頑張れ、はしらちゃん!〜はじめてのけっせん〜
超・展・開\(^o^)/
場に捨てられたカードが集められて、一つの山になっていく。
ヒイロは、やや固い手つきでそれを切っていき、偏りが出ないように念入りに交ぜていった。
小気味良くリズムを刻む、カードが擦れ合う音。
しばらするとそれも止み、お互いの手元に一枚ずつカードが配られ始めた。
通常、この時点で手元にジョーカーがやってくる確率は50%。
しかし、わらわは権能を用いて運命へと介入し、確率を操作して結果を改竄してしまう。
そうして配られたカードを手に取り、わらわは数字のペアを作って一組ずつ場へと捨てていった。
手元に残った札は七枚。
当然ながら、その中にジョーカーの札は存在しない。
「ふむ、どうやらジョーカーはお主の手に渡ったようじゃな。運が悪いのぉ?」
わらわは相手の姑息な罠に引っ掛からぬよう、目を閉じたままノエルを煽ってやる。
死神を押し付けたというアドバンテージを生かし、これでもかというぐらいにプレッシャーを掛けてやるのだ。
「クククク……その余裕、いつまで持つかな?」
ノエルも負けじと余裕の態度で応戦するが、それが中身の伴わないただのハッタリである事はわらわが一番良く知っている。
運頼みの勝負に持ち込んだ今、確率を操作できるわらわに死角はない。
このまま権能全開で、相手に主導権を与えないまま七手で試合終了じゃ!
「では早速……審判、右から三番目の札じゃ」
適当な場所のカードをヒイロに告げる。
そしてそれが手渡されたら目を開けて確認し、対となるカードと共に場に捨てて残りの手札をノエルに差し出した。
――残り六枚。
「……なかなかやるな自称悪魔」
やや引き攣ったような表情を見せるノエル。
わらわの手札には数字しか存在しないため、相手は考える事なく一枚抜き取っていき、もう一枚と一緒に場に捨てた。
――残り五枚。
わらわは再び目を閉じて確率を操作し、適当にカードを選んで告げる。
審判からカードを受け取ると、それが数字である事を確認して手札からも一枚選んで場に捨てる。
――残り四枚。
無造作に抜き取られる一枚の手札。
場に捨てられる二枚のカード。
――残り三枚。
権能の発動、カードの選択、受取、確認。
ペアとなるカードを手元から抜いて捨てる。
――残り二枚。
ノエルがわらわの手札を引いてカードを消化。
そして遂に……
――残り一枚。
手番はわらわ。
ノエルの手に残る二枚のカードの内から、確率50%を引けばわらわの勝利である。
「さて、これで最後と考えると、ちと寂しい物を感じるのぉ」
当然ながら、わらわは一切の手心を加えるつもりはない。
相手の策略にも惑わされぬよう、しっかりと目を瞑って、対策はバッチリである。
「安心しろ、私はかけらも寂しくなどないからな」
崖っぷちの状況にも関わらず、最後までふてぶてしい態度を崩さないノエル。
その様は正に歴戦の勇士呼ぶに相応しい。
成る程、<破軍炎剣>と呼ばれる訳じゃ。
その名が示す通り、この幼女は文字通り『軍』と呼べる程に数多の対戦者を、カードの海に沈めてきたのじゃろう。
絶対絶命の危機も、その炎のような苛烈さで幾度も切り抜けてきたに違いない。
……だがしかし、今日は相手が悪かったようじゃな。
<破軍炎剣>の秘蔵のお宝は、わらわが貰い受ける!!
「むははは、その強がりもこれで終まいじゃ!審判、右じゃ右の札を寄越すのじゃ」
わらわは最後の審判を下すべく、運任せにその札を選んだ。
緊張のあまり、手を震わせながらカードを手渡してくる審判。
わらわはカードを受け取ると目を開き、いまだにニヤリとした笑みを浮かべる幼女を視界に収める。
そして、そのハリボテのような笑みを引っぺがしてやるべく、受け取ったカードを裏向きのまま突き付け、ゆっくりとひっくり返してやった。
【JOKER】
しかし、そこに描かれていたのは、死神の絵姿だった。
「……何、ジョーカーじゃと!何故じゃ、こんな事は確率的にありえんのじゃ!!」
ありえぬ……このわらわが確率50%を外すなど、それこそありえない確率じゃ。
確率とは運そのもの、運とはわらわそのもの。
いくらこの身が、本体と比べてほん小さな存在だったとしても、その事実に変わりはない。
なのに……なのに何故わらわの手元に、ジョーカーの札が存在するのじゃ……
あの気まぐれで移り気な勝利の女神が、わらわに匹敵する加護をこの幼女に与えているとでもいうのか?
