10.レオナルド君には朝飯前のようです
「よし。ひとまずここでいいかな」
依頼を受託し、勇者が異世界に戻った次の日。
レオナルドは朝一から闇の大魔王の呪いによって、とんでもない異臭を放つ様になった勇者の剣の解呪に取りかかっていた。
「にしても……本当に酷い臭いだった。とりあえず昨日作っておいたコレを装備しないと……」
なおエミリアからは洗濯物に臭いが移るからと、現実味を帯びる注意を受けた後、件の剣を外へと持ち出した彼は昨晩に製作した【嗅覚保護装備】。
本人が言うところのガスマスクを装着し、強烈な臭いから目と鼻を守るのだった。
「じゃあ準備整ったし、早速始めるか!」
これで野生の動物すら逃げ出す悪臭を嗅ぐことも無くなり、集中して作業できる環境を構築。
すぐさま解呪に取りかからんと彼は聖剣エクスカリバーを鞘から引き抜くと、
「ユニークスキル【万能―鑑定】を発動」
太陽の光を受けてか神々しい白の光纏う。
聖なる力を帯びるこの刃がまさか糞みたいな異臭を漂わせているなど思えない、呪われた剣の鑑定をレオナルドは開始していった。
そうすると……。
―――――――――――――――――――――
【腐った聖剣エクスカリバー】……選ばれた勇者のみが扱える、聖の力宿す世界最強の剣だった……が今は悪臭まき散らす凶悪な汚物である。
【材料】・錆びた古の剣 素材ランク☆??
・天空神の輝石 素材ランク☆??
・ブルーメタル 素材ランク☆??
【特徴】……見た目は聖剣エクスカリバーと何ら変わりないが、その鞘を一度引き抜いてしまえば周囲は吐き気を催す程の臭いに――も……もうダメ! これ以上は! オエェェェェェッ!
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「流石、勇者の剣だな。超レア素材を使っているな……ってか、解析が吐き気催すってどういう事!? あと武器って腐る物体でしたっけ!?」
何故か概要欄まで臭いに負けていたが、その優れた鑑定能力で剣の材質を表示させ把握した。
それも異世界でもとびっきりの素材が使われたという事まで、見事に突き止めていくのであった。
「えっと……ここかな」
そして……さらに今回は特別な表記が続いた。
本来普通の武器であればこの欄は存在しないが、此度扱うのは呪われた装備という特殊な点で、
「あの勇者が言っていた呪いは――」
その追加された呪いの項目。
剣にかかっている呪いの一覧にレオナルドは目を通していく。
「ふむふむ……」
―――――――――――――――――――――
【呪い効果】……装備者は次の弱体化を受ける。
・常に攻撃力激減・常に防御力激減
・常に麻痺・常に猛毒・常に気力減退
・常に命中率低下・常に被ダメージ増加
・常に吐き気・常に頭痛・常にめま――
呪いの合計【18種】
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「いや多すぎんだろ!? 大魔王の奴、どんだけ私怨込めて呪いかけたんだよ! 確かにこれじゃ、どうあがいても使い物にならない訳だ!」
するとそのレオナルドの発言通り、余りに多種多様すぎたのだった!
