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11.聖剣は脱臭出来たようです


「さて……と」


 レオナルドが聖剣の解呪を託されてより三日。

 本来の解呪であれば、解く方法の分析だけでも数か月かかると呼ばれる作業を要する程だったが、


「体も芯からあったまったし。出ようかな」


 だが……それはあくまで凡人の話であり、最強の“雑用係”だったレオナルドにとっては朝飯前。

 そんな解呪法の全てを容易く見極めた後、彼は呪いをまとめて解く事が出来る奇跡の液体の生成。


 その解呪液を【万能―超調合グランミクス】の力で見事に調合し、最後は呪われた聖剣を浸し続け全ての呪いを完璧に解呪したのだった。



「はあ、実に気持ちいいお湯だった!」



 そして……そんな凄まじい活躍後。

 今も武具の呪いを解く為に四苦八苦しているであろう、世界中の神官達など最早取るに足らないとんでもない技術と能力を兼ね備えたこの金髪青年レオナルドは湯船から身をあげていく。


「後は湯冷めしない内に早く着替えようっと」


 体からホクホクと湯気が立ち込める中で軽く体を拭った後、腰にタオルを巻いた状態で彼は備え付けの浴室から脱衣所へと足を動かしていき、


「着替え着替えっと……」


 着替えを入れた籠の元へと歩いていこうとした……。


 そんな時だった。



 トントン……トントン。



「んっ? 誰?」



「……レオナルド……私」


「エミリア?」


 丁度彼が籠に手を伸ばそうとした途端にトントン、というノック音と同時に声。

 声量こそ小さかったが、少女エミリアの声が彼のいる脱衣所のドア越しに聞こえてきた。



「どうしたの?」


「勇者さんから……連絡来てた」


「連絡?」


 するとレオナルドはそのまま足を動かして籠の前までいくと、もう一度体に水滴の拭き残しが無いかをチラチラと確認しながらエミリアへ向けて尋ねる。


「うん……今日の正午くらい。仲間を連れて……そっちへ行くから……待っててほしい……って」


「正午か、分かった。ありがとうエミリア」


「うん。スンスン……また何かあったら呼んで……すぐにドアを破って助けるから……スンスン」


 対してエミリアはそう何かを嗅ぎながら、如何にもレオナルドの裸を見たそうな発言を言い残しつつ、時間の伝言を告げ終える。


「オッケー、じゃあ先に客間で待ってて」


「分かった……じゃあね」


 するとそうやって、連絡を終えた彼女が脱衣所の前より去ろうとする……。


「うん?」


 …………その途端の出来事だった。


「エミリア、待って」


 瞬間。

 レオナルドは自分の籠に違和感というか。

 タオルで体をもう一度完璧に拭い終えた時。


「……どうしたの?」

「あの……エミリア、いやエミリアさん」


 レオナルドは”ある筈の物が無い”事に気が付くと、彼女に一言尋ねたのだった……。



「僕の着替・・えが無いんだけど……」



 すると?



「うん……だって……今私が嗅いでるから……」


「なんで嗅いでるんですか!?」


「スンスン……レオナルドの匂い……スンスン」

「お願い早く返して!?」


 レオナルドはそう奪われた衣服を大声で求めた。

 だが……残念ながら時折暴走する乙女であるエミリアがそんな一、二言で止まる筈なく、


「代わりに……私のパンツを入れたから……」


「履けって言うのかい!? いや履かないよ!? 幾らなんでも乙女の下着を着けるほど僕は変態じゃないからね!? 早く、僕の着替え返して!」


「違う……頭に被るの……」


「パンツは被る物じゃありませんっ!」


「じゃあ……嗅いでもいい……」


「パンツは嗅ぐものでも無いよっ!」


「じゃあ……食べてもいいよ」

「頼むから、君はもっと乙女としての恥じらいを持ってくれないかなぁ!? お願いだからさ!」


「じゃあ……私が代わりにレオナルドのパンツを履く……これでおあいこ……私達ハッピー……」


「何処がおあいこなの!? 両者とも損失しかないんですけど!? マイナスなんですけど!?」


「私は黒字……幸せいっぱい……」

「もうこれ以上ツッコんでられんわ! 返せ!」


 ……と、そんな和気藹々というべきなのか。

 朝から脱衣所で賑やかな茶番劇を挟んだ後。



「さあいくよ。エミリア」

「ムウゥゥゥ…………レオナルドの意地悪」

「おかしいなあ……僕はただ自分の服を着ただけなのになんで責められるんだろうか……」



 レオナルドはとにかくエチケットを守る事に徹底しながら、着替えを勝手に盗んでいった少女の魔の手から衣服を強引に奪還し、己が身に着用。


 無事に湯冷めする前に着替えられた彼はしょぼくれるエミリアと共に客間へ向かい、尋ねてくる勇者一行を待つ事にするのだった。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 正午。

