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12.喧嘩するほど仲が良いようです


「……………………………」


「……………………………」



 その日の客間の空気は特に重かった。

 というのも、その理由として、


「貴様……何用か知らぬが、よくもおめおめと我輩の前に顔を出せたものだな。魔王城も復興したし、今すぐ戦争に発展させてやってもいいのだぞ」


「けっ……こっちだって同じだ。テメェをぶった切る為の剣ならしっかり用意してあるんだぜ?」

 

 例えるなら磁石で言う同極の反発。

 人間と魔族どちらにも正義が存在し、言葉は同じだがその相容れぬ概念をかざし寄ってしまえば永遠に引っ付く事は無い。


「ふっ……愚か者が。少し煽っただけでそこまで乗ってくるとは……人間と言うのは底が浅い。すぐに感情に任せて行動をする……なんとまあ浅はかな種族であろうか……ハッハッハッハッ!」


「おやおや、そういう天下の大魔王様も饒舌ですこと。よっぽど自分の非を認めたくないんですね……どうやら魔界は意固地な連中が多い様だ」


「なんだと貴様!?」

「やんのかゴラァ!?」


 人間界へ侵攻せんと企む大魔王、そしてその大魔王の策をことごとく潰した勇者。

 常にいがみ合ってきた険悪な間柄の二人を混ぜた結果、早々に客間では怒声が飛び交い、


「よし、表へ出ろ! すぐぶった切ってやる!」


「貴様が先に出ろ! 勇者の言いなりになどなって堪るか! その背中を真っ二つにしてやる」


「ぐっ! ほ、ほぉ……大魔王様は敵の背中を取れないと、我々人類には勝てないんですかねぇ? いやはや、なんともお笑いだ、ハハハハハ!」


「ギッ! もう我慢ならん! 今度は貴様の装備全てを汚物に変えてやる! 覚悟しろ!」

「やれるもんなら、やってみろ!」


 まさに売り言葉に買い言葉の低レベルな戦い。

 互いに席を立って鬼の形相で対峙し、睨みあいでバチバチと火花を散らし威嚇し合っていた。


 だが……。


「ねぇ、君達」


「「!?」」



 そんな一触即発なムードも束の間。


「少し黙ろうか、天然馬鹿二人組?」

「「すみません! 我らがレオナルド様!」」


 そんな勢い増す口論を諫めたのはたった一言。

 所用を済ませ、騒がしい客間へ戻って来た店主の優しいながら怒りを含んだ声に静められた。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「ったく……こうなる事は分かってたけど、まさかここまで噛みつき合うなんて思わなかったよ」


「「けれども、コイツが!」」


「うるさい!」


「「はい……」」


 そしてレオナルドはハアと息を洩らすと、自身の怒声に萎縮し最早一言たりとも漏らさずに黙って座る二人へ目を向けた。


「だ、だが……レオナルドよ……どうしてここに宿敵の勇者オルトガがおるのだ? 今日、報酬の件で呼ばれたのは我輩だけではなかったのか?」


「俺も同じ意見だぜ。なんで大魔王がここに? 確かに今日誰と出会っても喧嘩しない様に、先日忠告を受けたばっかりだけどよ……」


 そうすると、両者同じ質問。

 敵対する勢力同士を集めた事、そしてなんで両者ともに面識があるのか?

