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翡翠の凶槍⑤

 

 南伊豆町近海 巡視船「しきね」


 機関を破損し、航行能力の殆どを喪失した「しきね」の船橋では、船長である竹本が双眼鏡で「いずなみ」が不審船の最後の一隻を破壊したのと同時に氷壁の完全消失を確認した所だった。


「「いずなみ」がやってくれたか……「しきね」だけでは間違いなく立場は逆転していただろう……」


 受話器を耳に当て、医務室からの報告を聞いていた青葉が竹本に報告する。


「船長、先程の攻撃で負傷した機関科員2名の容体ですが、頭を打って現在は気を失っているものの、命に別状はないとの事です。しかし、それ以外にも複数個所を骨折などしている為、すぐに復帰することは無理でしょう」


 最悪な状況だが、まだ希望のある報告を聞き、竹本は胸を撫でおろした。


「本当に良かった。本当に」


 青葉も竹本と同様に殉職者が出なかったことを神に感謝した。そして、竹本は青葉に機関室の状況を聞いた。


「青葉、機関室はどうなっている?」


 青葉が報告する。


「はい、機関室は応急要員がすぐに対処しましたが、ディーゼルエンジンのシャフトが破損しており、現状では修理困難です。火災については、消火不能な緑色の炎が周辺を燃やしましたが、暫く経ち炎の色が変わると、すぐに通常の炎と同様に消せたと報告されています。火災については、被害は軽微で航行に支障は来さないとのことです」


「了解した。取り敢えず眼前の危機は乗り越えられたと言うことか……そう言えば、バリケードはどうなっている?」


 青葉が双眼鏡をバリケードの方角に向けながら答えた。


「現在、戦闘は行われていないようですが、残りの船団が次々と上陸を開始しており、機動隊が展開していると言えど、このままでは非常に危険な状況かと……」


 竹本は船長席に腰掛けると、腕を組みながら答える。


「救助に行けるなら直ぐにでも行きたいが、「しきね」は動けん。かと言って「いずなみ」だけでの救助も難しいだろう。どうするべきか……」


「船長、私に考えがあります。後ろのOICまで来ていただけますか」


 青葉は考えがあるらしく、船長を先程の攻撃により壁が抉られた船橋後方の作戦室へと足を運ばせた。


「ああ、分かった。聞かせてくれ」


 主任航海士に操舵室を任せ、二人は作戦室へと向かう。


 広いスペースが取られた作戦室の中央には大きなテーブルがあり、土埃と小さな瓦礫に覆われた周辺地図が広げられていた。


 テーブルの前まで来て、地図を指さしながら青葉が自らの考えを竹本に説明した。


「「しきね」の特別警備隊資格保持者から救出部隊を編成し「しきね」と「いずなみ」のGBに乗船させ、「いずなみ」の援護の下で、青野川沿いからバリケードの人員を脱出させるというのはどうでしょう?」


 竹本は腕を組みながら感想を述べる。


「確かに現状で最も実行出来る可能性がある作戦だな。「いずなみ」であれば青野川くらいの川幅があれば行動可能だろう。そして、「しきね」と「いずなみ」の搭載する合計4隻のGBならバリケードの人員を全員脱出させられるかもしれない。だがその間、動けない「しきね」は孤立する事になるな……」


 ここで青葉は、先程聞いた運シからの通信内容を思い出す。


「それに関しては、清水や横浜からの増援が既に近くまで来ているようなので大丈夫かと。それに、遅れますが海自も護衛隊群を派遣準備中であると聞いています」


 確かに、増援がすぐ側まで来ているなら「いずなみ」を動かしても大丈夫だな。海自も来てくれるなら尚の事だ。


 竹本は考えをまとめ、青葉に命令する。


「直ぐに「いずなみ」に連絡を取れ。バリケードの警官達にも連絡は取れるか?」


 青葉が答える。


「まず、こちらの運用司令センターを通じて、警察の通信指令センターに取り次いでもらいましょう。許可が出た後に、警察側の周波数を教えてもらえれば「しきね」との直接交信も可能になると思います」


 それを聞き竹本はすぐに通信士に指示を出す。


「おい白築! 今から伝える内容をすぐに運シに送ってくれ」


「はっ……はいっ!」


 白築と呼ばれた若い女性の通信士は、突然の指名に一瞬だけ驚きつつも、直ぐに通信席に戻り運用指令センターとの交信を開始した。


 ――


 現在時刻は2250時を回ろうとしていた所だった。両者の睨み合いが続く弓ヶ浜海岸では、次々に強襲上陸部隊の本隊が上陸しその戦列を整えつつあり、一触即発の空気の中、静かにお互いを見つめ続けていた――。


 ――


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