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頑張れ、はしらちゃん!〜はじめてのけいやく〜

完結まで毎日更新するお(`・ω・´)

 ――ガチャリ

 家の玄関から、扉が開く音が聞こえてくる。


「ただいマントヒヒー。……プッ。マントヒヒって。自分で言っておいてないわー。センスのなさに全異世界が泣くわー」


 ヤ・バ・イ!!

 誰も居ないと思って油断したのじゃ、まさかこのタイミングで家人が帰ってくるとは……

 どうする、どうする?

 早くしないと、ハチミツが垂れてしまう……じゃない、見つかってしまうのじゃ!?


 す、すぐに『あの棒』を隠さねば!

 ええっと、あぁっと、取り合えずツボの中に突っ込むのじゃ!!


 わらわが『あの棒』を隠し終えるのと同時に、家人がキッチンに顔を覗かせた。

 現れたのは平凡な顔立ちの若い日本人男性。

 わらわの記憶が確かであれば、この男がヒイロである。


 ヒイロはわらわの姿を見つけると、驚いたように一瞬固まり、それからおずおずと声を掛けてきた。


「…………こんにちわ」


 ハチミツを舐めようとした事がバレていないか、わらわの心臓はバクバクであったが、この様子であれば、何とかバレずに済んだようじゃ。


「…………こ、こんにちわなのじゃ」


 じゃが次の問題は、わらわが完全に不法侵入者だという点である。

 まずい、このままでは、一緒に遊ぶ雰囲気ではなくなってしまう!


「……えっと、いい天気ですね」


「……そ、そうじゃな?」


 とりあえず、相手の話しに相槌を打って場を繋ぐが、どこか緊張した空気は拭い去れない。


「…………」


「…………」


 気まずい沈黙が、お互いの間に流れる。


 ……しまったのじゃ、これは完全に『おまわりさん、この人です!』と言われて、リアルケードロが始まってしまうパターンじゃ。

 もちろん泥棒は、わらわである。

 おまけに、懐には証拠となるブラジャーも仕舞い込んであるため、完全に現行犯であった。


 ぐぬぬ、異世界に来ていっぱい遊ぶつもりじゃったのに、何が悲しゅうて異世界の警邏隊と鬼ごっこをせねばならぬのか……


 …………いや、待てよ?

 先にわらわが『おまわりさん、この人です!』と言って、ヒイロを突き出してしまえば良いのではないか?

 幸いな事に、わらわの姿は幼女その物。

 ここでわらわが泣き叫べば、誰がどう見ても、ヒイロは『いたいけな幼女を誘拐してきた変態ロリコン野郎』である。


 うむ、そうじゃ、そうしよう!!


 わらわは今後の方針を決め、大声を出そうと息を吸い込むが、ヒイロの方が僅かに早く次の行動に移っていた。


「はい、ここに縦縞のハンカチがあります!」


「!?」


 ヒイロが取り出したるは、何の変哲もないストライプ柄のハンカチ。

 種も仕掛けも無いとばかりに、ヒイロはそのハンカチをわらわに見せてくれる。


 ……うん?

 一体、何が始まろうというのじゃ?


「これが一瞬で~…………」


 そう言って勿体ぶった手付きでハンカチを揺らすと、なんと一瞬でその姿を別物に変えてみせた。















「…………ハイ!横縞に!」















 …………え?















「…………」















 ……………えっ?















「…………」















 ……………………えっ、それだけ?















 縦縞が……横縞に……


 ストライプが……ボーダーに…………















 って、それ、ハンカチ横にしただけじゃん!!















「…………ぶっ……ブハハハハハハハ!!!なんじゃそれは!?おかしー、おかし過ぎる。縦縞があっという間に横縞とか、ブフッ、腹が捩れる!ぶひゃ、ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 あまりの下らなさに、わらわ撃沈。


「よーし、ノエルさんが帰ってくるまでお兄さんとなんかして遊ぼうか?」


 そんなわらわの反応に気を良くしたのか、ヒイロは笑顔でわらわに話し掛けてきた。


 ノエル?誰じゃそやつは……

 何だか良く分からぬが、どうやらわらわを、ノエルとかいう家人の知り合いか何かじゃと思うておるようじゃな。

 しめしめ、それなら好都合じゃ、このままその勘違いに便乗させてもらうのじゃ。


「うむ、そうじゃなぁ……わらわが、えきさいてぃんぐしながらも適度に苦戦しつつ最後には勝つような、そんな対戦げーむがいいのじゃ!」


「要求レベルたけぇ!?むむむむ……じゃあ、トランプなんてどうかな?」


 なぬ、トランプとな!?