あの誰にでも笑顔を振りまくスウィーツ女神の方が、わらわよりも確率操作が上手いというのか!?
「よく『確率』なんて難しい言葉を知っていたな自称悪魔の幼女め。大人をなめるとこうなるということだ。あっはっはっは!」
わらわに死神を押し付けて、気持ち良さそうな高笑いを上げるロリぷに幼女。
それもそのはず、手札が順調に消化されていった結果、ノエルの手元には残り一枚のカードしか存在しないのだから。
ピンチがチャンスに早変わり。
ノエルは、あとたったの一手で勝利をつかむ事が出来るのである。
「さぁ、どちらの運が強いか、勝負といこうじゃないか。かかってこい!」
……くっ、正にあの浮気性な女神の好きそうな展開ではないか。
一方に寄り添ってその気にさせておきながら、土壇場で他に乗り換えるという、あの性悪女神の十八番。
ぐぬぬぬぬぬ、あのアバズレ女神の好きにさせてなるものか!
ノエルめ、たった一度わらわに死神を押し付けた程度で、いい気になるんじゃないのじゃ!!
勝利の女神なんぞ、わらわが本気を出せば、泣きべそ掻いて三年は寝込んじゃうんじゃからな!!
わらわは手元のカードをランダムにシャッフルし、極限まで権能を行使してから、二枚のカードを机に伏せるのだった。
――そこからの攻防は、正に一進一退。
勝利の女神とわらわの権能は拮抗し、ノエルとわらわは死神のカードの押し付け合いを繰り返していった。
――一回。
――二回。
――三回。
回数を重ねるごとに、ジョーカーを引く確率はどんどん小さくなっていく。
――四回。
――五回。
――六回。
二枚のカードから片方を引き当てる確率は50%でも、二回連続で引き当てる確率はさらにその半分。
――七回。
――八回。
――九回。
回数を重ねれば重ねるだけ、その都度確率は半分になっていくのである。
――そして遂に十回……
確率二分の一を十回連続で外す確率は約0.1%。
しかし、既にこの戦いは、運だとか確率だとかそういった次元を超えた勝負と化していた。
ノエルの背後にいる勝利の女神と、大悪魔の分身たるわらわの、お互いの存在意義を賭けた神魔の戦い。
わらわはこの世界に遊びに来た事によって、奇しくも神々に復讐するチャンスを得たようじゃ。
だがしかし、悔しい事にどうやらお互いの『力』は拮抗しているようである。
このまま勝負を続けていても、勝てるヴィジョンは全く見えてこない。
……であれば、勝利を掴むためには『力』以外の部分で、差を付けるしかあるまい。
「勝てないのが、そんなに不思議かのぉ?」
わらわは、勝利の女神の依代たる目の前の幼女に、揺さぶりを仕掛ける事にした。
「……何?」
勝負を仕掛けるなら早い方がいい。
何故なら、相手は<破軍炎剣>の二つ名を賜る程のババ抜きの使い手。
勝敗の天秤が均衡を保っている今、奴程の使い手が動き始めれば、一本目の勝負同様に、あっという間に決着を付けられてしまうじゃろう。
ならば、わらわが勝つには、先手を取って仕掛ける以外に道はない!