浮かぶ呪いの種類を並べるだけでも一苦労。
その思考が埋め尽くされる程に多岐に渡る呪い。
最早、この世の呪いを全て詰め込んだ災厄の集大成とも呼べる程に、最後まで呪いたっぷりのとんでもない装備品と化していたのであった……。
「はあ……これを全部解呪するのか」
一応これは補足としてではあるのだが、この世界でも呪われた装備は確かに存在する。
さらに言えば、世界最強だったパーティーの一員だったレオナルドもまたこれまでに何度もそんな呪いの武具の類を飽きる程見てきた。
(多分だけど、この多さだったら、その辺神官なら絶対に悲鳴あげるな。【解呪法の解析】だけでも数年以上はかかっちゃうよ……この量なら……)
そして……彼の世界の常識であるならば。
呪われた武器の【完璧な解呪】は非常に難解。
不可能ではないのだが、手間暇かかる厄介な手順が必要であり膨大な時間が要求されるのだ。
(うーん……単純に考えただけでも……)
その理由としては呪いの性質にある。
ステータス異常に該当する呪いであれば、それこそ浄化魔法で即座に解呪できる程に回復は容易い。
(多分2……いや3年はかかるかな……)
だが……【呪われた武具】となれば話が違う。
元々の創造主の強い怨念だったり、装備者を呪う前提で危ない素材が使われる事が多い為、雑な方法で強引に解呪すれば《武器が崩壊》するのだ。
それ故に呪われた武具を浄化する為には、呪い毎に適したアイテムや方法を研究し見極めた後。
そのアイテムを使用し、決まった儀式を行う事で取り除けるという聞くだけでも嫌気が刺すような面倒な工程が要求される訳なのだ。
(それに多分、こんな超レア素材が使われている時点で引き取る神官もいないだろうしね……本当に傍から見れば厄介な武器を預かったもんだ)
だからこそ、武具の解呪はそれほど慎重。
時間をかけてちびちびと、地道に付与されている呪いを研究しなくてはならない。
まして代えの利かない希少な素材が扱われている以上、余計に丁寧に扱わねばならないのだ。
(うん……解呪も含めたら5年以上はかかるね)
でなければ、もし下手な小細工で近道しようとすれば武具は砕け散り、取り返しのつかぬ事態に陥ってしまうという実に責任重大な案件な訳ではあるが……。
「……まあ、僕には関係ないけど。ユニークスキル【万能―解呪検閲】を発動!」
しかし、まあ……ぶっちゃけた話。
このレオナルドには、それは些事に過ぎず。
そんなウザったい工程などは【必要なかった】。
「えーっと、どれどれ……」
だから彼にとっては、そんな世界中の神官が断る代物など別にお構いなく。
最早一ミリの緊張も抱く事すら無く。
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【解呪アイテム】……以下を用意せよ。
【攻撃呪い】……パワーハーブ ☆4
【防御呪い】……カチコチ草 ☆6
【麻痺呪い】……満月石の雫 ☆10
【猛毒呪い】……黄金ハーブ ☆14
「ふむふむ、なるほどね。今回の解呪に必要なアイテムはこれか。やっぱり似たような呪いでも前回とは少し違ったアイテムになるのか」
発動した【万能―解呪検問】の能力の影響により、そのアイテムの一覧を浮かび上げていった。
普通ならば呪い一つにつき、最低でも数か月必要というのに関わらずあっさりと解明。
【気力呪い】……ギンギンキノコ ☆5
【命中呪い】……ドラゴンの瞳 ☆22
【ダメージ呪い】……悪魔の血 ☆18
【吐き気呪い】……妖蝶の鱗粉 ☆29
「うわあ、妖蝶の鱗粉いるのか。複製したいところだけど、流石にここは天然の物を使わないと失敗するだろうなあ……在庫一つだけなのに」
それこそ次から次へとまるで流れ作業の如く。
解呪アイテムの全てをほんの数分で分析・解析。
寧ろ手間暇を嘆くどころか、店の貴重な在庫を使わなくてはならない事に嘆いている程であり、
「よし、じゃあ材料も分かったし。【万能―超調合】でパパッと解呪液を作る事にしよう。調合窯もエミリアが手入れしてくれていたみたいだし」
最早、それは何でもありの一言に尽きるのだった。
えっ、解呪の為の儀式はどうかだって?
そんなまどろこっしい手間暇のかかる作業など彼にとっては蛇足。
無為に時間を消費するだけの《遊び》に過ぎないのだ。
(でも、本当に色々学んでおいて良かった。まさか解呪法に裏技があるなんてね……それもこれも苦労して最強(LV.99)になったおかげだよ)
だからレオナルドはこれまでの旅路で培った知識を生かし編み出した、もっとお手軽なその裏技。
浸して待つだけで呪いを解ける【解呪液】という、今まで必死で解呪に時間を費やして来た神官全てが思わず青ざめてしまう特異な物体。
その非常に便利な液体を作りだすべく、
「そうだな……一応材料の買い出しとかもあるから。まあ終わるのは夕方くらいかな。悪いけどエミリアにはまたお留守番してもらおう……」
常人なら数年かかる筈の作業なのだが……。
レオナルドはたった半日で済ませると決めて刀身を鞘に納めると、すぐさま超調合の準備を始めるべく駆け足で店へと戻っていくのだった。
凡人では決して到達できない思考の果てにある反則級の解呪液の生成に移るべく……。
次話、明日の4日の15時にて更新。
※急遽変更しました。
【12/03/22:36変更】
→4日の13時以降に直投稿で更新いたします!




