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13.ハッピーエンド(?)のようです


 ……数日が経過した。

 レオナルド主導の和平提案により、魔族と人間の共存を叶える様にお互い働きかける約束の締結。

 仮にそれを約束できないのであれば、両者の依頼は白紙に戻して魔王城は再び跡形も無く全壊。

 そして勇者の剣も元通り……ではなく悪臭漂う呪い状態に戻す条件きょうはくの元で成立した条約。



 それからの数日間が過ぎた今日この頃。

 現在のレオナルドのよろず屋はというと、


「本当に安くて助かるよ。都市の薬剤師の店じゃ万能薬は高くて手が出せないからね。もしもの時に一つは家に置いておきたいアイテムなのさ」


「はい……じゃあ……150ゴールド……です」


 特にこれといった困りごとの依頼も無く。

 珍品、珍しい素材、薬草、薬品、鉱石。

 そんな多岐に渡る商品を購入しに来る者が数名。


「はいよ。それじゃ、これお代ね」


「? これ……お代……多い」


「いいのいいの。エミリアちゃんも乙女なんだから、少ないけどそれで少しでもおめかしして、あのレオナルドって子とデートでもしな。アタシ応援してるから」


「ありがとう……おばさん」


 初日の開店直後こそ大魔王と勇者という珍客コンビのせいで何処か慌ただしさがあったが、今は台風が過ぎ去った後の如く穏やかな日々の連続。


「ただいま、エミリア」


「お帰り……レオナルド……お疲れ様」


「君も店番お疲れ様。特に何も無かった?」

「うん……今日も順調に赤字・・


「うん、そっか赤字か順調順調……えっ!? うっそ!? 開店一か月もたってないのに赤字!?」


「うそ……赤字……じゃなくて黒字」

「笑えない冗談はやめてくんない!?」


 現在は平和にのんびりと日々を満喫。

 レオナルドは品物の材料集めに時折遠征し、その間のエミリアは留守を任され店番といった具合でよろず屋を切り盛りしていた。


「あっ……そういえば……これ、手紙……」


「手紙? 珍しいね。あて先は一体誰から?」


「大魔王さんと……勇者さん……から……」


「おっ、あの二人仲良く出来たのかな? ……って、エミリア、顔赤いけどどうしたの? さっきのおばさんに何か言われ――ふぐっ!?」


「はい……手紙……(レオナルドの……馬鹿)」


 と、そんな和やかな冗談から鈍感さが災いし殴られたりと時間が経つ間。

 今日の遠征を早々に済ませて帰宅したレオナルドは、すねるように頬を膨らませる少女から異世界ピースワールドから来たという手紙を受け取った。



(丁度、気になっていたんだよね……)



 一応……提案したのは自分であり、初めはどうなる事かひやひやしていたが。

 和平交渉移行は特に別に尋ねてくる気配も無く、後は上手くいった事を祈るだけだったのだ。


(まあでもエミリアの言う通り。差出人も二人になっているから、きっと仲良くなれたんだろう)


 そうやって一ヶ月足らずという短期間で、世界を救った恩人へ向けて手紙が来たのだった。


「さあてと……」


 そうして手紙を受け取ったレオナルドは遠征で持ち返ってきた素材等の荷物をカウンター傍に置き、その足で隣の客間へと向かうと、


「どんな内容が書いてある事やら……」


 そのまま暖炉前のソファーに腰を下ろしてぼやきつつも手紙の封を切ると、勇者と魔王が共同で書いたと思しき手紙に目を通そうとしたら、


「レオナルド……私も読みたい……」


「はいはい、じゃあエミリアも横に座って。僕が手紙の内容を口に出すからさ」

「……分かった……隣で聞いてる……」


 そうなんだかんだで一応気にかけていたエミリアも横に据え、彼はそのまま内容を音読した。



「最初はえっと、拝啓、レオナルド様――」



 すると手紙にはあのお馬鹿コンビが書いたのか疑わしい堅苦しい挨拶の頭語から始まり、それ以降は数ページに分けて、こう記されていた。



【俺達、あの後に交渉の席に座って目が覚めたんだ。これ以上争うという事に何の意味も無いと……確かに人間と魔族、互いに存在こそ違えども。同じ生き物である以上仲良くなれると。互いの存在を尊重し合い、新しい世界の形を作っていけると、そう両者ともに同じ結論に至ったんだ】