「くくくっ、……時にお主、シュレッダーの猫を知っておるか?」
「……当然だ」
わらわの問いに、得意げに答えるノエル。
ネットで聞きかじっただけのわらわと違い、相手は自信満々でとても詳しそうである。
……あっ、まずい、これアカンやつじゃ。
わらわ、完全に話題の選択を間違えたっぽい。
「ふ、ふむ、知っての通り『りょうしりきがく』における、とある猫の話じゃ……」
……と思う……たぶん。
た、確かそんな感じだったはずじゃ。
しまった~、わらわに関係ありそうな事をそれっぽく言って、相手の平常心を奪うつもりじゃったのに、まさか、こんな幼女があの『猫』の事を知っているとは……とんだ大誤算じゃ。
まずい……わらわが仕掛けたというのに、これは非常にまずい。
だがしかし、ここまで語っておきながら「あっ、やっぱり今の無しで!」とは、口が裂けても言える状況ではない。
どうやらわらわは、『りょうしりきがく』に詳しいこの幼女の前で、ボロを出さないように上手くやらねばならぬようじゃ。
え~っと、まずは『シュレッダーの猫』と言うぐらいじゃから……
「その話の中で、猫はとある部屋の中で巨大なシュレッダーの上に立たされたそうじゃ」
当然、猫とシュレッダーが登場せねば話は始まらぬな。
そして、確かあの話は、ボタンを押した結果猫が死んじゃう話じゃったから……
「猫の前には一つのボタンが置かれ、そのボタンが押されると、足下にあるシュレッダーが作動し、猫を挽肉にしようと襲いかかる!」
……うむ、たぶんコレで合っているはずじゃ。
わらわは余裕の表情を保ったまま、物知り幼女の様子をチラリと窺った。
「……ああ…………肉食の恐ろしい魔物だ」
……良かった。
どうやら、大きく間違った内容ではなかったようじゃ。
ノエルの反応に、内心ホッと一息である。
それにしても、まさか『シュレッダー』がそんな恐ろしい魔物の事じゃったとは知らなかったのじゃ。
ネットにはそんな事、どこにも書いていなかったからのぉ。
……くっ、これだからネットの情報は当てにならぬのじゃ、表面上の事だけで、肝心な部分が抜け落ちているのじゃから。
だがしかし、これで『シュレッダー』の事はだいたい把握できたのじゃ。
ボタンに反応して猫に襲いかかるぐらいじゃから、きっと『シュレッダー』はゴーレムやガーゴイルといった魔導生命体に近い種族なのであろう。
奴らは決まったプログラム通りにしか動かぬから、こういった実験にはうってつけの存在じゃ。
大筋も間違っていないようなので、わらわはこのまま話を続ける事にした。
……ふむ、確かこの話の続きは、猫が二分の一の確率でどういった結末を迎えるのかを観測するというもの。
という事は、ボタンを押すか押さないかで、猫の死が変化するという事じゃ。
つまり……
「ボタンを押せば猫は挽肉、しかしボタンを押さなければ猫は餓死してしまう。猫がどちらを選ぶか確率は二分の一」
……こうじゃな。
わらわは自信満々の態度を崩さずに、ノエルの様子を窺った。
「……部屋から出ればいいだけじゃないか?」
すると、幼女はわらわの話の腰を折り、前提条件を覆すような発言をし始めるではないか。
「そ、そんな事を言ったら話が始まらないじゃろう。きっとりょうしりきがく的なアレが働いて、内側からは鍵が掛かってしまっているのじゃ!」
「ああ、そういえばそうだったな…………」
そう言ってノエルは笑みを浮かべる。
恐らく、茶々を入れて話の邪魔をし、わらわに揺さぶりを掛けるつもりなのであろう。
……くっ、なんという卑劣な幼女じゃ。
「全く、話を戻すのじゃ! しかし、猫の結末がどうなったかは、誰かが部屋を開けるまで分からない。この時、猫は挽肉になっている状態と餓死している状態が、1対1で重なっているのじゃ」
わらわは幼女の妨害にもめげず、シュレッダーの猫の話を続けた。
この話の一番の核心は、猫がどのような結末を迎えたかは既に決定しているというのに、『誰かがドアを開けて中を見るまでは結果は分からない。だからドアを開けるまで、確率は二分の一のままである』という論理的矛盾にある。
一体、人間のくせに何様のつもりじゃろうか?
