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空の守り人

 飛行中のF15DJの機内、世界最高のハイテク技術の粋を集めて作られたF15J/DJイーグルは、空中戦では無敵の強さを発揮する。全長19.43mの機体後部に装備された2基の強力なエンジンは、イーグルに強力な旋回性能と最高速度マッハ2.5、巡航速度は時速1100kmという最強の格闘戦能力を与えた。


 強力なエンジンが実現する上昇力は凄まじく、1975年には3000mから30000mまでの7つの世界上昇速度記録の全てを塗り替えている。そんなF15の開発コンセプトは「地球上のあらゆる空で、どんな天候でも、どんな相手でも、どんな状況下でも、敵を空から追い落とすこと」である。


 その精鋭機であるイーグルのグラスコックピット内では、様々な機器、計器がところ狭しと並び、あらゆる数値をイーグルドライバーに指し示す。左右のディスプレイには暗視装置越しの映像が映し出され、中央に備え付けられたHUD(ヘッドアップディスプレイ)には各種機体情報が不気味に光っている。そしてそのHUDの中央には、円形のレファレンスサークルが緑色に映し出されている。


 兵器管制担当の橋本がAAM5の赤外線シーカーで目標を捉える。


「目標を赤外線シーカーで捕捉」


 そして、新崎がHUD内のTDボックス内にドラゴンをしっかりと捉えた。


「目標との距離約3.8マイル(6Km)、目標をロックオン、AAM5発射準備完了」


 相手が悪かったなドラゴン、お前の速力じゃこのマッハ3のミサイルは振り切れない。それに、お前が避けようとした所で避けられるものじゃない、何せ最新式赤外線画像誘導だ。逃げ切れるもんなら逃げてみろってもんだ。


 数秒の沈黙の後、発射の号令が下る。


「Fire!!(発射する!!)」


 操縦桿のトリガーが引かれた。この時、既に新崎の心には迷いが消えていた。


 ミサイルアームから解放されたAAM5の固体燃料が燃焼を開始する。


 燃焼開始から数秒で音速を超えたミサイルは、夜空に白煙を描きながら、流星のごとく目標へと突進する。


 そして、ドラゴンが停車した車に追い打ちをかけようと、炎のブレスを放出するかしないかの刹那、AAM5がドラゴンの脇腹へ入り込んだ。


 ミサイルがドラゴンに接触する瞬間、VT信管(近接信管)が作動し直撃寸前で爆発、ドラゴンの重心を崩し、滑空を妨害するには十分な衝撃だった。


 黒煙に包まれながら落下するドラゴンは、地面に激突する寸前で体勢を立て直し、道路にふわりと着地したようだった。ドラゴンの鱗には多少の損傷が見られたが、致命打とはならなかったようだ。


 周囲に炎上したミサイルの破片が降り注ぎ散乱する。その炎の中、積層された青銅色の鱗で周りの炎の光を鈍く反射させながら、ドラゴンは悠然と立ち、猛烈な雄叫びを上げてこちらを睨みつける。


「AAM5、目標に命中、民間人への被害ゼロ」


「了解、ドラゴンの状況は?」


「ドラゴンに対する有効打とはならず、ドラゴンは健在だ」


 我々はあの幻想の生物を見くびっていたようだ、ドラゴンなど近代兵器に比べたら敵にすらならないと思っていた。しかし我々のもつ最新鋭ミサイルAAM5の直撃にも耐えうる装甲、いや甲殻を持っている。これは驚きだな、道理で自衛隊がゴジラを単独で撃退できないわけだ。


「引き続き目標の監視を継続せよ」


 ――その時、またもドラゴンの雄叫びが聞こえてきた。


 そしてドラゴンがこちらを見つめ、もう一度その咆哮を上げると、ドラゴンは羽ばたき始め、こちらへと接近を開始したようだった。


 ドラゴンがこちらに接近してきただと!? だが仲直りに来たってわけではなさそうだな。だが、これで民間人からは注意を逸らせただろう。つまり最悪の事態は一時的に回避できたわけだ。