「おお……あの二人、やれば出来るじゃん」



 その内容に正直レオナルドは感心していた。

 自分では軽く考えてはいたものの実際は難題。

 考えてみれば他種族を受け入れ、交友、共生というのは中々実現できない夢物語ではある。


「まあ、真面目な種族だったからね……」


 しかし、お互い仁義を貫く種族であった他。

 両者とも性格自体は温厚だったことにより、そんな頂点同士が手を組み和解が見事成立。


【だから今では平和世界ピースワールドの名に恥じない位に人間と魔族が共存している。それを証拠に武器を持って争っていたあの時とは見違えるように、今や魔界《人間界》では互いに手を取り、笑顔が絶えない世界へと変わっていった】


「あははは! まさかここまで上手くいくとは」

「全部レオナルドのおかげ……凄く頑張った」


 レオナルドは手紙に記されたそんな予想以上の活躍に対し、思わず笑いながら成果に喜ぶ。


 もしかしたら……多少のいざこざや不平不満。

 和平に反対する意見もあったかもしれない。

 けれども、それらを見事に退けて統治した彼らの動きにレオナルドは満足していたのだった。


【だから、ずっとこの平和な世界を維持できるようにしっかりと考えた俺達《我輩達》は――】


「あっ、これで最後の一枚か」

「少し……文章のキリが悪い……これで終わりでもいいと思う……大事な所も書いてあったし……」

「まあまあ、ちゃんと読もうよ」


 そうしてレオナルドは最後の部分。

 内容的にはあと僅かな文字で終わるであろう、少ない内容が記された最終ページへと進むべく彼はその手を動かしていき、


「さて、最後はどんな内容かな?」


 レオナルドはそうワクワクしながら、そんなもったいぶった前置きを経た先へと目をやった。

 すると、そこに記載されていた内容は……。


「えっと……なになに?」


 こうだった。



【俺達《我輩達》、結婚しました】



「違ああああああああああああああああああああああう! そうじゃない! 僕が言っていた【仲良く】ってそうじゃなあああああああああい!」


 ここ一番の声量だった。

 店の周囲に住まう動物も思わず反応する程の喉が張り裂けんばかりの迫真のツッコミで……同封された『ソレ』を見て、力一杯に投げ飛ばした。


 その【白い花嫁姿・・・】の闇の大魔王と……。

 その【白い花婿姿・・・】の勇者が映された……。


 互いに幸せそうに笑み浮かべているという色々おめでたい新郎新婦・・・・の写真を、手紙ごと燃える暖炉の中へ全力で叩きこむのだった。


「ただのBAD ENDじゃん!?」


「あれ……大魔王さん……確か前に教えてくれたレオナルドの話だと……お妃様いたんじゃ?」


「いるよ。後で絶対に苦情の手紙来るよ!」


 とこんな具合で、こうしてレオナルドのよろず屋始まって最初の依頼人。

 珍客一号・二号の依頼を見事に完遂したのだった筈……まあ多分これで良かったのだろう。


「まあまあ……レオナルド……落ち着いて」


「もう嫌だ。変人を相手するのは嫌だよ……」


「でも写真……凄い幸せそうだった……あっ、レオナルド……大切な事……忘れてた」


「何? どうしたの?」


「ブーケトス……行こう?」


「行かないよっ!? 逆になぜ君はさも当然の様に行こうとしてるの!? ……ってか、あんな厳つい花嫁のブーケなんか受け取っちゃダメッ! 確実に末代まで呪われるわっ!」


 まあ結果的は本人が頭を抱える程の望まぬ結末。

 歪曲した終局へと到達してしまったが、まあこれはこれでオチとしては有りだろう……きっと。


次話、明後日の12月8日投稿予定。

※元々ここで打ち切る予定でしたが、多くの読者様が読んでくださっていたので継続を決意。

その為、新章執筆に際し明日の投稿はお休みです。


なお、投稿時間は今回と同じように予約投稿では無く。

【直接投稿】の形と致します。


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