表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

黄泉平坂を越えて③

 

 弓ヶ浜バリケード


 その時、杉崎達は前方から突撃して来る異形の軍勢に対して、事前に計画していた撤収作戦の第二段階のタイミングを計っている所であった。


 数十メートル先から絶叫と共に接近する敵兵士達、その先頭を走るのは、兵士を乗せた赤く巨大な蜥蜴と、人間の子供程度の大きさをした緑色の鬼及び灰色の巨大な鬼である。そして、それら前衛から少し後方の側面には騎馬隊が両側に数十騎、それに挟まれるように歩兵隊が配置されていた。


 緑と灰色の鬼の前進速度はそれほど早くは無かったが、赤い蜥蜴と騎馬隊の速度は杉崎が予想していたよりもかなり早く、既に目前にまで迫っていた。


 杉崎はその状況を認識し、若干の焦りを覚えつつも直ぐにバリケードに放水を行っていた輪島達に即座に指示を出す。


「今です輪島さん! 他の皆さんを退かせて下さい!」


 輪島がそれに気づき、バリケードの両側で放水を行っている団員達をバリケードの後方に下がらせる。


「おい、おめぇら! 直ぐに後ろまで下がれ!」


 輪島の声を聞いた団員達は直ぐに持ち場を離れ、並べられた車両の後ろ側へと回る。そして、その間も警官隊や機動隊による射撃が休むことなく行われ、前方から突撃して来る蜥蜴や騎馬隊、緑の怪物に容赦無く弾丸を撃ち込んでいた。平時であれば容疑者への致命的な射撃は憚られる事ではあるが、自らが躊躇えば隣の仲間や町民の命が奪われる事になる為、既にそのような彼らの感情は彼方へと消えていた。


 躊躇なく正確に撃ち込まれた弾丸は、機敏な動きで最前線を突き進む赤い蜥蜴やその騎手を最初に襲った。銃弾が蜥蜴の表皮を抉り苦痛に悶えながら上に乗っていた騎手を振り落とす。次に銃弾は、皮鎧や粗末な盾を装備しただけの緑の怪物の胴体を容赦なく貫き苦痛を与えながら地面へと平伏させる。加えて、側面から直進して来る騎馬隊にも射撃を行い、その騎手や騎馬を正確に射抜いて行く。


 駐在所の2階からは、白く巨大な鬼に照準を合わせた2丁の狙撃銃が1発1発正確にその頭部を破裂させ、絶えずボルトをスライドさせていた。


 今回の突撃には、先に打撃を与えた重装歩兵隊が含まれていなかった為、主に軽装鎧を装備した突撃部隊員を無力化するのは容易であった。


 しかしながら、後方から続々と押し寄せる圧倒的なまでの兵員に徐々に押されているのは誰の目にも明らかである。だが、バリケードの隊員達は杉崎を信じて、目の前の敵を排除し続ける。


 すると突然、先ほどまで一直線に突撃して来た蜥蜴達が騎手の指示で不規則な動きをするようになる。不規則で機敏な動きを行う蜥蜴は、こちらの照準を左右に振らせながら、遂にバリケードから十数メートルの地点にまで近づこうとしていた。


 それを見て杉崎は部下である機動隊員に叫ぶ。


「1班及び2班、閃光弾用意!」


 それを聞き、機動隊員達は腰のポーチから特殊閃光弾を取り出す。これは、武装した集団を相手にする事が予想された為に、杉崎の指示で出動前に全員に持たせていたものである。また、閃光弾以外にも状況に応じて使い分けるように、隊員達は他にも幾つかの投擲用装備を所持しているようだった。


「用意良し!」


 杉崎は隊員達が特殊閃光弾の投擲準備が完了した事を確認し再び叫んだ。


「目標前方、閃光弾投擲!」


 その号令を聞き隊員達は特殊閃光弾のピンを抜き、前方の赤い蜥蜴の集団に対して投擲する。握っていたレバーが切り離され放物線を描きながら蜥蜴の集団へと投げ込まれる。


 特殊閃光弾が転がりながら地面の白砂にめり込み動きを止める。そしてその数秒後、投擲された複数の閃光弾は爆発し、凄まじい閃光と爆音を連続して発した。不規則な動きで接近していた蜥蜴は、その閃光により一時的ではあるが視力を失い、爆音の衝撃波により平衡感覚を乱され、前に進む事すら出来なくなる。そして、視力を失い暴れる蜥蜴達を制御しきれずに下敷きになる騎手も散見された。