 二人は純粋に気になったそんな質問をレオナルドへとぶつけた。


「ああ、その事なんだけど。実は――」


 するともう誤魔化しても仕方が無いと認識した彼は臆することなく堂々と語った。

 今回の魔王城の復興に貢献した事、勇者の剣にかかっていた呪いを解呪した事。

 その2つをあっさりと語ったのだった。



「……ってなわけでね。言ってしまえば板挟み状態だったのさ。まあ困っている人は悪人でもない限り救いたいって、僕の性分でこうしたんだ」


「「な……なるほど……」」


 思わず面を食らったのかはその事情はともかく。嫌な顔一つせず依頼内容を全うし助けてくれた恩人に向けて怒れなかったなど詳細こそ不明ではあったが……。


「そこで……僕から二人に向けて、先に伝言したように報酬について要求したい事があるんだけど」

「お……おう、良いぞ。何でも頼むと言い」

「俺も右に同じだ。欲しい物を言ってくれ」


 上手くそのまま話が進行した。

 そこですぐさま、レオナルドは元々受け取りを拒んでいた報酬について話題に移行。

 そして次に彼の口から出た報酬内容はというと――



「じゃあ二人共。【仲良く】しようよ」



 これだった。


「はいぃ? お、俺達が仲良くだって?」

「仲良くって……まさか、レオナルド」

「そう、今度こそ毒入りケーキとか無しで争いを止めて平和に仲良くしようって意味だよ」



 突然の和平提案に両者戸惑う様子を見せる中。

 レオナルドはここ数日で思った内容を続ける。



「僕の主観ではあるけれど、君達の世界の場合であれば魔物も人間も仲良くなれる。特に魔界側については僕が人間だというのに、礼儀正しく恩を忘れない姿勢に正直少し驚いたもんさ」



 両者ともあと少し歩み寄れば変われる。

 敵として最初から認知するのではなく、一度そんな固定概念を取っ払って同じ世界を生きる存在として見るという視点を変えてみてはどうかと。

 そのうえで本当に魔族と人間は敵なのか見定めていてはと提案をしたのであった。


「だ……だが……流石に」

「いくら……レオナルドの要求でもそれは……」


「望む報酬を与えるって言ってたでしょ。ほらほら返事は2択だ。【はい・イエス】どっち?」


「「どっちも肯定しかないんですが!?」」


 ……と最もらしい建前を言いつつも。

 その腹の底では何としても和平を成立させてやるという強固な意思で、報酬の約束を盾にした。

 しかしそれでも決断しない二人へ彼は提案という名の脅迫・・を用い、すぐに動きだす。



「じゃあ……別の選択肢をあげよう。大魔王は仲良くする・魔王城爆破。勇者側には仲良くする・勇者の装備全てを汚物に変える。どっち――」



「「いますぐ仲良くしますっ!」」



「よし、いい返事だ。僕は嬉しいよ」


(ふざけるな! これ以外選べないだろ!?)

(何処に選択肢なんかあったんだよ!?)


 そして……時同じく二人は理解した。

 この世には決して逆らってはならぬ存在。

 抗ってはならぬ人物がいる事を……。


((やばい……こいつマジ怖い))


 大魔王ルシフェルと勇者オルトガは生を受けた生き物の本能として、レオナルドの恐ろしさ。

 容赦の無い強気な発言の裏に垣間見せた、謎の圧力に服従せざるを得なかったのだった。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「はあ……こうなった以上仕方が無い」


「ああそうだな。こればかりはしょうがねぇ」


 それからというものの結局は大魔王と勇者は互いに仲良く手を取り合い……というよりかは眼前の怪物・・を怒らせてはならないという、第三の抑止力が介入した事で両者共に彼の和解案を承諾。


「では勇者オルトガよ、後でそちらの拠点に向けて我ら魔族の使者を送ろう。我輩の忠臣であり、執事でもあるセバスチャンという人物をな」


「オッケー、同じ様にこちらも一人送る。俺の仲間の魔法使いを使者として送らせてもらうぜ。……安心しな、流石に今度は爆破しないから」


「了解した。それじゃ後でな」


「ああ、また後で和解の席に着こう」


 その帰り道に至っても冷静状態を維持。

 お互い喧嘩や口論に発展する事はせず、互いに和解に向けての算段を告げると大人しく各々の陣地へと去って行ったのだった……。


次話、明日更新。

なお投稿時間は様子を見て【15時予約投稿】

または【少し時間を変えて直接投稿】のどちらかにします。

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