102.久しぶり?のようです
3日……いや5日振りだろうか。
「フランシアただいま。良い子にしてたかい?」
「わあっ、ドクターだ。お帰りなさい! えーっとお帰り……なさい? それともお久しぶり? ねぇドクター……この場合はどっちが正しい?」
いや一週間振りだったかもしれない。
「あはは……そうだね。久し振りかな?」
瞬間。私は思わず苦笑いしか作れなかった。
皮肉……いや、というよりか恐らく時間経過の事実を彼女に言われてヒヤリとしたせいだろう。
さらにもし付け加えるなら、いくらあちこちから引っ張りだこで連日忙しかったとはいえ、この研究所に彼女を放置してしまった事に対する罪悪感も含まれていたのかもしれない。
「……すまない。私も色々と用事が重なってしまって、こっちへ戻る時間が取れなかったんだ。だから……その……どう言えばいいか――」
うーん……どうも上手く言葉が出てこない。
多忙による疲労の影響か、眠気や蓄積された疲労感が原因でどうも頭の回転が鈍い感じがする。
(しかし……彼女が私に告げた言葉通り数日間、研究所にほったらかしにしたのは事実だ。愚直でも主人としてここはちゃんと謝って――)
「ドクター……フランシア気にしない。だってちゃんと帰ってきてくれた。それだけで安心。だから……ドクターは悪くない。お仕事をしただけ」
「…………フランシア。君って子は――」
正直今日で一番威力のある言葉だった。
このギュッと胸を締め付けられたような感触。
落ち込んだ時の下手な優しさは精神に染みると言うが、こんな罪悪の念に駆られている時でもどうやら同じ効果があるらしい……新たな発見だよ。
それに……。
「? どうしたのドクター? 気分悪いの?」
芽生えた感情も相まってか、そう尋ねつつ彼女がこちらに向けるこの純粋な眼差しはまるで自身の愚かさを映す鏡の如く私を追い込んでくる。
「…………………………」
私は思わず立ち尽くし、言葉を失う。
「ド……ドクター?」
しかし。黙りこくる私に彼女はさらに近付く。
変わらずその生まれたての赤ん坊の様に純粋無垢で美しい視線を向けたまま歩み寄ってくる。
(普通ならここで彼女を抱き寄せて謝罪し、そのまま放置した事を反省してこれからは一緒にいてやると言ってやるべきなんだろうが……)
だが……本当にすまない。フランシア。
私にはまだやるべき事が残されているんだ。
他の誰でもないこの私が為すべき事が……。
「もう少しだけだ……フランシア、もう少しだけ私に時間をくれ。今は恐らく私の人生最大最高の瞬間なんだ。私の夢を叶える為にもこの絶頂だけは逃すわけにはいかないんだ。だから――」
だからあと僅かな時間……君には耐えてほしい。
食事は事前に買い置きしておいた保存食ばかりで、帰宅出来ていないせいで体調整も全然出来ていないが、あと少しだけ。
「頼む。これも長年の夢の為なんだ……だから全てが済んだら、その時はまた朝から晩まで一緒に新しい研究をしよう。これだけは約束する」
頼む……どうか私にこの絶頂の時間。
この夢の一時から醒まさないでくれ。
あと僅かだけこの夢見心地を味合わせ――
「うん。色々難しそうな話をしていたけど……フランシア分かった。ドクターの用事が終わるまでフランシアは我慢する。ここで待ってる……」
「そ、そうか……ありがとう」
あはは、まったく……本当に。
フランシア、君は本当に良い子だね。
君みたいな優しくて聞き訳の良い立派な人造人間を産み出せて、私も主人として鼻が高いよ。
「その代わり……」
「……うん?」
「その代わり……今日はちゃんと資料を読み聞かせて。前にしたドクターとの約束……忙しくても家に帰って来たらフランシアが寝るまで。隣で研究に役立つお話を教えてくれる約束……」
「えっ……ああ、そうだったな。いいよ、何か研究資料を持っておいで。ただし私が先に眠ってしまったらそこで終了だが……それでも――」
「ダメ。フランシアが叩き起こす」
「ははは……厳しいなフランシアは」
まあ……しかしこればかりはしょうがないな。
たとえ疲れていても可能な限り彼女の世話をしてやらないと。それに明日からまた取材の連続でそのまま家に戻ってこれない可能性だってある。
「はい、ドクター。今日はコレ読んで」
「うむ、了解した。って……あれ? これは少し前に読んであげた【クリスタルフラワーの資料】じゃないか。本当にこれで良かったのかい?」
「うん。お願い……なの。それと出来れば今日はもっと詳しく教えて欲しい。形とか……どんな所に生えているのかとか……前に教えてくれなかったところも……全部教えて。それが約束」
「まったく。勉強熱心だな君は。分かった、僕が知っている伝承も含めてこの神秘の宝石花の形や生息地域も教えてあげよう。もし良い所で寝たら、メモを残しておいてあげるからね」
「うん……分かった」
「よし。それじゃあ、まずは――」
だから今日くらいはきちんと接してあげて、眠ったらすぐに肉体に異常が無いかの検査と調整をしてあげよう。彼女は私にとってこの栄光を与えてくれた恩人なのだから……。
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次話は現在必死に執筆しておりますのでお待ちくださいませ(≧▽≦)