 わ、わらわトランプなんて、『擬似ぴーしー』の中に入っている『そりてぃあ』や『はーつ』しかやった事が無いから、ちょっとだけ憧れていたのじゃ!


 さぁやるのじゃ、すぐにやるのじゃ、今すぐプレイするのじゃ!!


 わらわはヒイロの袖を引っ張ってリビングへと移動し、椅子に座って、ゲームが始まるのを今か今かと待ち侘びる。


 ヒイロがどこからともなくトランプを取り出し、それを素早い手付きで切っていく。

 その鮮やか手並みに感心していると、ヒイロはちょっと恥ずかしそうな顔をしながら、これから遊ぶゲームについてルールを教えてくれた。




【ババ抜き】

 トランプの中からジョーカーを一枚だけ抜き取ってカードを分け合い、お互いにカードを引いていき、数字が揃ったら場に捨て、そして最後にジョーカーを持っている人が負けという、最もポピュラーなトランプの遊び方である。




「――とりまこんな感じかな。ルールはわかった?」


 実際に一度デモプレイも行ったので、ルールはしっかりと把握する事ができた。

 複雑なルールは何も無いため、すぐにでも遊ぶ事ができる。


「うむ、よく分かったのじゃ!!」


 だがしかし、単純なゲームじゃからこそ、ただそれだけでは面白くない。

 わらわは、悪魔の笑みを浮かべながら、ヒイロにある提案を持ち掛ける。


「では早速……と言いたいところじゃが、どうじゃ?折角じゃから何か賭けて遊ばぬか?」


「いいよ。何がいいかな?」


 何の疑いもなく頷くヒイロ。

 その様子に、思わず口元が緩んでしまう。


「負けた方が、勝った方の言う事を一つ聞くというのはどうじゃ?」


「よーし、お兄さん負けないぞー!」


 くっくっくっ…………()()()()じゃな。


「手加減無用でいくのじゃ!」




 こうして、ヒイロとの『ババ抜き対決三本勝負』が始まった。


 ――結果は、わらわの二本先取によるストレート勝ちである。


「嘘、だろ……?」


 結果を受け入れられずに唖然とするヒイロ。


 残念じゃが、()()を司るわらわに、このゲームを挑んだのが間違いじゃったな。

 わらわの手に掛かれば、確率を操作する事など造作もない。

 1%でも可能性がある事象であれば、わらわは運命と因果を操って、望む結果を手繰り寄せる事ができるのじゃから、ババを引くも引かないも思いのままである。


 ……えっ?イカサマじゃないかって?

 だってイカサマしちゃダメなんてルール、取り決めてないし?

 それになにより、イカサマは見破れない奴が悪いのであ〜る!!


 のじゃ〜っはっはっはっは〜〜!


「むふふ、さて、それでは契約に従いわらわの言う事を聞いて貰おうかの?」


 そう告げると、ヒイロの胸から黒い靄で作られた鎖が、わらわの手の中へと伸びてきた。


「……ん?なんぞこれ」


 不思議そうに鎖を見つめるヒイロ。

 何度も鎖を掴もうとするが、実体のない鎖を触る事が出来ずにいる。


「あの、これは一体なんでしょうか?」


 顔に汗を滲ませながら問い掛けてくるヒイロに、わらわは涼しい表情で答えを述べてやった。


「ん?悪魔と契約をしたのじゃから、それを履行するのは当然の事じゃろ?」


 ヒイロの胸から伸びている鎖は、悪魔と契約を交わした者の魂を縛る、契約の証。

 世のことわりを無視して()()を取り立てる、絶対の首輪である。


「悪魔と契約!?いつ!?」


 あまりの事態にヒイロは驚き、取り乱した様子を見せるがもう遅い。

 きちんと、お互いの合意によって()()は成立しているのだから。


「さっき『負けた方が、勝った方の言う事を一つ聞く』と契約したではないか?」


「え、キミ、悪魔だったの!?そんなの聞いてないよ!?」


「えっ?だって、聞かなかったではないか?」


 くっくっくっ、どこの世界に『さぁ、今から不平等な契約を結ぼう』などと、馬鹿正直に言う悪魔がいるのじゃ?

