21.恋する乙女ぱわー 後編のようです
ベッド下は定番
PM 2:37
掃除の時間である。
レオナルド遠征中につきエミリアは一人で昼食を取ると夕食で使う材料の買い出し。
他にも何度かの休憩等を挟んだ後、現在は部屋の清掃に移るのだった。
「よしっ……掃除頑張るの」
バンダナ、マスク、エプロンの三種を着用したエミリアはそう意気込むと、早速広々とした屋内。
「お掃除……お掃除……ピカピカにして……レオナルドに褒めてもらう」
店の顔といえる幾つもの陳列棚並ぶ店頭は勿論。
エミリアはトイレや客間、キッチンにお風呂、工房など二人暮らしにしては充分すぎる広さはあるその数々の部屋を面倒くさがる事無く、丁寧に何食わぬ顔でしっかりと掃除していった。
そして。
「よし……後は……」
約一時間程かけつつも素早く。懸命に殆どの部屋の清掃を進めた後。
「フフ……最後……レオナルドの部屋」
満を持して迎えるは相棒の部屋。
もう……待ちに待ったというべきか。
掃除する際の楽しみというべきなのか。
「いつか……二人の愛の巣……になる部屋」
いや、むしろこの掃除するという事の大本命。
その根幹、意味を表すといっても過言では無い”重要な場所”の掃除に着手しようとしていた。
…………だがっ!
「これくらい……私なら余裕」
残念な事に彼の部屋は現在施錠中だった。
理由としては以前に彼の留守中にてエミリアが欲望のままに荒し尽くしてしまった事が原因。
以降、彼が留守にする際は必ず扉に鍵をかけていく始末となってしまったのである。
「じゃあ……早速」
では彼女はどうやって彼の部屋に入るのか?
その答えは簡単!!
「んしょ……んしょ」
ならば壁を昇ればいいだけ。
よって彼女はよろず屋の壁を昇っていた。
扉がダメならその窓から侵入するだけの話。
なんらおかしくない理に敵った答えである。
「よいしょ……よいしょ……」
そして梯子なぞ使わずとも壁を素手で登るその姿はさながらロッククライマー。
手の疲れなど苦ともしない非常に慣れた手つきで平然と軽やかな動きで彼女は壁を昇る。
だが、これに関しては別に彼女は悪くない。
なぜなら愛する者の為に奮闘しているのだから。
愛するレオナルドの為に部屋を掃除してあげようという善意のみで突き動いているのだから。
「んしょ……んしょ」
よって。
こんな健気で可愛らしくどこまでもへこたれない少女を誰が責める事が出来ようか?
「あと……少し」
いや、むしろ!
逆に思考を動かすならこうも考えられないだろうか。
現状において最も憚られ、忌むべきは部屋の主レオナルドだと。
不用心にも部屋に窓という侵入口を作る奴こそが最も罪深いと言えるのだから……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
PM 3:40
無事に壁をよじ登りきったエミリア。
そして窓より目的の部屋へ侵入した彼女は、
「ハアハア……ダメ、集中しないと……またいっぱい荒らしちゃう……レオナルド怒っちゃう……でも……レオナルド……レオナルド!」
顔を真っ赤にしてまずは枕の匂いを嗅ぎつつも、感情の昂ぶりを必死に制止しつつすぐにレオナルドの部屋の清掃を開始していった。
強引に持ち込んだ箒、雑巾を用いての本棚。
窓ガラスや机、クローゼットなどなど。
「ダメ、私は……我慢するの」
この誰にも見られていない環境。
彼の部屋に無断で入った背徳感。
他にもはち切れそうになる彼への愛情などで時折狂いそうになるも、順調に掃除を続行していく。
「よし……最後は……」
そうやって他の場所を全て片付けた後。
エミリアの目が最後に捉えた場所は、
「ベッド下……多分ホコリある……」
彼のベッドの下であった。
部屋の中を占める割合が非常に大きくなおかつ汚れが溜まるにはもってこいの場所へ、彼女は前鏡になり掃除すべく躊躇なく覗くのだった。
…………すると。
「何……これ……」
そのベッド下から彼女が強引に引きずり出したのは……異物。
ゴミとは違ったホコリがかった一冊の写真集。
それも水着姿の美しいエルフ属の娘が表紙を飾っている……いわゆる、【持て余した男性専用】とでも言えよう物体だったのだ。
よって内容に関しても……まあなんと言うか。
「むむ……これ……」
そのきわどい水着の表紙から察するに……。
「多分……これ……噂のエッチな本……こういう胸が大きいエルフの子……レオナルド好きなの?」
だが、まあ……しかしだ。
フォローを入れるならば、彼も男性の端くれ。
幼子ではなく飲酒出来る齢まで到達してる以上、そう言った男性らしい趣向の一冊や二冊などあっても、健全な男としては別におかしい話では無いだろう。
「私だって……脱いだら……もう少し……ある」
というのも性欲とは男にとって切っても切れぬ。
腐れ縁・竹馬の友・マブダチ・相棒・親友。
いや最早半身ともいえる本能の一つなのだから。
「私なら……いつでも見せてあげるのに……むむ」
と、まあ。
恋愛対象を抱く人物からするならば若干。
ちとショッキングな物体が見つかった訳だが、
「あっ、そうだ……丁度持ってた……これ使うの」
だがしかし!
エミリアはこんな本一冊では臆さないっ!
例えこんなアダルト本が追加でもう数百冊出てきたところで、彼に対する思いを曲げる軟弱者では決して無かったのだ!