 また閃光と爆音により、蜥蜴より後方を進んでいた緑鬼の集団や側方から接近していた騎馬隊の馬が半狂乱の状態となり、一時的に前衛の部隊は混乱状態に陥った。


 閃光弾の爆発後、隠れていた車から前方の状況を確認した消防団員らは、敵軍に確かな効果を与えている事を見て息を呑んだ。


 続けて杉崎は、狂乱状態に陥った敵軍に対して、2度目の投擲を指示する。しかし、今度は特殊閃光弾ではなく催涙弾によるものであった。


「催涙弾、投擲用意!」


 機動隊員達は腰に着いたポーチの二つ目の蓋を開け、催涙弾を取り出す。


「用意良し!」


 杉崎は隊員達の準備が出来た事を確認し、投擲の号令を下した。


「目標前方、催涙弾投擲! 広範囲に投げろ!」


 指示を聞いた機動隊員達は、自分達のバリケードの前方を完全に覆うように催涙弾を投擲した。


 砂浜の地面に落下した催涙弾は点火し、催涙ガスを噴き出し始める。ほぼ無風状態で噴出したガスは、その場に留まり続け、ただの煙幕だと勘違いして前進して来た後続の兵士達に激痛を与える。目や顔面、喉等を襲う痛みは継続し、悶える兵士達は遂にその場に(うずくま)りその歩みを停止させる。


 催涙ガスで前方が覆いつくされ、阿鼻叫喚が響く状況を確認し、杉崎はこれを好機と判断して全員に撤退を命じる。


「総員撤退! 車両に乗車!」


 その命令を聞いた消防団員や警官隊、機動隊員達は速やかに青白の輸送車に向かう。


 しかしその瞬間、太い丸太を思い切り車にぶつけたような音が聞こえると、輸送車の輪郭が歪み屋根から完全に潰れる。


 警官がふと見上げると、そこには5メートル程の白く巨大な鬼が丸太のような腕を振り下ろしたまま立っていた。


 杉崎は、あの怪物には催涙ガスの効果が今一つであったのだと一瞬で悟ると、機動隊員達にMP5Fでのフルオート射撃を命じる。


「頭を狙え! 単発でなく連射だ!」


 すぐさまMP5Fを白い怪物の頭部に向ける隊員達。怪物はその光景を見て直ぐに頭を手で覆い隠す。しかし、そのまま隊員達は怪物の頭に銃撃を開始した。


 杉崎の近傍に居た6名の機動隊員達のフルオート射撃は、速やかに白い怪物の腕に無数の風穴を穿ち、その手指をもぎ取って行く。連続するマズルフラッシュに照らされながら、苦痛に悶える怪物。その腕が一瞬だけ僅かに下方へと下がった時、その隙間から無数の9mm弾が飛び込み、怪物の顔面を引き裂いた。


 悲鳴を上げながらゆっくりと倒れる怪物。それを見て、怪物を無力化したと判断した杉崎は、上からVの字に圧潰した輸送車に顔を向ける。


 輸送車はもう動かせそうもない。残る車両は下田署のランドクルーザーのみだが、それでは全員を運ぶ余裕は無いし、ガスの効果も長くは続かない。そして、閃光弾を受けた敵も回復してこちらに接近しつつある。こうなれば、すぐ後ろの民家群を通って船着き場まで向かうしかない。細い道を進めば、追撃して来る人員の相手も最小限に押さえられる筈だ。


「全員、徒歩で船着き場まで向かう! 走れ!」


 後ろの民家群を指さしながら全員に指示する杉崎、その指示を聞いて全員は交番の横を通り民家群へと向かう。


 警備係長の高橋は、望月らが大盾を持ったまま移動している事を見つけ、直ぐに大盾を捨てて行くように指示した。


「おい、全員大盾は置いて行け! 船に乗り込む時に邪魔になるかも知れん。今は全力で逃げろ!」


 高橋の指示を聞くと直ぐに警官隊は大盾を駐在所の壁に立て掛ける。そして、全力で民家の密集した細い通りへと駆け込んで行った。


 一方、最後まで駐在所の2階で狙撃支援を行っていた隊員も杉崎の指示を聞き、狙撃銃を背中で背負い階段を駆け下りて全速力で走り出す。狙撃班員の撤退を見送ると、杉崎は自分の持っていた発煙弾を駐在所の周りに投げる。すると、発煙弾が点火し、瞬く間に駐在所周辺を覆い隠した。それを確認し、杉崎も船着き場へと急いだ。


 ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