既に決定している事象に対して、『自分が中を確認するまで結果は確定していない!』とはなんたる傲慢。
この話を作り出した、人間という生き物の業の深さを感じさせるというものじゃ。
だが、今回のババ抜きでは、そういった人間の愚かさを利用させてもらった。
『中を確認するまで結果は確定していない』のじゃから、わらわが机の上に伏せた二枚のカードは、この時点ではどちらがジョーカーであるかは決まっていない事になる。
つまり、両方ともジョーカーであるし、そうでないとも言える状態じゃ。
そして、相手が一枚を引き、中身を確認した時点で初めて結果が分かるのであれば、あとはわらわの権能で因果に干渉し、幼女が引くカードをジョーカーにしてしまえば良いという寸法である。
「……その通りだな」
わらわの説明に、不思議な表情を浮かべながらノエルは頷いた。
キョロキョロと視線を彷徨わせ、どこか落ち着かない様子である。
一体どうしたというのじゃろうか。
さっきまでの話の中で、おかしな点でもあったじゃろうか?
わらわが不安な気持ちになっていると、ノエルは何か思い付いたようで、続けて口を開く。
「……一応聞いておこうか。貴様にはその猫を助ける方法が分かるか?」
猫を助けるじゃと……?
……ただの例え話に、こやつは何を言っているのじゃ?
だが、ノエルの顔は真剣その物で、冗談か何かを言っているようには見られない。
「うん? どうじゃろうな……結局、誰かが猫の状態を観測するために、部屋を開けねばならぬのじゃから……」
「やはり、そうなるか……もちろん私もそう思ってたが……」
わらわが戸惑いながら答えると、ノエルはどこか遠くを見つめ、何か大切な物を思い出すように物思いに耽る。
「凶悪なシュレッダーか…………エド」
そして、何者かの名前をポツリとつぶやき、物悲しそうな表情を浮かべた。
……エドとは、誰なのじゃろうか。
この幼女の雰囲気から察するに、相当親しい間柄の人物だと予想できるが、エドの身に何があったというのか。
……いや、シュレッダーが凶悪な肉食の魔物である事を思えば、何があったのかは想像に難くない。
恐らくエドは…………
……ふむ、なるほど。
先程からノエルが挙動不審だったのはこれが原因か。
何だか良く分からない内に、話が変な方向へと転がってしまったが、ノエルは辛い過去を思い出して、平常心を失っているように見える。
想定していた結果とは大分違ってしまったが、なんとかノエルの心を掻き乱す事に成功したようじゃ。
「ちと話し過ぎたのじゃ……ほれ、早く一枚引くが良い」
今が相手の手番であった事を思い出し、わらわは机に伏せた二枚のカードをノエルの方に押しやって選択を迫った。
相手がこの状態なら、わらわに手番が回ってこればすんなりと勝つ事ができるだろう。
そう思ってほくそ笑んでいたが、ノエルは目を閉じ、息を大きく吸って吐いて、深呼吸をし始めた。
すると、先程までの取り乱しようが一体何だったのかと思えるほどに、落ち着いた様子を見せる。
……それだけではない。
目の前の幼女からは、まるで勝利を確信しているかのような、圧倒的な迫力が発せられるではないか。
ま、まさか、先程の話の中で勝利の道筋を見付けたというのか?
幼女の辛い過去の中に、この状況を打破するヒントが隠れていたとでもいうのか!?
……くっ、相手に逆転のカギをくれてやるなど、これではまるで、物語に出てくる悪役そのものではないか。
わらわが言い知れぬ焦燥感に駆られる中、ノエルは静かに言い放つ。
「おい自称悪魔。貴様、イカサマしていないだろうな?」
……バ、バレたぁぁぁ!!
まずい!まずい!まずい!まずい!まずい!まずい!まずい!まずい!
最後の最後でイカサマがバレてしまったのじゃぁ!!
い、いや待て、まだ慌てる時間ではない。
ハッタリじゃ、きっとこれもハッタリに違いないのじゃ。
こんなもの、わらわのぽーかーふぇいすで、さらっと流してやればいいのじゃ。
そうじゃ、わらわが信者の前でいつもしているように、落ち着いて外面を取り繕えば、何も問題ないではないか。
……大丈夫だ、問題ない。
わらわはいつものように平常心を心掛けながら、大人の余裕を見せつけるべく言ってやった。
「いいいいイカ、イカ、イカサマじゃと!?なななな何を言っておるのじゃ?あっ、そ、そうじゃ!わ、わらわ子供じゃからそういう事よく分からないのじゃ」
――あかん、やってしもうたぁぁぁ!
これでは、「イカサマしています!」と言っているようなものではないか。
まずい……まずいぞぉぉぉぉ!