 それにしても、まさかAAM5の直撃に耐えるとは思っていなかったが、現代の最新鋭ジェット戦闘機とファンタジーのドラゴンとでは所詮、速度の面で雲泥の差だ。あちらは出せて時速400-500km程だろう。第二次大戦中のレシプロ機の最高速度が大体時速600km程度だからそれよりも断然遅い。


 だが、このF15Jの巡航速度はマッハ0.9(時速1102Km)、目視外でミサイルを発射し、命中させることも可能なこの機体がドラゴンを落とすなど、止まっている的を落とすように造作も無いだろう。AAM5の爆発を耐えたなどとは信じたくはないが、ドラゴンという冗談が目の前に存在している以上、自身の魔力で体表をコーティングしたり空気抵抗を減少させていたりしていても、全く冗談とは考えられなくもない。


「こちらランサー01、目標がこちらに接近してきた!指示を!」


 奴はすでに我々国民に直接的に危害を与えた。このまま放おっておけばさらなる被害が及ぶ可能性もある。我々航空自衛隊はあの敵性生物をなんとしてでも撃墜しなければならない。奴にも全くダメージがない訳ではない。あと数発で必ず仕留められる。


「こちらレッドアイ、ようやく上からも武器使用の許可(ClearFire)が出た。目標を全力で撃墜(Kill)せよ、これ以上民間人に犠牲者を出してはならない」


 今度こそ叩き落す、お前にこれ以上日本の空を飛ばせはしない。


「ランサー01了解、再度AAM5で攻撃を行う!」


 上空を旋回し一気にドラゴンとの距離を取るF15J、当然アフターバーナーによる加速などは行わず、巡航速度で易々とドラゴンと十分な距離を置くことができた。なんせこちらは亜音速で飛行中だ。


 再度旋回し、レーダーを操作する隊長の指示を受けながら、こちらに向かってくるドラゴンと相対する形で針路をとる。中央のHUDには緑色に光る円形のレファレンスサークルが映し出され、その中心にはターゲットをマークする四角が表示されていた。再度、隊長が後席から叫ぶ。


「赤外線シーカー、目標の熱源をロック!」


 このAAM5の赤外線シーカーのロックオン範囲は最大で35Km、ドラゴンの視程外から発射すれば、ドラゴンは自分が撃たれとも分からぬまま、火だるまとなって海面に叩き付けられるだろう。


「目標の速度250ノット(時速463Km)、目標との距離約5マイル(8Km)、AAM5発射準備完了!」


 さぁ今度こそダメージを与えてくれ!新崎、頼むぞ。


「ランサー01、ファイア!!」


 再びミサイルアームが開かれ、放り出されたミサイルのエンジンが直ぐに燃焼を開始する。超音速の飛翔体がF15Jを尻目にドラゴンへと突進する。


 レーダーに映し出されるミサイルと目標の光点、AAM5の命中予想時間があと10秒を切ったところだった。


 その時、ドラゴンが突然急上昇し針路を逆方向に変針する。


 大きく羽ばたきながら高度をみるみる上げるドラゴン、ある程度高度を上げた所で、滑空を始める。自らの羽を畳み空気抵抗を減少させながら、重力加速で滑るように加速するドラゴン、しかしAAM5がドラゴンの背後に迫る。


 ほぼ垂直に落下しながら滑空するが、所詮、超音速には勝てない。高度50m、ついにAAM5がドラゴンの背中を捉えた。ドラゴンがそのまま海面に墜落すると思われた瞬間、竜の体が一瞬だけ緑色に発光する。その後、海面寸前で大きく羽を広げて減速をしながら、海面スレスレを沿って滑空を始めた。


 そして、飛行するドラゴンの背後に、AAM5が目標を突然失ったかのような挙動を見せた瞬間、海面にミサイル煙が垂直に突き刺さった。


 海面に刺さるミサイル、数秒後自爆装置が作動し、水しぶきを大きく上げながら海中数メートルの地点で爆発した。


 F15Jのレーダーからミサイルを示す光点だけがポツリと消える。


 な、何だと……!? ミサイルを回避しただと!?


 その時、遙か遠方から憤怒の感情を込めた雄叫びが、コックピット内の空気を揺さぶった――。


――


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