 理不尽な契約を結ばせるために、あの手この手で迫るに決まっておろ〜が。


「あの、アレですかね、軽いボディータッチでDTたちを掌で転がしてからかう小悪魔ギャル的な意味じゃないですよね?」


「何を言っておる、わらわは小悪魔ではなく、大悪魔じゃぞ?」


 わらわが次々に告げる事実を前に、どんどん動揺を大きくするヒイロ。

 そして、どこか愕然とした表情を見せるその姿が、妙に小気味いい気持ちにさせてくれる。


「ク、クーリングオフとかきかないですかね?法律はどこ基準なんでしょうか?」


 ヒイロからの縋るような視線。


「もちろん、悪魔基準に決まっておろーが」


 わらわはそれを、ドヤ顔でバッサリと切り捨て、思いっきり鎖を引っ張って、ヒイロの魂に直接否定を伝えてやった。


 ああ、わらわは今、久し振りに悪魔らしい事をしておるのじゃな。

 こんな気持ち、一体何百年振りじゃろうか……うっ、涙が…………



 ……さて、契約によって得られたのは、ヒイロに()()()()()()()()()()()権利。


 たとえそれが、どれだけ本人の意にそぐわない事であったとしても、たとえそれが、どれだけ理不尽な要求であったとしても、悪魔との契約で縛られているヒイロには、それを拒否する事はできない。


 大悪魔たるわらわが、最も欲する物。

 大悪魔たるわらわが、渇望して止まない物。

 悪魔が、契約の代償として支払わせる物。

 悪魔に、契約の代償として捧げられる物、それは…………










 は〜ちみ〜つ、た〜べた〜いな〜〜♪










「むははは!久し振りのおかしに涎が止まらぬのじゃぁぁ!」


 うむ、さっきは直前でお預けを食らったからの。

 この契約をもってすれば、堂々とハチミツにありつけるのじゃ!


 家人の目の前で、見せつけるようにしながら舐めるハチミツ…………

 ……むっはーー!想像するだけでたまらんのじゃぁぁ!!


 まるで夢のような状況に心が踊り、手にした鎖をブンブンと左右に振り回す。


 ――いや待て、待つのじゃわらわ!!!

 ハチミツなんぞ、所詮はただの調味料に過ぎぬ。

 この家にもっと凄いお菓子があるやも知れぬではないか!

 であれば、その事をヒイロに聞いてみるか……いやダメじゃ、言う事を聞かせられるのは一度きり。

 お菓子のある場所を強制的に吐かせてしまえば、『そのお菓子を寄越せ』と言えなくなってしまう。


 うむむ、どうすれば……

 ハチミツで手を打っておくべきか、それともリスクを負って、大胆な要求を通してみるべきか…………


 浮かんでは消えていく選択肢の数々。

 あーでもない、こーでもないと考えながら、今度は手にした鎖を上下に振ってみる。


 ――と、そこで気が付いた。

 ヒイロが鎖の動きに合わせて、不審な挙動を繰り返している事に。


 ん?別段、この鎖にあんな動きを強制させる効果は無かったはずじゃが…………思い込みが激しいのじゃろうか?


 ちょっと面白いので、そのまま鎖を振り回しながら見ていると、ヒイロがいつの間にか現れていた幼女に、何かを訴えいる事に気が付く。

 わらわが考え込んでいる間に、家人が一人帰ってきたようだ。


 …………あれ?あの幼女誰だっけ?

 え〜っと、ルドルフが夢の中で出会ったのは、確かギルドのメス豚と、ヒイロと、ムラサキと……………


「あっ、思い出したのじゃ!お主、幼女なのにおばあちゃんな、乳臭いBBAじゃろ?」


「燃やすぞクソガキ」


 超反応で暴言を返す幼女。

 見た目はちっちゃいのに、態度の大きなお子様である。


「それは困るのじゃ。燃やされたらおかしが食べられなくなってしまうではないか?」


 全く、このちんまいのは、何という過激な発言をするのじゃろうか。

 折角わらわが手に入れようとしているお菓子を燃やすだなんて、酷い。

 おーぼーなのじゃ。


「何を言ってるんだこのガキは」


「ノエルさん、実はですね……」


 ヒイロがこれまでの経緯を説明し始め、ノエルと呼ばれた幼女は、ようやくこの家のお菓子が、わらわの手中にある事を理解したようだ。


「もしこれがムラサキならそんなバカなことあるか!と蹴りをかますところだが、ヒイロだからな。おい悪魔よ。今すぐその鎖とやらをはずせ。そうすれば半殺しでまけてやろう」