わらわの言動に<破軍炎剣>は不敵な笑みを浮かべ、カードを一枚選ぶ。
……だ、大丈夫、まだ大丈夫じゃ!
奴が引いたあのカードには、既にわらわの権能がたっぷりと及んでいるから、いくら<破軍炎剣>といえども、ババを引く運命からは逃れられないはずじゃ!!
だがしかし、ノエルは引いたカードを手元に寄せるだけで、一向にその絵柄を確認する気配を見せない。
そして、そのままわらわに指を突き付け迫ってくる。
「自称悪魔。貴様がもしイカサマをしていないというなら、今これからする私の提案を受けれるか?」
やっばい、マジやっっばいのじゃ!
この幼女、ここでわらわのイカサマを暴くつもりじゃ!!
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
このままでは……このままでは、わらわのイカサマが白日の下に晒されてしまうのじゃぁぁぁぁ!!
…………ん、別に良くね?
『イカサマしちゃ駄目』なんてルールは取り決めていないのじゃから、イカサマをする事自体は合法なはずじゃ!
だったら、それがバレた所で何故責められなければならぬ?
イカサマをした時の罰則だって決めておらぬのじゃから、別に問題あるまい。
……そうじゃ、そうなのじゃ!
奴がわらわのイカサマを暴露したら、ドヤ顔で「だから?」って言ってやればいいのじゃ!!
だって、わらわそんなルール聞いてないんだも~ん♪
…………うん?ルール??……何か引っ掛かりが……
普通のゲームであれば、イカサマが発覚した時点で『反則負け』が決定するのじゃろうが、今行われているのは悪魔の契約に基づいて行われる、特殊なゲーム。
悪魔のわらわが聞いていない事項は、当然ルール上存在しないものとして扱われる……
――本当にそうか?
悪魔の契約は、当然ながら悪魔側にも適用されている。
契約とは、双方の合意が無ければ行われないのだから、人間が契約に縛られるのと同様に、悪魔も契約によって縛られているのである。
悪魔が嘘を吐けないというのも、悪魔の契約の一つ。
だからこそ、悪魔はあの手この手で人間を騙そうとするのだ。
――わらわが、ヒイロを騙して契約を結ばせたように。
もしもあの時、最初からヒイロが「あなたは悪魔ですか?」と聞いていたら、わらわは「そうじゃ」と答えるか、もしくは、口をつぐむ事しか出来なかったじゃろう。
そう、悪魔の世界では、ルールを確認しない方が悪いのである。
…………あっ。
ああああぁぁぁぁぁァァァァァ!!!
ダメじゃん、これ完全にわらわが悪いヤツじゃん!!
何が、『だって、わらわそんなルール聞いてないんだも~ん♪』じゃ。
契約内容は『お互いの大事な物を賭けてババ抜きを行う』なのじゃから、普通のババ抜きのルールが適用されるに決まっておろーが!
審判に「ゲームでイカサマが発覚したらどうなるの?」と聞けば、絶対に「反則負け」と返ってくるわ!!!
ぬわぁぁぁぁぁん、どうしてこうなったぁぁ~!?
……こ、こうなったら、わらわのイカサマが暴かれる事を、絶対に阻止せねばならぬ!
ここで、奴の提案を受け入れる事は、絶対に避けねばならぬのじゃ!!
「べ、別に受けるとか受けないとかそういう問題じゃないし〜?そもそも何をもってイカサマと呼ぶのか、決まってないし〜?」
そう言って、なんとか言い逃れようとするも、ノエルは一切引く気を見せない。
むしろ、これでもかというぐらいに、ドヤ顔を決めて身を乗り出してくる。
オ、オワタ……もうダメだ、おしまいじゃ……
イカサマを暴かれてしまったら、その時点でわらわの反則負けが決まってしまう。
……もう無理です、試合終了です安○先生ぇ……
わらわが悲嘆に暮れる中、ノエルはポーズを決めながら、ある一点にビシッ!と指を突き付けて言い放った。
「そこにある貴様の手札、ちょっと開いて見せろ。イカサマしてないならできるよなぁ?」
………………えっ?
ぱちくり、ぱちくり。
……わらわの……手札を…………見せればいいの?
ぱちくり、ぱちくり。
…………そんな事じゃ、わらわのイカサマを証明できないよ?
