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頑張れ、はしらちゃん!〜はじめてのきょうてき〜

※ただのババ抜きです。

 ヒイロがディーラーとなって、カードを配る。


 わらわはカードの束を受け取ると、一組また一組と数字を揃えて、ペアとなったカードを場に捨てていった。


 最終的に手元に残ったカードの枚数は六枚。

 そして、その中にジョーカーの姿は無い。


「どうやらジョーカーはそっちに行ったようじゃな。が悪かったのぉ?」


 ババ抜きの本質は、ジョーカーという名の死神の押し付け合いである。

 よって、ノエルはわらわにジョーカーを引かせない限り、負けてしまう。

 対するわらわは、もしジョーカーを引いてしまったとしても、攻守が入れ替わるだけで、挽回のチャンスがあるため、余裕を持って手札を引く事ができるのじゃ。


 つまり、この勝負の主導権はわらわが握っていると言っても過言ではないのである。


「……ふん。自称悪魔が聞いて呆れる。戦場であればどんなに不利な状況であろうと最後に立っていたほうが勝ちということを知らんとは」


 しかし、目の前の幼女は劣勢であるにも拘わらず、ふてぶてしい笑みを見せた。

 それはまるで、幾百千もの戦場を駆け抜けた歴戦の勇士のように、自信に満ちた武士もののふの顔その物。

 その心持ち一つで、勝敗の流れを引き寄せてしまいそうな気配。

 勝利の女神は得てして、そういう者に微笑むものじゃ。


 ……だが、相手に勝利の女神が付いているのであれば、相手に取って不足はない。

 神にあだなす者の名において、わらわがきっちりと引導を渡してくれよう。


 先手は、ジョーカーを持たないわらわ。

 相手の手札は七枚であり、その中に一枚の死神が潜んでいる。

 ――確率14.3%。

 しかし、その数字はわらわに取って、全く無意味なものであった。


 わらわは権能を用いて、揺れる運命の中から、望む未来へと繋がる因果を手繰り寄せ、死神を引く可能性を排除していく。


 ふふふっ、運命と因果を司る悪魔を相手に、確率の勝負を挑むという事がいかに無謀であるか、勝利の女神諸共その身を以って知るが良い!!


 幸運を味方に付けたまま、わらわは相手の手札に手を伸ばした――








 ――スッ

 突然、相手の手札の中から、一枚だけが持ち上げられる。








「なっ!?」


 まるで、『この札をどうぞ』と言わんばかりのノエルの一手。

 一枚のカードが、わらわの丁度取りやすい位置に飛び込んできたのである。


 こ、これは一体!?


 わらわは、思わず顔を上げてノエルの顔を確認してしまう。


「どうした?取らんのか?ふふっ、不本意ではあるが義妹ムラサキの言葉を使わせてもらおうか。『ビビッてんの?ビビッてんの?』」


 くっ、なんという一手。

 ノエルが一枚のカードを持ち上げた事によって、わらわの心の中に迷いが生じてしまったのである。

 この札を取るべきか、それとも取らずに他の札を取るべきか……

 お互いの考えの裏まで読み合うような駆け引き。

 そこには、数字では表せられない、わらわの意思による選択と決定が必要となる。


 事ここに至って、確率はもはや意味をなさない。


『この札を取れ』と選択肢を突き付けるノエル。

 それに対し、わらわが取れる選択肢は大きく二つ。


 まず、差し出されたカードを引く事だが、これが及ぼす影響は非常に大きい。

 もしこれがジョーカーでなければ、相手の小細工を物ともしない不動の心を示す事ができ、仕掛けた側に大きな動揺を与える事だろう。

 しかし、もしこれがジョーカーであれば、わらわはわざわざ差し出された死神を、馬鹿正直に引いた愚か者となってしまう。

 わらわが受ける精神的ダメージは計り知れなく、勝負の流れを一気に持っていかれても何ら不思議ではない。


 対して、差し出されたカード以外を引くのはどうじゃろうか?