 客間は少しざわついていた。



「まさか……本当に?」

「凄いわ……これをたった三日で」

「あの馬鹿リーダーの話じゃあ10を超える種類の呪いがかかっているって話だったのに……」



 レオナルドは聖剣を一向へ渡した。

 その勇者、戦士、魔法使い、僧侶という編成で組まれた四人達へ差し出すように机越しに。


 そして……解呪された事で栄光を取り戻し、悪臭も消え去った清潔な刀身を見せた途端。


「うーむ……にわかには信じられない」


「武器の呪いってリナも解呪出来ないのよね?」


「ええ……《エシティ》で装備者の呪いは解けるけど、それと同時に武器は跡形もなく砕け散ってしまいます……例え勇者の剣でも同じです」


 勇者パーティーの誰もが、複数の呪いを見事に解除しきったレオナルドの手腕に唖然。

 解呪期間の短さも理由の一つだったのだが、やはり何よりその全ての呪いが完璧に解かれ、武器が元の姿になっている事に慄いていたのだった。



「……で、なんで君はまたボロボロなの?」



 と、そう仲間たちの注目が剣に行く中。

 何故かまた顔中に殴られた様な傷痕を残すリーダーである勇者オルトガへ視線を向けた。


「フゴフゴ……実はあの後、仲間にゃかまに全部ばれて……その結果がこうにゃった」


「ああ……なるほど」


 詰め物でもしているみたいなモゴモゴとした話し方で勇者はレオナルドへそう述べた。

 対してレオナルドも即座に事情を把握。


 毒入りだから食うなよ! 絶対食うなよ! と、こればかりは冗談抜きで注意勧告を受けたにもかかわらず、妙なジレンマで毒入りショコラケーキを喜んで食べてしまい腹下り。


 さらにそんな人の忠告を無視したのみであればまだしも、その隙を突かれ大魔王から仕返しで悪臭&大量の呪いを剣にかけられるなどという、馬鹿丸出しリーダーに対して、



「でも本当にごめんなさい……コレのせいで」



「俺も詫びさせてもらう。コイツはショコラケーキの事になると周りが見えなくなるんだ。例え毒の沼地に置いてても入って食うし、この前なんか大ダメージを受けるバリア床に突っ込んで、勝手に自滅して復活するのに味方の魔力(MP)削るし」


「お……おい……俺の悪口はそこまでに――」


「アンタ、ただの足手まといじゃねぇか!?」


 ……相当な鬱憤が溜まっていたのか。

 仲間たちが口々と彼の愚行について述べていき、レオナルドはこれ以上無い程に異世界勇者の愚かさを学ぶのだった。


 けれども、勇者に対する仲間達の怒りはこんな暴露程度では収まらずにエスカレートしていき、


「それに見てくださいよ、これ!」

「おい、やめろ! それ見せたら――」


「なに、その高そうな剣は?」


「コイツ……勇者の剣を君に託したはいいんだけど、どうせ三日で【解呪なんかできっこない】って、その日のうちに新しい武器を買ってたんだぜ! 信じらんねぇよな!?」


「へぇ……僕を信用してなかったんだ」


「違うんだ! これには深い事情が!」


 オルトガは勇者という立派な称号を背負っているといのに、レオナルドを大して信頼せずに魔法使いの女性が今言った通り、既に武器を新調していたのであった……。

 

「……その勇者の剣、へし折ろうか」


「待て待て、待ってくれ! 落ち着け。レオナルド! 怒る気持ちは分かるが、幾らお前が凄い奴でも、この世界最強硬度の剣の破壊なんて――」


二秒・・で破壊出来るよ」

「二秒で!?」


 例え大魔王直属の手強い猛者や幹部の魔物。

 或いはすぐ逃げ出しそうなメタルな敵など。

 どれだけ敵が硬くともその身を貫く硬度がある筈なのに、レオナルドはそう即座に破壊可能とあっさりと言い切ってしまうのだった……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 それから……時間は少し流れていく中。


 色々あったが勇者の弁明により破壊を免れた剣が置かれ、一行はどうにか落ち着くと、


「さあレオナルド。何はともあれ、きちんと呪いを解いてくれたんだ。お礼だけはキッチリとさせてもらう。流石に受けた恩については勇者とか関係なく、この俺オルトガとして返したい」


「俺からも同じ意見だ……こんな情けなくてダメな勇者だったが、救ってくれたのだから礼はする」


 それぞれがレオナルドへ似た事を告げていく。

 先日の大魔王と同じでふざけた雰囲気が全く否めなかったが、ここばかりはキッチリと締める。


「何がどうであれこの馬鹿を助けて貰った以上。仲間である私達が報酬を用意するわ」


「いや……別に僕は……お礼なんか」


「ダメですよ。あんな愚か者がリーダーでも私達は勇者のパーティーなんです。助けられておいて無視なんていう薄情な真似は出来ません!」


 この期に及んでまだ鬱憤が残っているのか。

 誰もかれもがリーダーを卑下し、確実に煽りの一言を入り交ぜてはいたものの謝罪と感謝。

 この二つの礼を失してはいなかったのだ。


(……はあ、なんていうか……大魔王アレもそうだったけど、本当にこの世界ピースワールドの住人って律儀な人が多いなあ……)


 だからなのか。

 レオナルドは再びその実直さに呆れた。


(うーん…………って言われてもな)


 しかしだからといって無下にも出来ず。

 報酬を聞くまで帰らないであろう相手に、若干押され気味になりつつも、


(別に苦労している事無いしな……せめて勇者とか、大魔王とかの癖を……あっ………そうだ!)


 必死に報酬についての思案をして、


(折角勇者達も【あっち側】もお礼を望んでいる事だし。ここは一つ試しに提案しようかな)


 色々頭を巡らせた末に名案を思い付くと、


「じゃあ、一つ頼み事をしようかな」


「よし、任せろ! 俺達に出来る事なら何でも言ってくれ! レオナルドは恩人だからな!」


「分かった、それじゃあね――」


 真面目な勇者御一行に向けて報酬の要求……というよりかは一つの提案。

 今回の騒動を上手く収拾するアイデアを彼は勇者達に申し出るのだった……。


次話、明日更新。

投稿時間は【15時予約投稿】

または【少し時間を変えて直接投稿】のどちらかにします。


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