「…………え?そんな事でいいの?いいよ」
なんだか良く分からないが、わらわは指示された通り、自分の手元に残っているカードを裏返した。
すると、当然のようにカードに描かれた数字が姿を現す。
ノエルが十一回連続でジョーカーを引き続ける確率は約0.05%だが、わらわが本気で権能を注ぎ込んでいる以上、それは100%と同義である。
「バ、バカな!?ありえん!!」
ドヤ顔から一転、ノエルは目を見開きながら大声を張り上げ、慌てて自身が引いたカードを裏返した。
しかし、それがジョーカーである事を確認すると、顔を驚愕に染めて顎をがくがくと震わせ始める。
一体この幼女は、わらわがどんなイカサマをしていると思ったのじゃろうか。
……このお子様の事じゃ、どうせわらわが手札に二枚目のジョーカーを仕込んでいるとでも思ったのじゃろう。
そして、意気揚々とわらわの手札を晒させた結果、その予想が大きく外れたため、赤っ恥をかいているといる訳じゃ。
ざまぁー!マジざまぁぁぁ!!
……ぷぷぷっ、何が「貴様の手札、ちょっと開いて見せろ」じゃ、見当違いも甚だしいのじゃ、ば〜か、ば〜~か。
『プギャー!』なのじゃ、『プギャー!m9』なのじゃ~!!
くくくっ、イカサマは分からないようにやるからイカサマなのじゃ!
バレないイカサマは、イカサマではない!!
あの某奇妙な冒険にも出てくる凄腕ギャンブラーも言っているのじゃ……
【イカサマは 見抜けぬ奴が 悪いのじゃ】とな。
……おっ、いい感じに五・七・五になったではないか。
折角だから、この一句はそのままノエルにプレゼントしてあげるのじゃ。
ちなみに返歌はしなくともよいぞ、そのまま大事にとっておくがよいわ……むは、むはははははは~!!
…………あぁ〜、スッキリしたぁ~。
うむ、良く考えたら、人間なんぞに確率操作の証明など、出来る訳ないではないか。
やれやれ、心配して損したわい。
イカサマを指摘された時は冷や汗を掻いたものじゃが、蓋を開けてみればこんなものじゃ。
まっ、所詮はお子ちゃまの考える事じゃから、ここらが限界じゃろうな。
それにしても、わらわが手札を二枚ともジョーカーにすり替えているだなんて、まったく考えが浅はかというかなんというか……
くぷぷっ、わらわはそんな幼稚なイカサマはやりません~。
ざ~んね~んでしたぁ~、わらわは大悪魔じゃから、もっと高度なイカサマをするんですぅぅぅ~~。
のじゃ~はっはっはっはっはっはっはっは~~~!!!
……しまったぁぁぁぁぁぁ!!
そういう事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
どうしてわらわが、確率的にありえないはずのジョーカーを引き続けてしまうのか……
それは、ノエルの奴がイカサマをしておるからじゃ。
冷静に考えれば、こんな幼女が因果律や混沌に干渉して、わらわ以上の確率操作なんぞする訳ないじゃろうが!!
バカぁぁぁ!わらわのバカぁぁぁぁぁ!!!
何が『幼稚なイカサマ』じゃ、何が『返歌はしなくてよいぞ』じゃ!!
【イカサマは 見抜けぬ奴が 悪いのじゃ】
きっちりと返ってきておるではないか、むがぁぁぁぁぁぁぁ!!!
……くっ、何をどうやったのかは分からぬが、恐らく、今ノエルの手元には二枚のジョーカーがあるのじゃろう。
そうすれば、わらわがジョーカーを引く確率は100%。
どれだけ確率を偏らせたとしても、両方ともジョーカーであれば、わらわのイカサマは無意味である。
ぐぬうぅぅぅ、やってくれたな、<破軍炎剣>め。
だがしかし、奴は一つ決定的な間違いを犯した!
わらわにそのイカサマを見破る方法を教えるという、致命的な間違いを犯してしまったのじゃ!!
この白熱(笑)のババ抜きの反対側を、藤原ロングウェイ先生が面白おかしく書いて下さっています。
私には真似できないセンスで描かれる、ババ抜きコメディを是非お楽しみ下さい。
【続・あくおれ!~悪魔?と弟おれの楽しい異世界生活~】
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