 これのメリットは、単純にリスクの低さである。

 六枚の内五枚は確実にセーフなのじゃから、安全性は前述の比ではない。

 しかしこれは、勝負を逃げたと捉える事もでき、相手に精神的優位を与えてしまう危険性を孕んでいる。


 差し出されたカードを取って、ハイリスク・ハイリターンを狙うか。

 それとも、差し出されたカードを取らずに、ローリスク・ローリターンを狙うべきか…………


 伸ばした手は、わらわの心境を表すかのように左右に彷徨さまよい、迷い揺れ動く。


 ……ここで、わらわが選ぶべき選択肢は一つ。

 リスクを避け、ジョーカーを持たないという優位を保ったまま、安全に手札を減らしていく手である。


 しかし…………しかし、それが分かっていても、一つだけ飛び出ているカードに、どうしても目が吸い寄せられてしまう。

 悪魔の悪戯心を刺激するかのように突き出されたカードが、気になって、気になってしょうがないのである。


「ええい、これじゃ!!」


 わらわの手は、誘蛾灯に集まる虫のように誘き寄せられ、一枚だけ飛び出たカードを掴んで奪い取った。

 そして、絵柄が何かを確認する。


「な、なんじゃと!」


 そこに描かれていたのは、数字ではなく『JOKER』の五文字。

 愕然とした思いが胸にのしかかる。


「フハハハハ!これが大戦を生き抜いた者の知恵よ!」


 まるで鬼の首を取ったような喜びを見せるノエルが、どこか遠い出来事のように思えてならない。

 まだ勝敗は決していないというのに、戦いの趨勢が決まってしまったかのような錯覚に陥る。


「さぁ私の番だぞ自称悪魔。その首、貰い受ける!」


 その言葉で我に返り、わらわは慌てて手札を差し出すが、ノエルは、まるで勝利の女神から死神の居場所を告げられているかのように、ジョーカーを避けて札を消化していく。


 そして、ノエルの手から全てのカードが無くなった時、わらわの手の中には死神が残り、一本目の敗北を喫してしまった。


「な、何なのじゃ一体あれは……反則じゃろ!あんな真似をされたら、引いてしまうではないか!?」


 わらわは、敗北の証であるジョーカーを机に叩き付け、抗議の声を上げた。

 先程のノエルの行為は、断じて経験不足の初心者に用いて良い戦法ではない。

 これは、玄人の手による、明らかな新人殺しである!


「フフフフ……このゲームを、貴様は遊びと考えた。しかし、私はいくさと考えて臨んだ。貴様の敗因は『覚悟』の差だ」


 だが、ノエルは『ルール上は問題無い』とばかりに、腕を組んでドヤ顔を決める。


 ――覚悟の差。

 確かにそうじゃ、わらわはこの勝負を確率に任せた、ただのワンサイドゲームだと考えていた。

 ……しかし相手は違った。

 悪魔との契約ゲームに相応しい対価アメちゃんを用意し、手段を構築して、わらわから確実におかしを取り戻さんと、戦いに挑んでいたのである。


 その差が、先程の勝敗を決定付けたのだ。


「ぐぬぬぬぬ……こ、こうなったら、わらわにも考えがあるのじゃ!」


 ならばどうするのか?


 ……答えは簡単じゃ。

 相手が、経験を武器にわらわの心を乱そうというのなら、わらわはそれを無視して、自分の主戦場に相手を引き摺り込んでやれば良い。

 相手の得意分野を避け、こちらの得意分野に持ち込むのは戦場の鉄則。

 わざわざ相手の土俵で戦いを挑む必要は無いのである。


「ククク、好きにするといい。子供の浅知恵に付き合ってやるのも大人の仕事だからな。お・と・な!の。ワーッハッハッハッハ!」


「のじゃぁぁぁぁ!!今に見てるのじゃ、そのぷっくりプニプニの顔に吠え面かかせてくれるのじゃ!」


 先に一勝したノエルが小憎たらしい笑い声を上げ、わらわはそのまんまるほっぺに指を突き付け、啖呵を切ったのだった。





 わらわ達のやり取りを横目に、ヒイロは淡々とディーラーとしての役目をこなしていく。

 場に捨てられたトランプを集め、念入りに切ってからカードを配り直した。


 わらわは再びカードの束を受け取ると、先程と同じようにペアとなったカードを場に捨てていく。


 最終的に手元に残ったカードの枚数は七枚。

 しかし、前回と異なるのは、わらわの手札に紛れ込んだジョーカーの存在。

 すぐにノエルもその事に気が付き、嫌らしい笑みを浮かべながらわらわの顔を覗き込んできた。


「おやおや。自称悪魔どのは同類である死神に好かれるらしいな…………」


 ……相手の言動に惑わされてはいけない。

 わらわの前に座っているのは、百戦錬磨のベテラン戦士。

 経験不足のわらわが、駆け引きで敵う相手ではない。


 ならば、わらわはそれに惑わされる事なく、粛々と刃を研ぎ澄ますのみである。


「何をしている?」


 わらわが用意した武器を前に、ノエルは不機嫌な声を上げた。

 机の上には、裏向きに伏せられた、わらわの手札が七枚。


 机の下でめちゃくちゃにシャッフルした後、そのまま並べただけの物である。


「さっさと引くのじゃ」


「ハッ!おいおいおいおい。今度は運任せか……しょせん子供。話にならんな」


「そうじゃ、それがわらわの作戦じゃからな」


 そう、これこそがわらわの秘策。

 何せ、どこにどのカードが伏せられているかは、()()()()()()()()()()のじゃから、ノエルは運に頼る他はない。

 確率任せにしてしまえば、あとはわらわの独壇場。

 煮るなり焼くなり、わらわの好き勝手にできるというものじゃ。


「いいだろう。後悔するなよ。私にはともに戦場を駆け抜けた戦友たちの魂とその武運が宿っている。七分の一の確率なぞ屁でもない」


「さて、はどちらの味方をするのかのぉ?」


 ジョーカー以外のカードは六枚……

 さぁて、ノエルは確率85.7%を無事に引く事ができるかのぉ?