何故ならば……。
「そう……全部、私にすれば良いの……」
なんとエミリアは突然そのエルフのアダルト本を開いたと思えば改竄を開始!
ページに映る女性の顔全てに切り取った己の写真を貼りつけ始めたのだ!!
「ペタペタ……ペタペタ……ペタペタ♪」
流石にその載っている体は変える事は出来ない。
だが! 少しでも自分で興奮してもらおうと欲情してもらおうと、エミリアは鼻歌交じりに次々に女性たちの顔を己に改変していったのだ!!
「レオナルドが悪いんだから……いつも私いるのに……馬鹿レオナルド……バカ、バカ」
だが、これも至極当然の行為である。
レオナルドが立派な男性であるように、エミリアも立派な一人の女性なのだ。
だから少しでも自分を見てもらおうと奮闘し、動くのは当然の行為に過ぎなかったのだ。
「あと一ページ。これで全部私……これでレオナルドは私の顔で……きっと元気になる」
まあ……もし彼女に真実を告げられるのならその本は彼が購入したものでは無く、あくまでエルフ好きだった同僚『天の箱舟』のリーダー。
魔法戦士クロムから悪ふざけでプレゼントされた物ではあったのだが……まあそこを突くのは無粋というものだろう。
―― ―― ―― ―― ―― ――
PM 7:12
夕食の時間である。
「ご馳走様でした」
「お粗末……様でした」
遠征を終えたレオナルド帰還後、エミリアは腕を振るった料理で彼を癒した。
無論、流石に媚薬の混入には至れなかったがとにかく疲れた彼の胃袋を満すのだった。
「どうだった? 今日も大丈夫だった?」
「うん、特に何も……起きなかった。お客さんも夕方だけで……少なかった……」
「そっかそっか。まあ出来れば変なお客さんに巻き込まれるより、そんなのんびりとした日が続くと嬉しいんだけどね。僕からしてみれば……」
「ダメ、経営者が……そんな事言うの……」
そして朝は少し慌ただしかった中。
夜は二人きりとなった彼女はそんな他愛無い。
飛び抜けた報告も無いが、悲しい報告も無い、楽に話せる心地よい空気の内で話していた。
「それでね。今日行った洞窟が――」
「そのドラゴン……強い……」
「あと、砂漠の方にも行って――」
「うん……うん……それ凄い」
今日の遠征の小話や他にも見た珍しい景色。
発見したモンスターなどの話で卓が賑わい、食後の時間は和気藹々と互いの話で盛り上がっていき両者にとって幸せな一時を過ごすのだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
PM 8:19
そうして互いに今日の会話を楽しんだ後。
「ふああ……もうこんな時間か」
「時が経つの……凄く速い」
「そうだね。じゃあそろそろ休もうか。僕はこの後お風呂に入って寝る事にするから」
夜も更けり、時間の経過と共に疲労。
あとは腹を満たした事による眠気など。
「デザート……食べないの?」
「えっ、デザートあるの?」
「私がデザート……」
「風呂入って、寝ますね」
「……………………ケチ」
半日近くかけての遠征で疲れが回って来たのか。
レオナルドは眠そうに再度あくびを一つ挟むと、席から立って自室へと向かうべく足を進める。
と……その最中だった。
「あっ、そうだ。エミリア?」
「? どうしたの? レオナルド?」
「その……いつもありがとう。君が家事やお留守番をしてくれるから、僕はこうして遠征できるんだ。本当にいつもありがとうね、エミリア」
「うん……(ポッ……)」
ぽふっと。
彼女の銀の髪にその手がやんわりと触れた。
そしてそのまま優しく撫でられる感触、彼が触れてくれている事にエミリアは、
「どういたしまして……えへへ」
それこそ純粋な乙女らしく頬をリンゴの様に赤くしながら、大きく言葉には出さずともその労いの行為に喜ぶのであった。
「じゃあ、僕は一旦部屋に着替え取りに行くから」
「分かった。お風呂……ゆっくり入って」
例え、自分が酷いへまをしても怒らない。
その場の注意だけで笑って許してくれる。
そんな優しい彼の労いこそが、彼女にとっての最高の感動にして原動力の源なのであった……。
「うんっ? エミリア?」
「どう……したの?」
とまあ……こうして。
「その、僕のベッド荒れてるんだけど……」
「私……何も……知らない」
少女エミリアの一日は無事に終わった。
「そんな筈無いよ! だって朝は僕が自分で畳んだんだよ! だから誰かが入らない限りこんな……ハッ! エミリア、また入ったね!?」
「うん。その、窓が……開いてたから」
「窓から!?」
本当に何処にでもある様な日常風景。
100あれば95はこれと同じような生活。
「どおりで鍵を開けた痕跡が一切無い訳だ。全く、本当に君って人は行動力が凄すぎる……」
「嬉しい……また……褒めてくれた……」
「誰も褒めてないんだけどっ!?」
それだけ平凡にして普通。
よくある日常の一ページだった……。
※この物語はフィクションではありません。
この世界にいる女性エミリアが毎日当然の如く滅茶苦茶な行為を行いすぎて、変態行為自体が当たり前となってしまった日常を基にした注意喚起を呼びかける物語となっております。
皆様も【恋人の行動】には気を付けましょう。
明日、申し訳程度の追加要素。
【令嬢&恋愛】要素有りの3章突入します。
正午以降にて【直接投稿】致します。