 どうやらノエルはこの家の家主のらしく、わらわからお菓子を守ろうと、小さな体をプリプリ震わせて抗議の声を上げた。


「ほう?もし嫌じゃと言ったら?」


「十五割殺しだ」


 こんなにちっちゃいのに、わらわのような大悪魔に真正面から啖呵を切るなんて、本当に立派な幼女じゃ。

 じゃが……


「ぬははははは!悪魔との契約が、そんな事で破棄できるわけないじゃろうが」


 悪魔との契約は絶対である。

 力技で破棄できるような次元の代物では無い。

 それでも、なお契約の破棄を迫るのであれば…………


「そうじゃな、もしもわらわのおかしが欲しいと言うなら、ババ抜き三本勝負に勝てばくれてやるのじゃ」


 そう、新たな契約で、それ相応の代価を支払えば良い。


「いいだろう。そちらの要求どおりに勝負してやろう。<破軍炎剣バーニングピアス>の切れ味、見せてくれる!」


 ノエルは躊躇う事なく言ってのけた。

 わらわと変らない高さで目線が合い、火花が散る。


「まっ、お主のような()()()なんぞ、わらわの相手ではないがのぉ」


 勝負はもう始まっている。

 挑発して相手の心を乱す作戦である。

 子供相手に大人気ないかもしれぬが、わらわのお菓子がかかっているため、全力で叩き潰す必要があるのじゃ。


 しかし……


「自称悪魔の小便臭いクソガキに~、頭緩い感じに煽られても~、別になんとも思わんなぁ~?私はこれでも花も恥らう大人の女性レディなのでなぁ~?」


 ………挑発し返された。

 幼女とは思えない程小馬鹿にした表情で、わらわを煽ってくる。


 ぐぬぬ、負けていられるかぁ!


「ぷーくすくす。お主が大人の女性レディなら、何万年も時を経たわらわは、スーパー・スペシャル・クール・ビューティ・セクシー・プリティー・大人レディじゃな」


 髪をかき上げ、わらわの美貌を見せつけて格の違いをしらしめようとするが、ノエルは鼻で笑って馬鹿にするばかり。


「何万歳ぃ?誰が証明するんだそれは?証拠は?ああ、悪いな。しょうこっていうのはぁ、じじつをしょうめいするこんきょのことなんだがぁ、何万歳もの大人レディ(笑)は意味わかるかなぁ~?」


 幼女のくせに、幼女のくせに、幼女のくせに、幼女のくせにぃ!!


「むきぃぃぃ!寸胴つるぺたロリ幼女の癖に生意気じゃぞ!!」


 こうなったら、権能全開でボコボコにしてくれるわ!

 もう、謝ったって許さないからな。

 ケッチョンケッチョンのメッチョンメッチョンのギタギタでゴトゴトでグツグツのブルブルにしてやるのじゃ!!


「……ヒイロ!審判だ!このクソガキがイカサマをしないように見張ってろ!」


「サ、サーイエッサー!」


 ノエルが威勢よく言い放ち、ヒイロがそれに応える。


「返り討ちにしてやるのじゃ!……さぁ、さっさと『大事な物』を一つ言え。お主がこのゲームに何を賭けるのか、宣言するのじゃ!」


「……いいだろう。では、これを賭ける!」


 わらわが掛け金を求めると、ノエルはどこからともなく飴玉のたくさん入ったブーツを取り出し、机の上に置いた。


 ……そう、()()()()()()()である。

 飴は、ただでさえ高価な砂糖が大量に使用されているため、滅多に食べる事ができない貴重なお菓子である。

 わらわでさえ、食した事は一度しかないというのに、目の前にはブーツ一杯に詰め込まれた、大量の飴玉が……


「ぐっっどぉぉぉ!!それでは、ババ抜き三本勝負のスタートじゃぁぁ!」


 くっくっくっ、大悪魔に喧嘩を売った事を、後悔させてやるのじゃ。

 その大事な大事な飴ちゃんを、わらわが根こそぎ巻き上げてくれるわぁ!

今回も、壮絶なバトルが繰り広げられる……はず!


藤原ロングウェイ先生書き下ろしの【続・あくおれ!~悪魔?と弟おれの楽しい異世界生活~】も宜しくお願いします。


※もう少し下の方に画面をスクロールすると、ランキングタグというものがありますので、そこのリンクからも読みにいけます。

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