1.最強のパーティーは解散するようです
いきなりの解散発言だった。
「皆、悪いんだけど……今日で俺達のこのパーティー【天の箱舟】を解散しようと思うんだ!」
世界最強と謳われるパーティー『天の箱舟』。
そのリーダーのクロムは着ている白銀の鎧を輝かせながら、酒場に集めた全員の前でそう大声で告げた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
しかし、そんな唐突ながらもリーダーの解散発言については、同パーティーの中に誰も異を唱える者はいなかった。
「えっ?」
……たった一人を除いて。
パーティーの“雑用係”という立ち位置。
所謂裏方を担当し、薬の調合、鑑定、錬金等など多岐に渡るサポートを担当していた金髪青年のレオナルドだけは疑問を口にした。
「ど、どうして」と。
彼はリーダーに向けて思わず尋ねた。
すると、クロムは、
「フフ、それはな……」
レオナルドの方へ何処か嬉しそうな表情で視界をずらすと、そのキョトンとした顔を見て、
「お前が昨日で《LV.99》になったからだぜ」
「えっ……僕が《LV.99》になったから?」
「ああそうだ。お前で最後だった」
そう彼に答えらしき発言を告げる。
けれども、そんな若干回りくどく曖昧でボヤっとした解答に、
「……僕が最後?」
質問に答えてもなお未だ首を傾ける。
頭に疑問符を浮かべているレオナルドへ向けて、クロムはええい、もうこの際だからと、
「……皆、覚えているか?」
念のために今一度パーティー全員へ向けて、確認がてら次にクロムは大きな声でこう告げた。
「俺達がこのパーティーを、天の箱舟を結成した時の誓った目的を。掲げていた目標を!」
『天の箱舟』
ほんの八名という非常に少数メンバーで結成され、当初こそ実力はまだまだだった冒険者パーティー。
しかし時が流れ行くにつれてメンバー達のいずれも頭角を現し始め、グングンと急成長。
様々な事件や戦い、難関クエストの解決でも名を上げ始めていき、いつしかその実力は超一流にして多くの国にまで名を轟かせた最強の冒険集団となったのだった。
「これを全員が叶えたら解散しようと、結成前に決めていたあの目標だ!」
けれども彼らは決めていた。
結成前に終着点を初めから定めたうえで、その達成をした暁には冒険を終わらせると決意。
後は各々が好きな人生を満喫するよう、蓄えた資金で余生を楽しもうと最初から決めていた。
それを……今からクロムが語る。
「全員が|《Lv.99》 最強になったらそこで冒険は終わり。後はその蓄えた金で各々が第二の人生を歩み、自由に生きようぜって誓いだ!」
これこそが、結成当初に掲げた目標であり尚且つ解散する理由だったのである。
成長が終わった冒険に意味は無いと、これ以上の冒険はやりがいが無いと。
そう言った冒険者の頂天を目指す。成長の限界を志すという目標だったのである。
よって、つまり。
「……そうか、だから僕が――」
「分かってくれたか、レオナルド」
「うん、そうだったんだね。クロム」
瞬間、彼は解散の理由を理解し納得した。
そう、レオナルド以外のメンバーは以前より、
クロム《魔法戦士 LV.99》
ムーン《戦士 LV.99》
ビーグ《パラディン LV.99》
リック《盗賊 LV.99》
ピエール《魔剣士 LV.99》
ダイゴン《賢者 LV.99》
エミリア《ヒーラー LV.99》
と、戦闘の最前線でばかり戦っていた為。
既に他のメンバーは成長限界を迎えており、
「最近、前線での戦いが多いと思ったんだよね」
逆に裏方で仲間をサポートする役柄ゆえ。
中々前には出られずに経験値を獲得できなかったレオナルドの為にと、限界を迎えてもなお他のメンバーは彼だけを置いてけぼりにしまいと。
「そう言う事だったんだね。僕はてっきり戦士でもジョブチェンジしろよって意味と思ったよ」
成長が遅れていたレオナルドのレベルアップを急務として、最近の彼らの動向はこれに集中。
それこそが本当に最後の目的となっていた。