 真剣な顔で、七枚のカードを凝視するノエル。

 時折、一枚選んでこちらの反応を窺うような事もあったが、わらわの表情から、ジョーカーの場所が読み取れるはずもなく、迷いを見せる。

 その様子を、わらわは口の中で笑いを噛み殺しながら見物していた。


 ――散々迷った挙句に、ノエルは一枚のカードを選んで、手元に引き寄せた。

 しかし、カードの絵柄が何であるかを確認すると、その顔を驚愕で染める事になる。


「な、なんだと……!?」


 ノエルは驚きに目を見開き、引いたカードを場に捨てる事なく、体を震わせながら手札に加え入れた。


 ジョーカーを引いたのだ。


「おやおや?どうやらはわらわの味方をしたようじゃな」


 いくら相手が老獪な手練てだれであったとしても、運の勝負になれば、わらわの右に出る者はいない。

 流石の勝利の女神も、こと運に関しては、わらわに手も足も出ないのである。


 見たか、これが運命と因果を司る大悪魔の恐ろしさなのじゃ!


「クッ……」


 わらわが挑発的な笑みを向けると、ノエルはその顔を悔しそうに歪め、それから手札をシャッフルして次の手に備え始めた。


 恐らく、ノエルは先程と同じように心理戦を仕掛けてくるつもりであろう。

 もしも、またあの卑劣な戦法を使われてしまえば、わらわに逃れる術はない。

 一本目と同じ(てつ)を踏んで、死神を押し付けられてしまう事じゃろう。


 ……だがしかし、わらわがそれに付き合ってやる義理はない!!


「な、なんだと!?」


 わらわの対抗策を前に、本日二度目の驚愕の声を上げるノエル。

 わらわはそれを無視して、ヒイロにどのカードを引くかを告げる。


「審判、わらわから見て、右から二番目の札じゃ」


「……あ、はい。どうぞ」


 一瞬の間を挟んで、ヒイロから一枚のカードが手渡される。


 わらわはそのカードの内容を確認すると、笑みを浮かべてノエルに突き付けた。


 ――わらわの引いた札は、ジョーカーではなかった。


「せっかくの戦法じゃが、そもそも目に入らなければどうという事はないの」


 そう、目にしてしまえば抗う事の許されない初心者殺しの一手も、何の事は無い、()()()()()しまえば、脅威足り得ないのである。


 わらわは、手札から対となる数字を選び、ノエルに見せ付けるようにして二枚のカードを場に捨てた。


「……なるほど。悪魔を自称するだけのことはある、ということか。狡猾な」


「これで形成逆転じゃな」


「フン。しかし運任せの手でどこまでやれるかな?」


 必殺の一手が破られたというのに、一切の動揺を見せないノエル。

 それは果たして、自信の表れじゃろうか、それともただの虚勢か。

 経験不足のわらわに、それを測る事はできない。

 ……流石は<破軍炎剣バーニングピアス>といったところか。


 しかし、相手がいくら名うての巧者であったとしても、所詮は人間種。

 大悪魔たるわらわを相手によく善戦したものじゃが、運の勝負に持ち込んだ時点で、わらわの勝ちは揺るがない。


「はてさて、どうなるかのぉ?わらわは、にはちと自信があってな……」


 お互いがカードを一枚引く度に、場には二枚のカードが捨てられていき、やがてわらわの手札が尽きて勝負が決した。


 ベテランを相手に、何もさせない圧倒的大勝利。

 先程まで大口を叩いていた小さな子供に、わらわは今まで溜めた鬱憤を込めて、満面の笑みを向けてやる。


「どやぁ〜♪」


「ギリギリギリギリ……こんなはずでは……」


 歯噛みして悔しがる自称大人の女性レディ(笑)。

 その情けない姿に、胸の底にあったよどみが、嘘のように晴れていく。


「むふふふふ、次が最後の一戦じゃな」


 ここまでくれば、わらわが勝ったも同然じゃな。

 相手がいくら心理戦を持ち掛けようとも、わらわは一切見向きもせずに、運に任せて適当に挑めば良い。


「くっくっく、どうやら、運はわらわに向いているようじゃな」


 これで、お主のアメちゃんもわらわの物じゃ!

 のじゃ〜っはっはっは〜〜!!


>ここまでくれば、わらわが勝ったも同然じゃな。

……どう見てもフラグです、ハイ。


藤原ロングウェイ先生のコメディーセンスが光る、【続・あくおれ!~悪魔?と弟おれの楽しい異世界生活~】もご一緒にどうぞ!!


※もう少し下の方に画面をスクロールすると、ランキングタグというものがありますので、そこのリンクからも読みにいけます。

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