かい物体に触れたり口に含むだけでもすぐに溶け始めていくという仕組みで先の騒ぎもこれが原因だったのである。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 そうやって。



「さて、じゃあ教えてもらうか」


 まだ秋にも突入していないというのにレオナルド達は氷姫エルザが漂わせているその冷気のオーラに耐えるべく冬用のコートを厚着した後、今も冷えてゆく客間で会話を始めた。


「どうして氷の国に住まう貴方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて躍起になるのか……危険を顧みずに僕達に頼んだのかを」


 そして真っ先に尋ねるは彼女の依頼。

 どうしてそんな身を滅ぼすような行動。

 本当に死ぬ危険だって考慮せねばならぬ食事。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に至ろうとしたのか、レオナルドはそこを尋ねた。


「……分かりました」


 対してエルザは了承の返答を返す。

 するとそのふくよかな胸元から、


「こちらを」


「うん? これって……手紙?」


「はい、それこそ今回私がこちらへお願いをするきっかけとなった【ある方】からの手紙です。そしてもう一つは私が記した手紙の写しです」


 彼女が既に読んだ後なのか。

 封の解かれた手紙を彼に手渡した。

 その自信が記した手紙も添えて、


「で、これとシチューにどんな関係が?」


「はい、実は――」


 そして続けてエルザは語り始めた。

 レオナルドを頼る事になったきっかけ、および熱々のシチューを食べる必要についての経緯を【その二通の手紙】を用いて話すのだった。


 一国の王女である彼女がその心の内を。


 胸に秘めた思いを……二人に語るのだった。


次話、明日更新予定。

正午以降にて【直接投稿】致します。

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