「いやいや!? 流石に幾らお前でも難易度【SSS】の討伐クエストはクリアできないだろ!?」
「クロムの言う通りよ。結局の所アンタは前線よりも後方が向いていたんだから。いくら度胸はあっても、肝心の攻撃力や防御力に関してはアタシ達より低かったんだから仕方ないでしょ」
「まあ、ムーンは代わりに賢さ低いけどね……」
「ちょっ……何ですって!?」
……だからこそ。
そんな情に厚い仲間のサポートもあった中。
レオナルドも成長限界に達したからこそ、
「じゃあ、各々今週中に荷物を纏めてくれよ! この本部は悪いが、俺が引き取って使うからな」
「本当に勝手だな、うちのリーダーは……」
「全くだぜ……いきなりこんな良い物件せしめやがって……まあオラ達も見つけてあるけどな」
「アタシも一昨日に見つけていて良かったわ……」
「俺っちもだ。先に別荘買っといて良かった」
今日はそんなレオナルドの成長祝いも兼ねて、一つの団体としてここまで誰も欠けず、遠かったように見えた悲願が叶った事による宴会となったのだ。
「えっ、まさか僕だけ!? まだ何も準備していないの!? クロムゥゥゥ!!」
「ハハハハ! まあまあ、そう怒るなよ! レオナルドだけは特別に、次の拠点見つかるまでいても構わないから……流石に決まってないだろ?」
「うーん……まあ別に。一応やりたい事もあるし、あてが無いじゃないから試しに動いてみるよ。それでダメだったらまた戻ってくるさ」
と、そうしてレオナルド含めた全員は目標が達せられためでたい解散だからと、
「しかし、これでお別れとは……寂しくなるなあ。ムーンはどうするんだ? 遊び人とかか?」
「失礼ね! アタシは故郷で本を書く事にするわ。名付けて”伝説の天の箱舟の冒険譚”ってね!」
「うっわ……糞ダサいタイトルだな。やめとけやめとけ。発刊しても絶対売れ――」
「余生楽しむ前に死にたい?」
「絶対売れますね! このビーグが推すんだ間違いなく売れます! いよっ! 文豪ムーン様!」
誰もそれ以上深入りする事も無く。
別に解散を止めようと動く者も無く。
「リック、おめぇは……どうすんだ?」
「オイラは集めたお金でもう少し世界を巡るよ。まだまだ未知のお宝があるだろうしね。それで君は? 氷の魔剣士なんてカッコいい二つ名を貰ったピエールさんはどうするんだい?」
「俺様は、その……オリジナルの酒を作る」
「ハハハハ! 酒好きの君らしいね!」
いずれも来るべき時が来たんだ、と。
そう納得し、これからの生き方について話題を変え、パーティー解散の寂しさを紛らわせつつ、
「ダイゴン……は?」
「俺っちは用意した別荘でのんびり暮らすな。ってか、そういうエミリアはどうするんだ? ああ、あれか、レオナルドのお嫁さ――ふぐっ!?」
「それ以上言ったら……その舌切り落とす」
「ひゃい……すみましぇんでした」
皆が皆、同じ話題に花を咲かせた。
よって現在は解散後の生活の話で場は持ちきり。
酒を飲んで、食い物を食って大声で話し、誰もが大きく笑い、無駄に騒いで場を賑わし、
「さあ! 皆食え食え! 今日だけはリーダーである俺のおごりだからな! 俺を破産させる気で食って食って食いまくって、飲みまくってくれよ!」
「「おぉ!! 任せろ! リーダー!」」
そんな天の箱舟としていられる、この最後の日を大いに満喫しパーティー全員が思いっきり羽目を外して、朝までひたすら楽しんでいたのだった。
(ちぇっ……でも、少し悔しいなあ)
だが……パーティー全員はその後に知る。
そのレオナルドが秘めていた更なる凄まじさを……。
どちらかと言えば後方支援という地味な役回りだったにもかかわらず。彼が成長限界に至った事により発現したその力が誰よりも凄まじく、決して代えが利かない特異にして異質の【特殊能力】を持っている事には……。
(せっかく、皆の役に立てそうな【万能】ってユニークスキルを開花させたのに……まあ良いか。これはお店を建てた後にでも役立てる事としよう)
本人以外は誰も知る由は無かった……。




